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第一部
第18話 ゴールデンウィーク ~手伝い~ 1
しおりを挟む正午過ぎ――。揃って母屋の食堂へ行った五人は、伯母・律子が用意してくれた昼食を取った。自家製野菜と燻製のハムやチーズがたっぷり入ったサンドイッチだ。がっつくように食べる覓や永の横で、あとの三人は伯父夫婦と思い出話に花を咲かせる。通常のチェックインは午後4時からなので他の宿泊客の姿はまだ無く、悠も伯母の使いで出掛けていた為、何の気兼ねも無く話をすることが出来た。
「あぁ美味かった、ご馳走様ー。伯母さんのサンドイッチ、前よりもっと美味くなってる気がするよ」
「あら、ホント? 前より美味しいだなんて、そんな可愛いこと言ってくれると伯母さん嬉しいわ」
昔からそうだったが、この伯母にとっては、丞達五人全員がとにかく可愛く見えるらしい。ハーブ摘みから帰って彼等に再会した時、丞に抱き付き覓や龍利の頭を撫でながら、ひたすら「また可愛くなった」を連発していた。まぁ、いろんな意味で可愛げの無い悠と対比すると、義理とはいえ甥っ子達やその幼馴染の方が余程可愛く思えるのだろう。
「さて、お前達、午後はどうする予定なんだ?」
食後のコーヒーを運んできた洋介が訊く。盆ごと受け取った恵が、全員にマグカップを配りながら言った。
「今日は、以前やってたみたいに、ここの仕事のお手伝いをしようかと思って」
それを聞いて目を丸くする洋介。
「手伝いって…。折角遊びに来ているのに、無理しなくていいんだぞ? もう小さい頃とは違うんだし――」
頻繁にここを訪れていた頃、父に「伯父さんと伯母さんのお手伝いをしよう」と提案され、五人はシーツ運びや食器並べなどを手伝っていた。手伝うと言っても幼い子供達のこと、楽しい遊びの一環のような感覚で、実際にはあまり役に立ってはいなかったのだが、大人を手助けするという行為が単純に嬉しくて、全員が毎回我先にと率先して手伝っていたものだった。
恵はニッコリ笑って答える。
「だからですよ。大きくなってやっとまともなお手伝いが出来るようになったから、今度こそ役に立ちたいなって」
「しかしなぁ…」
「いいじゃん、伯父さん。迷惑掛けないようにするから手伝わせてよ。それが今回の旅行目的の一つでもあるんだからさ」
渋る洋介の態度に、丞も恵を援護する。顎に手を当て「ふ~む」と唸った伯父は、やれやれと肩を竦めて微笑した。
「分かったよ。それほど言ってくれるならお願いするかな。ただし、子供の時より大変な作業も頼むから、覚悟するんだぞ」
「勿論!」と頷いた五人は、温かいコーヒーを喉に流し込んでから立ち上がった。
「体力に自信のあるお前達には、ここを頼むよ」
洋介に連れられて覓、永、龍利がやってきたのは裏庭。大きな丸太の台が据えられ、傍の石に小振りの斧と鉈が立て掛けられている。片隅には大小様々な木の幹や枝の端材が山積みされていた。
「ここで薪割りをな。薪は幾らあっても困らないから、好きなだけ頑張ってくれていい。でも、くれぐれも無理はするなよ?」
伯父のペンションでは、夏はバーベキューやキャンプファイヤー、冬は薪ストーブにと、一年中薪を大量消費する。常に余裕を持って乾燥・ストックしておく必要があるのだ。いつもは洋介一人でその作業をこなしているが、若者三人に加勢して貰えるならかなりの助けになる。
伯父が持ち上げた斧を見て、永が目を輝かせた。
「へぇ、薪割りなんて初めてだ。楽しみー♪ なぁ、覓、龍兄ちゃん。誰が一番多く割れるか勝負しようぜ」
永の呼び掛けに、恵のいる食堂の方を見ながら後ろ髪を引かれていた覓は、くるりと振り向き片眉を上げる。
「あ? 勝負って、お前、俺に勝とうとかふざけたこと考えてる?」
「当ったり前じゃん」
火花を散らし始める二人。後ろに立っていた龍利は、軽く首を振ってから彼等を窘めた。
「二人とも、ふざけてばかりいたら怪我するぞ。やる気があるのは結構だけど、ちゃんと小父さんに正しいやり方を教わってからだ。小父さん、お願いします」
自分もぺこりとお辞儀をしながら覓達にも頭を下げさせる龍利。そんな三人に温かい笑みを向けつつ、洋介は手本を見せる為端材の一つを手に取った。
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