青草BL物語

いっぺい

文字の大きさ
上 下
8 / 30
第一部

第8話 風呂場の出来事 3

しおりを挟む


「……なんで俺がこんな目に……」


 頭が痛い。肩が痛い。腰が痛い。
 全くもって気分は最悪。昨夜だって碌に寝ていないのだ。

「マジで悪かったって。ちょっと悪ノリし過ぎだったし。許してくれよ、な? 丞」

 ベッドの横でさっきから謝っているのは永。彼の少し高めの声は、氷枕に載せた頭にキンキンと響いてくる。丞は濡れタオルの下の顔をしかめ、布団から片手を出すとシッシッと追い払うように振った。

「もういいから、早く学校行けよ…。お前の声聞いてると、余計に具合が悪くなる……」

 兄の言い様にむくれながらも、永は鞄を抱えて「行ってくる」と部屋を出て行った。



 ――昨夜、永に追い詰められて浴槽の縁に躓いた丞は、背中から思い切り湯船にダイブしてしまった。湯の中だったので強打したわけでは無かったが、それでも勢い良く打ち付けた箇所は軽い打撲傷になっている。しかも情けないことに、引っ繰り返った体勢が悪かったのか上半身が見事に湯船の底へ沈没してしまい、ほんの数秒だが溺れてしまったのだ。慌てて覓と永が引き起こしてくれたが、頭を打った上大量に湯を飲んだ丞は目を回し、挙句に湯冷めして熱まで出してしまったのだった。



「…あいつに謝られるなんて、逆に気持ち悪りーよな…」

 髪越しに伝わる氷の冷たさに目を閉じて、ポツリと呟く。窓の外からは、登校していく学生の笑い声が聞こえていた。



 ――伸びてしまった丞を自室まで運びベッドに寝かせた後、覓と永は恵にお叱りを受けた。大事無かったとはいえ、兄弟を危険な目に遭わせた身勝手な行動を諌められたのである。

 それで、『あの』永が朝から謝ってきたのだ。出勤する前に恵も様子を見に来てくれた。あと顔を見ていないのは覓だけだが――。



「丞。朝飯、食えるか?」

 カチャリと開いたドアの隙間から覗いたのは、その残る一人。手に、小さな茶碗と水の入ったコップを載せた盆を持って、丞の枕元に立つ。

「…んー、今食いたくねぇ……」

「食わなきゃ薬飲めねぇだろ。まだ熱だって高いんだし。どうせ起き上がれねぇだろうから、そのまま寝てろ。食わせてやるから」



 なんとも見計らったように流行った時期外れの流感に、覓のクラスは本日学級閉鎖だった。今夜まで帰らない母の代わりに、暇な覓が丞の看病をするのは当然の成り行き。
 だがこの三男、如何せん人の看病というものをあまりしたことが無い。何に気を配ればいいのかもよく分かっていなかった。

「…おい…。いきなりコレはねぇだろ…?」

 口元に差し出されたそれからは、如何にも「たった今まで火にかけてました」と言わんばかりの湯気が立っている。こんなものを口に入れたら火傷するのは確実だ。しかし丞の言いたいことが伝わっていない覓は、とぼけたセリフをのたまってくれる。

「なんだよ。折角恵が作ってくれた粥が食えねぇっての?」

「…そうじゃねぇ。ちっとは冷ませっつってんだ。…これ以上俺の怪我を増やす気なのか…?」

 軽く息を弾ませながら半眼で睨む丞の言葉に、やっと気付いたらしい覓が苦笑する。

「ああ、そうか。確かに熱過ぎるよな、悪りー悪りー」



 なんとか無事に粥を食べ終え、解熱剤を飲ませる為に覓が丞の首を起こす。額のタオルを除けてから、彼の口に水を含ませ散剤を投じた。それを飲み下した丞が二、三度咽る。

「…粉薬は苦手だ。喉に残るんだよな…」

 それを聞いた覓はプッと噴き出した。

「小せぇ時から粉薬飲むのヘタクソだったよな。母さんにオブラートで包んで貰ったりしてさ。今も苦手だなんて、まったく手間の掛かるガキみてぇだぜ、丞は」

 笑い飛ばされてムッとする丞。

「…誰の所為で寝込んでると思ってんだよ、…ったく。お前には自責の念ってもんがねぇのか…?」

「直接の原因は永だから、俺の所為じゃねぇもん。大体、丞がドンくせぇからこうなったんだろ?」

 覓の減らず口を聞いている内に、喋り過ぎて疲れた為と、効き始めた解熱剤の作用で眠くなってきた丞の視点が曖昧になる。

「…勝手に…言ってろよ……」


(なんか疲れた…。このまま寝るか……)


 睡魔に負けて重い瞼を閉じ掛かった時、ふっと額にひんやりしたものが触れる。薄っすらと見える視界で確認すると、覓が濡れタオルで顔の汗を拭ってくれていた。横に置いた洗面器の冷水で冷やし直したそれは、火照った肌にとても心地好い。

 目を瞑り暫くその感覚に浸っていたが、いよいよ眠りに沈もうかという頃、突然布地の感触が去り、代わりに冷たい手がさわりと頬を撫でた。

(……?)

 次いで聞こえる、艶を含んだ声。


「……結構綺麗だよな…、丞も……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...