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第8話
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にこにこ笑いながら私の顔を覗き込んでくるこの女性は、間違いなくお姑になるお方。
「詩豆ちゃん、覚えていないかしら?私のこと。小さい頃はよくこの庭でお花を摘んでくれたけれど。」
「え?私をご存知なんですか?!」
「もちろん。よーく知ってるわ。貴方が慶大のお嫁になる日をずっと待ち望んでいたの。まあ立ち話じゃ悪いから、腰掛けてお話しましょう。さあ、こちらへ。」
そう言うと、奥様は私の腕に自分の腕を絡ませて館内に誘導してくれた。
密着度が半端ない。
ついでに香水の匂いも半端ない。
でもなんだろう?落ち着くような懐かしさがある。
私を知っている。
それは許嫁なのだから当然だ。
でも、よーく知っているとは、どういうことだろう。
ずっと見られていたのだろうか?ひょっとして。
「さあ、こちらよ。」
案内されて踏み入れた本館の床は大理石がピカピカして眩しい。
(うわぁ)と顔を上げると、そこは白亜の世界だった。
白い彫刻、白い階段、白い壁、テーブルもイスもソファもキャビネットも全て白。
そこにところどころクラシックなバラが飾られてあり、さながら結婚式場のようだ。
「それにしても……毛利?ちょっとこちらへ。」
奥様はわたしの姿を下から上まで眺めたあと、毛利さんを呼んだ。
「奥様、いかがされましたか?」
「うーん、あなた、今日に限ってセンスが無いわね。どうしてこんな地味な色でコーディネートしたの?ここは白でまとめるべきでしょ。ドレスもあるはずだし、街に行くんじゃないんだから。」
うわ、私の服装ダメ出しされてる。
毛利さんのセンス、素敵だなって思ったんだけど。
「申し訳ありません。本日の坊っちゃまのコーディネートと合わせるべきかと思いまして、このように致しました。が、すぐにお召替えしてまた参ります。」
ええっ!着替えるの?
いいじゃんこのワンピース。
都会的で、私、一度着てみたかった雰囲気だから好きなのに。
「そうね。でも、わざわざ別館に向かわなくてもいいわ。ほら、橘!」
奥様がパンっと手を叩くと、橘さんらしき女性が現れ、私に礼をした。
「大変失礼致します。ご無礼とは承知しておりますが、本日はこの本館の衣装室でお召替え願います。衣装はすでに手配済みです。どうぞ、こちらへ。」
「若奥様、申し訳ありません。私の力不足でご面倒をお掛け致します。ですが、本館が用意する衣装は別館とはまた格上の品でございます。きっとお気に召されることでしょう。」
「そ、うですか……、ですが、慶大さんとのペアルックは……どうするのですか?」
勇気を出して聞いてみた。
だって、本音を言えば面倒だし、ペアルックであることに意味があるように思うし。
「まあ……」
「若奥様っ!」
「若奥様っ!」
やばい。また変なことを言ったのかもしれない。
__怒られる……!
「詩豆ちゃんっ!あなた、それほどまでに慶大のことを……!そうね、私が間違っていたわ。初めて夕食を共にする素晴らしい時間だもの。ペアルック
素敵な言葉ね。橘!今日の旦那様のスタイルはどうなってる?!私もペアルックとやらにするわっ!」
怒られなかった。
でも、ちょっと話の方向がズレてきた気がする。
「はい、かしこまりました。とても素敵だと思います。ただし、今夜の奥様と旦那様のお召し物は、タイの刺繍と、奥様の襟元の刺繍が同じものでございます。故に、ペアルックと位置付けてよろしいかと……」
「あら?そうなの?わかったわ。では、このままの姿でお食事にいたしましょう。ごめんなさいね、足を止めさせてしまったわ。さあ、お腹も空いたし、シェフのコースをいただきましょう。」
「はい……」
結局、着替えはしなくてよいということになった。
はぁ……なんなんだ……先が思いやられる……それに、ペアルックを強調しないでほしい。したくてしてるわけじゃないし。選んだのはあくまでも毛利さんなのだから。
ふと、毛利さんを見ると、心なしか涙ぐんでいる。
なんでだ?
なんで泣くの?
この人に涙って絶対ないと思ってたけど。
そしてようやく席につき、グラスにシャンパンが注がれた。
あれ?旦那様と夫はどこにいるのだろう?
「詩豆ちゃん、覚えていないかしら?私のこと。小さい頃はよくこの庭でお花を摘んでくれたけれど。」
「え?私をご存知なんですか?!」
「もちろん。よーく知ってるわ。貴方が慶大のお嫁になる日をずっと待ち望んでいたの。まあ立ち話じゃ悪いから、腰掛けてお話しましょう。さあ、こちらへ。」
そう言うと、奥様は私の腕に自分の腕を絡ませて館内に誘導してくれた。
密着度が半端ない。
ついでに香水の匂いも半端ない。
でもなんだろう?落ち着くような懐かしさがある。
私を知っている。
それは許嫁なのだから当然だ。
でも、よーく知っているとは、どういうことだろう。
ずっと見られていたのだろうか?ひょっとして。
「さあ、こちらよ。」
案内されて踏み入れた本館の床は大理石がピカピカして眩しい。
(うわぁ)と顔を上げると、そこは白亜の世界だった。
白い彫刻、白い階段、白い壁、テーブルもイスもソファもキャビネットも全て白。
そこにところどころクラシックなバラが飾られてあり、さながら結婚式場のようだ。
「それにしても……毛利?ちょっとこちらへ。」
奥様はわたしの姿を下から上まで眺めたあと、毛利さんを呼んだ。
「奥様、いかがされましたか?」
「うーん、あなた、今日に限ってセンスが無いわね。どうしてこんな地味な色でコーディネートしたの?ここは白でまとめるべきでしょ。ドレスもあるはずだし、街に行くんじゃないんだから。」
うわ、私の服装ダメ出しされてる。
毛利さんのセンス、素敵だなって思ったんだけど。
「申し訳ありません。本日の坊っちゃまのコーディネートと合わせるべきかと思いまして、このように致しました。が、すぐにお召替えしてまた参ります。」
ええっ!着替えるの?
いいじゃんこのワンピース。
都会的で、私、一度着てみたかった雰囲気だから好きなのに。
「そうね。でも、わざわざ別館に向かわなくてもいいわ。ほら、橘!」
奥様がパンっと手を叩くと、橘さんらしき女性が現れ、私に礼をした。
「大変失礼致します。ご無礼とは承知しておりますが、本日はこの本館の衣装室でお召替え願います。衣装はすでに手配済みです。どうぞ、こちらへ。」
「若奥様、申し訳ありません。私の力不足でご面倒をお掛け致します。ですが、本館が用意する衣装は別館とはまた格上の品でございます。きっとお気に召されることでしょう。」
「そ、うですか……、ですが、慶大さんとのペアルックは……どうするのですか?」
勇気を出して聞いてみた。
だって、本音を言えば面倒だし、ペアルックであることに意味があるように思うし。
「まあ……」
「若奥様っ!」
「若奥様っ!」
やばい。また変なことを言ったのかもしれない。
__怒られる……!
「詩豆ちゃんっ!あなた、それほどまでに慶大のことを……!そうね、私が間違っていたわ。初めて夕食を共にする素晴らしい時間だもの。ペアルック
素敵な言葉ね。橘!今日の旦那様のスタイルはどうなってる?!私もペアルックとやらにするわっ!」
怒られなかった。
でも、ちょっと話の方向がズレてきた気がする。
「はい、かしこまりました。とても素敵だと思います。ただし、今夜の奥様と旦那様のお召し物は、タイの刺繍と、奥様の襟元の刺繍が同じものでございます。故に、ペアルックと位置付けてよろしいかと……」
「あら?そうなの?わかったわ。では、このままの姿でお食事にいたしましょう。ごめんなさいね、足を止めさせてしまったわ。さあ、お腹も空いたし、シェフのコースをいただきましょう。」
「はい……」
結局、着替えはしなくてよいということになった。
はぁ……なんなんだ……先が思いやられる……それに、ペアルックを強調しないでほしい。したくてしてるわけじゃないし。選んだのはあくまでも毛利さんなのだから。
ふと、毛利さんを見ると、心なしか涙ぐんでいる。
なんでだ?
なんで泣くの?
この人に涙って絶対ないと思ってたけど。
そしてようやく席につき、グラスにシャンパンが注がれた。
あれ?旦那様と夫はどこにいるのだろう?
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