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第12部
第八章 御子の使命④
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場所は変わって、ムラサメ邸。
客室の一室にて、アイリは畳の上に腰を降ろして足を伸ばしていた。
隣には、同じように座ったサザンⅩの姿もある。
「……そろそろ、コウタ、面会した頃かな?」
「……ウム。ソウダナ」
アイリの呟きに、サザンXが頷く。
「……コウタ。ズイブント、ニガテ、ソウダッタ」
「……それはそうだよ」
アイリが言う。
「……コウタは本当に庶民だから。偉い人と会うのは苦手なんだよ」
「……ソウカ?」
サザンXは、小首を傾げた。
「……イガイト、エライヤツラトハ、アッテルゾ」
「……それは、挨拶程度だよ」
アイリは嘆息した。
「……こういった改まった舞台が苦手なんだよ。そこが庶民」
「……ムウ」
サザンXは、腕を組んで唸った。
「……タシカニ、イママデハ、ソレハ、ナカッタ」
「……コウタはまだ社交界デビューもしてないし。けど、私は、これはコウタ二とって、良い機会だと思うよ」
「……ソウナノカ?」
サザンXがアイリの顔を見て、再び小首を傾げる。
アイリは「……うん」と頷いた。
「……だって、コウタは、いずれメルティアと結婚して、アシュレイ家の次期公爵さまになるんだよ。社交界なんて、しょっちゅう行かないといけないし、メルティアは社交界ではさぞかしポンコツだろうだから、コウタが頑張らないと」
「……タシカニ、メルサマハ、ポンコツ」
サザンXは、同意する。
創造主に対しても一切忖度しないのが、ゴーレムたちである。
「……うん。そうだよ」
アイリも容赦なく言う。
「……だから、コウタは今から慣れておく方がいいんだよ。けど……」
アイリは、眉根を寄せた。
確かに今回の件は、コウタにとって良い経験になる。
しかし、かなり異例なパターンでもある。
だから、
「……きっと、今頃、凄く困っているよ」
アイリは天井を見上げて、そう呟いた。
◆
アイリの直感は的中していた。
焔魔堂本殿。謁見の間にて、コウタは酷く困っていた。
上座で正座したまま、ダラダラと汗を流している。
コウタは若い。まだ少年の身だ。
だが、これまで潜ってきた修羅場は生半可ではなかった。
対峙してきたのは、怪物級の戦士ばかり。
そんな中で、命のやり取りも、すでに経験している。
実戦経験においては、同年代はおろか、一流の騎士さえも凌ぐだろう。
けれど。
そんなコウタであっても、こんな修羅場は知らない。
どうしてだろう……。
どうして、こんなことになってしまったのか――。
「御子さま」
最長老らしき人物――ハクダと名乗った老人が恭しく、その名を呼ぶ。
「我ら一同、御子さまにご拝謁できるこの日を、心待ちにしておりました」
「……………」
コウタは、何と返していいのか分からない。
「我ら焔魔堂の戦士は、すべて御子さまにお仕えする所存でございます」
そんなことまで言ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
流石に、コウタも、ハッとして声を上げた。
「その、ボクが『御子さま』っていうのはきっと間違いなんです! ボクは、山村出身のごく平凡な一家の、ごく平凡な次男なんですから!」
「出自は関係ございません」
他の老人が言う。
「御子さまとは勇猛なる御方さまに選ばれし代行者でございます。そして……」
その老人は、視線を最後方にいるライガに向けた。
「そこにいるムラサメは、勇猛なる御方さまのお声を聞いております。御方さまは仰ったそうです。御身こそが、御方さまの代行者であらせられると」
「えええッ!? 何それ!?」
コウタは、思わずツッコんだ。
「ボクって名指しされてたの!? いやいや、その『御方さま』って、どこかに幽閉されているんですよね!? 声だけは聞こえるんですか!?」
「……私も驚きました」
ライガが言う。
「伝承においては異界の狭間にて幽閉された御方さま。されど、あの御方はとある依り代をご使用し、このステラクラウンに、ご意志のみ降臨されておられるのです」
「はい?」
コウタは目を瞬かせる。
「え? それって体は幽閉されているけど、心はすでに解放されているってこと?」
「その通りでございます」
頭を垂れて、ライガは答える。
コウタは、ますます眉をひそめた。
「いや、その、『御方さま』という人のことはよく分からないのですが、すでに解放されているのなら、ボクって要らなくないですか?」
「何を仰られますか。御子さま」
今度は、ハクダが言う。
「御方さまは、あくまで依り代でございます。そのお声を賜れることは至上の誉ではございますが、やはり仮初のお姿。ご不自由であることには変わりありませぬ」
ハクダは、真っ直ぐコウタを見据えた。
「御方さまの完全なる解放。それは我らの悲願にてございます」
「……は、はあ……」
コウタは、曖昧な返事をした。
熱意があることは分かるが、どうにも『御方さま』というのが分からない。
一体どういう存在なのか……。
名前だけはアヤメから聞いたが、実態までは分からなかった。
「その『御方さま』の依り代という人は、今どこにいるんですか?」
率直に本人に聞いた方がいい。
依り代かなんだかは知らないが、実在しているのなら会いに行ける。
そもそも、その人物 (?)こそが、コウタを名指ししたのだから、そちらと話をするのが早いだろう。というより、それこそが重要だった。
しかし、ハクダたちの回答は、
「分かりませぬ」
意外なモノだった。
コウタは「え?」と目を丸くする。
「分からない? 居場所が分からないんですか?」
「御方さまは、わずかにお姿をお見せになった後、再び御隠れになられました」
と、ライガが言う。
(えええ……)
コウタは、顔を引きつらせる。
面倒なことに『御方さま』はコウタを指名した後、行方不明になっているらしい。
まさに丸投げだった。
(いや、それはないんじゃないかな……)
小さな声で「ぐぐぐ……」と呻く。
本気で困ってしまった。
今回のこの面会にて、コウタは、自分が『御子さま』ではないと長老衆を説得するつもりだったが、これでは覆しようがない。彼らが信奉する『御方さま』自身が、コウタを指名している以上、彼らの意志で破棄できるはずもないからだ。
(これは『御方さま』に直接会うまで、ボクは『御子さま』ってことなのか……)
内心で唸る。
これは一体どうすればいいのか……。
本当に悩む。
これまでとは違う危機に、コウタは眉をしかめるのだった。
客室の一室にて、アイリは畳の上に腰を降ろして足を伸ばしていた。
隣には、同じように座ったサザンⅩの姿もある。
「……そろそろ、コウタ、面会した頃かな?」
「……ウム。ソウダナ」
アイリの呟きに、サザンXが頷く。
「……コウタ。ズイブント、ニガテ、ソウダッタ」
「……それはそうだよ」
アイリが言う。
「……コウタは本当に庶民だから。偉い人と会うのは苦手なんだよ」
「……ソウカ?」
サザンXは、小首を傾げた。
「……イガイト、エライヤツラトハ、アッテルゾ」
「……それは、挨拶程度だよ」
アイリは嘆息した。
「……こういった改まった舞台が苦手なんだよ。そこが庶民」
「……ムウ」
サザンXは、腕を組んで唸った。
「……タシカニ、イママデハ、ソレハ、ナカッタ」
「……コウタはまだ社交界デビューもしてないし。けど、私は、これはコウタ二とって、良い機会だと思うよ」
「……ソウナノカ?」
サザンXがアイリの顔を見て、再び小首を傾げる。
アイリは「……うん」と頷いた。
「……だって、コウタは、いずれメルティアと結婚して、アシュレイ家の次期公爵さまになるんだよ。社交界なんて、しょっちゅう行かないといけないし、メルティアは社交界ではさぞかしポンコツだろうだから、コウタが頑張らないと」
「……タシカニ、メルサマハ、ポンコツ」
サザンXは、同意する。
創造主に対しても一切忖度しないのが、ゴーレムたちである。
「……うん。そうだよ」
アイリも容赦なく言う。
「……だから、コウタは今から慣れておく方がいいんだよ。けど……」
アイリは、眉根を寄せた。
確かに今回の件は、コウタにとって良い経験になる。
しかし、かなり異例なパターンでもある。
だから、
「……きっと、今頃、凄く困っているよ」
アイリは天井を見上げて、そう呟いた。
◆
アイリの直感は的中していた。
焔魔堂本殿。謁見の間にて、コウタは酷く困っていた。
上座で正座したまま、ダラダラと汗を流している。
コウタは若い。まだ少年の身だ。
だが、これまで潜ってきた修羅場は生半可ではなかった。
対峙してきたのは、怪物級の戦士ばかり。
そんな中で、命のやり取りも、すでに経験している。
実戦経験においては、同年代はおろか、一流の騎士さえも凌ぐだろう。
けれど。
そんなコウタであっても、こんな修羅場は知らない。
どうしてだろう……。
どうして、こんなことになってしまったのか――。
「御子さま」
最長老らしき人物――ハクダと名乗った老人が恭しく、その名を呼ぶ。
「我ら一同、御子さまにご拝謁できるこの日を、心待ちにしておりました」
「……………」
コウタは、何と返していいのか分からない。
「我ら焔魔堂の戦士は、すべて御子さまにお仕えする所存でございます」
そんなことまで言ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
流石に、コウタも、ハッとして声を上げた。
「その、ボクが『御子さま』っていうのはきっと間違いなんです! ボクは、山村出身のごく平凡な一家の、ごく平凡な次男なんですから!」
「出自は関係ございません」
他の老人が言う。
「御子さまとは勇猛なる御方さまに選ばれし代行者でございます。そして……」
その老人は、視線を最後方にいるライガに向けた。
「そこにいるムラサメは、勇猛なる御方さまのお声を聞いております。御方さまは仰ったそうです。御身こそが、御方さまの代行者であらせられると」
「えええッ!? 何それ!?」
コウタは、思わずツッコんだ。
「ボクって名指しされてたの!? いやいや、その『御方さま』って、どこかに幽閉されているんですよね!? 声だけは聞こえるんですか!?」
「……私も驚きました」
ライガが言う。
「伝承においては異界の狭間にて幽閉された御方さま。されど、あの御方はとある依り代をご使用し、このステラクラウンに、ご意志のみ降臨されておられるのです」
「はい?」
コウタは目を瞬かせる。
「え? それって体は幽閉されているけど、心はすでに解放されているってこと?」
「その通りでございます」
頭を垂れて、ライガは答える。
コウタは、ますます眉をひそめた。
「いや、その、『御方さま』という人のことはよく分からないのですが、すでに解放されているのなら、ボクって要らなくないですか?」
「何を仰られますか。御子さま」
今度は、ハクダが言う。
「御方さまは、あくまで依り代でございます。そのお声を賜れることは至上の誉ではございますが、やはり仮初のお姿。ご不自由であることには変わりありませぬ」
ハクダは、真っ直ぐコウタを見据えた。
「御方さまの完全なる解放。それは我らの悲願にてございます」
「……は、はあ……」
コウタは、曖昧な返事をした。
熱意があることは分かるが、どうにも『御方さま』というのが分からない。
一体どういう存在なのか……。
名前だけはアヤメから聞いたが、実態までは分からなかった。
「その『御方さま』の依り代という人は、今どこにいるんですか?」
率直に本人に聞いた方がいい。
依り代かなんだかは知らないが、実在しているのなら会いに行ける。
そもそも、その人物 (?)こそが、コウタを名指ししたのだから、そちらと話をするのが早いだろう。というより、それこそが重要だった。
しかし、ハクダたちの回答は、
「分かりませぬ」
意外なモノだった。
コウタは「え?」と目を丸くする。
「分からない? 居場所が分からないんですか?」
「御方さまは、わずかにお姿をお見せになった後、再び御隠れになられました」
と、ライガが言う。
(えええ……)
コウタは、顔を引きつらせる。
面倒なことに『御方さま』はコウタを指名した後、行方不明になっているらしい。
まさに丸投げだった。
(いや、それはないんじゃないかな……)
小さな声で「ぐぐぐ……」と呻く。
本気で困ってしまった。
今回のこの面会にて、コウタは、自分が『御子さま』ではないと長老衆を説得するつもりだったが、これでは覆しようがない。彼らが信奉する『御方さま』自身が、コウタを指名している以上、彼らの意志で破棄できるはずもないからだ。
(これは『御方さま』に直接会うまで、ボクは『御子さま』ってことなのか……)
内心で唸る。
これは一体どうすればいいのか……。
本当に悩む。
これまでとは違う危機に、コウタは眉をしかめるのだった。
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