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第12部
第四章 招待……?②
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再び、空気がシンとした。
誰も言葉を発さない。
リーゼ、アイリからは表情が消えた。
リノに至ってまで無表情だ。
ジェイクは「うわあ」といった様子で視界を片手で覆い、フランとアンジェリカは急展開すぎて、目を瞬かせていた。
ほぼ唯一の無関係者であるアルフレッドは事態について行けず、ゴーレムたちは『……オオ!』『……クライマックスカ!』と興奮していた。
静寂の世界の中心人物。
着装型鎧機兵姿のメルティアと、その腕を掴むアヤメは睨み合ってた。
ただ、この静寂を砕いたのは、
「ちょ、ちょっと待って! アヤちゃん!」
意外にもコウタだった。
彼は慌てた様子でアヤメを凝視した。
「主ってなに!? 初めて聞いたんだけど!?」
コウタにとって、アヤメは友人だ。
気になるし、可愛いし、守ってあげたくなる。
悩み事を抱えていることには心配している。
困っているのなら助けてあげたい。
とても大切に想っているのは事実だが、ただ、それでも認識としては友人だった。
それが、どうしてジェシカと同じような台詞が出てくるのだろうか。
すると、アヤメはコウタの方を見やり、
「コウタ君には責任があるのです」
そう告げて、視線を少し逸らした。
「……何故なら」
アヤメは、空いた手で唇を隠した。
「……コウタ君は、私の運命だったのです。私の初めては彼に奪われました」
「――ヒ、ヒラサカ君!?」
アヤメの台詞に立ち上がったのは、アンジェリカだった。
「どどどどいうこと!? あなた、アヤメに何したの!?」
「ひゃあっ!? ひゃあっ!? ひゃあっ!?」
アヤメとアンジェリカの友人であるフランは、パニックを起こしていた。
口元を両手で押さえて、瞳がグルグルと回転している。フランに至っては「お、おい。ちょいと落ち着けって。ソルバさん」と、隣のジェイクの声を掛けられて、さらにパニックを加速させてたりしている。
「何もしてないよ!?」
一方、相手があまり親しくないアンジェリカであることも忘れてコウタは叫んだ。
「何それ!? 全然心当たりがないけど!?」
再び、アヤメを凝視した。
「コウタ君が、私の初めてを奪ったから……」
アヤメは、耳まで赤くして告げる。
「私はこの姿になったのです。あの時は未成熟だったから、次のために、コウタ君の愛を受け入れられる姿になったのです」
「アアアアヤちゃん!?」
コウタは仰天した。
しかし、その傍らで、メルティアたちは冷静なモノだった。
『くだらない戯言を』
「まったくですわ」
「……有り得ないよ」
「コウタにそれが出来るのならば、ロリ神以外は全員が初めてを迎えておるわ」
それぞれが、淡々とした声でコメントを出す。
ある意味、絶大な信頼を置かれているコウタだった。
「……ム」
効果がないことに気付いたアヤメが、眉根を寄せる。
「確かに意味合い通りの言葉ではないのです。ですが、私がコウタ君のために、この姿に変化したのは事実なのです」
言って、自分の胸元に片手を当てた。
「私は八代目のお側女役。そう。八世代に渡ってコウタ君の妻になることを運命づけられているのです」
「……はあ? なんじゃ、それは?」
リノは、怪訝な顔を浮かべた。
「こっちの話なのです。まあ、お前は手強そうなのですが……」
リノを一瞥してから、アヤメはリーゼ、アイリの方を見やり、最後に着装型鎧機兵姿のメルティアへと目をやった。
そして、着装型鎧機兵から手を離し、ふふんと笑った。
「コウタ君は、大きなおっぱいが好きなのです。他の二人は敵ではないのです。確かにお前も体格分だけ大きそうですが、その胸板でどうする気なのですか?」
「――アヤちゃん!?」
コウタは、顔を赤くさせつつ、ギョッとした。
「なんで知って……じゃない! 風評被害だよ、それ!?」
慌ててそう叫ぶが、アヤメは聞いていない。
リーゼとアイリが額に青筋を浮かべた表情で睨みつけているが、それも無視する。
静かな眼差しで、鋼の巨人だけを見据えていた。
まさしく、女の直感で。
この鋼の巨人こそが、最も手強い相手だと感じとっているのだ。
そして、その直感は正しかった。
『……言ってくれますね』
メルティアが、告げる。
『……胸板? 私のどこが胸板だと言うのです?』
「え? あ、いや、我が師。流石にそこは自覚された方がいいかと……」
と、アンジェリカがツッコミを入れるが、メルティアは無視する。
『ならば、見せてあげましょう。私の真の姿を』
「……え?」「メルティア?」
アイリとリーゼが、驚いた顔をした。
コウタも、目を瞬かせている。
『思い知りなさい。格の違いというものを』
言って、メルティアは着装型鎧機兵の胸部装甲を開けた。
プシュウ、という音と共に着装型鎧機兵の前面部が大きく開口する。
「「ええッ!?」」
その光景を初めて見る、アンジェリカとフランは目を丸くした。
アヤメも驚いた顔をしている。
そうして、開かれた胸部装甲の奥から現れたのは――。
「恐れ、慄きなさい」
金色の眼差しに、ネコミミを乗せた紫銀の髪。
服装はノースリーブ型の白いブラウスと、丈の短い黒いタイトパンツ。アヤメを凌ぐ抜群のスタイルを持つ少女。
メルティア=アシュレイ。その真の姿である。
「どうですか!」
腰に手を置き、たゆんっと豊かな双丘を揺らして、メルティアは告げた。
「これでも、胸板と言えますか!」
一瞬の沈黙。
「「ええええええええええええええええ――ッッ!?」」
今度はフランまで立ち上がって、驚愕の声を上げるアノースログ学園の女生徒たち。
アヤメも声こそ上げなかったが、唖然とした表情を見せていた。
「えええッ!? アル君ッ!? あれどういうこと!?」
アンジェリカが、メルティアを凝視したまま、隣で座るアルフレッドの肩を激しく揺さぶった。
「えっと、その、あれがメルティアさまの本当のお姿なんだ。あの鎧は、実は鎧機兵の一種で――ってアル君?」
随分と久しぶりに聞いた気がする愛称に、アルフレッドが困惑する。と、
「…………………」
堂々と名乗りを上げていたはずのメルティアが、小刻みに震え始めた。
それを見たコウタが、小さく苦笑を零した。
「……アイリ。ごめんね」
膝の上に座るアイリを移動させて、立ち上がる。
それからメルティアの傍にまで行くと、
「……怖かったよね。メル」
そう告げた。
「こうたぁ……」
メルティアは、泣き出しそうな顔でコウタの顔を見上げた。
最近はこの姿もよく見せるようになったが、ここにはメルティアの姿を知らない人間が三人もいるのである。売り言葉に買い言葉。そんな勢いに任せたが、冷静になると心的ダメージが大きかったのである。
それを、コウタは、瞬時に察したのだ。
少し遅れて、リーゼたちも、そのことに気付いた。
ぎゅうっとメルティアがコウタに抱き着いても文句は言わない。
「……ぬう。やはりコウタは、ギンネコ娘に甘いのう……」
リノだけはかなり不満のようだったが。
――いや、不満なのはもう一人いる。アヤメである。
「……ムムム」
本当に、少し怯えていることが分かるメルティアの表情から、何かしらの事情があることは察したが、こうも熱い抱擁を見せられると不愉快だった。しかも、コウタが、あの獣人族の少女を心から大切にしていることがよく分かるのが、何とも悔しい。
彼らは、幼馴染だと聞いている。
きっと、この二人には、長い時間をかけた信頼があるのだろう。
(……これは、やはり仕方がないのです)
自分は、大幅に出遅れている。
それを改めて理解し、内心で覚悟を決める。
「えっと、アヤちゃん」
メルティアの髪を優しく撫でながら、コウタはアヤメに目をやった。
「その、ちょっと落ち着いてお話しよう」
コウタは笑った。
「君が抱えていた悩みも聞きたいから」
(……はう)
その優しい笑みに、アヤメの胸を射抜かれる。
鼓動が高なる。
心角の試しは、やはり正しかった。
笑み一つで、自分はすでに彼の女なのだと思い知る。
それだけに、本当に申し訳ない気分になる。
「……ごめんなさいのです。コウタ君」
アヤメは、コウタから離れていった。
そうして壁近く、周辺に誰もいない場所まで移動する。
「……アヤちゃん?」
コウタはメルティアを離し、アヤメの方に向いた。
すると、
「……本当にごめんなさいのです」
アヤメは両手をコウタの方に広げて、哀し気な瞳を見せた。
「後でいっぱい叱られます。ごめんなさいもするのです。けど、今回だけは、あなたの優しさに、つけ入れさせて欲しいのです」
そう告げる。
そして、
――フオン、と。
アヤメの足元に、闇が広がった――。
誰も言葉を発さない。
リーゼ、アイリからは表情が消えた。
リノに至ってまで無表情だ。
ジェイクは「うわあ」といった様子で視界を片手で覆い、フランとアンジェリカは急展開すぎて、目を瞬かせていた。
ほぼ唯一の無関係者であるアルフレッドは事態について行けず、ゴーレムたちは『……オオ!』『……クライマックスカ!』と興奮していた。
静寂の世界の中心人物。
着装型鎧機兵姿のメルティアと、その腕を掴むアヤメは睨み合ってた。
ただ、この静寂を砕いたのは、
「ちょ、ちょっと待って! アヤちゃん!」
意外にもコウタだった。
彼は慌てた様子でアヤメを凝視した。
「主ってなに!? 初めて聞いたんだけど!?」
コウタにとって、アヤメは友人だ。
気になるし、可愛いし、守ってあげたくなる。
悩み事を抱えていることには心配している。
困っているのなら助けてあげたい。
とても大切に想っているのは事実だが、ただ、それでも認識としては友人だった。
それが、どうしてジェシカと同じような台詞が出てくるのだろうか。
すると、アヤメはコウタの方を見やり、
「コウタ君には責任があるのです」
そう告げて、視線を少し逸らした。
「……何故なら」
アヤメは、空いた手で唇を隠した。
「……コウタ君は、私の運命だったのです。私の初めては彼に奪われました」
「――ヒ、ヒラサカ君!?」
アヤメの台詞に立ち上がったのは、アンジェリカだった。
「どどどどいうこと!? あなた、アヤメに何したの!?」
「ひゃあっ!? ひゃあっ!? ひゃあっ!?」
アヤメとアンジェリカの友人であるフランは、パニックを起こしていた。
口元を両手で押さえて、瞳がグルグルと回転している。フランに至っては「お、おい。ちょいと落ち着けって。ソルバさん」と、隣のジェイクの声を掛けられて、さらにパニックを加速させてたりしている。
「何もしてないよ!?」
一方、相手があまり親しくないアンジェリカであることも忘れてコウタは叫んだ。
「何それ!? 全然心当たりがないけど!?」
再び、アヤメを凝視した。
「コウタ君が、私の初めてを奪ったから……」
アヤメは、耳まで赤くして告げる。
「私はこの姿になったのです。あの時は未成熟だったから、次のために、コウタ君の愛を受け入れられる姿になったのです」
「アアアアヤちゃん!?」
コウタは仰天した。
しかし、その傍らで、メルティアたちは冷静なモノだった。
『くだらない戯言を』
「まったくですわ」
「……有り得ないよ」
「コウタにそれが出来るのならば、ロリ神以外は全員が初めてを迎えておるわ」
それぞれが、淡々とした声でコメントを出す。
ある意味、絶大な信頼を置かれているコウタだった。
「……ム」
効果がないことに気付いたアヤメが、眉根を寄せる。
「確かに意味合い通りの言葉ではないのです。ですが、私がコウタ君のために、この姿に変化したのは事実なのです」
言って、自分の胸元に片手を当てた。
「私は八代目のお側女役。そう。八世代に渡ってコウタ君の妻になることを運命づけられているのです」
「……はあ? なんじゃ、それは?」
リノは、怪訝な顔を浮かべた。
「こっちの話なのです。まあ、お前は手強そうなのですが……」
リノを一瞥してから、アヤメはリーゼ、アイリの方を見やり、最後に着装型鎧機兵姿のメルティアへと目をやった。
そして、着装型鎧機兵から手を離し、ふふんと笑った。
「コウタ君は、大きなおっぱいが好きなのです。他の二人は敵ではないのです。確かにお前も体格分だけ大きそうですが、その胸板でどうする気なのですか?」
「――アヤちゃん!?」
コウタは、顔を赤くさせつつ、ギョッとした。
「なんで知って……じゃない! 風評被害だよ、それ!?」
慌ててそう叫ぶが、アヤメは聞いていない。
リーゼとアイリが額に青筋を浮かべた表情で睨みつけているが、それも無視する。
静かな眼差しで、鋼の巨人だけを見据えていた。
まさしく、女の直感で。
この鋼の巨人こそが、最も手強い相手だと感じとっているのだ。
そして、その直感は正しかった。
『……言ってくれますね』
メルティアが、告げる。
『……胸板? 私のどこが胸板だと言うのです?』
「え? あ、いや、我が師。流石にそこは自覚された方がいいかと……」
と、アンジェリカがツッコミを入れるが、メルティアは無視する。
『ならば、見せてあげましょう。私の真の姿を』
「……え?」「メルティア?」
アイリとリーゼが、驚いた顔をした。
コウタも、目を瞬かせている。
『思い知りなさい。格の違いというものを』
言って、メルティアは着装型鎧機兵の胸部装甲を開けた。
プシュウ、という音と共に着装型鎧機兵の前面部が大きく開口する。
「「ええッ!?」」
その光景を初めて見る、アンジェリカとフランは目を丸くした。
アヤメも驚いた顔をしている。
そうして、開かれた胸部装甲の奥から現れたのは――。
「恐れ、慄きなさい」
金色の眼差しに、ネコミミを乗せた紫銀の髪。
服装はノースリーブ型の白いブラウスと、丈の短い黒いタイトパンツ。アヤメを凌ぐ抜群のスタイルを持つ少女。
メルティア=アシュレイ。その真の姿である。
「どうですか!」
腰に手を置き、たゆんっと豊かな双丘を揺らして、メルティアは告げた。
「これでも、胸板と言えますか!」
一瞬の沈黙。
「「ええええええええええええええええ――ッッ!?」」
今度はフランまで立ち上がって、驚愕の声を上げるアノースログ学園の女生徒たち。
アヤメも声こそ上げなかったが、唖然とした表情を見せていた。
「えええッ!? アル君ッ!? あれどういうこと!?」
アンジェリカが、メルティアを凝視したまま、隣で座るアルフレッドの肩を激しく揺さぶった。
「えっと、その、あれがメルティアさまの本当のお姿なんだ。あの鎧は、実は鎧機兵の一種で――ってアル君?」
随分と久しぶりに聞いた気がする愛称に、アルフレッドが困惑する。と、
「…………………」
堂々と名乗りを上げていたはずのメルティアが、小刻みに震え始めた。
それを見たコウタが、小さく苦笑を零した。
「……アイリ。ごめんね」
膝の上に座るアイリを移動させて、立ち上がる。
それからメルティアの傍にまで行くと、
「……怖かったよね。メル」
そう告げた。
「こうたぁ……」
メルティアは、泣き出しそうな顔でコウタの顔を見上げた。
最近はこの姿もよく見せるようになったが、ここにはメルティアの姿を知らない人間が三人もいるのである。売り言葉に買い言葉。そんな勢いに任せたが、冷静になると心的ダメージが大きかったのである。
それを、コウタは、瞬時に察したのだ。
少し遅れて、リーゼたちも、そのことに気付いた。
ぎゅうっとメルティアがコウタに抱き着いても文句は言わない。
「……ぬう。やはりコウタは、ギンネコ娘に甘いのう……」
リノだけはかなり不満のようだったが。
――いや、不満なのはもう一人いる。アヤメである。
「……ムムム」
本当に、少し怯えていることが分かるメルティアの表情から、何かしらの事情があることは察したが、こうも熱い抱擁を見せられると不愉快だった。しかも、コウタが、あの獣人族の少女を心から大切にしていることがよく分かるのが、何とも悔しい。
彼らは、幼馴染だと聞いている。
きっと、この二人には、長い時間をかけた信頼があるのだろう。
(……これは、やはり仕方がないのです)
自分は、大幅に出遅れている。
それを改めて理解し、内心で覚悟を決める。
「えっと、アヤちゃん」
メルティアの髪を優しく撫でながら、コウタはアヤメに目をやった。
「その、ちょっと落ち着いてお話しよう」
コウタは笑った。
「君が抱えていた悩みも聞きたいから」
(……はう)
その優しい笑みに、アヤメの胸を射抜かれる。
鼓動が高なる。
心角の試しは、やはり正しかった。
笑み一つで、自分はすでに彼の女なのだと思い知る。
それだけに、本当に申し訳ない気分になる。
「……ごめんなさいのです。コウタ君」
アヤメは、コウタから離れていった。
そうして壁近く、周辺に誰もいない場所まで移動する。
「……アヤちゃん?」
コウタはメルティアを離し、アヤメの方に向いた。
すると、
「……本当にごめんなさいのです」
アヤメは両手をコウタの方に広げて、哀し気な瞳を見せた。
「後でいっぱい叱られます。ごめんなさいもするのです。けど、今回だけは、あなたの優しさに、つけ入れさせて欲しいのです」
そう告げる。
そして、
――フオン、と。
アヤメの足元に、闇が広がった――。
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