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第12部

第四章 招待……?①

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 応接室は、シンとしていた。
 それも仕方がない。
 なにせ、コウタがあんな行動をとってしまったのだから。

「「「………」」」

 全員が言葉を発さない。
 アルフレッドと、アンジェリカは困った顔で並んでソファに座り。
 ジェイクと、フランも同じような顔で座って並んでいた。
 四人は、一つのソファに座っている。
 一方、ゴーレムたち、零号とサザンXは部屋の隅で腰を降ろしている。

「……オオ。シュラバ」

「……コウタノ、女難、キワマッタナ」

 彼らに関しては、少しワクワクした様子で状況を眺めていた。
 ただ、彼らは、今回においては部外者であり、傍観者だ。
 困惑しつつも、声を掛けることは出来ない。

 主役であるのは、一人用のソファに座るアヤメ。
 そしてコウタだ。

 しかし、コウタは凄い状況にあった。
 この応接室には、一人用のソファが二つ。四人以上が座れるソファが二つある。
 それぞれが対となって対面するように置かれている。
 四人用のソファの一つは、アルフレッドたちが占有しているが、もう一つにはコウタが座っていた。もちろんだが、コウタ一人で使用している訳ではない。

 コウタを中央に、左側には呆れ果てたような表情のリノ。
 右側には青筋を額に浮かべつつも笑みを崩さないリーゼ。
 中央――すなわち、コウタの膝の上には無表情のアイリが座っていた。
 そして後ろには――。

 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ……。
 そんな効果音を響かせそうな圧を放つ、着装型鎧機兵姿のメルティアが立っていた。
 完全なる包囲網だ。
 コウタは、生きた心地がしていなかった。

「……改めて」

 その時、アヤメが口を開いた。

「久しぶりなのです。コウタ君」

「う、うん。久しぶりだね。アヤちゃん――」

 ――グワシ、と。
 コウタがアヤメの名を呼んだ途端、彼の頭は巨大な手で挟まれた。
 コウタの顔が一気に青ざめた。

『……それは一体、何なのですか?』

 淡々と。
 とても淡々とした声でメルティアが尋ねてくる。

『どうしてコウタは、彼女を親し気に『ちゃん』付けで呼んでいるのですか?』

 ギシギシギシ、と鋼の指が軋みを上げる。
 コウタは、無残に破裂する西瓜をイメージした。

「そ、そうよ」

 アンジェリカも、アヤメを見て尋ねた。

「アヤメ。あなたがヒラサカ君と親しかったのは知っていたけど、愛称で呼ぶほどなんて聞いてなかったわよ」

「……え?」

 アンジェリカの台詞に、リーゼが目を丸くした。

「コウタさまと、シキモリさんが? それは初耳ですが?」

 言って、コウタの横顔を見る。
 コウタは何も答えない。というよりも、物理的に答えられなかった。ひたすら蒼い顔をして、未だ鋼の手でギリギリと圧縮されているからだ。
 もはや助けの声も上げれないようだ。

「……まあ、落ち着け。ギンネコ娘」

 すると、リノが腕を組みつつ、嘆息してそう告げた。

「コウタが、その犀娘についてお主らに何も告げなかったことには理由がある」

『……ニセネコ女』

 メルティアは指の力を緩めて、リノの愛称 (?)を呼んだ。

『その言い方だと、あなたは、彼女のことをコウタから聞いていたのですか?』

「ああ。そうじゃ」

 リノが頷く。
 メルティア、リーゼ、アイリの表情に剣呑な雰囲気が宿る。
 鋼の指から解放されても、コウタは青ざめたままだった。

「じゃが、まあ、一応言っておくが、コウタがわらわを特別扱いした訳でないぞ」

 リノは言葉を続ける。

「仮にこの場にジェシカがおれば、あやつにも話しておったじゃろう。お主らには何も語らず、わらわとジェシカには話す。その意味を、コウタと付き合いの長いお主らならば分かるであろう」

「「「……………」」」

 リノの説明に、少しだけメルティアたちは表情を改めた。
 事情があると察した顔だ。
 ジェイクも、神妙な顔つきになっていた。
 一方、アルフレッドと怪訝な顔をしている。
 アヤメの友人であるアンジェリカとフランは困惑顔だ。

「え? 何の話? そもそも犀娘ってなに?」

 アンジェリカがそう尋ねると、

「……それは、きっとこういうことなのです」

 それに答えたのは、アヤメ自身だった。
 全員の視線が彼女に集まる。
 アヤメは、それを承知の上で自分の額を片手で隠した。
 そして少し経ってから、手を離した。
 と、そこには――。

「……え?」

 アンジェリカが大きく目を瞠った。
 フランも驚きの表情を浮かべている。
 メルティアたちも、驚きを隠せないようだった。

「……え? 角……?」

 アイリが唖然とした声で呟く。
 ――そう。アヤメの額には、二本の角が生えていた。
 しかも、黒かった双眸が、紅く輝いている。

「ちょ!? アヤメ!?」

 友人の変貌に、アンジェリカは思わず立ち上がった。

「何それ!? 何か生えてるわよ!?」

「……これは心角というのです」

 アヤメは語る。

「うちの一族の証です。これを一族以外に見せるのはコウタ君だけでした。だから、コウタ君は、私のことを話さなかったのです」

「う、うん……」

 そこで、ようやくコウタが口を開いた。

「アヤちゃんに、多分、リノに似た何か事情があるのは分かったし。メルたちには話さない方がいいかなって――はうッ!」

 グワシ、と。
 再びコウタの頭は、鋼の指で掴まれた。

『だから、どうしてコウタは彼女を「アヤちゃん」と呼ぶのですか。そもそもニセネコ女には話しているではないですか』

「い、色々あったんだ……。彼女のことはそう呼ぶのがしっくりして……リノは、その、同じような事情を抱えてるし――」

 と、色々と言い訳をするが、指の力はますます強くなるだけだった。
 すると、その時だった。

「……止めるのです。鎧女」

 不意に、アヤメが立ち上がった。
 そしてメルティアの傍まで近づき、その鋼の腕に手を触れた。
 直後、信じがたいことが起きた。
 アヤメの細腕が、着装型鎧機兵の巨腕をコウタの頭から引き剥がしたのだ。

『―――な』

 流石にメルティアも驚きを隠せない。
 このような真似は、この中で最も腕力に優れたジェイクにも出来ないだろう。
 コウタとリノ以外の全員が驚いた顔をしていた。

「聞きしに勝る剛力じゃのう」

 リノが、ボソリと呟く。と、

「お前が、何者かは知らないのですが……」

 着装型鎧機兵の巨椀を掴んだまま、アヤメは言う。

「これ以上、コウタ君への狼藉は許さないのです。彼は私のあるじなのですから」
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