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第12部

第三章 再会の時②

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 アルフレッドと合流したコウタたちは、ハウル邸に向かった。
 馬車に乗って市街を移動し、ようやく見えたハウル邸。

「お帰りなさいませ」

 守衛はそう告げて、門を開いた。
 相も変わらない巨大な庭園を通って、コウタたちはハウル本邸へと到着した。

「おお~、懐かしいな」

 荷物を肩にかけて、馬車から降りたジェイクが声を零す。
 額に手を当ててハウル本邸の全容を見やる。
 四階建ての荘厳な館。
 全容といっても、すべてを一瞥できる館ではない。

「なんかすげえ久しぶりな気がする」

「まあ、実際に久しぶりだからね」

 コウタも同じく荷物を肩に、馬車から降りた。

「船旅の期間も合わせると、一ヶ月半は経っているから」

「もうそんなに経っているのですね」

 続けて、馬車から降りてきたリーゼが呟く。
 その後に、アイリと、着装型鎧機兵姿のメルティアも降りてきた。

『確かに私がこんなに長い間、魔窟館から離れることになるとは思いませんでした』

「……うん」

 アイリは苦笑を零す。

「……メルティアもいよいよ引き籠り脱却かな?」

『それは嫌です』

 メルティアはかぶりを振った。

『帰国した暁には倍以上の期間を魔窟館で引き籠るつもりです』

「……いや。メル……」

 幼馴染の揺るぎない意志に、コウタは遠い目をした。

「もう少し頑張ってお外に行こうね?」

『嫌です』

 コウタの声にも、メルティアは聞き入れてくれない。
 コウタは嘆息した。

「まあ、よいではないか」

 すると、コウタの腕に柔らかない感触が押し付けられた。
 コウタがギョッとすると、そこには腕を絡めるリノの姿があった。

「ギンネコ娘が引き籠るのならば、外でわらわと存分に愛を紡ごうではないか!」

『……何を言っているのですか。ニセネコ女』

 殺気じみたオーラを放って、着装型鎧機兵が前へ踏み出す。

『コウタは私と魔窟館でいちゃつくのです。あなたのターンなどありません』

「ほほう」

 リノが巨大な甲冑騎士を一瞥して、双眸を細める。

「そのような人形に引き籠る娘が、このわらわに敵うとでも?」

『当然です』

 ズン、と着装型鎧機兵が間合いを詰める。

『私こそが、コウタの一番なのですから』

 バチバチバチッ。
 二人の少女――一方は見た目が巨人――が視線をぶつけ合う。
 その傍らで、コウタは頬を引きつらせていた。
 その様子を、最後に馬車から降りてきたアルフレッドが見やり、

「はは、コウタも相変わらずみたいだなぁ」

 苦笑を浮かべて、そう呟く。
 どうやら新たに加わった女の子。
 彼女も、コウタに想いを寄せているらしい。
 相変わらずのモテっぷりだ。

「……ウム」

「……アレガ、コウタノ、ヘイジョウウンテン」

 アルフレッドと一緒に降りてきた二機のゴーレムが頷いた。
「ははっ」とアルフレッドが笑った。

(本当にアシュ兄にそっくりだなあ)

 コウタは、アルフレッドもよく知る、コウタの実兄に本当によく似ている。
 改めて、二人が兄弟なのだと実感する。
 ただ、それとは別で、アルフレッドにも気になることがあった。
 あの新たに加わった女の子。リノ=エヴァンシードさん。
 彼女はその美貌も凄いが、歩き方や重心移動が素人のそれではないことだ。

(これはまた、凄い子だな)

 顔にこそ出さないようにしたが、アルフレッドの目から見ても只者ではない。
 恐らくは、リーゼやアンジェリカも凌ぐ。
 自分やコウタ相手でも見劣りしない相当な実力者だ。
 流石に、このレベルは異常と呼んでもいい。

 ……果たして、何者なのだろうか。

(……後でコウタやジェイクに聞いてみるか)

 そう考えた時だった。

「お帰りなさいませ。アルフレッドさま」

 老執事が、ハウル邸から出て来た。
 ハウル家の執事長だ。
 アルフレッドは「うん。ただいま」と答えてから、

「お爺さまは?」

「旦那さまは、ただ今留守にされておられます」

「うん。そっか」

 祖父からは、今日は出かけると聞いていたが、改めて確認をして、アルフレッドは内心で少しホッとする。
 おかげで余計な騒動はなさそうだ。

「彼女たちは?」

「もういらっしゃってます」

 老執事はそう答える。

「応接室にて、お待ちしております」

「そっか」

 行動が早い。
 けれど、都合もいい。
 これで祖父がいない内に、彼女たちと面会が出来る。

「コウタ」

 アルフレッドは、コウタに声を掛けた。
 コウタは、緊迫感と共に対峙する少女たちに肝を冷やしていたようだが、

「え? 何。アルフ」

 助けに船とばかりに、アルフレッドの方に顔を向けてきた。
 アルフレッドは苦笑を浮かべつつ、

「どうやら、もう客人たちは来ているそうだよ」

「え? そうなの?」

 コウタは目を丸くした。

「まあ」「おいおい」

 リーゼやジェイクたちも驚いた顔をする。

「随分とお早いのですね」

「元々、この時期にコウタたちが帰ってくるって話はしていたからね」

 リーゼの感想に、アルフレッドは再び苦笑を零す。
 確かに随分と早い。
 きっと、彼女たちの方も、いつでも行動できるように構えていたのだろう。

「早速で悪いけど、荷物をっ部屋に置いたら面会お願い出来るかな?」

 アルフレッドがそう尋ねると、コウタが「うん」と頷いた。
 リーゼたちも「ええ。もちろんですわ」「ああ。いいぜ」と、それぞれ承諾の返事をくれた。メルティアだけは『あのお馬鹿さんですか……』と少し気乗りしない感じだった。
 ともあれ、全員の承諾は得た。

「うん。それじゃあお願いするよ。それと改めて」

 アルフレッドは、にこやかな笑みと共に告げた。

「歓迎するよ。みんな。ハウル邸へようこそ」
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