372 / 399
第12部
第二章 帰還②
しおりを挟む
バルカス=ベッグは、皇国騎士団の上級騎士である。
年齢は四十代前半。
今着ている騎士服よりも、山賊の衣装の方がこの上なく似合う髭面の大男だ。
元は小規模な傭兵団を率いていた彼は、いわゆる傭兵上がりの騎士だった。
実戦で鍛え上げられた技量と判断力は、騎士団内でも一目置かれている。
ただ、バルカスには、それ以上に有名な話があった。
彼は、『奇跡の人』と謳われているのである。
――そう。バルカスは奇跡を起こした。
驚くべきことに、彼は『お頭』と呼ばれても違和感が全くないその風貌で、二人の美女を嫁にしているのである。
「あ! コウタ君ッス!」
その一人が、バルカスの背に隠れていた女性だった。
歳の頃は二十歳ぐらいか。肩まである桃色の髪と、スレンダーな肢体。ニカっと笑うと見せる八重歯が印象的な女性だ。
騎士服こそ着ていたが、元気一杯な小動物の愛らしさを持つ女性だった。
キャシー=ベッグ。
バルカスの第二夫人である。
「帰ってきてたんスか!」
「あ。はい」
笑顔のキャシーに、コウタもつられて笑みを返した。
「ついさっき到着したばかりです」
「おう。そっか」
夫のバルカスもニカっと笑った。
「どうだった? 旦那には会えたか?」
「はい」
コウタは、背負っていたアイリを降ろして頷く。
「兄さんとは再会できました。変わらず元気でした」
「おお~、そいつは良かったな」
バルカスは、バンバンとコウタの肩を叩いた。
「旦那も喜んでいただろ」
「はい。ボクも嬉しかったです」
コウタは笑う。
バルカスは「そっかそっか」と、自分のことのように喜んだ。
「おっす。おっさん」
「お久しぶりですわ。ベッグさま」
「おう。ジェイクも、レイハートの嬢ちゃんも元気そうだな」
そこで、バルカスが「ん?」と、眉根を寄せた。
次いで、コウタたち一行を改めて見渡す。
「……んん?」
一度、リノの顔を一瞥してから、
「何か知らねえ嬢ちゃんが増えてるが、スコラ嬢ちゃんの姿がねえな?」
「あ、それは……」
コウタは一度、ジェイクとリーゼを気遣うように一瞥してから、
「シャルロットさんはアティスに残ったんです」
「おおっ!」
その言葉に瞳を輝かせたのは、キャシーだった。
ズズイっとコウタの前に詰め寄り、
「シャル姐さん! 隊長んところに残ったんスか!」
興奮気味に両手を固めた。
「おおっ! ついに覚悟を決めたんスね! 隊長の嫁になる覚悟を!」
「お、おい。キャシー」
鼻息荒い嫁に、バルカスが声をかける。
「やめろって。ここには……」
そう呟き、ちらりとコウタの同行者の一人、ミランシャを一瞥した。
「ああ~、構わないわよ」
すると、ミランシャは、ボリボリと頭をかいた。
「アタシも承知済みの話だし。というよりも、アタシも色々と用事を済ませたら、アシュ君のところに行くつもりだしね」
「へ?」「え?」
ベッグ夫妻は目を瞬かせた。
ミランシャは、ふうっと嘆息した。
「今回の旅でシャルロット同様にアタシも覚悟を決めたのよ。騎士団も辞めるわ。身支度したら、すぐにでも行くつもりよ」
「ええっ!?」「……マジっすか? 姐さん」
キャシーが驚愕し、バルカスが神妙な声で呟く。
「いや、それって副団長や、あの爺さんが許してくれるんすか?」
「そんなの関係ないわよ」
ミランシャは腰に両手を当てて堂々と告げる。
「誰がなんと言うとアタシは行くわ。アシュ君の元に翔んでいくの」
「「「おお~」」」
その台詞に感嘆の声を上げたのは、キャシーのみならず女性陣全員だった。
アイリ、メルティアに至っては拍手まで贈っている。
一方、コウタは、何とも言えない顔をしていたが。
ミランシャのことは嫌いではない。
今回の旅にしても、旅立つ前の皇国での生活にしても、実に沢山のことでお世話になっているし、むしろとても親しい人だ。コウタも姉同然に思っている。
――そう。姉同然の人なのだ。
その人が、正真正銘、義姉の座を目指して動くらしい。
改めて、しみじみと思う。
自分には一体、何人義姉がいるのだろうと。
「あの、バルカスさん」
「ん? 何だ? コウタの叔父貴」
「いや、その、叔父貴はやめてください」
と、ツッコみつつ、
「ミラ姉さんのこともそうだけど、少し相談事があるんです。ジェーンさんにもご挨拶したいし、後で家に伺ってもいいですか?」
「おう。俺も旦那のことも聞きてえしな。そいつは構わねえが……」
バルカスは眉をひそめた。
「俺に相談って何だ?」
「それは……」
コウタは口籠る。
――好きな子が二人います。どうしたらいいんでしょうか?
それを、一夫多妻を成し遂げた人物に尋ねる。
何というか、回答を聞く前から分かりそうだった。
「なんか困ってんのか?」
「い、いや、困っていることは困っているんですが……」
結局、自分にしか答えが出せないことだった。
しかし、経験豊富な年配者にアドバイスを貰うことはいいことだろう。
「ここでは、少し相談しにくいので後で……」
「??? おう。そっか」
バルカスは少し不思議そうにしていたが、元々陽気で気風の良い男だ。
「まあ、いいさ! 相談ぐらい、いくらでも乗ってやるよ!」
言って、バンバンとコウタの背中を叩いた。
それから、
「今夜は暇だからな。いつでも俺んちに来てくれや!」
ニカっと笑って、そう告げた。
年齢は四十代前半。
今着ている騎士服よりも、山賊の衣装の方がこの上なく似合う髭面の大男だ。
元は小規模な傭兵団を率いていた彼は、いわゆる傭兵上がりの騎士だった。
実戦で鍛え上げられた技量と判断力は、騎士団内でも一目置かれている。
ただ、バルカスには、それ以上に有名な話があった。
彼は、『奇跡の人』と謳われているのである。
――そう。バルカスは奇跡を起こした。
驚くべきことに、彼は『お頭』と呼ばれても違和感が全くないその風貌で、二人の美女を嫁にしているのである。
「あ! コウタ君ッス!」
その一人が、バルカスの背に隠れていた女性だった。
歳の頃は二十歳ぐらいか。肩まである桃色の髪と、スレンダーな肢体。ニカっと笑うと見せる八重歯が印象的な女性だ。
騎士服こそ着ていたが、元気一杯な小動物の愛らしさを持つ女性だった。
キャシー=ベッグ。
バルカスの第二夫人である。
「帰ってきてたんスか!」
「あ。はい」
笑顔のキャシーに、コウタもつられて笑みを返した。
「ついさっき到着したばかりです」
「おう。そっか」
夫のバルカスもニカっと笑った。
「どうだった? 旦那には会えたか?」
「はい」
コウタは、背負っていたアイリを降ろして頷く。
「兄さんとは再会できました。変わらず元気でした」
「おお~、そいつは良かったな」
バルカスは、バンバンとコウタの肩を叩いた。
「旦那も喜んでいただろ」
「はい。ボクも嬉しかったです」
コウタは笑う。
バルカスは「そっかそっか」と、自分のことのように喜んだ。
「おっす。おっさん」
「お久しぶりですわ。ベッグさま」
「おう。ジェイクも、レイハートの嬢ちゃんも元気そうだな」
そこで、バルカスが「ん?」と、眉根を寄せた。
次いで、コウタたち一行を改めて見渡す。
「……んん?」
一度、リノの顔を一瞥してから、
「何か知らねえ嬢ちゃんが増えてるが、スコラ嬢ちゃんの姿がねえな?」
「あ、それは……」
コウタは一度、ジェイクとリーゼを気遣うように一瞥してから、
「シャルロットさんはアティスに残ったんです」
「おおっ!」
その言葉に瞳を輝かせたのは、キャシーだった。
ズズイっとコウタの前に詰め寄り、
「シャル姐さん! 隊長んところに残ったんスか!」
興奮気味に両手を固めた。
「おおっ! ついに覚悟を決めたんスね! 隊長の嫁になる覚悟を!」
「お、おい。キャシー」
鼻息荒い嫁に、バルカスが声をかける。
「やめろって。ここには……」
そう呟き、ちらりとコウタの同行者の一人、ミランシャを一瞥した。
「ああ~、構わないわよ」
すると、ミランシャは、ボリボリと頭をかいた。
「アタシも承知済みの話だし。というよりも、アタシも色々と用事を済ませたら、アシュ君のところに行くつもりだしね」
「へ?」「え?」
ベッグ夫妻は目を瞬かせた。
ミランシャは、ふうっと嘆息した。
「今回の旅でシャルロット同様にアタシも覚悟を決めたのよ。騎士団も辞めるわ。身支度したら、すぐにでも行くつもりよ」
「ええっ!?」「……マジっすか? 姐さん」
キャシーが驚愕し、バルカスが神妙な声で呟く。
「いや、それって副団長や、あの爺さんが許してくれるんすか?」
「そんなの関係ないわよ」
ミランシャは腰に両手を当てて堂々と告げる。
「誰がなんと言うとアタシは行くわ。アシュ君の元に翔んでいくの」
「「「おお~」」」
その台詞に感嘆の声を上げたのは、キャシーのみならず女性陣全員だった。
アイリ、メルティアに至っては拍手まで贈っている。
一方、コウタは、何とも言えない顔をしていたが。
ミランシャのことは嫌いではない。
今回の旅にしても、旅立つ前の皇国での生活にしても、実に沢山のことでお世話になっているし、むしろとても親しい人だ。コウタも姉同然に思っている。
――そう。姉同然の人なのだ。
その人が、正真正銘、義姉の座を目指して動くらしい。
改めて、しみじみと思う。
自分には一体、何人義姉がいるのだろうと。
「あの、バルカスさん」
「ん? 何だ? コウタの叔父貴」
「いや、その、叔父貴はやめてください」
と、ツッコみつつ、
「ミラ姉さんのこともそうだけど、少し相談事があるんです。ジェーンさんにもご挨拶したいし、後で家に伺ってもいいですか?」
「おう。俺も旦那のことも聞きてえしな。そいつは構わねえが……」
バルカスは眉をひそめた。
「俺に相談って何だ?」
「それは……」
コウタは口籠る。
――好きな子が二人います。どうしたらいいんでしょうか?
それを、一夫多妻を成し遂げた人物に尋ねる。
何というか、回答を聞く前から分かりそうだった。
「なんか困ってんのか?」
「い、いや、困っていることは困っているんですが……」
結局、自分にしか答えが出せないことだった。
しかし、経験豊富な年配者にアドバイスを貰うことはいいことだろう。
「ここでは、少し相談しにくいので後で……」
「??? おう。そっか」
バルカスは少し不思議そうにしていたが、元々陽気で気風の良い男だ。
「まあ、いいさ! 相談ぐらい、いくらでも乗ってやるよ!」
言って、バンバンとコウタの背中を叩いた。
それから、
「今夜は暇だからな。いつでも俺んちに来てくれや!」
ニカっと笑って、そう告げた。
0
お気に入りに追加
261
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる