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第11部

第八章 そうして、彼女は運命を知る③

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 ――ガギンッッ!
 ぶつかり合う処刑刀と、金棒。
 二つの武具は、火花を散らした。
《ディノス》は、処刑刀を振り抜いた。
 それに合わせて《黒鉄丸》が後方に跳ぶ。
 鎧機兵の巨体とは思えない身軽さで回転し、着地する。
 まるでネコのような身軽さ。着地の振動もない。

(……凄いな)

 その姿に、コウタは舌を巻いた。

(本当に凄い。凄い戦い方をする子だ)

 アヤメの愛機・《黒鉄丸》の戦い方はかなり独特だ。
 主に跳躍を主体にしているのである。
《雷歩》の多用はもちろん、空中で竜尾を揺らし、突然の方向転換。先程のようにくるりと回り、着地もする。
 本来、鎧機兵でこんな戦い方をする者はいない。
 ここまで縦横無尽に動くと、操縦席の中はシェイクされているのと変わらないからだ。
 特に、空中で前転や後転など狂気の沙汰とも言える。
 そんなことをすれば空中に放り出されて、操縦席の内壁に叩きつけられる。よしんば操縦シートにしがみつけても、今度は動くことも出来なくなるだろう。
 しかし、アヤメは、それを生まれながらの身体能力の高さと、人間離れの三半規管で成し遂げていた。

 その上、

『《焔魔ノ法》上伝! 土の章!』

 アヤメが叫ぶ!

『《地壁ちへき回廊かいろう》!』

 ――ガガガガガガッッ!
 直後、巨大な土の壁が数壁乱立する。
 その一つを《黒鉄丸》は蹴りつけ、方向転換の足場へとする。
 金棒が振り下ろされた。

(――クッ)

 コウタは表情を険しくし、《ディノス》が機体の位置を一歩ずらした。
 削岩機のように回転する金棒は、大地を打ち砕いた。

『逃げるなのです!』

『いや、流石に避けるよ』

 そう返しつつ、《ディノス》は横薙ぎに処刑刀を繰り出すが、《黒鉄丸》は後方に跳んでクルクルと回転。土壁の一つの上に着地した。
 相変わらずの鎧機兵とは思えないほどの身軽さだ。

(それにあの力、大なり小なりあるけど、自然物を操る力なのか)

《黄道法》の闘技とは違う力。
 それは、対人戦から鎧機兵戦へと移っても変わらない。
 恐らくは、アヤメ個人による力なのだろう。
 興味深くはあるが、厄介な力でもある。
 発動前に対象の自然物が光ってくれるのはありがたいが、どんな力なのかは発動するまで分からない。回避はともかく、先読みはしづらい力だった。
 コウタは《万天図》に、ちらりと視線を向けた。

(あの機体の恒力値は六千三百ジン。ノーマルモードの《ディノス》と、ほとんど変わらない。出力自体は少し高い程度だ)

 その点はありがたいと思う。かなりあり得ないモノばかり見てきたので、鎧機兵もあり得ない出力だったら、どうしようと考えていたのだ。

(《黄道法》の闘技に加えて、あり得ない機動。不可解な力。厄介だけど……)

 コウタは、双眸を細めた。
 とは言え、《九妖星》を相手にするほど手強い状況でもない。

『シキモリさん。君は強い』

『……当然なのです』

 アヤメは答える。

『鎧機兵の使い方を学んだのは一年程度です。けど、焔魔堂の里では、物心ついた時から修練を積んでいるのです』

『……里か』コウタは少し苦笑を浮かべた。

『そこら辺も詳しく聞きたいな』

『だったら勝つことなのです』

 アヤメは、ふんと鼻を鳴らした。

『お前が勝ったら、お前の腕の中で何でも話してやるのです。里についても、焔魔の秘伝についても。全部お前のモノです』

『いや、そんな尋問みたいな真似までする気はないけど……』

 コウタは、ふっと笑う。

『君の不思議金棒には興味があるな』

『……何故、お前はそこまで金棒に拘るのです』

 何故か、金棒にやたらと執着するコウタに、アヤメは嘆息した。

『いや。だってカッコイイじゃないか』

 コウタは、珍しく少年らしい言葉を口にした。

『武器の伸縮自在だよ。要はあれだよ。無手で戦いながら、後になって「仕方がない。ボクも愛用の武器を使わせてもらうよ」が出来るんだよ』

 意外にも、メルティアにも見せたことのない無邪気な顔でコウタが言う。
 強いて挙げるのならば、ジェイクにならたまに見せる表情だ。
 要するに、少年心が刺激されているのである。
 アヤメにしてみれば、全く分からない感情だった。

『まあ、いいのです』

 アヤメは淡々と告げる。

『どうせ、お前はここで負けるのです』

『そうはいかないよ』

 コウタはそう返す。同時に《ディノス》が処刑刀を薙いだ。

『金棒は一旦置いとくとして。ボクは負ける訳にはいかないんだ。だって……』

 すうっと瞳を細める。
 かつて、敗北したせいでメルティアを奪われそうになったあの日を。

『負けたら何も守れない。ボクは二度と負けたくない。だから』

 ズンッ、と《ディノス》が地面に処刑刀を突き立てた。

『今から全力で行く』

 コウタは、グッと操縦棍を握りしめた。
 ――ビシリッ、と。
 処刑刀を中心に地面に大きな亀裂が奔る。
 アヤメが顔色を変えた。
 コウタは告げる。

『君を「あの男」クラスと見立てて臨む。手加減をする気もないよ。君は充分強いから。多分、かなり荒っぽくもなるけど許して欲しい』

『……望むところです』

 アヤメは、神妙な声でそう返した。
 声は緊張しているようだが、そこに怯えはない。
 コウタは笑う。
 そして、

『行くよ。シキモリさん』

 直後、大地が爆発するであった――。
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