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第11部
第七章 開拓の巨人②
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「……ねえ、フラン」
森の中を軽快に走りながら、アンジェリカが尋ねる。
「アヤメ。一体どうしたのかしら?」
「う~ん……」
隣を走るフランは眉根を寄せた。
「普段は無表情なあの子が、明らかにテンション高いものね」
初恋に浮かれている。
と言うよりも、何か吹っ切れたようなテンションだ。
「もしかすると、あれがアヤメの素の性格なのかな? けど……」
走りながら、フランは渋面を浮かべた。
アンジェリカも、つられるように苦笑を零す。
「「なんでぶちのめすになるのかな?」」
二人は、声を揃えて言った。
「あれかな。ほら。アヤメって、ダラーズ家の従生徒だけど、その前はアロンに住んでたらしいから。アロンって、まだまだ未知の風習ってあるでしょう?」
フランが、少し言葉を選びつつ呟く。
「なにそれ」
アンジェリカが困ったような顔を見せた。
「もしかしてあれ? アヤメの故郷には、好きになった人はぶちのめして奪ってくるとかいう風習があるってこと?」
「まあ、まさかだけどね」
大きな繁みを飛び越えて、フランが言う。
「けど、もしそうだったら、私はアヤメと違う故郷で助かったわ」
フランの冗談に、アンジェリカが笑った。
「それだと、私はアル君に勝たなきゃいけないもの。アル君に勝てる訳ないから」
「あはは。確かにね。《七星》相手なんてとんでもないわ。あ、けど」
そこで、フランは悪戯っぽく微笑んだ。
一度、足を止めて、木の幹に姿を隠す。アンジェリカも別の幹に背を隠した。談笑に興じているようで二人とも周囲を警戒していた。
周囲に人気が無いことを確認して、フランが言葉を続ける。
「逆の発想も有りかも。ハウルさまがアンジュを勝ち取るの。それなら可能でしょう」
「ア、 アル君が私をッ!」
カアアアっ、と両頬を押さえて顔を赤くするアンジェリカ。
実際のところ、いかに実力差があっても、アルフレッドがアンジェリカに勝つことは非常に厳しい。なにせ、積み重ねてきた胃のダメージが大きすぎるから。
しかし、妄想に浸るアンジェリカは、くねくねと体を揺らした。
「えへへ。勝ち取られるかぁ。いいなぁ。それ、いいなぁ、えへへ。アル君にお姫さま抱っこを――」
と、そこまで妄想したところで、ピンときた。
「それなら、フランこそじゃない」
「へ?」
フランは、キョトンとした。
アンジェリカは、にまあっと目を細めた。
「だって、オルバン君とは、もう決闘済みじゃない。しかも負けちゃった上に、最後のお姫さま抱っこなんて、まさに勝ち取られたって感じで――」
「ふえェいッ!?」
ボンっ、とフランの顔が真っ赤に染まった。
少し揶揄うつもりが、見事なまでにブーメランだった。
アンジェリカは、クスクスと笑う。
「まあ、冗談だけど。それにしても、本当にアヤメ、どうしたのかしらね。まさか、本気でヒラサカ君を勝ち取りに行った訳じゃないでしょうし」
「う~ん、そうよね」
フランもあごに手をやった。
「それに、他にも気になることを言ってたし。腐れ野郎とか――」
と、呟いた時だった。
――ズズゥンッ、ズズゥンッ!
「え?」「な、なに!」
突如、轟音が響いたのだ。
しかも周囲の木々も揺れて、バサバサと鳥たちも飛び出していく。
アンジェリカと、フランは轟音の方へと目をやった。
そしてギョッとする。
何故なら、巨人がいたからだ。
それも、木々よりも背の高い巨人である。
全高は、恐らく十二セージルはある。装甲の色は紫がかった銀色だ。
そのシルエットは、まるで直立した円塔。巨大な塔だ。頭部の形状も浅い筒状で構造的にあごがないのが分かる。肩当ての形状は台形だ。両腕には四つの孔が空いた巨大な手甲を装着している。ここからでは下半身は見えないが、先程の地響きは、恐らくあの巨人の足音だったのだろう。
「あ、あれって鎧機兵?」
思わず、そう尋ねるアンジェリカ。
なにせ、大きさが通常の二倍ぐらいある。とても鎧機兵には見えなかった。
フランも、顔を強張らせて、
「た、多分、そうなんじゃないの?」
動揺した声でそう返すと、
「うわあああっ!?」「助けて!? 助けて!?」「いやあああああああああッ!?」
そんな悲鳴が聞こえた。恐らくアノースログ学園の生徒たちだ。
巨人は、不意に木々の間に隠れた。
そうして数秒後、再び姿を現すと、手に男子生徒を一人掴んでいた。
「いやあああッ!? 助けて!? やめて!? 食べないで!? ママ―――ッッ!?」
男子生徒は、この上なくパニックになっていた。
手の中で必死に暴れている。
まるで、巨人に捕食される寸前のような姿だった。
巨人に口が無いのは幸いである。
アンジェリカと、フランは、ただただ茫然と見ることしか出来なかった。
と、その時だった。
『あの、一つお聞きしたいことが』
突然、巨人がそんなことを尋ねた。
アンジェリカたちは目を見開く。
「あの声! 主席の子!」
「うん。確かに鎧の子の声よね」
フランが頷くと、巨人は手の中の生徒にさらに問いかけた。
『あなた方のフラッグは、どこに設置しているのですか?』
完全に怯え切っている男子生徒は「あ、あっち……」と、フラッグの一本がある場所を震え続ける腕で指差した。
『ありがとうございます』
言って、巨人の姿は、再び木の陰へと隠れた。
そしてすぐに立ち上がる。どうやら男子生徒を地面に降ろしたようだ。
再び、ズズゥン、ズズゥン……と地響きが鳴った。
バキバキッ、と邪魔な木々を粉砕して、巨人は進んでいく。
アンジェリカたちは、茫然と巨人の姿を見つめていたが、ややあって、
「ま、まずいわよ!」
アンジェリカが、正気に返る。
「あの巨人、森を開拓しながら進撃してるわよ! フラッグをへし折る気だわ!」
「うわあ、有りなのそれって?」
フランは頬を強張らせた。
「鎧機兵の使用は確かに認められてるけど……もうっ!」
アンジェリカは、走り出した。
「あんなの放置できないわよ! 追うわよ! フラン!」
「ええッ!? 追ってどうするの! 捕食されるよ!」
「あの巨人が森を開拓してるのなら鎧機兵も喚べるわよ! 私たちであいつを倒すの!」
言って、アンジェリカはさらに加速した。
「待ってよ! アンジュ!」
慌てて、フランも後に続くのだった。
森の中を軽快に走りながら、アンジェリカが尋ねる。
「アヤメ。一体どうしたのかしら?」
「う~ん……」
隣を走るフランは眉根を寄せた。
「普段は無表情なあの子が、明らかにテンション高いものね」
初恋に浮かれている。
と言うよりも、何か吹っ切れたようなテンションだ。
「もしかすると、あれがアヤメの素の性格なのかな? けど……」
走りながら、フランは渋面を浮かべた。
アンジェリカも、つられるように苦笑を零す。
「「なんでぶちのめすになるのかな?」」
二人は、声を揃えて言った。
「あれかな。ほら。アヤメって、ダラーズ家の従生徒だけど、その前はアロンに住んでたらしいから。アロンって、まだまだ未知の風習ってあるでしょう?」
フランが、少し言葉を選びつつ呟く。
「なにそれ」
アンジェリカが困ったような顔を見せた。
「もしかしてあれ? アヤメの故郷には、好きになった人はぶちのめして奪ってくるとかいう風習があるってこと?」
「まあ、まさかだけどね」
大きな繁みを飛び越えて、フランが言う。
「けど、もしそうだったら、私はアヤメと違う故郷で助かったわ」
フランの冗談に、アンジェリカが笑った。
「それだと、私はアル君に勝たなきゃいけないもの。アル君に勝てる訳ないから」
「あはは。確かにね。《七星》相手なんてとんでもないわ。あ、けど」
そこで、フランは悪戯っぽく微笑んだ。
一度、足を止めて、木の幹に姿を隠す。アンジェリカも別の幹に背を隠した。談笑に興じているようで二人とも周囲を警戒していた。
周囲に人気が無いことを確認して、フランが言葉を続ける。
「逆の発想も有りかも。ハウルさまがアンジュを勝ち取るの。それなら可能でしょう」
「ア、 アル君が私をッ!」
カアアアっ、と両頬を押さえて顔を赤くするアンジェリカ。
実際のところ、いかに実力差があっても、アルフレッドがアンジェリカに勝つことは非常に厳しい。なにせ、積み重ねてきた胃のダメージが大きすぎるから。
しかし、妄想に浸るアンジェリカは、くねくねと体を揺らした。
「えへへ。勝ち取られるかぁ。いいなぁ。それ、いいなぁ、えへへ。アル君にお姫さま抱っこを――」
と、そこまで妄想したところで、ピンときた。
「それなら、フランこそじゃない」
「へ?」
フランは、キョトンとした。
アンジェリカは、にまあっと目を細めた。
「だって、オルバン君とは、もう決闘済みじゃない。しかも負けちゃった上に、最後のお姫さま抱っこなんて、まさに勝ち取られたって感じで――」
「ふえェいッ!?」
ボンっ、とフランの顔が真っ赤に染まった。
少し揶揄うつもりが、見事なまでにブーメランだった。
アンジェリカは、クスクスと笑う。
「まあ、冗談だけど。それにしても、本当にアヤメ、どうしたのかしらね。まさか、本気でヒラサカ君を勝ち取りに行った訳じゃないでしょうし」
「う~ん、そうよね」
フランもあごに手をやった。
「それに、他にも気になることを言ってたし。腐れ野郎とか――」
と、呟いた時だった。
――ズズゥンッ、ズズゥンッ!
「え?」「な、なに!」
突如、轟音が響いたのだ。
しかも周囲の木々も揺れて、バサバサと鳥たちも飛び出していく。
アンジェリカと、フランは轟音の方へと目をやった。
そしてギョッとする。
何故なら、巨人がいたからだ。
それも、木々よりも背の高い巨人である。
全高は、恐らく十二セージルはある。装甲の色は紫がかった銀色だ。
そのシルエットは、まるで直立した円塔。巨大な塔だ。頭部の形状も浅い筒状で構造的にあごがないのが分かる。肩当ての形状は台形だ。両腕には四つの孔が空いた巨大な手甲を装着している。ここからでは下半身は見えないが、先程の地響きは、恐らくあの巨人の足音だったのだろう。
「あ、あれって鎧機兵?」
思わず、そう尋ねるアンジェリカ。
なにせ、大きさが通常の二倍ぐらいある。とても鎧機兵には見えなかった。
フランも、顔を強張らせて、
「た、多分、そうなんじゃないの?」
動揺した声でそう返すと、
「うわあああっ!?」「助けて!? 助けて!?」「いやあああああああああッ!?」
そんな悲鳴が聞こえた。恐らくアノースログ学園の生徒たちだ。
巨人は、不意に木々の間に隠れた。
そうして数秒後、再び姿を現すと、手に男子生徒を一人掴んでいた。
「いやあああッ!? 助けて!? やめて!? 食べないで!? ママ―――ッッ!?」
男子生徒は、この上なくパニックになっていた。
手の中で必死に暴れている。
まるで、巨人に捕食される寸前のような姿だった。
巨人に口が無いのは幸いである。
アンジェリカと、フランは、ただただ茫然と見ることしか出来なかった。
と、その時だった。
『あの、一つお聞きしたいことが』
突然、巨人がそんなことを尋ねた。
アンジェリカたちは目を見開く。
「あの声! 主席の子!」
「うん。確かに鎧の子の声よね」
フランが頷くと、巨人は手の中の生徒にさらに問いかけた。
『あなた方のフラッグは、どこに設置しているのですか?』
完全に怯え切っている男子生徒は「あ、あっち……」と、フラッグの一本がある場所を震え続ける腕で指差した。
『ありがとうございます』
言って、巨人の姿は、再び木の陰へと隠れた。
そしてすぐに立ち上がる。どうやら男子生徒を地面に降ろしたようだ。
再び、ズズゥン、ズズゥン……と地響きが鳴った。
バキバキッ、と邪魔な木々を粉砕して、巨人は進んでいく。
アンジェリカたちは、茫然と巨人の姿を見つめていたが、ややあって、
「ま、まずいわよ!」
アンジェリカが、正気に返る。
「あの巨人、森を開拓しながら進撃してるわよ! フラッグをへし折る気だわ!」
「うわあ、有りなのそれって?」
フランは頬を強張らせた。
「鎧機兵の使用は確かに認められてるけど……もうっ!」
アンジェリカは、走り出した。
「あんなの放置できないわよ! 追うわよ! フラン!」
「ええッ!? 追ってどうするの! 捕食されるよ!」
「あの巨人が森を開拓してるのなら鎧機兵も喚べるわよ! 私たちであいつを倒すの!」
言って、アンジェリカはさらに加速した。
「待ってよ! アンジュ!」
慌てて、フランも後に続くのだった。
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