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第11部
第七章 開拓の巨人①
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森の中。
コウタは一人、疾走していた。
短剣の柄に片手を当て、木々の間を縫うように走る。
まるで森の中ではないような速さだ。
これは、コウタの身体能力の高さもあるが、山村産まれの山村育ち。その上、森の国エリーズで育ったコウタにとって、森とは最も戦いやすいステージでもあるからだ。
グングンと速度を上げる。
――と、
「ッ! 敵だ!」
耳に届く叫び声。人影が見えた。
三人組。男子生徒二人と女子生徒一人だ。
白い上着に、黒いスラックス。女生徒はスカート。
アノースログ学園の生徒たちだ。
「お嬢さま! お下がりください!」
体格の良い二人の男子生徒が、コウタの前に立ち塞がる。
明らかに女生徒を守る動き。「お嬢さま」と呼んだところから二人は従生徒か。
一人が短剣を抜き放ってコウタに斬りかかる――が、
――ドンッ!
「ガハッ!」
コウタは全く速度を落とさず接近。膝蹴りを少年の腹部に叩きつけた。
少年はその場に崩れ落ちた。その際に、胸元のフラッグワッペンを奪い取る。
「――くそ!」
もう一人の少年も短剣を抜き、刺突を繰り出してきた。
対し、コウタは微かに重心をずらすだけで切っ先をかわし、カウンターで少年のあごを掌底で打ち抜いた。
大きく仰け反り、その少年も倒れた。フラッグを奪うことも忘れない。
残りは一人だ。
コウタは、女生徒を一瞥した。
光沢を持つ飴色の髪の少女だ。ショートでボリュームのある髪。
綺麗だが、少し勝気そうな面持ち。彼女には見覚えがあった。
確かクラスのみんなが作成していた、アノースログ学園美少女ランキングで三位に入っていた子だ。結構な名家のお嬢さまだと聞いている。
わざわざ二人も従生徒が付いているのだから、それは事実なのだろう。
「こ、このッ!」
従者が一瞬で二人も倒された状況でも、彼女は短剣を抜こうとしていた。
しかし、それをみすみす見逃すコウタでもない。
トン、と柄頭を手で押さえて、彼女の抜刀を封じる。
「………あ」
目を剥く少女。
コウタは、空いた左拳を動かした。
彼女は青ざめてギュッと瞳を閉じるが、次の瞬間、腹部に訪れた衝撃は、トスンというとても軽いものだった。
「え? え?」
彼女は瞳を開いて、そのまま瞬かせた。
「個人的に試合で寸止めって失礼だと思うんだ。だからこれで許して欲しい」
コウタが言う。少女は目を瞬かせたままだった。
「これだって侮辱しているかも知れない。けど、ごめん。戦意のない子は殴れない」
コウタは、左手を彼女に向けた。
「『参った』って言って欲しい。お願いできるかな?」
優しい声。とても優しい眼差しでそう告げられて――。
……ボンっと。
少女の顔が、真っ赤になった。
そしてアタフタと動揺しつつも、自分のフラッグを外して、
「ま、参りました」
俯いた視線で、コウタの手の平にフラッグを乗せてくれた。
コウタは「ありがとう」と告げて微笑んだ。
彼女はコウタの顔を凝視の眼差しで見つめてから、「は、はい……」と、視線を伏せて縮こまってしまった。
「それと」
コウタは、倒した少年たちに目をやった。
「彼らの様子を見ていて欲しい。すぐに騎士の人か先生たちが来ると思うけど、まだしばらくは起きないと思うから」
「は、はい」
少女は、コクコクと頷いた。
「それじゃあ気をつけて。この森は、魔獣はいないけど獣ならいるから」
言って、コウタは再び走り出そうとする。と、
「あ、あの!」
少女が叫ぶ。
「私の名前はアリサです! アリサ=グレスト! お、お名前を!」
「え? ボクの名前?」
コウタは、パチパチと目を瞬かせた。
少女は、真っ赤な顔で、コクコクコクと頷いている。
どうしてだろう。また聞かれてしまった。
しかし、名乗る程度は大したことでもないので笑って答えた。
「コウタだよ。コウタ=ヒラサカ」
そう告げて、コウタは再び走り出した。自分の後方でアリサと名乗った少女が「ふ、ふわあ……」と吐息を零して、ペタンと座り込んでいることには気付かずに。
(これで二十一)
コウタは、さらに加速する。
戦闘が始まって十五分。中々の遭遇率だ。
印象としては、アノースログ学園の男子生徒は勇猛果敢だ。迷いなく剣を振るう。たとえ劣勢でも最後まで諦めない。
一方、女生徒の方は、戦況を理解してくれる聡明な人が多いようだ。
男子生徒だけの班は敗北を促しても、最後の一人まで戦うのに対し、女生徒たちはコウタの声に耳を傾けてくれる。
さっきのように話をしたら、敗北を認めてくれるのだ。
(けど、やっぱり、皇国の貴族の子って礼儀正しいんだな)
さっきの子で六人目だ。
まずは名乗って、次にコウタの名前を聞いてくるのだ。
名乗りとは、騎士にとって重要なものと聞く。
やはり、彼女たちは騎士の家の娘ということなのだろう。
自分には、よく分からない感覚だが。
(う~ん、ボクって、やっぱり庶民なんだな)
のほほんと、そんなことを考えながら、コウタの『狩り』は続く。
その後、さらに二班、コウタは撃退した。
また一人、女生徒に名前を聞かれたが。
(これで二十六)
コウタは走る。
出来れば、『彼女』と遭遇する前に三十は撃破しておきたいのだが。
(そうもいかないかな)
コウタは、黒い双眸を細めた。
ピリピリと、肌がひりついてくるのを感じる。
どうしてだろうか。『彼女』の存在を強く感じ取れる。
(そろそろか)
森の中をさらに加速する。と、その時だった。
――ズズウゥンッッ!
突如、森の中に轟音が響いた。
コウタは足を止める。微かに地面から振動を感じた。
(……うわあ)
コウタは、少し顔を強張らせた。
そして顔を上げて、苦笑と共に呟いた。
「……メル。本当に始めたんだ」
コウタは一人、疾走していた。
短剣の柄に片手を当て、木々の間を縫うように走る。
まるで森の中ではないような速さだ。
これは、コウタの身体能力の高さもあるが、山村産まれの山村育ち。その上、森の国エリーズで育ったコウタにとって、森とは最も戦いやすいステージでもあるからだ。
グングンと速度を上げる。
――と、
「ッ! 敵だ!」
耳に届く叫び声。人影が見えた。
三人組。男子生徒二人と女子生徒一人だ。
白い上着に、黒いスラックス。女生徒はスカート。
アノースログ学園の生徒たちだ。
「お嬢さま! お下がりください!」
体格の良い二人の男子生徒が、コウタの前に立ち塞がる。
明らかに女生徒を守る動き。「お嬢さま」と呼んだところから二人は従生徒か。
一人が短剣を抜き放ってコウタに斬りかかる――が、
――ドンッ!
「ガハッ!」
コウタは全く速度を落とさず接近。膝蹴りを少年の腹部に叩きつけた。
少年はその場に崩れ落ちた。その際に、胸元のフラッグワッペンを奪い取る。
「――くそ!」
もう一人の少年も短剣を抜き、刺突を繰り出してきた。
対し、コウタは微かに重心をずらすだけで切っ先をかわし、カウンターで少年のあごを掌底で打ち抜いた。
大きく仰け反り、その少年も倒れた。フラッグを奪うことも忘れない。
残りは一人だ。
コウタは、女生徒を一瞥した。
光沢を持つ飴色の髪の少女だ。ショートでボリュームのある髪。
綺麗だが、少し勝気そうな面持ち。彼女には見覚えがあった。
確かクラスのみんなが作成していた、アノースログ学園美少女ランキングで三位に入っていた子だ。結構な名家のお嬢さまだと聞いている。
わざわざ二人も従生徒が付いているのだから、それは事実なのだろう。
「こ、このッ!」
従者が一瞬で二人も倒された状況でも、彼女は短剣を抜こうとしていた。
しかし、それをみすみす見逃すコウタでもない。
トン、と柄頭を手で押さえて、彼女の抜刀を封じる。
「………あ」
目を剥く少女。
コウタは、空いた左拳を動かした。
彼女は青ざめてギュッと瞳を閉じるが、次の瞬間、腹部に訪れた衝撃は、トスンというとても軽いものだった。
「え? え?」
彼女は瞳を開いて、そのまま瞬かせた。
「個人的に試合で寸止めって失礼だと思うんだ。だからこれで許して欲しい」
コウタが言う。少女は目を瞬かせたままだった。
「これだって侮辱しているかも知れない。けど、ごめん。戦意のない子は殴れない」
コウタは、左手を彼女に向けた。
「『参った』って言って欲しい。お願いできるかな?」
優しい声。とても優しい眼差しでそう告げられて――。
……ボンっと。
少女の顔が、真っ赤になった。
そしてアタフタと動揺しつつも、自分のフラッグを外して、
「ま、参りました」
俯いた視線で、コウタの手の平にフラッグを乗せてくれた。
コウタは「ありがとう」と告げて微笑んだ。
彼女はコウタの顔を凝視の眼差しで見つめてから、「は、はい……」と、視線を伏せて縮こまってしまった。
「それと」
コウタは、倒した少年たちに目をやった。
「彼らの様子を見ていて欲しい。すぐに騎士の人か先生たちが来ると思うけど、まだしばらくは起きないと思うから」
「は、はい」
少女は、コクコクと頷いた。
「それじゃあ気をつけて。この森は、魔獣はいないけど獣ならいるから」
言って、コウタは再び走り出そうとする。と、
「あ、あの!」
少女が叫ぶ。
「私の名前はアリサです! アリサ=グレスト! お、お名前を!」
「え? ボクの名前?」
コウタは、パチパチと目を瞬かせた。
少女は、真っ赤な顔で、コクコクコクと頷いている。
どうしてだろう。また聞かれてしまった。
しかし、名乗る程度は大したことでもないので笑って答えた。
「コウタだよ。コウタ=ヒラサカ」
そう告げて、コウタは再び走り出した。自分の後方でアリサと名乗った少女が「ふ、ふわあ……」と吐息を零して、ペタンと座り込んでいることには気付かずに。
(これで二十一)
コウタは、さらに加速する。
戦闘が始まって十五分。中々の遭遇率だ。
印象としては、アノースログ学園の男子生徒は勇猛果敢だ。迷いなく剣を振るう。たとえ劣勢でも最後まで諦めない。
一方、女生徒の方は、戦況を理解してくれる聡明な人が多いようだ。
男子生徒だけの班は敗北を促しても、最後の一人まで戦うのに対し、女生徒たちはコウタの声に耳を傾けてくれる。
さっきのように話をしたら、敗北を認めてくれるのだ。
(けど、やっぱり、皇国の貴族の子って礼儀正しいんだな)
さっきの子で六人目だ。
まずは名乗って、次にコウタの名前を聞いてくるのだ。
名乗りとは、騎士にとって重要なものと聞く。
やはり、彼女たちは騎士の家の娘ということなのだろう。
自分には、よく分からない感覚だが。
(う~ん、ボクって、やっぱり庶民なんだな)
のほほんと、そんなことを考えながら、コウタの『狩り』は続く。
その後、さらに二班、コウタは撃退した。
また一人、女生徒に名前を聞かれたが。
(これで二十六)
コウタは走る。
出来れば、『彼女』と遭遇する前に三十は撃破しておきたいのだが。
(そうもいかないかな)
コウタは、黒い双眸を細めた。
ピリピリと、肌がひりついてくるのを感じる。
どうしてだろうか。『彼女』の存在を強く感じ取れる。
(そろそろか)
森の中をさらに加速する。と、その時だった。
――ズズウゥンッッ!
突如、森の中に轟音が響いた。
コウタは足を止める。微かに地面から振動を感じた。
(……うわあ)
コウタは、少し顔を強張らせた。
そして顔を上げて、苦笑と共に呟いた。
「……メル。本当に始めたんだ」
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