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第9部
第二章 白金の風②
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シン、とした空気。
場所は王城の一角。鎧機兵の訓練所。
学校のグラウンドを思わせる場所で今、四機の鎧機兵が対峙していた。
一機は《悪竜》を模した赤と黒で彩られた鎧機兵。
黒い処刑刀を携えた《ディノス》だ。
そして残る三機は、《ディノス》を囲うように陣取っていた。
一機は《クルスス》。
機体の色は鮮やかな山吹色。鳥の頭を模しているヘルムに、装甲部には翼をイメージした紋様が所々に描かれている。手に持つのは先端部に小さなトゲ付き鉄球が付いた鞭のような武器――『フレイル』だ。
搭乗するのは、アティス王国騎士学校の制服を着た少女。淡い栗色の長い前髪を持つショートヘアに、時折見せる澄んだ水色の瞳が印象的な少女だ。
――ルカ=アティス。
この国の第一王女さまである。
『本当に、三機がかりでいいんだな?』
そう尋ねるのは、青い機体だった。
武器は巨大な斧槍。重武装の機体だ。恒力値は四千ジン。斧槍を肩に、長い竜尾を揺らして前掲に身構えている。
機体名は《シアン》。
この国で出会った少年。ロック=ハルトの愛機だ。
当然、先程の声の主も彼である。
そして最後の一機。
それは、軽装型の緑色の鎧機兵だった。
同工房の製品なのか、《シアン》とデザインが似ている。武器は槍を持っていた。
恒力値は三千九百ジン。出力・装備共にかなりスタンダードな鎧機兵である。
機体名は《アルゴス》というらしい。
ロックの友人であるエドワード=オニキスの愛機だった。
『おい、ロック。気遣っていられる相手かよ?』
と、エドワードが言う。
「エドの言う通りだ!」
その時、少年の声が響いた。
コウタが視線を向けると、訓練所の端に大柄な少年――ジェイクの姿があった。
「とにかくガンガン攻め込め! コウタに間合いを取らせんな!」
と、エドワード達にアドバイスを送る。なお、彼の隣には着装型鎧機兵を纏うメルティアと、いつものメイド服を着たアイリの姿もあった。
コウタは、苦笑を零した。
そして、
(さて。上手くいくかな?)
すうっと双眸を細めて、彼女に告げる。
「リーゼ」
「は、はい」
緊張した様子でリーゼは答える。
彼女は今、赤い顔でコウタの背中にしがみついていた。
《ディノス》に相乗りしているのだ。
そして彼女の額には、金色のティアラが付けられていた。
「では、コウタさま」
リーゼは意識を集中させる。
「――行きますわ」
そう告げる。
途端、《ディノス》の全身が炎に包まれた。
――《悪竜》モードだ。
しかし、普段の真紅の炎ではない。
溢れるように噴き出した炎の色は、白金の色だった。
加え、動きも普段の猛々しさとは違う。
まるで、巻き上がる風を思わせるような動きをしていた。
幾つもの翼を広げているような姿である。
「上手くいきましたわ!」
リーゼが、嬉しそうに叫ぶ。
「うん。そうだね」
コウタも、破顔した。
これは《ディノ=バロウス》の新しい機能だった。
『……むむむ』
メルティアの不満そうな声を《ディノス》が拾った。
今回、壮絶な交渉の末、メルティアは遂に相乗りの権限を解放したのだ。
コウタが承認した者のみ《悪竜》モードを使用できるように調整したのである。
そして今、リーゼが発動に成功させた訳だ。
「やりましたわ! やりました!」
よほど嬉しいのか、リーゼが、いつになくはしゃいでいる。
当然というか、抱き着く力も強くなっていた。
「い、いや、リーゼ。少し落ち着いて」
コウタの顔は、かなり赤かった。
(う、うわ、リーゼもやっぱり柔らかい)
メルティアには大きく劣るものの、背中から感じる確かな柔らかさに、彼女も女の子なのだと思い知らされる。まあ、彼女に至っては、背中どころか、真正面から抱いて《ディノス》に乗せたことがあるのだが。
「まあ、とりあえず成功したから、模擬戦をしようか」
「はい。お任せください。コウタさま」
リーゼが力強く頷く。
コウタも頷くと、ルカ達の三機に目をやった。
『じゃあ、始めよう』
『おう。行くぞ!』
そう言って、先陣を切ったのはロックの《シアン》だった。
斧槍を肩に《雷歩》で跳躍。《ディノ=バロウス》に斬り込んでくる。
(うん。真っ直ぐな太刀筋だ)
コウタは、双眸を細めた。
実にロックの性格らしい実直な攻撃だ。
だが、このぐらいの攻撃では、《ディノ=バロウス》には通じない。
白金の炎――いや、風を纏う《ディノ=バロウス》は処刑刀で《シアン》の攻撃を払いのけた。膂力の差で《シアン》は大きく弾き飛ばされた。
(……あれ?)
コウタは少し困惑する。
今の愛機の攻撃。いつもに比べると出力がかなり落ちている気がした。
(まだ、調子が悪いのかな?)
『――おら! 行くぜ!』
そう考えていると、《アルゴス》が間合いを詰めてきた。
槍で無数の刺突を繰り出してくる。
《ディノ=バロウス》は悉く攻撃を撃ち落とす。と、
――不意に。
《アルゴス》が身を屈めたのだ。
直後に鉄球が飛んでくる。ルカの《クルスス》の攻撃だ。
しかも、横からは《シアン》が斧槍を繰り出してきている。
身を屈めた《アルゴス》もまた、薙ぎ払いで膝を狙ってきていた。
流石は同じ騎士学校の騎士候補生達か。見事な連携だった。
(ここは一旦距離を取るか)
そう考えて、《ディノ=バロウス》を跳躍させる。
――と、
(えっ! 軽い!)
思わず、コウタは目を剥いた。
白金の風を纏う《ディノ=バロウス》は、恐ろしく軽やかだったのだ。
その速度は、普段の比ではない。
(なるほど。これがメルの言っていた『特性』なのか)
一瞬で間合いを取り、攻撃を回避したコウタは理解する。
要は、これが『リーゼの特性』ということらしい。
同時攻撃をかわされたエドワード達は、少し動揺していた。
『おいおい。今の全部かわせんのかよ?』
『コ、コウ君。やっぱり速い、です』
『気後れするな。相手は格上なんだ。ここは攻撃を続けるぞ』
そんな声が聞こえてくる。
コウタは、ふっと目尻を下げた。
「リーゼ」
「はい。コウタさま、何ですか?」
リーゼが、コウタの声に応える。
「うん。面白いよ。やってみたいことがあるんだけどいいかな?」
コウタがそう尋ねると、リーゼは、クスリと笑った。
「あなたの望むままになさって下さいまし」
「ありがとう。じゃあ」
そう言って、コウタは操縦棍を強く握りしめた。
そして――。
「行くよ。風の《ディノ=バロウス》」
白金の風が、吹き荒れた。
場所は王城の一角。鎧機兵の訓練所。
学校のグラウンドを思わせる場所で今、四機の鎧機兵が対峙していた。
一機は《悪竜》を模した赤と黒で彩られた鎧機兵。
黒い処刑刀を携えた《ディノス》だ。
そして残る三機は、《ディノス》を囲うように陣取っていた。
一機は《クルスス》。
機体の色は鮮やかな山吹色。鳥の頭を模しているヘルムに、装甲部には翼をイメージした紋様が所々に描かれている。手に持つのは先端部に小さなトゲ付き鉄球が付いた鞭のような武器――『フレイル』だ。
搭乗するのは、アティス王国騎士学校の制服を着た少女。淡い栗色の長い前髪を持つショートヘアに、時折見せる澄んだ水色の瞳が印象的な少女だ。
――ルカ=アティス。
この国の第一王女さまである。
『本当に、三機がかりでいいんだな?』
そう尋ねるのは、青い機体だった。
武器は巨大な斧槍。重武装の機体だ。恒力値は四千ジン。斧槍を肩に、長い竜尾を揺らして前掲に身構えている。
機体名は《シアン》。
この国で出会った少年。ロック=ハルトの愛機だ。
当然、先程の声の主も彼である。
そして最後の一機。
それは、軽装型の緑色の鎧機兵だった。
同工房の製品なのか、《シアン》とデザインが似ている。武器は槍を持っていた。
恒力値は三千九百ジン。出力・装備共にかなりスタンダードな鎧機兵である。
機体名は《アルゴス》というらしい。
ロックの友人であるエドワード=オニキスの愛機だった。
『おい、ロック。気遣っていられる相手かよ?』
と、エドワードが言う。
「エドの言う通りだ!」
その時、少年の声が響いた。
コウタが視線を向けると、訓練所の端に大柄な少年――ジェイクの姿があった。
「とにかくガンガン攻め込め! コウタに間合いを取らせんな!」
と、エドワード達にアドバイスを送る。なお、彼の隣には着装型鎧機兵を纏うメルティアと、いつものメイド服を着たアイリの姿もあった。
コウタは、苦笑を零した。
そして、
(さて。上手くいくかな?)
すうっと双眸を細めて、彼女に告げる。
「リーゼ」
「は、はい」
緊張した様子でリーゼは答える。
彼女は今、赤い顔でコウタの背中にしがみついていた。
《ディノス》に相乗りしているのだ。
そして彼女の額には、金色のティアラが付けられていた。
「では、コウタさま」
リーゼは意識を集中させる。
「――行きますわ」
そう告げる。
途端、《ディノス》の全身が炎に包まれた。
――《悪竜》モードだ。
しかし、普段の真紅の炎ではない。
溢れるように噴き出した炎の色は、白金の色だった。
加え、動きも普段の猛々しさとは違う。
まるで、巻き上がる風を思わせるような動きをしていた。
幾つもの翼を広げているような姿である。
「上手くいきましたわ!」
リーゼが、嬉しそうに叫ぶ。
「うん。そうだね」
コウタも、破顔した。
これは《ディノ=バロウス》の新しい機能だった。
『……むむむ』
メルティアの不満そうな声を《ディノス》が拾った。
今回、壮絶な交渉の末、メルティアは遂に相乗りの権限を解放したのだ。
コウタが承認した者のみ《悪竜》モードを使用できるように調整したのである。
そして今、リーゼが発動に成功させた訳だ。
「やりましたわ! やりました!」
よほど嬉しいのか、リーゼが、いつになくはしゃいでいる。
当然というか、抱き着く力も強くなっていた。
「い、いや、リーゼ。少し落ち着いて」
コウタの顔は、かなり赤かった。
(う、うわ、リーゼもやっぱり柔らかい)
メルティアには大きく劣るものの、背中から感じる確かな柔らかさに、彼女も女の子なのだと思い知らされる。まあ、彼女に至っては、背中どころか、真正面から抱いて《ディノス》に乗せたことがあるのだが。
「まあ、とりあえず成功したから、模擬戦をしようか」
「はい。お任せください。コウタさま」
リーゼが力強く頷く。
コウタも頷くと、ルカ達の三機に目をやった。
『じゃあ、始めよう』
『おう。行くぞ!』
そう言って、先陣を切ったのはロックの《シアン》だった。
斧槍を肩に《雷歩》で跳躍。《ディノ=バロウス》に斬り込んでくる。
(うん。真っ直ぐな太刀筋だ)
コウタは、双眸を細めた。
実にロックの性格らしい実直な攻撃だ。
だが、このぐらいの攻撃では、《ディノ=バロウス》には通じない。
白金の炎――いや、風を纏う《ディノ=バロウス》は処刑刀で《シアン》の攻撃を払いのけた。膂力の差で《シアン》は大きく弾き飛ばされた。
(……あれ?)
コウタは少し困惑する。
今の愛機の攻撃。いつもに比べると出力がかなり落ちている気がした。
(まだ、調子が悪いのかな?)
『――おら! 行くぜ!』
そう考えていると、《アルゴス》が間合いを詰めてきた。
槍で無数の刺突を繰り出してくる。
《ディノ=バロウス》は悉く攻撃を撃ち落とす。と、
――不意に。
《アルゴス》が身を屈めたのだ。
直後に鉄球が飛んでくる。ルカの《クルスス》の攻撃だ。
しかも、横からは《シアン》が斧槍を繰り出してきている。
身を屈めた《アルゴス》もまた、薙ぎ払いで膝を狙ってきていた。
流石は同じ騎士学校の騎士候補生達か。見事な連携だった。
(ここは一旦距離を取るか)
そう考えて、《ディノ=バロウス》を跳躍させる。
――と、
(えっ! 軽い!)
思わず、コウタは目を剥いた。
白金の風を纏う《ディノ=バロウス》は、恐ろしく軽やかだったのだ。
その速度は、普段の比ではない。
(なるほど。これがメルの言っていた『特性』なのか)
一瞬で間合いを取り、攻撃を回避したコウタは理解する。
要は、これが『リーゼの特性』ということらしい。
同時攻撃をかわされたエドワード達は、少し動揺していた。
『おいおい。今の全部かわせんのかよ?』
『コ、コウ君。やっぱり速い、です』
『気後れするな。相手は格上なんだ。ここは攻撃を続けるぞ』
そんな声が聞こえてくる。
コウタは、ふっと目尻を下げた。
「リーゼ」
「はい。コウタさま、何ですか?」
リーゼが、コウタの声に応える。
「うん。面白いよ。やってみたいことがあるんだけどいいかな?」
コウタがそう尋ねると、リーゼは、クスリと笑った。
「あなたの望むままになさって下さいまし」
「ありがとう。じゃあ」
そう言って、コウタは操縦棍を強く握りしめた。
そして――。
「行くよ。風の《ディノ=バロウス》」
白金の風が、吹き荒れた。
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