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第8部

第八章 炎より続く明日④

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「――コウタさま!」


 コウタとメルティアが、《ディノ=バロウス》から降り、エリーズ組の元に向かうと、リーゼが駆け寄ってきた。
 いや、リーゼだけではない。ジェイクも、アイリも、ミランシャ、シャルロット。アリシア達も元にいたルカも、オルタナを肩に駆け寄ってきてくれた。
 ゴーレム達は、真っ直ぐメルティアの元に駆け寄っていく。


「……メルサマ!」「……ブジカ!」「……コウタノアニハ、オニダッタ!」


 と、メルティアに話しかける。
 一方、
 ――ぎゅううっと。
 リーゼが、コウタの首元に抱きついた。
 次いで、アイリがコウタの腰に抱きついてくる。


「コウタさま、ああ、コウタさま」

「……良かったよ。怪我はない? コウタ?」


 二人は涙ぐんでいた。リーゼも、アイリでさえもだ。
 苦戦は承知していた。
 勝ち目がほとんどないことも。
 けど、流石にコウタが、あそこまでボコボコにされるとは思っていなかった。


「コウタさま……」


 リーゼが、潤んだ瞳で尋ねてくる。


「お怪我はありませんか?」

「う、うん……」


 胸部的にはメルティアには遠く及ばずとも、美貌においては引けを取らないリーゼの顔を間近で見て、コウタは顔を赤く染めた。
 それにここまで近付くと、胸の感触だってちゃんと伝わって……。
「……あ」とコウタが恥ずかしがっていることに気付き、リーゼは慌てて離れた。
 なお、アイリの方は抱きついたままだ。
 コウタは少しホッとする。と、


「やるじゃない! コウタ君!」


 別の美女に背後から抱きつかれた。上機嫌のミランシャだ。


「本気のアシュ君相手に、本当に大したものだわ!」

「ミ、ミラ姉さん……」


 再び訪れる胸囲の脅威。ちなみにミランシャの胸はリーゼよりもちょっぴり上だ。
 顔を真っ赤にするコウタ。
 それに対し、抱きついているアイリはともかく、リーゼとメルティアはどこか優しい眼差しをしていた。
 二人とも、今は嫉妬よりも安堵の方が強かった。


「……良かったです。コウ君」

「ええ。まったくです」


 と、指で目を擦るルカに、シャルロットが呟く。


「それにしても」


 シャルロットは愛しい人に視線を向けた。未だ戦場だった場所で、何やらオトハに説教されているようなアッシュの姿が瞳に映る。


「昔から強かったですが、クライン君は本当に別格になりました」

「……そうっすね」


 と、神妙な声と顔つきで答えるのは、ジェイクだ。


「コウタでもここまでフルボッコか。とんでもねえな。あの兄ちゃん」


 シャルロットが、別格だと言うのもよく分かる。
 そして、彼女が惹かれるのも。


(あれがオレっちの恋敵かぁ……)


 あまりにも難敵。
 それを考えると、流石のジェイクでも気が滅入ってくる。


「コウタ」

「ん? なに? ジェイク」

「後でお前の兄貴の弱点とか教えてくれよ」

「え? うん、う~ん」


 ミランシャに首を。アイリに腰を掴まれたまま、コウタは腕を組んだ。
 色恋には鈍感なコウタだが、親友の気持ちは分かる。
 しかし、それは本当に難問だった。
 なにせ、兄にはボコボコにされたばかりだ。


「一応、色々考えてみるよ。後で話そう」

「おう。頼むぜ」


 という少年達の会話を理解したのは、リーゼだけだったりする。


「けど、今は……」


 コウタは、視線をアリシア達に向けた。
 完全に私用で彼女達を付き合わせてしまった。
 ちゃんと、お詫びとお礼をしなければならない。


「ミラ姉さん。アイリ」


 コウタがそう言うと、「う~ん。残念」「……ん。分かったよ」と応えて、二人はコウタを離してくれた。


「メル。行こう」

「はい。コウタ」


 コウタとメルティアはアリシア達の元に向かった。
 そこにはアリシア、サーシャ、エドワード、ロック。
 そしてユーリィの姿があった。
 コウタは、


「ごめん、余計なことで待たせちゃって」


 と、声をかける。


「おう! コウタ!」


 エドワードが二カッと笑った。
 次いで、バンバンッとコウタの背中を叩いてくる。


「本当に凄いな! まさか師匠相手にあそこまで食い下がるとは!」


 と、ロックもまた、にこやかに笑った。
 新しい友人達の賞賛に、コウタの口元が綻んだ時だった。


「……あなたは」


 不意に、声をかけられる。
 それはユーリィの――コウタの義理の姪の声だった。
 彼女は翡翠色の眼差しでコウタを見据えた。
 そうして――。


「一体何者なの?」


 コウタは、目を見開いた。


「……え?」


 と、これはサーシャの声だ。
 アシリアや、エドワード達は、ポカンとしている。
 ただ、困惑しているのは、コウタもメルティアも同様だ。


「アッシュは」


 そんな中、ユーリィは告げる。


「アルフレッドさん相手でも、あんなことはしたことがない。あんな限界を試すような真似はしない。なのに……」


 空気が、シンとする。
 彼女は静かに唇を嚙んだ。
 そこに、まるで嫉妬でも宿すように。


「やっぱり、アッシュはあなたを特別扱いしている。あなたは一体何者なの?」


 恐らくアティス組のメンバーの中でも一番優しくて、人が良さそうなサーシャが「ユ、ユーリィちゃん……?」と、困惑した声を上げていた。
 一方、当のコウタもまた、とても困ってしまった。


(これは、もう教えてもいいのかな?)


 出来れば、兄に確認したい。
 ちらりと見ると、メルティアもおどおどしていた。


(う~ん、どうしたものかな)


 コウタは沈黙した。
 アリシア達も、疑問に思いつつも黙って様子を窺っている。
 ユーリィの表情は、どこか不安を宿しているようだった。


(これは仕方がないかな……)


 コウタは覚悟を決めた。
 そして、


「ユーリィさん。それは……」


 と、口を開こうとした時だった。


「そいつは今から教えるよ。ユーリィ」


 不意に別の声がした。コウタのみならず、全員の視線が、声の方へ注目する。
 そこには、兄の姿があった。
 傍らには、少し困った表情を見せるオトハの姿も。


(……兄さん)


 アッシュは、ボリボリと頭をかいた。


「まあ、ユーリィは俺の『娘』だしな。俺から言うのが筋だろう」
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