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第8部

第二章 再会と、新たなる出会い④

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「は~い。久しぶりね」


 ミランシャは、陽気に笑う。


「ミ、ミランシャさんが、どうしてここに……」


 アリシアが呆然と呟く。
 サーシャやユーリィは驚きすぎて言葉もないようだ。
 ミランシャは、ふふっと微笑んだ。


「ふふ、色々あってね。けど、その前に……」


 ミランシャは一気に駆け出した。
 そして、ギョッとするコウタの首を抱きしめた。
 むにィ、と胸が顔に押しつけられる。


「もう! 先に行ったら寂しいじゃない! コウタ君ったら!」


 慎ましくはあるが、確かに感じる柔らかな胸の感触。
 さらには何やら甘い香りまでする。コウタの顔が一気に赤くなった。


「い、いえ、ミランシャさんにも準備があると思って」


 しどろもどろにそう告げると、ミランシャは悪戯っぽく微笑んだ。


「そんなの気遣わなくていいのよ。それより、アタシのことは、ミラお姉ちゃんって呼んでって言ってるじゃない!」


 そう告げて、さらに強く抱きしめてくる。
 もはや頬ずりまでしそうな勢いだ。


「(うわあ、相変わらず露骨だな)」


 と、ジェイクが、リーゼに小声で告げる。
 リーゼは少し苦笑した。


「(仕方ありませんわ。なにせ、コウタさまは、ミランシャさまが想いを寄せるお方の弟君。『将を射んと欲すればまず馬を射よ』というのは戦術の基本ですし)」

「(……うん。私達も同じ事をするつもりだし)」


 と、アイリも加わってくる。


『(……ええ。確かに戦術の基本です。ですが)』


 と、不快そうに呟くのは、ズシンズシン、と近付いてきたメルティアだ。
 彼女の視線は、真っ赤な顔のコウタに向けられている。


『(……不快ですね)』

「(……うん。不快だよ)」

「(ええ。不快ですわ)」


 何やら、ルカ以外は騒然としているアティス組をよそに、少女達は不満を零した。
 ミランシャの意図は理解できるが、それでも好きな人が他の女――しかも紛う事なき美女に抱きしめられる姿は、愉快ではない。
 不穏な空気が三人の周囲に漂う。


「(ま、まあ、落ち着けよ)」


 と、ジェイクが両手を突き出してフォローしようとするが、あまり意味がないようだ。
 空気はますます緊迫する。と、その時だった。


「ミランシャさま。あまりコウタ君に迷惑を掛けるのはいかがなものかと」


 桟橋の方から声が響いた。
 大きなサックを背負った、シャルロットだ。
 ミランシャは、視線を彼女に向けた。


「ええ~、これぐらい良いじゃない」

「気持ちはよく分かりますが、人目もありますから」


 そう言って、彼女は視線をアリシア達に向けた。
 面識のない人が多い中、二人の知り合いの少女を見つけて目を細めた。
 すると、少女の一人――ルカが、ポン、と柏手を打った。


「あっ! シャルロットさん! お久しぶりです!」

「はい、お久しぶりです。ルカさま。そして――」


 シャルロットはもう一人の少女の方にも、微笑んだ。


「ユーリィちゃんも。本当に大きくなりましたね」

「ひ、ひゥ」


 何故か、ルカのような呻き声を零すユーリィ。
 よほど驚いたのか、少し後退りまでしている。


「え? ユーリィちゃん? あの人と知り合いなの?」


 と、銀髪の少女が尋ねているが、ユーリィは頬を引きつらせるだけで答えない。


(本当に大きくなりましたね)


 シャルロットの想い人の養女。
 出会った頃は十歳だった。それが今や、恋も知る立派な少女だ。


(まあ、その相手がクライン君なのは、もはや仕方がないことですか)


 そんなことを思いつつ、シャルロットは桟橋を降りた。
 向かう先は、ユーリィ達の元だ。
 ルカは表情を輝かせてくれるが、ユーリィの顔は強張ったままだった。


「初めまして」


 そうして、シャルロットは、銀髪の少女達の前で深々と頭を下げた。


「レイハート家のメイドを務める、シャルロット=スコラと申します。皆さま方におかれましては以後、お見知りおきを」


 ……………………。
 ………………。
 ……何故か、数瞬の間があった。
 そして――。
 ――ズザザザッ!
 銀髪の少女と、彼女の隣に立っていた蒼い瞳の髪の長い少女は、いきなり後方に跳んでシャルロットから間合いを取った。
 どうしてか、二人の顔は、愕然としてた。


「………?」


 シャルロットは、不思議そうに小首を傾げた。
 その場にいるルカ、カイゼル髭の騎士。二人の少年も困惑している。


「え? え?」


 と、ルカが呟いた時だった。
 二人の少女は、シャルロットを指差して、こう叫ぶのだった。


「「――た、戦うメイドさんだっ!」」

「……? まあ、戦うこともありますが」


 シャルロットは、真面目に答える。
 どうやら彼女達は自分のことを知っているようだ。
 もしかすると、ユーリィから話を聞いていたのかも知れない。
 すると、そのユーリィが、愕然とした面持ちでシャルロットに尋ねてきた。


「ほ、本当にシャルロットさん、なの?」

「ええ。シャルロットです」


 シャルロットは答える。


「本当に久しぶりです。ユーリィちゃん。積もる話はありますが、まずは――」


 何よりも。
 最も聞きたいことを、シャルロットは尋ねた。


「クライン君は、お元気でしょうか?」


 かくして、コウタ達一行はアティス王国に到着した。
 新たな出会い。
 そして再会を果たすために。

 ただ、


「ま、待ってメル!? は、離してよミラ姉さん!?」


 ミランシャの過剰なスキンシップに不機嫌になった、メルティア、アイリ、リーゼに詰め寄られるコウタに、


「クライン君の様子はどうですか? 体調とか崩していませんか? 今もやはり優しいのですか? それと――……」


 ある意味、コウタ以上に念願である再会を前にして、珍しく興奮し、ユーリィに怒濤のような質問責めをするシャルロット。
 到着早々、随分と騒がしい一行であった――。
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