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第7部
第八章 《悪竜顕人》②
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絶叫が、森の中に木霊した。
同時に雷音が轟く。《ディノス》が《雷歩》を使って飛翔した音だ。
一瞬で間合いを詰めた《ディノス》は処刑刀を振り下ろした!
(――早速か!)
名乗る暇さえも与えない拙速な先攻に、レオスは舌打ちする。
咄嗟に突撃槍で受け止めるが、
(重いな)
処刑刀の斬撃は思いの外、重かった。
ちらりと《万天図》で調べた敵機の恒力値は六千ジンを少々超えた程度。三万七千ジンの高出力を誇る《木妖星》の敵ではない。
だが、それでも《木妖星》が持つ突撃槍は軋みを上げた。
一撃が重い。それが連続して繰り出されてくる。
出だしからの猛攻だ。
だが、そんな黒い嵐を目の前にしてレオスは困惑してた。
『――お前がッ!』
一撃を放つ度に、叩きつけられる憎悪。
先程まで穏やかだった少年は一変して、烈火のごとく怒り狂っていた。
その愛機の姿も相まって、本当に伝説の《悪竜》のようだった。
『お前が殺した! 皆をッ! 父さんをッ!』
少年は叫び続ける。
レオスは再び舌打ちした。
『――ぬゥん!』
そして《木妖星》に地面を踏み抜かせた。
振動は大地の表面を伝い、悪竜の騎士を呑み込んだ。
『――クッ!』
普段のコウタなら、楽々と回避できる攻撃。
しかし今は、まともに土砂を受けてしまった。
その隙に《木妖星》は後方に跳躍。ズズンと巨体を揺らして着地した。
『……ふむ』レオスが呟く。『いきなり随分と激しいな』
次いで、荒ぶる獣のように身構える悪竜の騎士を見やる。
『台詞から察するに、俺はお前の仇だったのか?』
『……そうだッ!』
コウタは鬼の形相で吐き捨てた。
『八年前! お前は仲間を引き連れてボクの村を襲った! 忘れるものか! その機体を! 父さんを殺したその鎧機兵をッ!』
『……ふむ』レオスはあごに手をやった。『八年前か』
レオスは悪竜の騎士から目は外さす、自分の記憶に探った。
『俺がまだ第5支部の支部長をしていた頃だな。あの頃は一月に数カ所の村や街を潰していたからな。すまん。もう少しヒントをくれ』
と、願い出るが、それは悪竜の騎士の逆鱗に触れるだけだった。
『黙れッ!』
決して動かないはずのアギトが、今にも牙を剥きそうだった。
『おいおい。少しは落ち着いてくれ。でなければ、俺も思い出せん』
聞く耳を持ってくれない少年に、レオスは渋面を浮かべた。
――と、その時だった。
少年が答えにも等しい重大なヒントをくれたのは。
『お前が父さんを殺したんだ! クライン村の皆を殺したんだッ!』
一拍の間。
『な、に……?』
レオスは、呆然と呟いた。
――クライン村。
それは、レオスが何度か報告書を通じて目にした名前だった。
だが、それは、全く違う人物のことを調べるためのものであって……。
『少し待て。少年。お前、あの村の生き残りなのか?』
『そうだッ! ボクはお前が滅ぼしたクライン村の生き残りだ!』
ギシリ、と処刑刀の柄を握りしめる悪竜の騎士。
レオスは、さらに困惑を深めた。
『では、お前はアッシュ=クラインの同郷なのか?』
――まさか、あの男とあの女以外にまだ生き残りがいたとは……。
困惑を隠せないまま、レオスが問う。と、
『……誰だよ。その人は』
少年の返答は、思いがけないものだった。
『そんな人は知らない。クライン村の生き残りは、ボクとトウヤ兄さん。そして兄さんの婚約者だったサクヤ姉さんの三人だけだ』
『……なに?』
レオスは目を剥いた。
『あの女の婚約者だと? お前の兄が? 待て。では、まさかお前は――』
唖然として呟く。
ここまで情報を手に入れば、推測するのは簡単だった。
要するに、この少年の正体とは――。
『ふ、ふふ……ふははははははははははっははははッ!』
そして、レオスは声を張り上げて笑った。
『やってくれる! あの女め! これを想定していた訳か!』
『――何がおかしいんだよ!』
一方、悪竜の騎士の憤怒は収まらない。
処刑刀を大きく薙ぎ、今にも飛びかかりそうだった。
『いやなに。仕込んでいたのか。それとも俺の大嫌いな運命任せだったのか。どちらにしても、お前の義姉は強かな食わせ者だということだ』
『何を言っているんだよ! お前は!』
冷静に聞けば、レオスの台詞には貴重な義姉の情報が含まれていた。
しかし、それを聞き落としてしまうほど、今のコウタは憎悪に捕われていた。
『もうお前と話をすることなんてない』
コウタは、ギリと歯を軋ませた。
『ここで今、殺してやる』
『……ふん。それは無理な話だな』
だが、コウタの殺気を受けても、レオスは平然としていた。
『確かにその歳にしては大したものだ。だが、所詮はまだ小僧だな。五年後ならば分からんが、今の段階では俺には届かんぞ』
レオスは、ふっと笑った。
『それにしても、まさかあの男の弟とはな。いいだろう。いずれ来るお前の兄との戦いの前座程度には楽しめるかもな』
『――だからお前は一体何を言っているんだよ!』
コウタは、操縦棍を握りしめて、《ディノス》を飛翔させた。
狙うは《木妖星》の首。刃を振り下ろすが、それは異形の突撃槍で防がれる。
『――届かんよ』
レオスは、再び宣告する。
『お前の斬撃は中々のものだ。だが、まだまだ力に頼っている雑な太刀筋だ。怒りに我を忘れているせいだとしても、そんな荒々しさだけではな』
言って、突撃槍を横薙ぎに振るう。
咄嗟に処刑刀で防ぐが、《ディノス》は大きく吹き飛ばされた。
『それでは、とても《妖星》は墜とせんよ』
ズシン、と。
巨体を誇る《木妖星》が一歩踏み出した。
『お前の憎悪など、俺の前では木の葉も揺らせぬ程度のそよ風のようなものだ。いや、その表現も違うか』
レオスは、ニヤリと笑って告げる。
『俺にとって、憎悪とはむしろ天に伸びるための恵みの雨だな。それらを浴び続け、俺は強くなったのだ。ゆえに、お前の憎悪もまた、ここで吞み干してやろう』
同時に雷音が轟く。《ディノス》が《雷歩》を使って飛翔した音だ。
一瞬で間合いを詰めた《ディノス》は処刑刀を振り下ろした!
(――早速か!)
名乗る暇さえも与えない拙速な先攻に、レオスは舌打ちする。
咄嗟に突撃槍で受け止めるが、
(重いな)
処刑刀の斬撃は思いの外、重かった。
ちらりと《万天図》で調べた敵機の恒力値は六千ジンを少々超えた程度。三万七千ジンの高出力を誇る《木妖星》の敵ではない。
だが、それでも《木妖星》が持つ突撃槍は軋みを上げた。
一撃が重い。それが連続して繰り出されてくる。
出だしからの猛攻だ。
だが、そんな黒い嵐を目の前にしてレオスは困惑してた。
『――お前がッ!』
一撃を放つ度に、叩きつけられる憎悪。
先程まで穏やかだった少年は一変して、烈火のごとく怒り狂っていた。
その愛機の姿も相まって、本当に伝説の《悪竜》のようだった。
『お前が殺した! 皆をッ! 父さんをッ!』
少年は叫び続ける。
レオスは再び舌打ちした。
『――ぬゥん!』
そして《木妖星》に地面を踏み抜かせた。
振動は大地の表面を伝い、悪竜の騎士を呑み込んだ。
『――クッ!』
普段のコウタなら、楽々と回避できる攻撃。
しかし今は、まともに土砂を受けてしまった。
その隙に《木妖星》は後方に跳躍。ズズンと巨体を揺らして着地した。
『……ふむ』レオスが呟く。『いきなり随分と激しいな』
次いで、荒ぶる獣のように身構える悪竜の騎士を見やる。
『台詞から察するに、俺はお前の仇だったのか?』
『……そうだッ!』
コウタは鬼の形相で吐き捨てた。
『八年前! お前は仲間を引き連れてボクの村を襲った! 忘れるものか! その機体を! 父さんを殺したその鎧機兵をッ!』
『……ふむ』レオスはあごに手をやった。『八年前か』
レオスは悪竜の騎士から目は外さす、自分の記憶に探った。
『俺がまだ第5支部の支部長をしていた頃だな。あの頃は一月に数カ所の村や街を潰していたからな。すまん。もう少しヒントをくれ』
と、願い出るが、それは悪竜の騎士の逆鱗に触れるだけだった。
『黙れッ!』
決して動かないはずのアギトが、今にも牙を剥きそうだった。
『おいおい。少しは落ち着いてくれ。でなければ、俺も思い出せん』
聞く耳を持ってくれない少年に、レオスは渋面を浮かべた。
――と、その時だった。
少年が答えにも等しい重大なヒントをくれたのは。
『お前が父さんを殺したんだ! クライン村の皆を殺したんだッ!』
一拍の間。
『な、に……?』
レオスは、呆然と呟いた。
――クライン村。
それは、レオスが何度か報告書を通じて目にした名前だった。
だが、それは、全く違う人物のことを調べるためのものであって……。
『少し待て。少年。お前、あの村の生き残りなのか?』
『そうだッ! ボクはお前が滅ぼしたクライン村の生き残りだ!』
ギシリ、と処刑刀の柄を握りしめる悪竜の騎士。
レオスは、さらに困惑を深めた。
『では、お前はアッシュ=クラインの同郷なのか?』
――まさか、あの男とあの女以外にまだ生き残りがいたとは……。
困惑を隠せないまま、レオスが問う。と、
『……誰だよ。その人は』
少年の返答は、思いがけないものだった。
『そんな人は知らない。クライン村の生き残りは、ボクとトウヤ兄さん。そして兄さんの婚約者だったサクヤ姉さんの三人だけだ』
『……なに?』
レオスは目を剥いた。
『あの女の婚約者だと? お前の兄が? 待て。では、まさかお前は――』
唖然として呟く。
ここまで情報を手に入れば、推測するのは簡単だった。
要するに、この少年の正体とは――。
『ふ、ふふ……ふははははははははははっははははッ!』
そして、レオスは声を張り上げて笑った。
『やってくれる! あの女め! これを想定していた訳か!』
『――何がおかしいんだよ!』
一方、悪竜の騎士の憤怒は収まらない。
処刑刀を大きく薙ぎ、今にも飛びかかりそうだった。
『いやなに。仕込んでいたのか。それとも俺の大嫌いな運命任せだったのか。どちらにしても、お前の義姉は強かな食わせ者だということだ』
『何を言っているんだよ! お前は!』
冷静に聞けば、レオスの台詞には貴重な義姉の情報が含まれていた。
しかし、それを聞き落としてしまうほど、今のコウタは憎悪に捕われていた。
『もうお前と話をすることなんてない』
コウタは、ギリと歯を軋ませた。
『ここで今、殺してやる』
『……ふん。それは無理な話だな』
だが、コウタの殺気を受けても、レオスは平然としていた。
『確かにその歳にしては大したものだ。だが、所詮はまだ小僧だな。五年後ならば分からんが、今の段階では俺には届かんぞ』
レオスは、ふっと笑った。
『それにしても、まさかあの男の弟とはな。いいだろう。いずれ来るお前の兄との戦いの前座程度には楽しめるかもな』
『――だからお前は一体何を言っているんだよ!』
コウタは、操縦棍を握りしめて、《ディノス》を飛翔させた。
狙うは《木妖星》の首。刃を振り下ろすが、それは異形の突撃槍で防がれる。
『――届かんよ』
レオスは、再び宣告する。
『お前の斬撃は中々のものだ。だが、まだまだ力に頼っている雑な太刀筋だ。怒りに我を忘れているせいだとしても、そんな荒々しさだけではな』
言って、突撃槍を横薙ぎに振るう。
咄嗟に処刑刀で防ぐが、《ディノス》は大きく吹き飛ばされた。
『それでは、とても《妖星》は墜とせんよ』
ズシン、と。
巨体を誇る《木妖星》が一歩踏み出した。
『お前の憎悪など、俺の前では木の葉も揺らせぬ程度のそよ風のようなものだ。いや、その表現も違うか』
レオスは、ニヤリと笑って告げる。
『俺にとって、憎悪とはむしろ天に伸びるための恵みの雨だな。それらを浴び続け、俺は強くなったのだ。ゆえに、お前の憎悪もまた、ここで吞み干してやろう』
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