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第7部
第二章 これもまた愛の形②
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皇都ディノスの象徴であるラスティアン宮殿。
無数の槍のような景観が印象的なその城は、十六階に及ぶ巨大な建造物だ。
皇都の中央にある湖の中に位置し、一階までは一般人にも公開されている。二階以降には多くの騎士や重臣達が常駐し、最上階には皇族が居を置いている。
その城内もまた荘厳の一言だ。
まるで鏡のように磨き上げられた床に、渡り廊下に並ぶドアはどれも重厚な造りになっている。大きな窓に映る霊峰を背にした壮大な風景も一見の価値ありだ。
そんな城内を、コウタ達一行は歩いていた。
先頭にはミランシャとアルフレッド。
その後にリーゼ、ジェイクにアイリ。少し下がってシャルロットと三機のゴーレム。そして最後に続くのがコウタと着装型鎧機兵を着込んだメルティアだ。
ズシンズシン、と進んでいくあまりの威圧感にたまたますれ違った騎士達がギョッとするが、ミランシャ、アルフレッドが同行しているため、大事にはならなかった。
「メルちゃん。もうそれ脱げば良いのに」
『そ、それは無理です』
ミランシャとアルフレッドには意図せず『本体』を見られてしまったが、それでメルティアの対人恐怖症が治る訳でもない。
ましてやこれから知らない人物に会う以上、着装型鎧機兵の着装は必須だった。
「すみません。ミランシャさん」
と、コウタが頭を下げて謝罪する。
「メルは本当に人が苦手なんです。もう少し時間をください」
そう告げる彼はずっとメルティアの手を握っていた。
実際には着装型鎧機兵のゴツい手を握っているのだが、こうするとメルティアの気持ちが落ち着くらしい。
「ふふ、気にしないで。まあ、メルちゃんの本当の姿には驚いたけど」
「うん。本当に。というか凄いね。そのサイズの鎧機兵って」
と、アルフレッドも呟く。
自律型鎧機兵にも驚いたが、屋内での白兵戦が可能な鎧機兵もまた驚異の技術だ。
(これはお爺さまに報告はしない方がいいかな)
もし報告すれば、コウタがお見合いの猛威に巻き込まれるだけでなく、メルティアにまで累が及びそうだ。
(これは僕と姉さんの胸に秘めておこう)
アルフレッドは友人のためにそう心に決める。
「けどよアルフ」
その時、ジェイクが語り出した。
「これから騎士団長さんに会いに行くんだろ? 何の用なんだ?」
「あ、うん」アルフレッドは苦笑した。「以前君達が来ることを事案書として提出してね。そしたら団長が興味を持ったんだ」
「折角だし、この機会に会わせてあげようと思って。アタシ達 《七星》はアポなしでも団長に会えるしね。この時間帯ならきっと団長室にいるだろうし」
と、ミランシャが弟の言葉を継いだ。
「誉れ高きグレイシア皇国騎士団の団長ですか……」
リーゼが緊張気味に呟く。
「確か今代の《七星》の長でもあらせられる方でしたわね。《天元星主》の二つ名を持つ女性騎士。聖母のごとくお美しい方だとお聞きしています」
「うん、確かに団長は綺麗な人よ」
ミランシャが答える。
「同時に温和な人だし、緊張する必要もないわ。だけど、この時間帯だと副団長もいるかもね。そっちは無愛想だけど悪い人じゃないから気にしないで」
リーゼが目を丸くする。
「まあ! 副団長殿までいらっしゃるですか? 確かその方も――」
「うん。《七星》の一人よ。二つ名は《鬼喰夜叉》。若い頃、戦場ではっちゃけすぎて鬼をも喰らう夜叉っていう物騒な二つ名を付けられたんだって。結構腹黒い人なんだけど、そこそこの常識人でもあるから、まだ安全よ」
「いや、まだ安全って……その二つ名、流石に物騒すぎじゃあねえっすか?」
剛胆なジェイクでさえ思わず苦笑いをした。
一体、どれほど暴れればそんな二つ名が付くのやら……。
と、考えていたら、
『何を言いますか。物騒な二つ名なら、コウタだって負けていません』
何故か、メルティアが張り合ってきた。
全員がメルティアに注目する。コウタのみ「え?」と目を瞬かせていた。
「ああ、なるほど。『悪竜王子』ですね」
と、呟いたのはシャルロットだった。
「お嬢さまからお聞きしました。ヒラサカさまは校内でそう呼ばれていると」
「……あ、なるほどな」ジェイクがあごに手をやって笑う。「あれも二つ名の一種になんのか。まあ、物騒といえば物騒な名前だな」
と、納得するのだが、メルティアは『違います』とかぶりを振った。
『それはただのあだ名です。コウタの二つ名は別にあります。《九妖星》の一角、《金妖星》ラゴウ=ホオヅキから贈られた二つ名。その名も――』
「――ま、待った! メル! いきなり何言ってるの!?」
そこで、コウタが慌てて彼女の言葉を遮った。
だが、もうすでに遅い。全員の視線が今度はコウタに集まっていた。
そして反応は様々だった。
「へ? コウタ、あの牛野郎から二つ名なんて貰ってたのかよ?」と、ジェイクが目を丸くし、「それは初耳ですわ」リーゼは眉をひそめた。「《金妖星》と言えばかなり前の話ですわね。どうして今まで教えてくださらないのです」と少し憤慨する。
アイリとシャルロットは、そもそも《九妖星》に対し、良い記憶も感情を持たないため表情を硬くしていた。
そして「まあ、いいですわ。それでコウタさまの二つ名とは――」とリーゼが詰め寄ろうとした時だった。
「――ちょ、ちょっと待ったッ!」
アルフレッドが愕然とした表情を見せた。
「コウタ! 君って《九妖星》に遭ったことがあるのか!」
一拍おいて、ミランシャも目を瞬かせて、
「うん、流石に驚いたわ。遭遇していることもそうだけど、どんな経緯で《妖星》から二つ名なんて貰うことになったの?」
「え、えっと、それは……」
コウタは気まずげな表情を見せつつも、アイリと出会った時の事件を簡潔に語った。
ついでに詳細はあえて省いて《水妖星》とも戦った経験があることも。
「……うわあ」
アルフレッドが引きつったような顔で呻く。
「言っちゃ悪いけど、それって凄く運が悪いよ。そんな短期間で二人も遭うなんて。《九妖星》って一応大幹部だから遭遇するのはかなりレアなんだよ」
「そうよねぇ。《金妖星》にも《水妖星》にもアタシ達は遭ったことはないわ。《地妖星》は変にフットワークが軽いからそこそこ遭うけど」
「……………」
《地妖星》の名を聞いてシャルロットが暗い表情を見せた。
そんな彼女をゴーレム達が腕を伸ばして、ポンポンと肩を叩いて励ましていた。
「まあ、《九妖星》とは妙に縁があるんです。けど、リノはともかく、ラゴウ=ホオヅキとは二度と遭いたくはありません……」
と、コウタがそう呟いた途端、
『……コウタ』
響くメルティアの冷たい声。そして、着装型鎧機兵が圧縮せんばかりにコウタの頭をぐわしと両手で掴んだ。コウタが青ざめると、リーゼとアイリが傍に近付いてきて、それぞれ右と左の手の甲を強くつねってくる。
『……どうして片方が「ともかく」になるのです?』
「ええ、そうですわね」
「……コウタは失言がたまにあるよ。気をつけて」
と、少女達が告げる。コウタはとにかく「ご、ごめんなさい」と謝罪した。
ジェイクは苦笑を零し、シャルロットは呆れるように嘆息していた。
「う~ん、どうやら何か事情がありそうね。まあ、ともあれ」
そこでミランシャが近くのドアを指差した。
「団長室に着いたわ。その話は後でしましょう」
そう言って、一人先行で小走りする。
そして、ミランシャはドアをノックしようとした。
と、その時だった。
不意に、ドアの向こうから言い争うような声が聞こえてきたのである。
不審に思ったミランシャは全神経を、常人を大きく上回る聴力に集中した。
すると、聞こえてきたのは――……。
無数の槍のような景観が印象的なその城は、十六階に及ぶ巨大な建造物だ。
皇都の中央にある湖の中に位置し、一階までは一般人にも公開されている。二階以降には多くの騎士や重臣達が常駐し、最上階には皇族が居を置いている。
その城内もまた荘厳の一言だ。
まるで鏡のように磨き上げられた床に、渡り廊下に並ぶドアはどれも重厚な造りになっている。大きな窓に映る霊峰を背にした壮大な風景も一見の価値ありだ。
そんな城内を、コウタ達一行は歩いていた。
先頭にはミランシャとアルフレッド。
その後にリーゼ、ジェイクにアイリ。少し下がってシャルロットと三機のゴーレム。そして最後に続くのがコウタと着装型鎧機兵を着込んだメルティアだ。
ズシンズシン、と進んでいくあまりの威圧感にたまたますれ違った騎士達がギョッとするが、ミランシャ、アルフレッドが同行しているため、大事にはならなかった。
「メルちゃん。もうそれ脱げば良いのに」
『そ、それは無理です』
ミランシャとアルフレッドには意図せず『本体』を見られてしまったが、それでメルティアの対人恐怖症が治る訳でもない。
ましてやこれから知らない人物に会う以上、着装型鎧機兵の着装は必須だった。
「すみません。ミランシャさん」
と、コウタが頭を下げて謝罪する。
「メルは本当に人が苦手なんです。もう少し時間をください」
そう告げる彼はずっとメルティアの手を握っていた。
実際には着装型鎧機兵のゴツい手を握っているのだが、こうするとメルティアの気持ちが落ち着くらしい。
「ふふ、気にしないで。まあ、メルちゃんの本当の姿には驚いたけど」
「うん。本当に。というか凄いね。そのサイズの鎧機兵って」
と、アルフレッドも呟く。
自律型鎧機兵にも驚いたが、屋内での白兵戦が可能な鎧機兵もまた驚異の技術だ。
(これはお爺さまに報告はしない方がいいかな)
もし報告すれば、コウタがお見合いの猛威に巻き込まれるだけでなく、メルティアにまで累が及びそうだ。
(これは僕と姉さんの胸に秘めておこう)
アルフレッドは友人のためにそう心に決める。
「けどよアルフ」
その時、ジェイクが語り出した。
「これから騎士団長さんに会いに行くんだろ? 何の用なんだ?」
「あ、うん」アルフレッドは苦笑した。「以前君達が来ることを事案書として提出してね。そしたら団長が興味を持ったんだ」
「折角だし、この機会に会わせてあげようと思って。アタシ達 《七星》はアポなしでも団長に会えるしね。この時間帯ならきっと団長室にいるだろうし」
と、ミランシャが弟の言葉を継いだ。
「誉れ高きグレイシア皇国騎士団の団長ですか……」
リーゼが緊張気味に呟く。
「確か今代の《七星》の長でもあらせられる方でしたわね。《天元星主》の二つ名を持つ女性騎士。聖母のごとくお美しい方だとお聞きしています」
「うん、確かに団長は綺麗な人よ」
ミランシャが答える。
「同時に温和な人だし、緊張する必要もないわ。だけど、この時間帯だと副団長もいるかもね。そっちは無愛想だけど悪い人じゃないから気にしないで」
リーゼが目を丸くする。
「まあ! 副団長殿までいらっしゃるですか? 確かその方も――」
「うん。《七星》の一人よ。二つ名は《鬼喰夜叉》。若い頃、戦場ではっちゃけすぎて鬼をも喰らう夜叉っていう物騒な二つ名を付けられたんだって。結構腹黒い人なんだけど、そこそこの常識人でもあるから、まだ安全よ」
「いや、まだ安全って……その二つ名、流石に物騒すぎじゃあねえっすか?」
剛胆なジェイクでさえ思わず苦笑いをした。
一体、どれほど暴れればそんな二つ名が付くのやら……。
と、考えていたら、
『何を言いますか。物騒な二つ名なら、コウタだって負けていません』
何故か、メルティアが張り合ってきた。
全員がメルティアに注目する。コウタのみ「え?」と目を瞬かせていた。
「ああ、なるほど。『悪竜王子』ですね」
と、呟いたのはシャルロットだった。
「お嬢さまからお聞きしました。ヒラサカさまは校内でそう呼ばれていると」
「……あ、なるほどな」ジェイクがあごに手をやって笑う。「あれも二つ名の一種になんのか。まあ、物騒といえば物騒な名前だな」
と、納得するのだが、メルティアは『違います』とかぶりを振った。
『それはただのあだ名です。コウタの二つ名は別にあります。《九妖星》の一角、《金妖星》ラゴウ=ホオヅキから贈られた二つ名。その名も――』
「――ま、待った! メル! いきなり何言ってるの!?」
そこで、コウタが慌てて彼女の言葉を遮った。
だが、もうすでに遅い。全員の視線が今度はコウタに集まっていた。
そして反応は様々だった。
「へ? コウタ、あの牛野郎から二つ名なんて貰ってたのかよ?」と、ジェイクが目を丸くし、「それは初耳ですわ」リーゼは眉をひそめた。「《金妖星》と言えばかなり前の話ですわね。どうして今まで教えてくださらないのです」と少し憤慨する。
アイリとシャルロットは、そもそも《九妖星》に対し、良い記憶も感情を持たないため表情を硬くしていた。
そして「まあ、いいですわ。それでコウタさまの二つ名とは――」とリーゼが詰め寄ろうとした時だった。
「――ちょ、ちょっと待ったッ!」
アルフレッドが愕然とした表情を見せた。
「コウタ! 君って《九妖星》に遭ったことがあるのか!」
一拍おいて、ミランシャも目を瞬かせて、
「うん、流石に驚いたわ。遭遇していることもそうだけど、どんな経緯で《妖星》から二つ名なんて貰うことになったの?」
「え、えっと、それは……」
コウタは気まずげな表情を見せつつも、アイリと出会った時の事件を簡潔に語った。
ついでに詳細はあえて省いて《水妖星》とも戦った経験があることも。
「……うわあ」
アルフレッドが引きつったような顔で呻く。
「言っちゃ悪いけど、それって凄く運が悪いよ。そんな短期間で二人も遭うなんて。《九妖星》って一応大幹部だから遭遇するのはかなりレアなんだよ」
「そうよねぇ。《金妖星》にも《水妖星》にもアタシ達は遭ったことはないわ。《地妖星》は変にフットワークが軽いからそこそこ遭うけど」
「……………」
《地妖星》の名を聞いてシャルロットが暗い表情を見せた。
そんな彼女をゴーレム達が腕を伸ばして、ポンポンと肩を叩いて励ましていた。
「まあ、《九妖星》とは妙に縁があるんです。けど、リノはともかく、ラゴウ=ホオヅキとは二度と遭いたくはありません……」
と、コウタがそう呟いた途端、
『……コウタ』
響くメルティアの冷たい声。そして、着装型鎧機兵が圧縮せんばかりにコウタの頭をぐわしと両手で掴んだ。コウタが青ざめると、リーゼとアイリが傍に近付いてきて、それぞれ右と左の手の甲を強くつねってくる。
『……どうして片方が「ともかく」になるのです?』
「ええ、そうですわね」
「……コウタは失言がたまにあるよ。気をつけて」
と、少女達が告げる。コウタはとにかく「ご、ごめんなさい」と謝罪した。
ジェイクは苦笑を零し、シャルロットは呆れるように嘆息していた。
「う~ん、どうやら何か事情がありそうね。まあ、ともあれ」
そこでミランシャが近くのドアを指差した。
「団長室に着いたわ。その話は後でしましょう」
そう言って、一人先行で小走りする。
そして、ミランシャはドアをノックしようとした。
と、その時だった。
不意に、ドアの向こうから言い争うような声が聞こえてきたのである。
不審に思ったミランシャは全神経を、常人を大きく上回る聴力に集中した。
すると、聞こえてきたのは――……。
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