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第6部
第七章 星が映る湖面にて①
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(な、なんで……)
ごくりと鳴る喉。絶え間なく頬を伝う汗。
汗が止まらないのは、湯に浸かっているせいだけではない。
(ど、どうしてこんなことになったのでしょうか……)
――その時、メルティアはガチガチに緊張していた。
そこは宿の大浴場。
一旦は逃走までしようとした場所だが、結局、彼女は再び温泉に戻っていた。
ただ、先程までとは違うところもある。
メルティアの前には、いま一人の女性がいるのである。
「う~ん……」
両腕を伸ばして女性が声を掛けてくる。
「いいお湯だね。メルちゃん」
「は、はい。サラさん」
メルティアはコクコクと頷いた。
『これから少しご一緒してもいいかしら?』
そう提案され、自分でも驚くべきことにメルティアは了承してしまった。
本当に信じられないことだった。
まさか偏屈極まる自分が見知らぬ他人と一緒にお風呂に入るなど……。
けれど、心のどこかで納得もしていた。
受け入れたのは、眼前の女性からは悪意の視線も感じ取れないからだ。
彼女は敵ではない。直感がそう告げていた。
だからこそ受け入れ、互いの自己紹介までしてしまったのだと考える。
(ですが、それでも私が警戒を緩めるなど……)
メルティアは困惑する。と、
「メルちゃんってとても綺麗な肌をしてるね」
サラがにこやかに笑って褒めてくれる。
メルティアの頬が赤くなった。
「わ、私はあまり外に出ませんから。日に焼けていないだけです……」
と、言い訳のように呟く。
メルティアも自分の肌は結構綺麗な方だと自負してはいるが、とてもサラほどではないと思えた。そんな彼女に褒められては居心地が悪かった。
「それだけじゃないよ。凄くきめ細かいし」
言って、サラはすうっと泳ぐようにメルティアに近付いてきた。
メルティアは流石に緊張するが、逃げるような真似はしない。
「メルちゃんは本当に可愛いね」
メルティアの目の前にまで来てサラは微笑む。
「金色の瞳も魅力的だし、おっぱいも大きいし、顔立ちもとても綺麗だわ。学校とかだと凄くモテるでしょう?」
「い、いえ。そんなことはありません」
「本当? こんなに可愛いのに」
何かを探るように瞳を細めるサラ。
どこか圧迫するようなその雰囲気に、メルティアは冷や汗をかいてきた。
「わ、私は学校では全身を隠すような格好をしています。その、面と向かった人付き合いが少し苦手なので……」
「そうなんだ。ねえメルちゃん」
そこでサラはメルティアのネコ耳に手を向けた。
メルティアが緊張しているためか、ずっとピコピコ動いている。
「ピコピコして可愛いお耳だね。少しだけ撫でてもいい?」
「そ、それは!」メルティアは目を見開くと、ネコ耳を両手で押さえた。「ダ、ダメです! それだけは絶対に!」
「あ、そうなの。ごめん。結構デリケートな申し出だった?」
サラが手を引っ込めて申し訳なさそうに言う。
「い、いえ。その、すみません……」
メルティアもサラにつられるようにしゅんとした。
「母が言ってました。獣人族にとって、ケモノ耳を他者に撫でさせる行為は服従を認めたことになるのです。簡潔に言えば『私はあなたの所有物です』と認める的な意味があります。それはとても厳格な風習で、たとえ同性であっても許可なく撫でれば絶縁や決闘に至ることもあるそうです。だから家族であっても触れさせることはまずないのです」
「……そうだったんだ」サラが目を丸くする。「それは知らなかったわ」
「獣人族特有の話ですので。ですが、これは他の種族相手でも同じなんです。私の母も父以外の人には生涯撫でさせなかったそうですから」
と、メルティアが言う。ちなみに、コウタはメルティアの頭を撫でる際、当たり前のようにネコ耳も撫でていたりする。
思い起こせば、初めてネコ耳を撫でられたのは十一歳の時だった。
当時のメルティアはいきなりのことに随分と顔色を蒼くしたものだったが、結局、コウタなら、と受け入れたのだ。アイリほどではないが、メルティアもまた、幼い頃からすでに将来を決めていたのである。
まあ、コウタの方はそこまで重大な行為だとは未だ知らないままでいるが。
「そして母同様に私の耳を撫でてもいい人も、もう決まっているんです」
と、メルティアはわずかに頬を染めて宣言した。
「へえ~」
すると、サラは黒い瞳を細めた。
ほんの少しだけだがまるで探るような光が瞳に灯る。
「それってメルちゃんには、そういう人がもういるってことだね」
そして、彼女にとってこの邂逅の本題を告げる。
「メルちゃんは、その男の子のことが好き?」
「はい」
メルティアはこくんと頷いた。
こればかりは口籠もったりしない。躊躇なく答える。
「私は彼の――コウタのことが好きです。愛しています。ずっと、ずっと彼と共に生きていきます。今までも。これからもです」
「………そう」
サラは目を細めて沈黙した。
次いで「……はぁ、あの子はこんな台詞を女の子に真顔で言わせるのね」と、とても小さな声で呟くのだが、耳の良いメルティアであっても聞き取れなかった。
そうして――。
「うん。分かったわ」
数瞬後、サラは破顔する。
「それが聞けるのなら充分だよ。うん! メルちゃんは合格!」
「え? 合格?」
唐突な台詞にメルティアは首を傾げた。
「気にしないで。こっちの話だから。それよりも!」
言ってサラはがばっと身を乗り出した。
そして有無を言わさずメルティアを強く抱きしめる。柔らかすぎる谷間に顔を埋めながらメルティアは「ふぐ!?」と目を瞬いた。
「メルちゃん可愛い! それにとても良い子だね! もしメルちゃんが妹になってくれるのなら、お姉ちゃんは嬉しいよ!」
サラはメルティアのネコ耳には触れないように少女の頭を撫で始めた。
「ふぐっ!? ふっぐ!?」
メルティアは呻くがサラは構わず抱擁を続ける。
メルティアは目を丸くしていたが、暖かい胸はまるで母に抱きしめられているようで次第に大人しくなっていた。
そして十数秒後、
「あ、あの、すみません」
メルティアはサラから離れると、顔を赤くして告げる。
「す、少しのぼせたようなので私は失礼します」
「あ、うん。分かったよ」
サラは少し名残惜しそうだったが、そう答えた。
メルティアは湯から上がると「し、失礼します!」と告げて去って行った。
サラは彼女の後ろ姿をじいっと見守る。ネコ耳の少女は少し早足ではあったが、最初の言いつけ通り走るような真似はしなかった。
「ふふ、やっぱり良い子だね。メルちゃんは」
サラ――サクヤは笑った。
そうして大浴場に一人になったサクヤは「う~ん」と大きく伸びをすると、「まずは一人か」と呟いて指を折り始めた。
「あと面談するのは、リノちゃんとリーゼちゃん。まだ幼いけど、アイリちゃんって子もかな。今後の展開次第だとジェシカとの面談もありそうだし……」
簡単に右手の指が全部折れてしまった。
義姉の務めは終わらない。
まだまだ増える可能性もある。先は随分と長そうだった。
「だけど、お義姉ちゃんの務めも今回はここで一旦終了ね」
サクヤは空を仰いで目を細めた。
「続きはまたの機会に。ここからは私個人の我が儘を優先させてもらうわ」
そう呟いて、彼女は再び大きな伸びをするのであった。
ごくりと鳴る喉。絶え間なく頬を伝う汗。
汗が止まらないのは、湯に浸かっているせいだけではない。
(ど、どうしてこんなことになったのでしょうか……)
――その時、メルティアはガチガチに緊張していた。
そこは宿の大浴場。
一旦は逃走までしようとした場所だが、結局、彼女は再び温泉に戻っていた。
ただ、先程までとは違うところもある。
メルティアの前には、いま一人の女性がいるのである。
「う~ん……」
両腕を伸ばして女性が声を掛けてくる。
「いいお湯だね。メルちゃん」
「は、はい。サラさん」
メルティアはコクコクと頷いた。
『これから少しご一緒してもいいかしら?』
そう提案され、自分でも驚くべきことにメルティアは了承してしまった。
本当に信じられないことだった。
まさか偏屈極まる自分が見知らぬ他人と一緒にお風呂に入るなど……。
けれど、心のどこかで納得もしていた。
受け入れたのは、眼前の女性からは悪意の視線も感じ取れないからだ。
彼女は敵ではない。直感がそう告げていた。
だからこそ受け入れ、互いの自己紹介までしてしまったのだと考える。
(ですが、それでも私が警戒を緩めるなど……)
メルティアは困惑する。と、
「メルちゃんってとても綺麗な肌をしてるね」
サラがにこやかに笑って褒めてくれる。
メルティアの頬が赤くなった。
「わ、私はあまり外に出ませんから。日に焼けていないだけです……」
と、言い訳のように呟く。
メルティアも自分の肌は結構綺麗な方だと自負してはいるが、とてもサラほどではないと思えた。そんな彼女に褒められては居心地が悪かった。
「それだけじゃないよ。凄くきめ細かいし」
言って、サラはすうっと泳ぐようにメルティアに近付いてきた。
メルティアは流石に緊張するが、逃げるような真似はしない。
「メルちゃんは本当に可愛いね」
メルティアの目の前にまで来てサラは微笑む。
「金色の瞳も魅力的だし、おっぱいも大きいし、顔立ちもとても綺麗だわ。学校とかだと凄くモテるでしょう?」
「い、いえ。そんなことはありません」
「本当? こんなに可愛いのに」
何かを探るように瞳を細めるサラ。
どこか圧迫するようなその雰囲気に、メルティアは冷や汗をかいてきた。
「わ、私は学校では全身を隠すような格好をしています。その、面と向かった人付き合いが少し苦手なので……」
「そうなんだ。ねえメルちゃん」
そこでサラはメルティアのネコ耳に手を向けた。
メルティアが緊張しているためか、ずっとピコピコ動いている。
「ピコピコして可愛いお耳だね。少しだけ撫でてもいい?」
「そ、それは!」メルティアは目を見開くと、ネコ耳を両手で押さえた。「ダ、ダメです! それだけは絶対に!」
「あ、そうなの。ごめん。結構デリケートな申し出だった?」
サラが手を引っ込めて申し訳なさそうに言う。
「い、いえ。その、すみません……」
メルティアもサラにつられるようにしゅんとした。
「母が言ってました。獣人族にとって、ケモノ耳を他者に撫でさせる行為は服従を認めたことになるのです。簡潔に言えば『私はあなたの所有物です』と認める的な意味があります。それはとても厳格な風習で、たとえ同性であっても許可なく撫でれば絶縁や決闘に至ることもあるそうです。だから家族であっても触れさせることはまずないのです」
「……そうだったんだ」サラが目を丸くする。「それは知らなかったわ」
「獣人族特有の話ですので。ですが、これは他の種族相手でも同じなんです。私の母も父以外の人には生涯撫でさせなかったそうですから」
と、メルティアが言う。ちなみに、コウタはメルティアの頭を撫でる際、当たり前のようにネコ耳も撫でていたりする。
思い起こせば、初めてネコ耳を撫でられたのは十一歳の時だった。
当時のメルティアはいきなりのことに随分と顔色を蒼くしたものだったが、結局、コウタなら、と受け入れたのだ。アイリほどではないが、メルティアもまた、幼い頃からすでに将来を決めていたのである。
まあ、コウタの方はそこまで重大な行為だとは未だ知らないままでいるが。
「そして母同様に私の耳を撫でてもいい人も、もう決まっているんです」
と、メルティアはわずかに頬を染めて宣言した。
「へえ~」
すると、サラは黒い瞳を細めた。
ほんの少しだけだがまるで探るような光が瞳に灯る。
「それってメルちゃんには、そういう人がもういるってことだね」
そして、彼女にとってこの邂逅の本題を告げる。
「メルちゃんは、その男の子のことが好き?」
「はい」
メルティアはこくんと頷いた。
こればかりは口籠もったりしない。躊躇なく答える。
「私は彼の――コウタのことが好きです。愛しています。ずっと、ずっと彼と共に生きていきます。今までも。これからもです」
「………そう」
サラは目を細めて沈黙した。
次いで「……はぁ、あの子はこんな台詞を女の子に真顔で言わせるのね」と、とても小さな声で呟くのだが、耳の良いメルティアであっても聞き取れなかった。
そうして――。
「うん。分かったわ」
数瞬後、サラは破顔する。
「それが聞けるのなら充分だよ。うん! メルちゃんは合格!」
「え? 合格?」
唐突な台詞にメルティアは首を傾げた。
「気にしないで。こっちの話だから。それよりも!」
言ってサラはがばっと身を乗り出した。
そして有無を言わさずメルティアを強く抱きしめる。柔らかすぎる谷間に顔を埋めながらメルティアは「ふぐ!?」と目を瞬いた。
「メルちゃん可愛い! それにとても良い子だね! もしメルちゃんが妹になってくれるのなら、お姉ちゃんは嬉しいよ!」
サラはメルティアのネコ耳には触れないように少女の頭を撫で始めた。
「ふぐっ!? ふっぐ!?」
メルティアは呻くがサラは構わず抱擁を続ける。
メルティアは目を丸くしていたが、暖かい胸はまるで母に抱きしめられているようで次第に大人しくなっていた。
そして十数秒後、
「あ、あの、すみません」
メルティアはサラから離れると、顔を赤くして告げる。
「す、少しのぼせたようなので私は失礼します」
「あ、うん。分かったよ」
サラは少し名残惜しそうだったが、そう答えた。
メルティアは湯から上がると「し、失礼します!」と告げて去って行った。
サラは彼女の後ろ姿をじいっと見守る。ネコ耳の少女は少し早足ではあったが、最初の言いつけ通り走るような真似はしなかった。
「ふふ、やっぱり良い子だね。メルちゃんは」
サラ――サクヤは笑った。
そうして大浴場に一人になったサクヤは「う~ん」と大きく伸びをすると、「まずは一人か」と呟いて指を折り始めた。
「あと面談するのは、リノちゃんとリーゼちゃん。まだ幼いけど、アイリちゃんって子もかな。今後の展開次第だとジェシカとの面談もありそうだし……」
簡単に右手の指が全部折れてしまった。
義姉の務めは終わらない。
まだまだ増える可能性もある。先は随分と長そうだった。
「だけど、お義姉ちゃんの務めも今回はここで一旦終了ね」
サクヤは空を仰いで目を細めた。
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