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第6部

第四章 そうして彼女達は出会った①

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 ザワザワと。


「……? 何やら騒がしいですね?」


 不意に慌ただしくなった街並みに、シャルロットは眉根を寄せた。
 ぞろぞろ早足でどこかに向かっている雰囲気だ。


「何かあったんすかね?」


 と、呟くのは両手に買い物袋を抱えたジェイクだ。
 彼の両隣には、同じく買い物袋を両手で掲げるゴーレム達の姿もあった。


「……そうですね」


 シャルロットはあごに指先を当てた。
 そしてしばし耳を澄ませてみせる。


「……第七通りで……」「へえ。珍しい。喧嘩か?」「相手は山賊……」


 そんな情報を通行人から拾い上げた。


「どうやら近くの大通りで喧嘩騒ぎが起きているようですね」

「へえ。そうなんすか」


 ジェイクは目を瞬かせる。


「やっぱ、そこそこの大都市でも馬鹿な野郎はいるもんすね」

「そうですね」


 ジェイクが苦笑いをし、シャルロットも口元を崩した。
 すると、


「……ウム。コウタハ、バカダッタノカ?」


 ゴーレムの一機・二十八号がそんなことを尋ねてきた。


「へ?」ジェイクが目を瞬かせた。「なんでいきなりそんなことを聞くんだ?」

「……ウム?」


 二十八号は首を傾げた。


「……ジェイクガイッタ。バカガイルト」

「いや、確かにそう言ったが……」


 どうにも話が噛み合わない。
 ジェイクが眉根を寄せたその時だった。


「っ! 二十八号さん!」


 シャルロットが目を剥いて振り向いた。


「もしかして今、零号さんとリンクしているのですか?」

「……ウム。アニジャトリンクシテイル」

「――ッ! そういうことか!」


 ジェイクも瞬時に察する。
 どうやら喧嘩騒ぎを起こしているのは、コウタということらしい。


「まあ、コウタなら大丈夫だろうが、どうしますかシャルロットさん」

「もちろん参ります」


 シャルロットは即答した。


「ヒラサカさまの実力は疑いようもありませんが、相手は山賊という話です。万が一もあり得ます。何よりお嬢さまの危機を知って見過ごすことは出来ません」


 言って、彼女はすぐさま駆け出した。
 スカートをなびかせるその姿は、とても優雅であった。


「……やっぱ綺麗だよな、シャルロットさんって」


 やはり自分の嫁さんにするのはあの人しかいない。
 改めてそう思いつつ、ジェイクは自分の荷物を二十八号に持たせた。


「オレっちも行く。荷物は頼めるか?」

「……シカタガナイ」「……トクベツダゾ」


 と、二十八号と十二号が答える。
 そして、


「「……オトメニハ、テヲダスナヨ」」

「いや!? そんな余裕はねえよ!?」


 と、ツッコミを返しつつ、ジェイクも駆け出した。
 シャルロットの速さも相当なものだが、ジェイクは体力バカだ。全力疾走で走り抜けて三分後には並走するまでに追いついた。


「第七通りってこっちなんすか?」

「はい。標識を確認しました。間違いありません」


 シャルロットは息を切らせる様子もなく答える。
 そうしてさらに五分。二人は速度を落とさず走り続けた。


「おッ! あれじゃないっすか!」


 ジェイクが前方を指差した。
 そこには大きな人垣が生まれていた。
「そのようですね」そう呟いてシャルロットはさらに加速する。そして人混みを意にも介さずすり抜けていく。ジェイクも「おお、凄えな」と、シャルロットに見惚れつつも少々強引に人混みに割り込んでいった。
 そして二人は人混みの中心に辿り着いた。
 そこにいるのは想像通りコウタの一行だった。


「あら。シャルロット」


 リーゼがシャルロットの姿を見て驚いた。


「どうしたのですか? 買い物は?」


 余りにも呑気な台詞を告げるお嬢さまに、シャルロットは嘆息する。
 見るとメルティアもアイリ、零号も無事のようだ。


「はは、相変わらずの胆力だな。お嬢は」


 ジェイクは苦笑する。
 と、その時、


「……ん? 新手か?」


 新たな闖入者の姿に気付き、眼帯付き優男がリーゼ達に目を向けた。
 そして、


「……え?」


 唖然とした。


「え? ええっ? なんで?」


 いきなり動揺し始める。「? おい、どうした?」と額に傷を持つ男が訝しむが、優男はそれどころではないようで――。


「た、隊長代理!」


 もはや芝居もせずにベッグを呼ぶ。
 それに対してベッグは、コウタからは目を離さず「何だよ、気ィ散らさせんじゃねえよ」と苛立った声で応える。


「あれッ! あそこ! あの人を見てください!」

「……あン?」


 不機嫌そうに唸るが、部下の声はかなり切羽詰まっている。
 やむを得ずベッグは視線を部下が指差す方に向けた。
 そこで、


「「………………」」


 互いの視線がぶつかった。
 そこにいたのはメイド服の女性だった。
 藍色の髪と深い蒼色の瞳。プロポーションも抜群なメイドさんだ。
 そんな彼女をまじまじと見つめて。


「……へ?」


 ベッグは間抜けな顔を晒した。
 一方、メイドさん――シャルロットはかなり困惑した表情を浮かべていて。


「もしかしてあなたは……」


 少し躊躇うように尋ねる。


「バルカスさんではありませんか?」

「お、おう?」


 彼――バルカス=ベッグは呻いた。
 が、すぐに目を瞬かせて。


「いや、そう言うあんたは、やっぱりスコラ嬢ちゃんなのか?」
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