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第15部
第八章 二人の未来⑥
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激闘は続く。
それは、まるで刃の嵐のようだった。
紫色の鎧機兵――《パルティーナ》はその場で反転。竜尾と、頭部の飾りを大きく揺らして胴薙ぎを繰り出す!
『――くッ!』
その斬撃を白い鎧機兵――《ホルン》が円盾で受け止める。
しかし、膂力がまるで違う。攻撃を受け止めてなお、《ホルン》は後方に大きく吹き飛ばされてしまった。
――ガガガガッ!
《ホルン》は両足で着地した。
次いで、すぐさま攻撃に移ろうとするが、
――ブオンッ!
一瞬の間もなく、長尺刀が振り下ろされた!
『――ッ!』
咄嗟に《ホルン》は長剣をかざした。ガギンッと刃同士がぶつかり、火花が散った。
途端、《ホルン》の両膝が深く沈み込む。このまま押し潰されそうな勢いだ。
機体の関節部が、ギシギシと悲鳴を上げる。
(まずい!)
サーシャは表情を険しくして、《天鎧装》の出力を最大にした。《ホルン》の全身から放出される不可視の怒涛に、《パルティーナ》は吹き飛ばされた。
だが、《パルティーナ》は全く動じない。
すぐさま着地すると、左手を勢いよく突き出した。
その直後、《ホルン》が闘技場の壁際まで吹き飛ばされた。
――《黄道法》の放出系闘技・《穿風》だ。
不可視の衝撃を受けた装甲に、微かな亀裂が奔る。直前に《天鎧装》を使用していたため、防御が間に合わなかったのだ。
『――あぐッ!』
操縦席が大きく揺らされて、サーシャが呻いた。《ホルン》が数歩ほど後ずさり、ぐらりとその場に倒れそうになるが、どうにか体勢を整え直す。
そこへさらに追撃が来る。
胴薙ぎに、今度は《飛刃》を放ってきたのだ。
サーシャは目を瞠った。
『――クウッ!』
――が、動揺で硬直することだけは抑え込む。《ホルン》は円盾を構えて、さらに《天鎧装》を放つことで、不可視の斬撃を受け切った。
(ぐ、う……ッ)
大きく揺れる操縦席。《ホルン》の後ろの壁には、大きな裂傷が刻まれた。
「「「うおおお……」」」
間近でその威力を目撃して、観客席にどよめきが湧き上がる。
「……はァ、はァ」
そんな中、銀色の髪を垂らし、大きな胸を上下させて、サーシャは汗を零した。
美しい顔にも、今は苦悶の表情が浮かんでいた。
(や、やっぱり、強い……)
その膂力はまさに圧倒的だった。一撃一撃が非常に重い。
《天鎧装》は、自動から手動に切り替えていた。
最大出力でなければ、とても攻撃を受け止めきれないからだ。
それに、自動のままでは、あっという間に恒力が尽きてしまう。
使いどころを見極めるためにも、手動に切り替えていた。
しかし、それも気休めにしかならないかもしれない。
今のように、攻撃が凌げなくなっていた。
(このままだと、ダメ……)
サーシャは顔を上げて、《パルティーナ》を見据えた。
今はどうにか喰らいついているが、このままでは、すぐに押し切られてしまう。
戦闘が始まって、まだ二分も経っていないというのに、サーシャの体力も、《ホルン》の機体も、恐ろしく消耗していた。
《星系脈》は徐々に赤く染まり、サーシャの汗は止まらなくなっていた。
このまま、防御に徹していてはダメだ。
ここで、攻勢に打って出なければ、負けてしまう。
「………ふゥ」
大きく息を吐き出す。
サーシャは、強く操縦棍を握り直した。
「……行くよ。《ホルン》」
主人の意志に呼応して、《ホルン》の両眼が輝いた。
そして――。
《ホルン》が大地を踏み抜いた。
雷音が轟く!
《黄道法》の闘技・《雷歩》だ。
実質、サーシャが唯一使える闘技である。
《ホルン》は、刺突の構えで突進した。
風を切る白い機体。長剣は真っ直ぐ《パルティーナ》の頭部へと迫った。
――しかし。
――ガギンッッ!
長剣は、長尺刀に弾かれた。
《ホルン》は大きく仰け反った。その隙をついて《パルティーナ》が反転し、竜尾を叩きつけてきた。大きな火花が散る。再び《ホルン》は吹き飛ばされた。
『――まだだよ!』
だが、それでも、サーシャの心は折れない。
《ホルン》は再び跳躍した。
「……サ、サーシャ」
その様子を、サーシャの父、アランは観客席で見つめていた。
グッ、と強く両手の指を組む。
アランの心境は、とても複雑だった。
――《夜の女神杯》の決勝戦。
これは正直、予想していなかった。
まさかの、愛娘と愛弟子の戦いとなったのである。
とはいえ、それ自体は、とても嬉しいことだ。
しかし、これは……。
(一体、どうなっているんだ?)
アランは困惑する。
サーシャの方はいい。
あの子の成長ぶりは目を瞠るものだが、その戦いは想定内のものだ。
だが、問題はシェーラの方だった。
(……シェーラ)
アランは、眉をしかめる。
彼の愛弟子であるシェーラ。
彼女の力は、あまりにも想定外だった。
一体、どうやって入手したのか、三万五千ジンもの高出力。
それも謎だが、そんな高出力を自在に操るシェーラの実力にこそ困惑していた。
あの子の実力は、よく知っている。
それこそ、サーシャの実力よりも知っていた。
あの子には素晴らしい才能がある。アランなど比較にならない才能だ。
だが、それを踏まえたとしても、恒力値・三万五千ジンなど、あの子の今の力量で扱えるような出力ではない。
だというのに、あの子は今、あの大出力を使いこなしている。
(一体、どうやって……いや)
アランは、表情を険しくした。
心当たりがある。
短期間で劇的に強くなれる方法に。
(まさか、シェーラ。お前は……)
――愛する妻を失って以降。
あの憎き怪蛇を殺すために、手を出した力だ。
結果から言うと、それを実戦で使う機会は一度もなかった。
アランの悲願は、愛娘と親友の娘、その友人たちが果たしてくれたからだ。
しかし、使う機会こそなかったが、あの力ならば、三万超えの恒力値であっても使いこなせるかも知れないとも思う。
――ズガンッッ!
その時、幾度目かの雷音が轟く。
シェーラの愛機・《パルティーナ》が一気に間合いを詰めたのだ。
そうして恐ろしいまでの速度の斬撃が、繰り出された。
サーシャの操る《ホルン》は、咄嗟に後方へと跳んでどうにか回避したが、空を斬った長尺刀は、深々と大地を切り裂いた。
(……やはり《焦熱》を使っているのか)
グッ、と強く唇を噛んだ。
あの力は諸刃の剣だ。
その力の代償は大きい。すでに戦闘を開始して二分も経っている。
アランの推測通りなら、シェーラは今、異様な発熱に苦しめられているはずだ。
あの現象が《焦熱》と呼ばれるのも、身を焦がすような発熱から来ているそうだ。
恐らく、あと三分も経てば、限界が来るはずだ。
(……シェーラ)
舞台では、愛娘が苦戦している。
必死に攻撃を凌ぐその姿には、ハラハラする。
だが、アランはシェーラの方も心配だった。
(大丈夫なのか? シェーラ……)
指を組む手にも力が籠る。
圧倒的な優勢の裏で、あの子は今、どれほどの苦しみに苛まされているのか。
ビッグモニターを見やる。
そこには、操縦席内の二人の姿が映し出されていた。
亡き妻の生き写しのようなサーシャと、幼い日から見守り続けたシェーラの姿だ。
やはり、劣勢のサーシャだけではない。
優勢であるはずのシェーラも、玉のような汗をかいていた。
肩は大きく上下し、息遣いも明らかに荒い。
アランは懐中時計を取り出し、時間を確認した。
丁度、試合開始から三分が経過したところだった。
間違いなく、決着はニ分以内につく。
サーシャが、このまま押し切られるのか。
それとも、シェーラが先に力尽きるのか。
(……サーシャ。シェーラ……)
父であり、師であるアランは、二人を見守ることしか出来なかった。
それは、まるで刃の嵐のようだった。
紫色の鎧機兵――《パルティーナ》はその場で反転。竜尾と、頭部の飾りを大きく揺らして胴薙ぎを繰り出す!
『――くッ!』
その斬撃を白い鎧機兵――《ホルン》が円盾で受け止める。
しかし、膂力がまるで違う。攻撃を受け止めてなお、《ホルン》は後方に大きく吹き飛ばされてしまった。
――ガガガガッ!
《ホルン》は両足で着地した。
次いで、すぐさま攻撃に移ろうとするが、
――ブオンッ!
一瞬の間もなく、長尺刀が振り下ろされた!
『――ッ!』
咄嗟に《ホルン》は長剣をかざした。ガギンッと刃同士がぶつかり、火花が散った。
途端、《ホルン》の両膝が深く沈み込む。このまま押し潰されそうな勢いだ。
機体の関節部が、ギシギシと悲鳴を上げる。
(まずい!)
サーシャは表情を険しくして、《天鎧装》の出力を最大にした。《ホルン》の全身から放出される不可視の怒涛に、《パルティーナ》は吹き飛ばされた。
だが、《パルティーナ》は全く動じない。
すぐさま着地すると、左手を勢いよく突き出した。
その直後、《ホルン》が闘技場の壁際まで吹き飛ばされた。
――《黄道法》の放出系闘技・《穿風》だ。
不可視の衝撃を受けた装甲に、微かな亀裂が奔る。直前に《天鎧装》を使用していたため、防御が間に合わなかったのだ。
『――あぐッ!』
操縦席が大きく揺らされて、サーシャが呻いた。《ホルン》が数歩ほど後ずさり、ぐらりとその場に倒れそうになるが、どうにか体勢を整え直す。
そこへさらに追撃が来る。
胴薙ぎに、今度は《飛刃》を放ってきたのだ。
サーシャは目を瞠った。
『――クウッ!』
――が、動揺で硬直することだけは抑え込む。《ホルン》は円盾を構えて、さらに《天鎧装》を放つことで、不可視の斬撃を受け切った。
(ぐ、う……ッ)
大きく揺れる操縦席。《ホルン》の後ろの壁には、大きな裂傷が刻まれた。
「「「うおおお……」」」
間近でその威力を目撃して、観客席にどよめきが湧き上がる。
「……はァ、はァ」
そんな中、銀色の髪を垂らし、大きな胸を上下させて、サーシャは汗を零した。
美しい顔にも、今は苦悶の表情が浮かんでいた。
(や、やっぱり、強い……)
その膂力はまさに圧倒的だった。一撃一撃が非常に重い。
《天鎧装》は、自動から手動に切り替えていた。
最大出力でなければ、とても攻撃を受け止めきれないからだ。
それに、自動のままでは、あっという間に恒力が尽きてしまう。
使いどころを見極めるためにも、手動に切り替えていた。
しかし、それも気休めにしかならないかもしれない。
今のように、攻撃が凌げなくなっていた。
(このままだと、ダメ……)
サーシャは顔を上げて、《パルティーナ》を見据えた。
今はどうにか喰らいついているが、このままでは、すぐに押し切られてしまう。
戦闘が始まって、まだ二分も経っていないというのに、サーシャの体力も、《ホルン》の機体も、恐ろしく消耗していた。
《星系脈》は徐々に赤く染まり、サーシャの汗は止まらなくなっていた。
このまま、防御に徹していてはダメだ。
ここで、攻勢に打って出なければ、負けてしまう。
「………ふゥ」
大きく息を吐き出す。
サーシャは、強く操縦棍を握り直した。
「……行くよ。《ホルン》」
主人の意志に呼応して、《ホルン》の両眼が輝いた。
そして――。
《ホルン》が大地を踏み抜いた。
雷音が轟く!
《黄道法》の闘技・《雷歩》だ。
実質、サーシャが唯一使える闘技である。
《ホルン》は、刺突の構えで突進した。
風を切る白い機体。長剣は真っ直ぐ《パルティーナ》の頭部へと迫った。
――しかし。
――ガギンッッ!
長剣は、長尺刀に弾かれた。
《ホルン》は大きく仰け反った。その隙をついて《パルティーナ》が反転し、竜尾を叩きつけてきた。大きな火花が散る。再び《ホルン》は吹き飛ばされた。
『――まだだよ!』
だが、それでも、サーシャの心は折れない。
《ホルン》は再び跳躍した。
「……サ、サーシャ」
その様子を、サーシャの父、アランは観客席で見つめていた。
グッ、と強く両手の指を組む。
アランの心境は、とても複雑だった。
――《夜の女神杯》の決勝戦。
これは正直、予想していなかった。
まさかの、愛娘と愛弟子の戦いとなったのである。
とはいえ、それ自体は、とても嬉しいことだ。
しかし、これは……。
(一体、どうなっているんだ?)
アランは困惑する。
サーシャの方はいい。
あの子の成長ぶりは目を瞠るものだが、その戦いは想定内のものだ。
だが、問題はシェーラの方だった。
(……シェーラ)
アランは、眉をしかめる。
彼の愛弟子であるシェーラ。
彼女の力は、あまりにも想定外だった。
一体、どうやって入手したのか、三万五千ジンもの高出力。
それも謎だが、そんな高出力を自在に操るシェーラの実力にこそ困惑していた。
あの子の実力は、よく知っている。
それこそ、サーシャの実力よりも知っていた。
あの子には素晴らしい才能がある。アランなど比較にならない才能だ。
だが、それを踏まえたとしても、恒力値・三万五千ジンなど、あの子の今の力量で扱えるような出力ではない。
だというのに、あの子は今、あの大出力を使いこなしている。
(一体、どうやって……いや)
アランは、表情を険しくした。
心当たりがある。
短期間で劇的に強くなれる方法に。
(まさか、シェーラ。お前は……)
――愛する妻を失って以降。
あの憎き怪蛇を殺すために、手を出した力だ。
結果から言うと、それを実戦で使う機会は一度もなかった。
アランの悲願は、愛娘と親友の娘、その友人たちが果たしてくれたからだ。
しかし、使う機会こそなかったが、あの力ならば、三万超えの恒力値であっても使いこなせるかも知れないとも思う。
――ズガンッッ!
その時、幾度目かの雷音が轟く。
シェーラの愛機・《パルティーナ》が一気に間合いを詰めたのだ。
そうして恐ろしいまでの速度の斬撃が、繰り出された。
サーシャの操る《ホルン》は、咄嗟に後方へと跳んでどうにか回避したが、空を斬った長尺刀は、深々と大地を切り裂いた。
(……やはり《焦熱》を使っているのか)
グッ、と強く唇を噛んだ。
あの力は諸刃の剣だ。
その力の代償は大きい。すでに戦闘を開始して二分も経っている。
アランの推測通りなら、シェーラは今、異様な発熱に苦しめられているはずだ。
あの現象が《焦熱》と呼ばれるのも、身を焦がすような発熱から来ているそうだ。
恐らく、あと三分も経てば、限界が来るはずだ。
(……シェーラ)
舞台では、愛娘が苦戦している。
必死に攻撃を凌ぐその姿には、ハラハラする。
だが、アランはシェーラの方も心配だった。
(大丈夫なのか? シェーラ……)
指を組む手にも力が籠る。
圧倒的な優勢の裏で、あの子は今、どれほどの苦しみに苛まされているのか。
ビッグモニターを見やる。
そこには、操縦席内の二人の姿が映し出されていた。
亡き妻の生き写しのようなサーシャと、幼い日から見守り続けたシェーラの姿だ。
やはり、劣勢のサーシャだけではない。
優勢であるはずのシェーラも、玉のような汗をかいていた。
肩は大きく上下し、息遣いも明らかに荒い。
アランは懐中時計を取り出し、時間を確認した。
丁度、試合開始から三分が経過したところだった。
間違いなく、決着はニ分以内につく。
サーシャが、このまま押し切られるのか。
それとも、シェーラが先に力尽きるのか。
(……サーシャ。シェーラ……)
父であり、師であるアランは、二人を見守ることしか出来なかった。
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