上 下
480 / 499
第15部

第六章 激戦の準決勝②

しおりを挟む
「ん。いよいよ本番ってやつだな。相棒」

 愛機・《レッドブロウⅢ》の操縦の中で、レナは呟く。
 グッ、パッと指を動かして、操縦棍を握りしめた。
 元々、今回の大会には、サーシャと戦うために参加したのだ。
 言わば、この試合こそが本番だった。

「まあ、ここまでは多分問題ねえんだけどな」

 言って、胸部装甲の内面に映った外の映像に目をやった。
 そこには、純白の鎧機兵の姿があった。
 サーシャの愛機・《ホルン》だ。これから戦う相手である。
 白い鎧機兵は、長剣の切っ先をこちらに向けていた。
 レナは、双眸を細めた。

(サーシャは確かに強えェ。基本に忠実な良い戦士だ)

 しかし、レナから見れば、まだまだ発展途上中とも言える。
 将来性は、間違いなくあるだろう。
 実戦経験を積むほどに、きっと強くなっていく。
 そのことは確信しているが、それはあくまで将来での話だった。

 今の段階では、まだサーシャは、レナの敵ではない。
 操手としての力量も、相棒の性能においても、レナの方が数段優れている。
 仮に百回戦えば、九十九回は、確実に勝てる相手だろう。

(問題は、アッシュの方だよな)

 奇しくも知ってしまったアッシュの今の実力。
 あれは、完全に想定外だった。
 力の底が知れない。確実に自分よりも強いと肌で感じた。

(引退して職人しているアッシュが、あそこまで強いなんて思わなかったな)

 流石は、自分が惚れた男だと誇らしくは思う。男どもの群れを薙ぎ払っていくアッシュの姿には、戦場でも感じたことのないような高揚感を覚えたものだ。
 正直に言って、興行が終わった後も、ずっとキュンキュンしていた。夜になっても、あまりに気持ちがムズムズするので、キャスリンに相談してみたら、

『ええっと、その、自分で解消するとか……』

『……それって、どうやってするんだ?』

『え? レナ? もしかして知らないの? その、やったことないの?』

『いや、キャスの言ってることは分かるんだけど、オレの故郷って、自分でそういうのを覚える前に処女を捨ててるケースが多くて、概ね初めての男から教わるんだよ』

『……君の故郷って何なんだよ……』

 そう呟いて、キャスリンは、顔色を青ざめさせていた。
 結局、キャスリンには、凄く困った顔で『それなら、今日は我慢しなよ。その、早くアッシュ君に愛されるんだよ?』と言うだけだった。
 ムズムズ問題は解決しなかったが、一晩経ったら、気分は落ち着いていた。

 とりあえず、今は体調も万全だ。
 しかし、それとは別に、やはり悩んでしまう。
 なにせ、アッシュとは、将来を賭けて、この大会の後に決闘をする予定なのだ。
 そのアッシュが、自分よりも強いとは思ってもいなかったのである。

(あの戦いは、マジでとんでもなかったからな)

 さしものレナも眉をひそめた。
 あの実力だ。苦戦することは避けられない。

 いや、苦戦どころの話ではない。
 正直なところ、レナの戦闘経験をもってしても、勝ち筋が見えなかった。

 正面から戦えば、恐らく勝機はない。
 ただ、それでも負けるつもりだけはなかった。
 自分より強い相手と戦うことなど、傭兵ならばよくある話だ。
 レナ自身も格上とは戦ったことがある。
 苦戦はしたが、その際も勝利をもぎ取ってみせた。
 要は、いかにして相手を出し抜くか。それこそが肝要なのだ。
 昨夜の夕食時も、仲間たちと対策を練ったものだ。

『……正直、店主殿の実力は、第一位と比べても、遜色、ないぞ』

『……うん。確かにえげつなかったよ』

 神妙な声のホークスに、引きつった顔のキャスリン。
 重苦しい雰囲気に、酒もあまり進まなかった。

『けど、最強はいても無敵はいねえからな。きっと手はあるさ』

 レナがジョッキを片手に言う。

『アッシュにだって弱点はあるだろうしな。けど』

 そこで、レナはキョロキョロと周囲を見渡した。

『ところでダインの奴は? 直接戦ったあいつの意見も聞きてえんだが』

『いや。それはやめてあげて』

 と、キャスリンが引きつった顔でツッコミを入れていた。
 結局、昨日は、具体的な対策はまとまらなかった。

(アッシュ戦については、今夜もまたキャスたちに相談して、戦術を練るか)

 と、前向きに考える。
 ともあれ、今は目の前の敵に集中すべきだった。

(油断して足元をすくわれるのは、オレにも言えることだしな)

 ここで負けてしまっては意味がない。
 百回に一度の敗北が、ここに来る可能性は充分にあり得るのだ。
 まずは確実に優勝すること。話はそれからだった。

『青き門より現れるは、四英雄の一人にして救国の聖女の愛娘! 駆る鎧機兵は純白の守護神 《ホルン》! 恒力値は三千五百ジン! だが、それがどうした! 自分より強い者などすべて倒してきた! 我こそは流れ星メェ―――トッ!!』

 司会者の口上と、観客の大歓声が耳に届く。
 それに呼応するように、白い鎧機兵は竜尾を揺らして、長剣を薙いだ。
 勇ましい覇気を、その動作から感じ取る。

「ははっ、やる気は充分みてえだな。サーシャ」

 レナは、不敵に笑う。

『そして赤き門より現れるは――』

 司会者の口上は続く。

『異国よりの来訪者! 可憐にして苛烈なる戦場の姫君! 駆る鎧機兵は千手の武神 《レッドブロウⅢ》! その恒力値は、驚くべき二万三千ジン! 本大会における堂々の第一位だ! 千の拳で粉砕せよ! 麗しきレナ――――ッッ!』

 その口上に合わせて、レナは、愛機の両の拳を胸元で、ガンガンと叩きつけた。
 観客たちは、大いに盛り上がった。

「さて。そんじゃあサーシャ」

 レナは、不敵な笑みを浮かべたまま告げる。

「オレたちの決闘を始めようじゃねえか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜

秋月真鳥
恋愛
 獣の本性を持つものが重用される獣国ハリカリの公爵家の令嬢、アイラには獣の本性がない。  アイラを出来損ないと周囲は言うが、両親と弟はアイラを愛してくれている。  アイラが8歳のときに、もう一つの公爵家で生まれたマウリとミルヴァの双子の本性はトカゲで、二人を産んだ後母親は体調を崩して寝込んでいた。  トカゲの双子を父親は冷遇し、妾腹の子どもに家を継がせるために追放しようとする。  アイラは両親に頼んで、マウリを婚約者として、ミルヴァと共に自分のお屋敷に連れて帰る。  本性が本当は最強のドラゴンだったマウリとミルヴァ。  二人を元の領地に戻すために、酷い父親をザマァして、後継者の地位を取り戻す物語。 ※毎日更新です! ※一章はざまぁ、二章からほのぼのになります。 ※四章まで書き上げています。 ※小説家になろうサイト様でも投稿しています。 表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約も結婚も計画的に。

cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。 忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。 原因はスピカという一人の女学生。 少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。 「あ、もういい。無理だわ」 ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。 ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。 ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。 「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。 もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。 そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。 ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。 しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~) ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...