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第15部
第一章 導かれる者たち③
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一方、その頃。
アッシュの実弟であるコウタは、途轍もない気まずさを感じていた。
(……どうしよう、これ)
どうして、こんな事態になってしまったのか……。
考えれば考えるほどに混乱してくる。
コウタが今いるこの場所は、市街区の一角にある店舗の一つだった。
酒も出すが、どちらかと言えば大衆食堂寄りの飲食店である。
ふと、周囲に目をやってみる。
騒々しい店内。客層は大人の男性客が多かった。
店内は少々酒の匂いがキツイ。程度の差はあるが、全員が酔っている。
時間帯が夜のため、今は酒場としての側面の方が強いようだ。
名前は《獅子の胃袋亭》。
エドワードたちや、サーシャたちがよく通っている店である。
今、その場所には少年たちが集まっていた。
丸テーブルの席には、まずコウタ。親友であるジェイク。そしてこの国で出会った友人であるロックとエドワードの姿があった。
ただ、全員がほんのり赤い顔をしていた。
エドワードが、景気づけとか言って発泡酒を注文したのだ。
結果、コウタ以外の人間が酔っ払いと化した訳だ。
「ジェ、ジェイク……」
コウタは、とりあえず発泡酒の四杯目を呑み干す親友に声をかけた。
「それぐらいにしておいた方がいいんじゃないかな?」
「ヒック、シャルロットさん……綺麗だったなあ……」
しかし、赤い顔のジェイクは聞いていない。
「おっぱいがさ。もうゆっさゆっさと揺れるんだよ。正直、ガン見しちまったよ」
「あ、うん……」
普段は男同士でその手の話をしても、基本的には硬派なスタンスを維持する親友の直球すぎる意見に、コウタは顔を強張らせた。
「……ああ、オレっちのシャルロットさん……」
ジェイクはヒックと喉を鳴らした。
「あのおっぱいに触ってみてェ。きっと死ぬほど柔らかいんだろうな。思いっきり顔を埋めてさ、色んな角度から揉み下すんだ。そんで――」
「うん。ジェイク。君のキャラが壊れるから、それ以上の発言は控えよう」
親友の将来を案じて、コウタがとりあえず止める。
すると、
「ふん、何がおっぱいだ」
ヒックと。
別の方向から声が聞こえた。
一際大きい樽を両手で掴んで呑むロックだった。
「お前の目は節穴か? ジェイク」
普段はジェイク並みに硬派なロックが言う。
「お前は、エイシスの美しさに気付かなかったようだな。あの美脚こそ至高。いや、脚から続く腰。胸までのライン……」
ロックは、ドンっと樽を丸テーブルに置いた。
「何よりも絹糸のヴェールのごとき、長き髪の間から現れる美しき背中! あの時、俺は確信したぞ! エイシスには女鹿の衣装こそがよく似合うと!」
グッと右手を掲げて拳を作る。
「ならば、俺は一頭の虎となろう。美しき女鹿を背後より獲らえる。決して逃がさん。その首筋に喰らい付く! そう! 俺は虎になるのだ!」
「うん。ロック。君も大概ヤバいこと言っているから自粛しようね」
コウタは頬を引きつらせつつ、ロックをやんわりと止めた。
と、今度は、
「――なに言ってやがる!」
エドワードが、赤い顔で叫んだ。
「至高と言えばユーリィさんじゃねえか!」
ガタンと椅子を倒して立ち上がり、腕を横に薙いだ。
「あのエロ衣服だって、ユーリィさんにこそ一番似合うはずなんだ! エロワードの名において断言するぜ!」
「いやエド? なにその名前?」
思わずコウタがツッコみを入れるが、エドワードは聞いていない。
「しかも、最近のユーリィさんは絶賛成長中なんだ! つなぎ越しでも、腰がきゅっと引き締まってきてんのは分かるし、おっぱいなんて膨らみかけなんだぞ! そう! 絶妙な感じの膨らみかけなんだ!」
そこでエドワードは、わしゃわしゃと両手の指を動かした。
「きっと触ったら、少しコリってした感じがするんだよ! 知らんけど! そんでユーリィさんは少し不安そうに『……ん、少し痛い。エド』って言うんだ! 俺は『大丈夫。すぐに痛みなんて忘れるさ』って言ってさ! そっから俺は、ユーリィさんのちっぱいを丁寧に解して、じっくりと堪能しながら、時々、彼女の少しだけアバラが浮いた脇をなぞったりして、そんで――」
「そこまでだよエド!? 言ってる内容も妄想の相手も凄くヤバいよ!? 色んな意味で君が一番危ない人だからやめるんだ!?」
こればかりは、コウタも全力で止めた。
万が一にでも兄の耳にでも入れば、即座に塵にされることが確定な妄言だ。
エドワードは無念そうに叫ぶ。
「妄想ぐらいさせてくれよ! ちくしょう! せめてエロ衣服姿だけは見たかった! なんでユーリィさんは出場してねえんだよ!」
「……いや、ユーリィさんは操手じゃないし……」
深々と嘆息するコウタだった。
ジェイクたちは、ずっとこんな感じだった。
延々と、自分の想い人がどれほど魅力的なのかを語り続けるのだ。
そして――。
「「「あんまりだぁ……師匠おォォ」」」
不意に、兄に向って、三人揃って泣き出すのだ。
何故か、普段は兄を「アッシュさん」と呼んでいるジェイクまで「師匠」と呼んでいる。
ただ、泣き出す気持ちは分かる。
なにせ、彼らの想い人たちは全員、兄に想いを寄せているのだから。
恋敵の強大さに、絶望しても仕方がないだろう。
「何故だ! どうしてなんだよ!」
「あんた、モテるだろ! なら義娘は別にいいだろ! 大人しく嫁に出しとけよ! 他にも女はいっぱいいるじゃねえか!」
「おのれ! おのれェ、師匠めええェェ!」
それぞれが怨嗟の声を上げる。
こればかりは、コウタも沈黙してしまう。
実の弟としては、何とも気まずい時間だった。
と、その時だった。
「分かるぞ……分かるぞ、少年たちよ!」
唐突に。
その声は上がった。
コウタが「え?」と驚いて視線を向けると、そこには三人の男性がいた。
三人とも私服のようだが、かなり酔った様子の青年たちだ。
一人だけはしっかりとした足取りで立ち、完全に酔っぱらった二人に肩を貸していた。
コウタには、彼に見覚えがあった。
「……え? あなたは……」
「ああ、こんな場所で奇遇だな。師匠の弟さん」
その大柄な青年は、苦笑じみた笑みを見せた。
「どうしてあなたがここに……って」
そこで、コウタは気付く。
大柄な青年が肩を貸す一人にも見覚えがあることに。
「ええっと、確か、チェンバーさん?」
記憶を探りつつ呟く。
――ライザー=チェンバー。
第三騎士団所属の騎士で、兄の友人とも聞いている青年だ。
以前、自己紹介程度に顔を合わせたことがある。
「分かるぞ、分かるぞ、少年たち……」
と、その時、ライザーが赤い顔で呟いた。
その声、その内容から、どうやら最初に声を上げたのは彼のようだ。
ライザーは大柄な青年から離れると、グッと拳を掲げてジェイクたちに告げた。
「敵は果てしなく強大。されど、愛しき人の心はその敵に握られている。その絶望、その苦難、その悲嘆、痛いほどによく分かる」
「………あんたは」
ジェイクが、少しだけ正気を取り戻して尋ねる。
「……何者なんだ?」
「俺も君たちと同じさ」
そう言って、彼は固めた拳を広げた。それを頭上に掲げる。
「届かない太陽に、手を伸ばす者……」
ライザーは呟く。
「太陽とはここまで遠いものなのか……ミランシャさん」
「――えええッ!?」
思いがけない名前に、コウタは目を剥いた。
「チェ、チェンバーさんって、ミラ姉さんのことを……」
コウタは、もう一人の知り合いに視線を向けた。
大柄な青年は「ああ」と頷いた。
「本気の本気。ガチのようだぞ」
「……そう、なんですか」
コウタとしては、盛大に頬を引きつらせるだけだった。
まあ、ミランシャもまた群を抜いた美女だ。
しかも、事情はよく分からないが、この国にまでファンがいるらしい。本気の想いを寄せる男性も、それこそ数えきれないほどにいてもおかしくはない。
しかし、コウタにとっては、さらに気まずい状況になってしまった。
これで兄を恋敵として恨む人間が四人になったのである。
(……に、兄さぁん)
堪らず兄に文句の一つも言いたくなった、その時だった。
「一体何なんすか! あいつは!」
突如、大柄な男性に肩を担がれていたもう一人の青年が叫んだ。
ひょろ長い印象の、頭頂部だけが黒い黄色い髪が特徴的な青年だ。
彼も酷く酔っているようだが、こちらには見覚えがない。
「あのハーレムクズ野郎め! 渡さねえっす! 渡さねえっすよ!」
青年は、口角泡を飛ばして叫んだ。
「レナさんは、絶対に渡さねえっすから!」
「――レナさん!?」
コウタは再び仰天した。
見知らぬ青年。しかし、彼の口から飛び出したのは知人の名前だった。
今日の大会で群を抜いた実力を見せた傭兵。
コウタが知っている頃から、どうしてか全く姿が変わっていない女性の名前だ。
メルティアの話では、彼女は未だ兄に強い想いを寄せているという……。
(……ええええええ……)
何なのか、今夜の邂逅は。
これで五人目だ。
何かに導かれたかのように、次から次へと兄の恋敵が現れる。
(ど、どうなっているの? これ?)
コウタは、もう目を丸くするだけだった。
が、そこへダメ押しの事実まで告げられる。
「ちなみに、俺はアリシアさん一筋だ」
「……え?」
コウタはそう告げてきた、大柄な男性を見上げた。
彼は唖然とするコウタを一瞥しつつ、
「さて、と」
ひょろ長い青年に肩を貸したまま、力強く一歩前に踏み出した。
そして、ジェイク、ロック、エドワード。
ライザー、ひょろ長い男性へと順に目をやって――。
「どうだ? お前たち」
大柄な青年は、不敵に笑ってこう告げるのだった。
「俺の計画。乗ってみないか?」
アッシュの実弟であるコウタは、途轍もない気まずさを感じていた。
(……どうしよう、これ)
どうして、こんな事態になってしまったのか……。
考えれば考えるほどに混乱してくる。
コウタが今いるこの場所は、市街区の一角にある店舗の一つだった。
酒も出すが、どちらかと言えば大衆食堂寄りの飲食店である。
ふと、周囲に目をやってみる。
騒々しい店内。客層は大人の男性客が多かった。
店内は少々酒の匂いがキツイ。程度の差はあるが、全員が酔っている。
時間帯が夜のため、今は酒場としての側面の方が強いようだ。
名前は《獅子の胃袋亭》。
エドワードたちや、サーシャたちがよく通っている店である。
今、その場所には少年たちが集まっていた。
丸テーブルの席には、まずコウタ。親友であるジェイク。そしてこの国で出会った友人であるロックとエドワードの姿があった。
ただ、全員がほんのり赤い顔をしていた。
エドワードが、景気づけとか言って発泡酒を注文したのだ。
結果、コウタ以外の人間が酔っ払いと化した訳だ。
「ジェ、ジェイク……」
コウタは、とりあえず発泡酒の四杯目を呑み干す親友に声をかけた。
「それぐらいにしておいた方がいいんじゃないかな?」
「ヒック、シャルロットさん……綺麗だったなあ……」
しかし、赤い顔のジェイクは聞いていない。
「おっぱいがさ。もうゆっさゆっさと揺れるんだよ。正直、ガン見しちまったよ」
「あ、うん……」
普段は男同士でその手の話をしても、基本的には硬派なスタンスを維持する親友の直球すぎる意見に、コウタは顔を強張らせた。
「……ああ、オレっちのシャルロットさん……」
ジェイクはヒックと喉を鳴らした。
「あのおっぱいに触ってみてェ。きっと死ぬほど柔らかいんだろうな。思いっきり顔を埋めてさ、色んな角度から揉み下すんだ。そんで――」
「うん。ジェイク。君のキャラが壊れるから、それ以上の発言は控えよう」
親友の将来を案じて、コウタがとりあえず止める。
すると、
「ふん、何がおっぱいだ」
ヒックと。
別の方向から声が聞こえた。
一際大きい樽を両手で掴んで呑むロックだった。
「お前の目は節穴か? ジェイク」
普段はジェイク並みに硬派なロックが言う。
「お前は、エイシスの美しさに気付かなかったようだな。あの美脚こそ至高。いや、脚から続く腰。胸までのライン……」
ロックは、ドンっと樽を丸テーブルに置いた。
「何よりも絹糸のヴェールのごとき、長き髪の間から現れる美しき背中! あの時、俺は確信したぞ! エイシスには女鹿の衣装こそがよく似合うと!」
グッと右手を掲げて拳を作る。
「ならば、俺は一頭の虎となろう。美しき女鹿を背後より獲らえる。決して逃がさん。その首筋に喰らい付く! そう! 俺は虎になるのだ!」
「うん。ロック。君も大概ヤバいこと言っているから自粛しようね」
コウタは頬を引きつらせつつ、ロックをやんわりと止めた。
と、今度は、
「――なに言ってやがる!」
エドワードが、赤い顔で叫んだ。
「至高と言えばユーリィさんじゃねえか!」
ガタンと椅子を倒して立ち上がり、腕を横に薙いだ。
「あのエロ衣服だって、ユーリィさんにこそ一番似合うはずなんだ! エロワードの名において断言するぜ!」
「いやエド? なにその名前?」
思わずコウタがツッコみを入れるが、エドワードは聞いていない。
「しかも、最近のユーリィさんは絶賛成長中なんだ! つなぎ越しでも、腰がきゅっと引き締まってきてんのは分かるし、おっぱいなんて膨らみかけなんだぞ! そう! 絶妙な感じの膨らみかけなんだ!」
そこでエドワードは、わしゃわしゃと両手の指を動かした。
「きっと触ったら、少しコリってした感じがするんだよ! 知らんけど! そんでユーリィさんは少し不安そうに『……ん、少し痛い。エド』って言うんだ! 俺は『大丈夫。すぐに痛みなんて忘れるさ』って言ってさ! そっから俺は、ユーリィさんのちっぱいを丁寧に解して、じっくりと堪能しながら、時々、彼女の少しだけアバラが浮いた脇をなぞったりして、そんで――」
「そこまでだよエド!? 言ってる内容も妄想の相手も凄くヤバいよ!? 色んな意味で君が一番危ない人だからやめるんだ!?」
こればかりは、コウタも全力で止めた。
万が一にでも兄の耳にでも入れば、即座に塵にされることが確定な妄言だ。
エドワードは無念そうに叫ぶ。
「妄想ぐらいさせてくれよ! ちくしょう! せめてエロ衣服姿だけは見たかった! なんでユーリィさんは出場してねえんだよ!」
「……いや、ユーリィさんは操手じゃないし……」
深々と嘆息するコウタだった。
ジェイクたちは、ずっとこんな感じだった。
延々と、自分の想い人がどれほど魅力的なのかを語り続けるのだ。
そして――。
「「「あんまりだぁ……師匠おォォ」」」
不意に、兄に向って、三人揃って泣き出すのだ。
何故か、普段は兄を「アッシュさん」と呼んでいるジェイクまで「師匠」と呼んでいる。
ただ、泣き出す気持ちは分かる。
なにせ、彼らの想い人たちは全員、兄に想いを寄せているのだから。
恋敵の強大さに、絶望しても仕方がないだろう。
「何故だ! どうしてなんだよ!」
「あんた、モテるだろ! なら義娘は別にいいだろ! 大人しく嫁に出しとけよ! 他にも女はいっぱいいるじゃねえか!」
「おのれ! おのれェ、師匠めええェェ!」
それぞれが怨嗟の声を上げる。
こればかりは、コウタも沈黙してしまう。
実の弟としては、何とも気まずい時間だった。
と、その時だった。
「分かるぞ……分かるぞ、少年たちよ!」
唐突に。
その声は上がった。
コウタが「え?」と驚いて視線を向けると、そこには三人の男性がいた。
三人とも私服のようだが、かなり酔った様子の青年たちだ。
一人だけはしっかりとした足取りで立ち、完全に酔っぱらった二人に肩を貸していた。
コウタには、彼に見覚えがあった。
「……え? あなたは……」
「ああ、こんな場所で奇遇だな。師匠の弟さん」
その大柄な青年は、苦笑じみた笑みを見せた。
「どうしてあなたがここに……って」
そこで、コウタは気付く。
大柄な青年が肩を貸す一人にも見覚えがあることに。
「ええっと、確か、チェンバーさん?」
記憶を探りつつ呟く。
――ライザー=チェンバー。
第三騎士団所属の騎士で、兄の友人とも聞いている青年だ。
以前、自己紹介程度に顔を合わせたことがある。
「分かるぞ、分かるぞ、少年たち……」
と、その時、ライザーが赤い顔で呟いた。
その声、その内容から、どうやら最初に声を上げたのは彼のようだ。
ライザーは大柄な青年から離れると、グッと拳を掲げてジェイクたちに告げた。
「敵は果てしなく強大。されど、愛しき人の心はその敵に握られている。その絶望、その苦難、その悲嘆、痛いほどによく分かる」
「………あんたは」
ジェイクが、少しだけ正気を取り戻して尋ねる。
「……何者なんだ?」
「俺も君たちと同じさ」
そう言って、彼は固めた拳を広げた。それを頭上に掲げる。
「届かない太陽に、手を伸ばす者……」
ライザーは呟く。
「太陽とはここまで遠いものなのか……ミランシャさん」
「――えええッ!?」
思いがけない名前に、コウタは目を剥いた。
「チェ、チェンバーさんって、ミラ姉さんのことを……」
コウタは、もう一人の知り合いに視線を向けた。
大柄な青年は「ああ」と頷いた。
「本気の本気。ガチのようだぞ」
「……そう、なんですか」
コウタとしては、盛大に頬を引きつらせるだけだった。
まあ、ミランシャもまた群を抜いた美女だ。
しかも、事情はよく分からないが、この国にまでファンがいるらしい。本気の想いを寄せる男性も、それこそ数えきれないほどにいてもおかしくはない。
しかし、コウタにとっては、さらに気まずい状況になってしまった。
これで兄を恋敵として恨む人間が四人になったのである。
(……に、兄さぁん)
堪らず兄に文句の一つも言いたくなった、その時だった。
「一体何なんすか! あいつは!」
突如、大柄な男性に肩を担がれていたもう一人の青年が叫んだ。
ひょろ長い印象の、頭頂部だけが黒い黄色い髪が特徴的な青年だ。
彼も酷く酔っているようだが、こちらには見覚えがない。
「あのハーレムクズ野郎め! 渡さねえっす! 渡さねえっすよ!」
青年は、口角泡を飛ばして叫んだ。
「レナさんは、絶対に渡さねえっすから!」
「――レナさん!?」
コウタは再び仰天した。
見知らぬ青年。しかし、彼の口から飛び出したのは知人の名前だった。
今日の大会で群を抜いた実力を見せた傭兵。
コウタが知っている頃から、どうしてか全く姿が変わっていない女性の名前だ。
メルティアの話では、彼女は未だ兄に強い想いを寄せているという……。
(……ええええええ……)
何なのか、今夜の邂逅は。
これで五人目だ。
何かに導かれたかのように、次から次へと兄の恋敵が現れる。
(ど、どうなっているの? これ?)
コウタは、もう目を丸くするだけだった。
が、そこへダメ押しの事実まで告げられる。
「ちなみに、俺はアリシアさん一筋だ」
「……え?」
コウタはそう告げてきた、大柄な男性を見上げた。
彼は唖然とするコウタを一瞥しつつ、
「さて、と」
ひょろ長い青年に肩を貸したまま、力強く一歩前に踏み出した。
そして、ジェイク、ロック、エドワード。
ライザー、ひょろ長い男性へと順に目をやって――。
「どうだ? お前たち」
大柄な青年は、不敵に笑ってこう告げるのだった。
「俺の計画。乗ってみないか?」
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