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第14部
第六章 願い事一つだけ①
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「……………は?」
クライン工房隣の大広場。
やって来るなり陽気な笑顔で、「オレと決闘しようぜ!」などと告げてきたレナに、当然ながら、アッシュは眉をひそめた。
「お前、何言ってんだ?」
当然の質問が出てくる。
その場にいるサーシャや、オトハ、ユーリィもキョトンとしていた。
すると、レナは、グッと右拳を固めてこう言った。
「まどろっこしい真似はもう止めだ」
男前に笑う。
「ここは傭兵の流儀で行こうじゃねえか」
「いや。俺は職人だぞ。なんで傭兵の流儀が出てくんだよ」
「まあ、いいから聞けよ」
アッシュのツッコミを切り捨てて、レナは言葉を続ける。
「アッシュも元傭兵なら、傭兵にとっての決闘って知っているよな。互いに対等な何かを賭けて戦うやつだ」
「そいつは知ってるが……」
何となく昔を――初めてシャルロットと出会った日を思い出して、アッシュは少し頬を引きつらせた。まさしく、あれこそそうだった。
結果、シャルロットは今、この国に来ているのだ。
「オレは、アッシュをオレの仲間にしたい」
レナは、真っ直ぐアッシュを見据えて告げた。
真剣な彼女の様子に、アッシュも、オトハたちも面持ちを改めた。
「けど、そのためにはアッシュは店まで畳まねえといけねえ。そいつは決断するには重すぎるだろ。だからさ」
レナは右の拳を突き出した。
「鎧機兵戦で決闘だ。オレが勝ったら、アッシュはオレの仲間になる」
「いや、お前な……」
ボリボリと頭をかくアッシュ。
「俺の賭けるものは転職とこの店か? 重すぎんだろ。そもそも仲間の件はもう断ったじゃねえか。決闘を受ける理由がねえよ」
「話は最後まで聞けよ」
レナは、拳をアッシュの胸板に押し付けて告げる。
「この店を賭けるんだ。オレだって相当の代価を用意するさ」
アッシュは眉根を寄せた。
「……一体何を……あっ」
そこで思いつく。
「もしかして《夜の女神杯》の優勝賞金か? 確かに金貨二百枚は相当な大金だが、流石にこの店と釣り合いは……」
「それじゃねえよ」
レナは、かぶりを振った。
「それは、アッシュが傭兵に戻るための支度金にするんだ」
「いや。勝手に支度金にすんなよ」
アッシュは苦笑いを浮かべた。
次いで、純粋な疑問としてレナに尋ねた。
「けどよ。ならレナが賭けるもんってなんだ? 何を賭けるつもりなんだ?」
「おう! よくぞ聞いてくれた!」
すると、レナはニカっと笑って答えた。
「オレ自身だ!」
一拍の間。
「……………は?」
アッシュは眉をひそめた。
サーシャ、オトハは目を丸くし、ユーリィは少し表情が消えた。
「そう! オレ自身さ!」
レナは、自分の豊かなおっぱいをポンと叩いて、再度宣言した。
「アッシュが勝ったら、オレを好きにしてもいいぜ!」
「す、好きにって……」
と、これはサーシャの声だ。
口元を両手で押さえて、耳まで真っ赤にしている。
一方、アッシュは半眼だった。
「……お前な。自分が何を言ってんのか、分かってんのか?」
「ああ! 当然分かっているさ!」
レナの態度は揺るがない。
満面の笑みのまま、アッシュに向かって大きく頷いた。
「アッシュの店の等価だからな。覚悟はしてるよ。オレを好きにしていいぜ。負けたら傭兵は引退だ。タダ同然の店員としてコキ使ってくれていい」
「……ああ、そういう意味かよ」
それはそれで問題のような気はするが、アッシュが少し表情を和らげた。
――が、レナの台詞はさらに続いた。
グッと親指を立てて。
「もちろん、エッチなことだって込みだぞ」
「……………………………おい」
「体力には自信があっからな! 毎晩だって覚悟済みだ! アッシュが望むのなら挟むし、どんな体位だってOKだぞ! 子供だってむしろ望むところだし――」
「おい。待てレナ。ステイだ。レナ」
アッシュは額に青筋を立てた。
「お前、何を言ってんだ?」
「え?」レナはキョトンとした。が、すぐにポンと手を打って彼女は笑った。
「大丈夫。オレの初めては全部アッシュのもんだぞ。キスだってまだなんだ。だって、オレはまだ処女で――」
「うん。ステイ。レナ、ステイ。ちょいと歯を喰い縛ろうな」
そして次の瞬間。
「――わふんっ!?」
非常に珍しく。
というよりも、生涯で初めて、女の子の頬をはっ倒すアッシュの姿がそこにあった。
まあ、正確に言えば、レナの頬を殴打にならない程度で荒く掴み、そのまま横に放り投げたというのが正しいのだが。
「何すんだよ! アッシュ!」
当然、無傷でレナは戻ってきた。
「それは俺の台詞だ!」
アッシュは再び青筋を浮かべた。
「いきなり何口走ってんだよ、てめえは!」
「え? だって、アッシュは大きなおっぱいが好きなんだろ?」
自分の豊かな胸を両手で挟みつつ、純真な顔で、レナはそんなことを言ってくる。
アッシュはさらに怒鳴った。
「誰情報なんだよ! それは!」
「え? サクだけど?」
「――サクヤあッ!?」
驚愕するアッシュをよそに、レナはオトハとサーシャを指差してさらに告げた。
「それに、オトハもサーシャも、おっぱい大きいし」
「え」「い、いや……」
いきなりそう言われて、サーシャとオトハが顔を赤くした。
「なあ、オトハ」
レナは、オトハに視線を向ける。次いで、とんでもない質問をしてきた。
「サクから聞いたんだけど、オトハってもうアッシュとエッチなことしたんだろ? どんな感じだったんだ?」
「―――――え」
一瞬ポカンとするオトハ。が、すぐに、
「――なななッッ!?」
激しく狼狽して後ずさった。対し、レナはどんどん前に進んでいく。
「なあなあ。どんなんだったんだ?」
穢れのない無垢なる眼差しで、レナが聞いてくる。
オトハは後ずさりしながら、何度もアッシュに視線を送った。
オトハの瞳は、ぐるぐると回り始めていた。
「その、私と、ク、クラインは……トウヤは……」
「お、おい! オト! やめろレナ! オトはその手の話に弱いんだ!」
慌ててアッシュが止めようとするが、オトハは完全にパニックになっていた。
自分の胸元に視線を落とし、二度に渡る夜を思い出して……。
――ぷしゅうう……。
そんな音が出そうなぐらい、頭から湯気を出した。
そして、大きな胸を隠すように両手で覆って、その場に座り込んだ。
三角座りで視線は地面を向いている。完全に停止状態だ。
「オ、オトっ!?」
アッシュもつられて顔を赤くした。
すると、レナは、それ見たことかと胸を張った。
「やっぱそうじゃねえか。アッシュは大きなおっぱいが好きなんだ」
「止めろっ!? 風評被害だぞっ!? それっ!?」
アッシュが叫ぶ。と、
「――異議あり!」
ユーリィが手を上げて、声を張り上げた。
「ん? 何だよ。がきんちょ」
レナがそう言うと、ユーリィはムッとした顔で答えた。
「確かにアッシュは大きなおっぱいが好き。それは認めざるを得ない」
「おおォいっ!? ユーリィ!?」
アッシュは、愕然とした顔で愛娘を見やる。
一方、可愛い愛娘は「だけど!」と言葉を続けた。
「アッシュは性格重視! それはすべてに優先されることなの!」
「……ふん」
しかし、その異議をレナは鼻で笑った。
「確かにアッシュは性格重視かも知んねえ。けど現実を見ろ。あれを見てみな!」
レナは、座り込むオトハを指差した。ユーリィは目を瞠った。
「そしてあれも見ろ!」
次いで、サーシャを指差した。主に胸部を。
サーシャは「え、えっと……」と顔を赤くして肩を震わせた。
「そんでサクを思い出せ!」
レナは、トドメとばかりにユーリィの眉間を指差した。
ユーリィは、愕然とした表情を浮かべた。
続けて、恐る恐る自分の胸元に視線を落とす。
確実に成長はしている。凹凸もあって今も膨らみかけだ。
けれど、サクヤの胸を思い出して……。
「………………ぐふ」
絶望の表情を浮かべるなり、その場にガクンと座り込んだ。
「――ユーリィ!?」
愛娘の撃沈に、アッシュは駆け寄ろうとする。
――が、
「なあなあ、アッシュ」
忍び寄ってきたレナに、片腕を掴まれてしまった。
続けて彼女は豊かな胸を目いっぱいに押し付けて、こう告げた。
「アッシュは、大きなおっぱいが好きなんだろ? な、いいだろ。ちょっとだけ。ちょっとだけだから決闘しよ? ちなみに、オレが勝った場合でも夜の件はOKだ。オレはアッシュが好きなんだ。アッシュだけの女になるつもりなんだ」
「お前、さりげなくとんでもない宣言をしてきてんな!?」
直球で愛の告白をされて、流石にアッシュも顔が少し赤くなる。
一方、レナは変わらず直球だ。さらに胸を腕に押し付けて。
「うん。オレはアッシュの女になるんだ。そこは確定だな。あとはアッシュが傭兵になるかどうかなんだよ。なっ、いいだろ? 決闘ぐらい。だって、勝っても負けても、アッシュはオレのおっぱいを好きに出来るんだぜ」
「お前な!? それはそれでセクハラなんだぞ!?」
もう一度放り投げてやろうか、と考えた時だった。
「先生。落ち着いてください」
唯一健在であるサーシャが、そう声を掛けてきた。
「ここは私に任せてくださいませんか」
愛弟子は穏やかに微笑んで語る。アッシュは「お、おう」と頷いた。
「……何だよ。サーシャ」
敵の気配を感じ取ったか、レナがアッシュの腕を離して、サーシャの前に立つ。
サーシャは微笑みを絶やさずに、
「先生が大きなおっぱいが好きなことは、とても良いことですが――」
「え? メットさん……?」
アッシュの困惑の声を無視して、言葉を続ける。
「自分の人生すべてを賭ける決闘なんて、同じ女性として見過ごせません」
実は以前、自分も同じような決闘をしたことがあるのだが、サーシャは棚に上げた。
そもそもレナの知らないことであり、全く関係のない話だ。
サーシャは話を続ける。
「いきなり決闘というのもやりすぎだと思います。だからこうしませんか?」
一拍おいて。
「《夜の女神杯》」
サーシャは、悪戯っぽく頬に指を当てて告げた。
「そこで優勝した人が、先生に一つだけ何かをお願いできることにするんです」
「……へえ。面白れえことを言うな」
レナは不敵に笑った。
「要はオレが優勝したら、アッシュに決闘をお願いするってことか」
「はい。そういうことです」
サーシャは、にっこりと笑って答える。
まるで聖女のような微笑だが、そこには揺るがない意志があった。
レナは、双眸を細めた。
「……面白しれえな。サーシャは」
「そうですか?」
小首を傾げるサーシャに対し、レナは笑った。
「いいぜ! 受けてやらあ!」
レナは、話に置いてけぼり状態のアッシュに目をやった。
「お前もそれでいいよな! アッシュ!」
「お、おう?」
それは困惑の声だったのだが、レナは承諾と受け取った。
「決まりだな!」
ニカっと笑う。
「今日は帰るよ! オレの愛機は明日取りに来るからさ! メンテナンスの方、しっかり頼むぜ! アッシュ!」
言って、レナは走り出した。
元気娘の姿は、みるみる内に見えなくなった。
それを見届けてから、サーシャは、アッシュに微笑みながら告げた。
「それじゃあ、それでよろしくお願いしますね。先生」
「え、いや、それでって……」
アッシュが困惑していると、サーシャは両の拳を固めて宣言する。
「大丈夫です。私が先生のお店を守りますから」
「あ、そういうことか」
ようやく得心がいく。
サーシャは、まず自分から決闘を引き受けてくれたのだ。サーシャが勝てればよし。負けても次はアッシュが控えている。二段構えの構図だ。
「ああ、悪りい……」
ボリボリと頭をかきながら、サーシャの元に近づいていく。
何というか、色々と暴露された気分でまだ顔が少し熱い。ちらりと目をやると、ユーリィもオトハもまだ座り込んでいた。
「メットさんは全然関係ないのにな。レナの奴も無茶苦茶言ってくれるよ」
「ふふ、気にしないでください」
サーシャは微笑む。
「それに、私が優勝したら、お願い事を聞いてもらうのは一緒ですから」
「うわ。そうなるのか」
アッシュは、ポリポリと頬をかいた。
「まあ、そん時はお手柔らかに頼むよ」
「ふふ、そうですね」
そこで、サーシャは視線を落とすように、自分の胸元に目をやった。
数瞬の沈黙。
サーシャは顔を上げると、にへらと笑った。
「ふふふ、そこまで無茶な願いは言いません。ただ、先生……アッシュにしか出来ないことを願うつもりですけど」
「ん? そうなのか?」
アッシュは、小首を傾げた。
「はい。私のお願い事はその時まで秘密ということで。それじゃあ先生」
サーシャは、ぺこりと頭を下げた。
「今日の講習、ありがとうございました。今日はこれで失礼します」
「おう。復習も忘れずにな」
アッシュは、ポンとサーシャの頭に手を乗せた。
愛弟子は嬉しそうに微笑む。
「はい。では、失礼します」
言って、クライン工房の壁沿いに置いてあったブレストプレートを装着し直し、ヘルムを脇に抱えると、サーシャもまた去って行った。
その場に残されたのは、アッシュと、未だ沈黙するオトハとユーリィだけだ。
アッシュは、しばし困った顔で二人を見つめていたが、
「……あれ?」
ふと、気付く。
「願い事って……なんか、俺にメリットが一つもなくねえか?」
クライン工房隣の大広場。
やって来るなり陽気な笑顔で、「オレと決闘しようぜ!」などと告げてきたレナに、当然ながら、アッシュは眉をひそめた。
「お前、何言ってんだ?」
当然の質問が出てくる。
その場にいるサーシャや、オトハ、ユーリィもキョトンとしていた。
すると、レナは、グッと右拳を固めてこう言った。
「まどろっこしい真似はもう止めだ」
男前に笑う。
「ここは傭兵の流儀で行こうじゃねえか」
「いや。俺は職人だぞ。なんで傭兵の流儀が出てくんだよ」
「まあ、いいから聞けよ」
アッシュのツッコミを切り捨てて、レナは言葉を続ける。
「アッシュも元傭兵なら、傭兵にとっての決闘って知っているよな。互いに対等な何かを賭けて戦うやつだ」
「そいつは知ってるが……」
何となく昔を――初めてシャルロットと出会った日を思い出して、アッシュは少し頬を引きつらせた。まさしく、あれこそそうだった。
結果、シャルロットは今、この国に来ているのだ。
「オレは、アッシュをオレの仲間にしたい」
レナは、真っ直ぐアッシュを見据えて告げた。
真剣な彼女の様子に、アッシュも、オトハたちも面持ちを改めた。
「けど、そのためにはアッシュは店まで畳まねえといけねえ。そいつは決断するには重すぎるだろ。だからさ」
レナは右の拳を突き出した。
「鎧機兵戦で決闘だ。オレが勝ったら、アッシュはオレの仲間になる」
「いや、お前な……」
ボリボリと頭をかくアッシュ。
「俺の賭けるものは転職とこの店か? 重すぎんだろ。そもそも仲間の件はもう断ったじゃねえか。決闘を受ける理由がねえよ」
「話は最後まで聞けよ」
レナは、拳をアッシュの胸板に押し付けて告げる。
「この店を賭けるんだ。オレだって相当の代価を用意するさ」
アッシュは眉根を寄せた。
「……一体何を……あっ」
そこで思いつく。
「もしかして《夜の女神杯》の優勝賞金か? 確かに金貨二百枚は相当な大金だが、流石にこの店と釣り合いは……」
「それじゃねえよ」
レナは、かぶりを振った。
「それは、アッシュが傭兵に戻るための支度金にするんだ」
「いや。勝手に支度金にすんなよ」
アッシュは苦笑いを浮かべた。
次いで、純粋な疑問としてレナに尋ねた。
「けどよ。ならレナが賭けるもんってなんだ? 何を賭けるつもりなんだ?」
「おう! よくぞ聞いてくれた!」
すると、レナはニカっと笑って答えた。
「オレ自身だ!」
一拍の間。
「……………は?」
アッシュは眉をひそめた。
サーシャ、オトハは目を丸くし、ユーリィは少し表情が消えた。
「そう! オレ自身さ!」
レナは、自分の豊かなおっぱいをポンと叩いて、再度宣言した。
「アッシュが勝ったら、オレを好きにしてもいいぜ!」
「す、好きにって……」
と、これはサーシャの声だ。
口元を両手で押さえて、耳まで真っ赤にしている。
一方、アッシュは半眼だった。
「……お前な。自分が何を言ってんのか、分かってんのか?」
「ああ! 当然分かっているさ!」
レナの態度は揺るがない。
満面の笑みのまま、アッシュに向かって大きく頷いた。
「アッシュの店の等価だからな。覚悟はしてるよ。オレを好きにしていいぜ。負けたら傭兵は引退だ。タダ同然の店員としてコキ使ってくれていい」
「……ああ、そういう意味かよ」
それはそれで問題のような気はするが、アッシュが少し表情を和らげた。
――が、レナの台詞はさらに続いた。
グッと親指を立てて。
「もちろん、エッチなことだって込みだぞ」
「……………………………おい」
「体力には自信があっからな! 毎晩だって覚悟済みだ! アッシュが望むのなら挟むし、どんな体位だってOKだぞ! 子供だってむしろ望むところだし――」
「おい。待てレナ。ステイだ。レナ」
アッシュは額に青筋を立てた。
「お前、何を言ってんだ?」
「え?」レナはキョトンとした。が、すぐにポンと手を打って彼女は笑った。
「大丈夫。オレの初めては全部アッシュのもんだぞ。キスだってまだなんだ。だって、オレはまだ処女で――」
「うん。ステイ。レナ、ステイ。ちょいと歯を喰い縛ろうな」
そして次の瞬間。
「――わふんっ!?」
非常に珍しく。
というよりも、生涯で初めて、女の子の頬をはっ倒すアッシュの姿がそこにあった。
まあ、正確に言えば、レナの頬を殴打にならない程度で荒く掴み、そのまま横に放り投げたというのが正しいのだが。
「何すんだよ! アッシュ!」
当然、無傷でレナは戻ってきた。
「それは俺の台詞だ!」
アッシュは再び青筋を浮かべた。
「いきなり何口走ってんだよ、てめえは!」
「え? だって、アッシュは大きなおっぱいが好きなんだろ?」
自分の豊かな胸を両手で挟みつつ、純真な顔で、レナはそんなことを言ってくる。
アッシュはさらに怒鳴った。
「誰情報なんだよ! それは!」
「え? サクだけど?」
「――サクヤあッ!?」
驚愕するアッシュをよそに、レナはオトハとサーシャを指差してさらに告げた。
「それに、オトハもサーシャも、おっぱい大きいし」
「え」「い、いや……」
いきなりそう言われて、サーシャとオトハが顔を赤くした。
「なあ、オトハ」
レナは、オトハに視線を向ける。次いで、とんでもない質問をしてきた。
「サクから聞いたんだけど、オトハってもうアッシュとエッチなことしたんだろ? どんな感じだったんだ?」
「―――――え」
一瞬ポカンとするオトハ。が、すぐに、
「――なななッッ!?」
激しく狼狽して後ずさった。対し、レナはどんどん前に進んでいく。
「なあなあ。どんなんだったんだ?」
穢れのない無垢なる眼差しで、レナが聞いてくる。
オトハは後ずさりしながら、何度もアッシュに視線を送った。
オトハの瞳は、ぐるぐると回り始めていた。
「その、私と、ク、クラインは……トウヤは……」
「お、おい! オト! やめろレナ! オトはその手の話に弱いんだ!」
慌ててアッシュが止めようとするが、オトハは完全にパニックになっていた。
自分の胸元に視線を落とし、二度に渡る夜を思い出して……。
――ぷしゅうう……。
そんな音が出そうなぐらい、頭から湯気を出した。
そして、大きな胸を隠すように両手で覆って、その場に座り込んだ。
三角座りで視線は地面を向いている。完全に停止状態だ。
「オ、オトっ!?」
アッシュもつられて顔を赤くした。
すると、レナは、それ見たことかと胸を張った。
「やっぱそうじゃねえか。アッシュは大きなおっぱいが好きなんだ」
「止めろっ!? 風評被害だぞっ!? それっ!?」
アッシュが叫ぶ。と、
「――異議あり!」
ユーリィが手を上げて、声を張り上げた。
「ん? 何だよ。がきんちょ」
レナがそう言うと、ユーリィはムッとした顔で答えた。
「確かにアッシュは大きなおっぱいが好き。それは認めざるを得ない」
「おおォいっ!? ユーリィ!?」
アッシュは、愕然とした顔で愛娘を見やる。
一方、可愛い愛娘は「だけど!」と言葉を続けた。
「アッシュは性格重視! それはすべてに優先されることなの!」
「……ふん」
しかし、その異議をレナは鼻で笑った。
「確かにアッシュは性格重視かも知んねえ。けど現実を見ろ。あれを見てみな!」
レナは、座り込むオトハを指差した。ユーリィは目を瞠った。
「そしてあれも見ろ!」
次いで、サーシャを指差した。主に胸部を。
サーシャは「え、えっと……」と顔を赤くして肩を震わせた。
「そんでサクを思い出せ!」
レナは、トドメとばかりにユーリィの眉間を指差した。
ユーリィは、愕然とした表情を浮かべた。
続けて、恐る恐る自分の胸元に視線を落とす。
確実に成長はしている。凹凸もあって今も膨らみかけだ。
けれど、サクヤの胸を思い出して……。
「………………ぐふ」
絶望の表情を浮かべるなり、その場にガクンと座り込んだ。
「――ユーリィ!?」
愛娘の撃沈に、アッシュは駆け寄ろうとする。
――が、
「なあなあ、アッシュ」
忍び寄ってきたレナに、片腕を掴まれてしまった。
続けて彼女は豊かな胸を目いっぱいに押し付けて、こう告げた。
「アッシュは、大きなおっぱいが好きなんだろ? な、いいだろ。ちょっとだけ。ちょっとだけだから決闘しよ? ちなみに、オレが勝った場合でも夜の件はOKだ。オレはアッシュが好きなんだ。アッシュだけの女になるつもりなんだ」
「お前、さりげなくとんでもない宣言をしてきてんな!?」
直球で愛の告白をされて、流石にアッシュも顔が少し赤くなる。
一方、レナは変わらず直球だ。さらに胸を腕に押し付けて。
「うん。オレはアッシュの女になるんだ。そこは確定だな。あとはアッシュが傭兵になるかどうかなんだよ。なっ、いいだろ? 決闘ぐらい。だって、勝っても負けても、アッシュはオレのおっぱいを好きに出来るんだぜ」
「お前な!? それはそれでセクハラなんだぞ!?」
もう一度放り投げてやろうか、と考えた時だった。
「先生。落ち着いてください」
唯一健在であるサーシャが、そう声を掛けてきた。
「ここは私に任せてくださいませんか」
愛弟子は穏やかに微笑んで語る。アッシュは「お、おう」と頷いた。
「……何だよ。サーシャ」
敵の気配を感じ取ったか、レナがアッシュの腕を離して、サーシャの前に立つ。
サーシャは微笑みを絶やさずに、
「先生が大きなおっぱいが好きなことは、とても良いことですが――」
「え? メットさん……?」
アッシュの困惑の声を無視して、言葉を続ける。
「自分の人生すべてを賭ける決闘なんて、同じ女性として見過ごせません」
実は以前、自分も同じような決闘をしたことがあるのだが、サーシャは棚に上げた。
そもそもレナの知らないことであり、全く関係のない話だ。
サーシャは話を続ける。
「いきなり決闘というのもやりすぎだと思います。だからこうしませんか?」
一拍おいて。
「《夜の女神杯》」
サーシャは、悪戯っぽく頬に指を当てて告げた。
「そこで優勝した人が、先生に一つだけ何かをお願いできることにするんです」
「……へえ。面白れえことを言うな」
レナは不敵に笑った。
「要はオレが優勝したら、アッシュに決闘をお願いするってことか」
「はい。そういうことです」
サーシャは、にっこりと笑って答える。
まるで聖女のような微笑だが、そこには揺るがない意志があった。
レナは、双眸を細めた。
「……面白しれえな。サーシャは」
「そうですか?」
小首を傾げるサーシャに対し、レナは笑った。
「いいぜ! 受けてやらあ!」
レナは、話に置いてけぼり状態のアッシュに目をやった。
「お前もそれでいいよな! アッシュ!」
「お、おう?」
それは困惑の声だったのだが、レナは承諾と受け取った。
「決まりだな!」
ニカっと笑う。
「今日は帰るよ! オレの愛機は明日取りに来るからさ! メンテナンスの方、しっかり頼むぜ! アッシュ!」
言って、レナは走り出した。
元気娘の姿は、みるみる内に見えなくなった。
それを見届けてから、サーシャは、アッシュに微笑みながら告げた。
「それじゃあ、それでよろしくお願いしますね。先生」
「え、いや、それでって……」
アッシュが困惑していると、サーシャは両の拳を固めて宣言する。
「大丈夫です。私が先生のお店を守りますから」
「あ、そういうことか」
ようやく得心がいく。
サーシャは、まず自分から決闘を引き受けてくれたのだ。サーシャが勝てればよし。負けても次はアッシュが控えている。二段構えの構図だ。
「ああ、悪りい……」
ボリボリと頭をかきながら、サーシャの元に近づいていく。
何というか、色々と暴露された気分でまだ顔が少し熱い。ちらりと目をやると、ユーリィもオトハもまだ座り込んでいた。
「メットさんは全然関係ないのにな。レナの奴も無茶苦茶言ってくれるよ」
「ふふ、気にしないでください」
サーシャは微笑む。
「それに、私が優勝したら、お願い事を聞いてもらうのは一緒ですから」
「うわ。そうなるのか」
アッシュは、ポリポリと頬をかいた。
「まあ、そん時はお手柔らかに頼むよ」
「ふふ、そうですね」
そこで、サーシャは視線を落とすように、自分の胸元に目をやった。
数瞬の沈黙。
サーシャは顔を上げると、にへらと笑った。
「ふふふ、そこまで無茶な願いは言いません。ただ、先生……アッシュにしか出来ないことを願うつもりですけど」
「ん? そうなのか?」
アッシュは、小首を傾げた。
「はい。私のお願い事はその時まで秘密ということで。それじゃあ先生」
サーシャは、ぺこりと頭を下げた。
「今日の講習、ありがとうございました。今日はこれで失礼します」
「おう。復習も忘れずにな」
アッシュは、ポンとサーシャの頭に手を乗せた。
愛弟子は嬉しそうに微笑む。
「はい。では、失礼します」
言って、クライン工房の壁沿いに置いてあったブレストプレートを装着し直し、ヘルムを脇に抱えると、サーシャもまた去って行った。
その場に残されたのは、アッシュと、未だ沈黙するオトハとユーリィだけだ。
アッシュは、しばし困った顔で二人を見つめていたが、
「……あれ?」
ふと、気付く。
「願い事って……なんか、俺にメリットが一つもなくねえか?」
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現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
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転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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