430 / 499
第14部
幕間一 夜の密談
しおりを挟む
その日の夜。
王城ラスセーヌ。
メルティアに用意された部屋にて。
「……え?」
アッシュの実弟であるコウタは、キョトンとした顔をした。
「ですので、私もお義兄さまのお手伝いをすることになりました」
「いや。それはいいけど……」
コウタは、軽く驚いた様子で目を瞬かせた。
「レナさんがこの国に来ているの?」
「はい。そうですが……」
ベッドの縁に座るメルティアは、コウタを見つめた。
「やはり、コウタもレナさんを知っているのですね」
「うん」コウタは頷いた。「昔、ボクの家に一週間ぐらい泊まった人なんだ」
確か、レナは採集系の依頼で、クライン村に訪れた傭兵の一人だった。
レナを含めて、たった五人の傭兵団。
しかし、その傭兵団が最悪で……。
「レナさんは、団に裏切られた人でね」
「どういうことですか?」
メルティアが、小首を傾げた。
コウタは少し……というよりも、かなり気まずげな顔をした。
「その、レナさんの当時の傭兵団って、レナさんの実力だけじゃなくて、容姿も含めて、彼女を入団させていたんだ。えっと、その……」
コウタは言葉を詰まらせた。
当時のレナの傭兵団は、彼女以外は全員が男だった。
身も蓋もなく言ってしまえば、当時のレナの傭兵団は、彼女を性処理も兼ねた仲間として入団させていたのだ。
当然だが、レナはそんな承諾はしていない。
傭兵団は、仕事を装ってレナに怪我をさせてから、無理やり彼女を手籠めにするつもりだったようだ。そのために、わざわざ森奥深いクライン村まで来たとのことだ。
もはや、完全なる犯罪行為である。
結句、その傭兵団は、最初から性奴隷を求めていたのだ。
その計画は、かなり危ういところまで進んだのだが、結果から言えば、その傭兵団は兄にあっさりと潰された。兄の怒りを買ったのだから当然の末路だ。
もちろん、レナの貞操も無事である。
コウタはその経緯を、出来るだけオブラートに包んでメルティアに伝えた。
「……と、まあ、そんなことがあったんだ」
「……最低の傭兵団ですね」
メルティアが、不快そうに呟く。
「……うん。ボクもそう思うよ。まあ、そんな非道なことを考えてるから、兄さんに潰されたんだけど」
当時はただの農民だった兄だが、その腕っぷしの強さはすでに破格だった。
まるで雑草でも引き抜くように、兄は現役の傭兵たちを、次々と殴り飛ばしていったのである。その光景は、たまたまその場に居合わせることになったコウタにとっては、衝撃的なものだった。きっと、当事者であるレナや、傭兵団の男たちはさらにだろう。
なにせ、人が拳で飛んでいくのだ。
傭兵団の男たちにとっては、魔獣と出くわしたような気分だったかもしれない。
その後、兄は足を怪我したレナを、ヒラサカ家まで連れ帰ったのである。
「ボクも、レナさんには可愛がってもらっていたよ」
彼女の人懐っこい笑顔は、コウタもよく憶えている。
行方知らずではあるが、コウタと同い年ぐらいの妹がいるという話も聞いた。
メルティアの話によると、その妹さんも無事見つかったようだが。
「レナさんかあ……」
コウタは、目を細めた。
「あれからもう八年も経つんだ。きっと、綺麗な人になっているだろうね。当時から凄く可愛い人だったし」
傭兵繋がりで、オトハのような凛々しい姿を思い浮かべる。
まさか、一切容姿が変わっていないとは、夢にも思わないコウタだった。
「そ、そうですね……」
レナの姿は、メルティアもこっそり確認しているので、少し頬を引きつらせた。
どう見ても、彼女は、自分と同世代にしか見えなかったからだ。
一方、コウタは無邪気に笑う。
「うん。折角だし、会ってみたいな」
「そ、そうですね。ですが」
メルティアは、あごに指先を当てた。
「レナさんとは、どんな人なのですか?」
レナが、アッシュに好意を抱いているのは一目瞭然だった。
恐らく彼女は参戦してくる。
相手こそ違うが、自分も同じ状況にあるメルティアの直感は、そう告げていた。
親友であるユーリィや、愛弟子のルカのためにも情報は探っておきたい。
「う~ん、そうだなあ」
コウタは記憶を探った。
天真爛漫で、小さなことは気にしない大らかな性格。
行動力はあるが、考える前に動いている。
好き嫌いがはっきりしている。
子犬のような人懐っこさで好きなものに対しては、極めて積極的だった。
特に兄に対しては、溢れんばかりの好意をぶつけていた。
コウタは、苦笑を浮かべた。
レナにとって、人前で抱きつくことなど当然の行為だった。
その様子に冷たい眼差しを向ける義姉の姿は、今でも脳裏に焼きついていた。
他人事であるコウタでさえ、恐れる義姉の表情。
しかし、レナは一切気にしないのだ。
むしろ義姉の視線に、兄の方の顔が強張っていたぐらいだ。
コウタは、十数秒ほど考え込む。
そして、
「その……レナさんは」
アッシュの弟は、言葉を詰まらせながらも、告げた。
「……いわゆる『アホの子』だったかな?」
――と、コウタが率直な意見を告げていた頃。
市街区にある、とある宿屋にて。
「んふふ~、んふふ~」
かつて弟のように可愛がっていたコウタに、『アホの子』認定されているなど露とも知らずに、レナは、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
風呂上がりのレナは、ご機嫌だった
ここにチェックインした時とは、別人のようなテンションである。
今は、上はノースリーブの革服。下は黒のスパッツだけという大胆な格好で、ベッドの上を蹂躙している。
「トウヤあぁ、トウヤあぁあ」
ボフボフッと頭を枕に叩きつける。
――生きていた! やっぱり生きていた!
頭の中はそれでいっぱいだ。
しかも少年だった頃よりも、カッコよくなっている。
「トウヤああぁ」
レナは、ぎゅうと枕を抱きしめた。
トウヤが死んだと聞かされ、深く落ち込み。
トウヤが生きていたと知って、心が弾んだ。
(やっぱ、オレって)
もはや疑うまでもない。
あの日から、自分はトウヤにずっと惚れているのだ。
(というより、これってもう運命だよな)
レナは枕に顔を押し付けた。はみ出た耳が赤くなっている。
こんな全く縁のない異国の地で再会したのだ。
自分はトウヤの腕の中に納まるのが、運命なのだと感じずにはいられなかった。
いずれにせよ、今は喜びが抑えきれない。
仮に犬のような尻尾があったなら、ブンブンと振っていたことだろう。
ただ、幾つか気になることもあった。
「……う~ん」
レナは、顔を上げた。
一つはサクヤのことだ。
当時、トウヤの恋人だった少女。
長らく離れ離れになったそうだが、今はこの国にいるらしい。
結局、トウヤは彼女と今も付き合っているのだろうか?
一つは街で聞いた噂。
どうも、トウヤはハーレムを築いているらしい。
実のところ、レナには、ハーレムに対する忌避感や嫌悪感はない。
というより、レナの育った貧民街では、むしろ一夫一妻の夫婦というのが珍しく、女は体を売り、裕福な男が気まぐれで女を買う。一夜限りの逢瀬もあれば、気に入ったのなら妾にする。そんなことが当たり前の世界だった。
ちなみに傭兵の世界も少し似ている。
強い傭兵には、数人の女がいることが多かった。
中には、自分以外は全員が女で愛人という傭兵団もあるぐらいだ。
レナにとって、複数の女を囲う男というのは、さほど珍しくもないのだ。とは言え、流石に女を奴隷のように扱っている連中だけは許容できないが。
閑話休題。
いずれにせよ、トウヤは強い。
会うのは久しぶりだったが、間近で触れて、改めて彼の力強さを感じた。
レナを乗せても全く揺らがない体幹に、無駄なく鍛え上げられた筋肉。最初に見た時に予想した通りだった。こっそり触れた上腕筋や腹筋は本当に凄かった。次は直で触らせてもらおうと思っている。
恐らく、トウヤは傭兵としても、相当に名を馳せていたのだろう。
強い男の周りに女が集まるのは自然なことだ。
だから、彼がハーレムを築いていても不思議ではない。
「う~ん、けど」
あごに手をやり、レナは考える。
ならば、ハーレムメンバーとはどんな女たちなのだろうか。
まず脳裏に浮かんだのは、ユーリィだ。
トウヤの養女という彼女は、サクヤにも劣らないほどに綺麗な子ではあったが、レナから見ればまだまだ子供だった。なにせ――。
「……ふふん」
レナは、自分の豊かなおっぱいを左右から挟んで鼻を鳴らす。
戦闘では邪魔で仕方がないが、やはりこれは強力な武器にもなるようだ。
多分、ユーリィは違う。まだまだお子さま過ぎる。
しかし、ユーリィと一緒に現れたサーシャという少女は違っていた。
彼女もまた、もの凄いレベルの美少女だった。
しかも、そのプロポーションときたら、素晴らしいの一言である。
すらりとした四肢に、キュッと引き締まった腰。何故か、ブレストプレートを着ていたため、確証はないが、おっぱいも相当大きいだろう。
「……むむむ」
恐らく、サーシャの方は、ハーレムメンバーの一人なのかもしれない。
「あのレベルかあ……。トウヤは相変わらずモテるんだなあ……」
ボフンっと枕に突っ伏した。
と、その時だった。ドアがノックされたのは。
「団長。ぼくだよ」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。キャスリンの声だ。
「――おう! 来たか!」
レナは、ガバッと跳ね起きた。
続けて、その場で胡坐をかくと、ドアに向かって「入っていいぞ」と声を掛けた。
数瞬の間を空けて、ドアはゆっくりと開かれた。
まず入って来たのは《フィスト》の副団長であるキャスリンだ。
しかし、
「………レナ」
入るなり、レナの親友は溜息をついた。
「ん? どうした?」
レナは小首を傾げる。と、キャスリンは、ドアの外にいるホークスとダインに、「すまないが、少しだけ待っていてくれないか」と告げて、ドアを閉めた。
レナは、キョトンした。
それに対し、キャスリンは嘆息した。
「……レナ。流石にその恰好はないよ。せめてパンツぐらいは履いてくれ」
そう言って、床に落ちていたホットパンツを、レナの方に放り投げた。
レナは、ホットパンツを両手でぱしっと受け取った。
レナは目を瞬かせた。
「え? なんでだ? 部屋の中だし、こっちの方が楽じゃねえか?」
「……レナ」
そう言うと、キャスリンは額に手を当てて、かぶりを振った。
「君は本当に無防備だね。もう少し女性として警戒したらどうだい」
そう告げても、レナはキョトンとしたままだ。
今のレナの姿は、女性的なラインが丸出しだった。
たとえ相手が仲間だけだとしても、これは流石に煽情的過ぎる。
少なくとも、キャスリンとしては、恋人には見せなくない姿だった。まあ、自分と比べるとヘコんでくるのも事実だが。
「まったく、君ってやつは……」
キャスリンは、疲れ果てたように肩を竦めた。
「アホの子ぶりが復活したのはいいことだけど、少しは気を遣いなよ。危うく手籠めにされかけたことだってあるんだろう?」
「ふんっ、それはオレが未熟だった頃の話だ!」
レナは、ホットパンツをとりあえず履いてから、シュッと拳を突き出した。
空気を弾くような鋭い突きだ。それを数度繰り返す。
「――ふっ!」
さらには、見事な弧を描いた蹴撃を披露した。
重心が全くブレていない。ベッドの上とは思えない身のこなしだった。
レナは、不敵に笑う。
「今のオレなら、どんな野郎でもぶっ飛ばせるぜ」
「……いや、レナ。そういう問題じゃないんだけど……まあ、いいよ」
キャスリンは色々と諦めた。
というより、丸投げすることにした。
「そこら辺の教育は、アッシュ君にお願いすることにするよ。彼の腕の中で恥じらいでも覚えたまえ。ともあれ今は」
キャスリンは、ドアに向かって告げる。
「もう入っていいよ。ホークス。ダイン君」
「ああ……分かった」
ドアが再び開く。そうしてホークスとダインが入室してきた。
ホークスはいつも通りの表情を。ダインはどこか不機嫌そうだった。
「おう。全員揃ったな」
再びベッドの上で胡坐をかいて、レナは言う。
ある意味、全員が予想していたこの台詞を。
「あのな。オレ、新しい仲間を入れようと思っているんだ」
王城ラスセーヌ。
メルティアに用意された部屋にて。
「……え?」
アッシュの実弟であるコウタは、キョトンとした顔をした。
「ですので、私もお義兄さまのお手伝いをすることになりました」
「いや。それはいいけど……」
コウタは、軽く驚いた様子で目を瞬かせた。
「レナさんがこの国に来ているの?」
「はい。そうですが……」
ベッドの縁に座るメルティアは、コウタを見つめた。
「やはり、コウタもレナさんを知っているのですね」
「うん」コウタは頷いた。「昔、ボクの家に一週間ぐらい泊まった人なんだ」
確か、レナは採集系の依頼で、クライン村に訪れた傭兵の一人だった。
レナを含めて、たった五人の傭兵団。
しかし、その傭兵団が最悪で……。
「レナさんは、団に裏切られた人でね」
「どういうことですか?」
メルティアが、小首を傾げた。
コウタは少し……というよりも、かなり気まずげな顔をした。
「その、レナさんの当時の傭兵団って、レナさんの実力だけじゃなくて、容姿も含めて、彼女を入団させていたんだ。えっと、その……」
コウタは言葉を詰まらせた。
当時のレナの傭兵団は、彼女以外は全員が男だった。
身も蓋もなく言ってしまえば、当時のレナの傭兵団は、彼女を性処理も兼ねた仲間として入団させていたのだ。
当然だが、レナはそんな承諾はしていない。
傭兵団は、仕事を装ってレナに怪我をさせてから、無理やり彼女を手籠めにするつもりだったようだ。そのために、わざわざ森奥深いクライン村まで来たとのことだ。
もはや、完全なる犯罪行為である。
結句、その傭兵団は、最初から性奴隷を求めていたのだ。
その計画は、かなり危ういところまで進んだのだが、結果から言えば、その傭兵団は兄にあっさりと潰された。兄の怒りを買ったのだから当然の末路だ。
もちろん、レナの貞操も無事である。
コウタはその経緯を、出来るだけオブラートに包んでメルティアに伝えた。
「……と、まあ、そんなことがあったんだ」
「……最低の傭兵団ですね」
メルティアが、不快そうに呟く。
「……うん。ボクもそう思うよ。まあ、そんな非道なことを考えてるから、兄さんに潰されたんだけど」
当時はただの農民だった兄だが、その腕っぷしの強さはすでに破格だった。
まるで雑草でも引き抜くように、兄は現役の傭兵たちを、次々と殴り飛ばしていったのである。その光景は、たまたまその場に居合わせることになったコウタにとっては、衝撃的なものだった。きっと、当事者であるレナや、傭兵団の男たちはさらにだろう。
なにせ、人が拳で飛んでいくのだ。
傭兵団の男たちにとっては、魔獣と出くわしたような気分だったかもしれない。
その後、兄は足を怪我したレナを、ヒラサカ家まで連れ帰ったのである。
「ボクも、レナさんには可愛がってもらっていたよ」
彼女の人懐っこい笑顔は、コウタもよく憶えている。
行方知らずではあるが、コウタと同い年ぐらいの妹がいるという話も聞いた。
メルティアの話によると、その妹さんも無事見つかったようだが。
「レナさんかあ……」
コウタは、目を細めた。
「あれからもう八年も経つんだ。きっと、綺麗な人になっているだろうね。当時から凄く可愛い人だったし」
傭兵繋がりで、オトハのような凛々しい姿を思い浮かべる。
まさか、一切容姿が変わっていないとは、夢にも思わないコウタだった。
「そ、そうですね……」
レナの姿は、メルティアもこっそり確認しているので、少し頬を引きつらせた。
どう見ても、彼女は、自分と同世代にしか見えなかったからだ。
一方、コウタは無邪気に笑う。
「うん。折角だし、会ってみたいな」
「そ、そうですね。ですが」
メルティアは、あごに指先を当てた。
「レナさんとは、どんな人なのですか?」
レナが、アッシュに好意を抱いているのは一目瞭然だった。
恐らく彼女は参戦してくる。
相手こそ違うが、自分も同じ状況にあるメルティアの直感は、そう告げていた。
親友であるユーリィや、愛弟子のルカのためにも情報は探っておきたい。
「う~ん、そうだなあ」
コウタは記憶を探った。
天真爛漫で、小さなことは気にしない大らかな性格。
行動力はあるが、考える前に動いている。
好き嫌いがはっきりしている。
子犬のような人懐っこさで好きなものに対しては、極めて積極的だった。
特に兄に対しては、溢れんばかりの好意をぶつけていた。
コウタは、苦笑を浮かべた。
レナにとって、人前で抱きつくことなど当然の行為だった。
その様子に冷たい眼差しを向ける義姉の姿は、今でも脳裏に焼きついていた。
他人事であるコウタでさえ、恐れる義姉の表情。
しかし、レナは一切気にしないのだ。
むしろ義姉の視線に、兄の方の顔が強張っていたぐらいだ。
コウタは、十数秒ほど考え込む。
そして、
「その……レナさんは」
アッシュの弟は、言葉を詰まらせながらも、告げた。
「……いわゆる『アホの子』だったかな?」
――と、コウタが率直な意見を告げていた頃。
市街区にある、とある宿屋にて。
「んふふ~、んふふ~」
かつて弟のように可愛がっていたコウタに、『アホの子』認定されているなど露とも知らずに、レナは、ベッドの上でゴロゴロと転がっていた。
風呂上がりのレナは、ご機嫌だった
ここにチェックインした時とは、別人のようなテンションである。
今は、上はノースリーブの革服。下は黒のスパッツだけという大胆な格好で、ベッドの上を蹂躙している。
「トウヤあぁ、トウヤあぁあ」
ボフボフッと頭を枕に叩きつける。
――生きていた! やっぱり生きていた!
頭の中はそれでいっぱいだ。
しかも少年だった頃よりも、カッコよくなっている。
「トウヤああぁ」
レナは、ぎゅうと枕を抱きしめた。
トウヤが死んだと聞かされ、深く落ち込み。
トウヤが生きていたと知って、心が弾んだ。
(やっぱ、オレって)
もはや疑うまでもない。
あの日から、自分はトウヤにずっと惚れているのだ。
(というより、これってもう運命だよな)
レナは枕に顔を押し付けた。はみ出た耳が赤くなっている。
こんな全く縁のない異国の地で再会したのだ。
自分はトウヤの腕の中に納まるのが、運命なのだと感じずにはいられなかった。
いずれにせよ、今は喜びが抑えきれない。
仮に犬のような尻尾があったなら、ブンブンと振っていたことだろう。
ただ、幾つか気になることもあった。
「……う~ん」
レナは、顔を上げた。
一つはサクヤのことだ。
当時、トウヤの恋人だった少女。
長らく離れ離れになったそうだが、今はこの国にいるらしい。
結局、トウヤは彼女と今も付き合っているのだろうか?
一つは街で聞いた噂。
どうも、トウヤはハーレムを築いているらしい。
実のところ、レナには、ハーレムに対する忌避感や嫌悪感はない。
というより、レナの育った貧民街では、むしろ一夫一妻の夫婦というのが珍しく、女は体を売り、裕福な男が気まぐれで女を買う。一夜限りの逢瀬もあれば、気に入ったのなら妾にする。そんなことが当たり前の世界だった。
ちなみに傭兵の世界も少し似ている。
強い傭兵には、数人の女がいることが多かった。
中には、自分以外は全員が女で愛人という傭兵団もあるぐらいだ。
レナにとって、複数の女を囲う男というのは、さほど珍しくもないのだ。とは言え、流石に女を奴隷のように扱っている連中だけは許容できないが。
閑話休題。
いずれにせよ、トウヤは強い。
会うのは久しぶりだったが、間近で触れて、改めて彼の力強さを感じた。
レナを乗せても全く揺らがない体幹に、無駄なく鍛え上げられた筋肉。最初に見た時に予想した通りだった。こっそり触れた上腕筋や腹筋は本当に凄かった。次は直で触らせてもらおうと思っている。
恐らく、トウヤは傭兵としても、相当に名を馳せていたのだろう。
強い男の周りに女が集まるのは自然なことだ。
だから、彼がハーレムを築いていても不思議ではない。
「う~ん、けど」
あごに手をやり、レナは考える。
ならば、ハーレムメンバーとはどんな女たちなのだろうか。
まず脳裏に浮かんだのは、ユーリィだ。
トウヤの養女という彼女は、サクヤにも劣らないほどに綺麗な子ではあったが、レナから見ればまだまだ子供だった。なにせ――。
「……ふふん」
レナは、自分の豊かなおっぱいを左右から挟んで鼻を鳴らす。
戦闘では邪魔で仕方がないが、やはりこれは強力な武器にもなるようだ。
多分、ユーリィは違う。まだまだお子さま過ぎる。
しかし、ユーリィと一緒に現れたサーシャという少女は違っていた。
彼女もまた、もの凄いレベルの美少女だった。
しかも、そのプロポーションときたら、素晴らしいの一言である。
すらりとした四肢に、キュッと引き締まった腰。何故か、ブレストプレートを着ていたため、確証はないが、おっぱいも相当大きいだろう。
「……むむむ」
恐らく、サーシャの方は、ハーレムメンバーの一人なのかもしれない。
「あのレベルかあ……。トウヤは相変わらずモテるんだなあ……」
ボフンっと枕に突っ伏した。
と、その時だった。ドアがノックされたのは。
「団長。ぼくだよ」
聞き覚えのある声が聞こえてくる。キャスリンの声だ。
「――おう! 来たか!」
レナは、ガバッと跳ね起きた。
続けて、その場で胡坐をかくと、ドアに向かって「入っていいぞ」と声を掛けた。
数瞬の間を空けて、ドアはゆっくりと開かれた。
まず入って来たのは《フィスト》の副団長であるキャスリンだ。
しかし、
「………レナ」
入るなり、レナの親友は溜息をついた。
「ん? どうした?」
レナは小首を傾げる。と、キャスリンは、ドアの外にいるホークスとダインに、「すまないが、少しだけ待っていてくれないか」と告げて、ドアを閉めた。
レナは、キョトンした。
それに対し、キャスリンは嘆息した。
「……レナ。流石にその恰好はないよ。せめてパンツぐらいは履いてくれ」
そう言って、床に落ちていたホットパンツを、レナの方に放り投げた。
レナは、ホットパンツを両手でぱしっと受け取った。
レナは目を瞬かせた。
「え? なんでだ? 部屋の中だし、こっちの方が楽じゃねえか?」
「……レナ」
そう言うと、キャスリンは額に手を当てて、かぶりを振った。
「君は本当に無防備だね。もう少し女性として警戒したらどうだい」
そう告げても、レナはキョトンとしたままだ。
今のレナの姿は、女性的なラインが丸出しだった。
たとえ相手が仲間だけだとしても、これは流石に煽情的過ぎる。
少なくとも、キャスリンとしては、恋人には見せなくない姿だった。まあ、自分と比べるとヘコんでくるのも事実だが。
「まったく、君ってやつは……」
キャスリンは、疲れ果てたように肩を竦めた。
「アホの子ぶりが復活したのはいいことだけど、少しは気を遣いなよ。危うく手籠めにされかけたことだってあるんだろう?」
「ふんっ、それはオレが未熟だった頃の話だ!」
レナは、ホットパンツをとりあえず履いてから、シュッと拳を突き出した。
空気を弾くような鋭い突きだ。それを数度繰り返す。
「――ふっ!」
さらには、見事な弧を描いた蹴撃を披露した。
重心が全くブレていない。ベッドの上とは思えない身のこなしだった。
レナは、不敵に笑う。
「今のオレなら、どんな野郎でもぶっ飛ばせるぜ」
「……いや、レナ。そういう問題じゃないんだけど……まあ、いいよ」
キャスリンは色々と諦めた。
というより、丸投げすることにした。
「そこら辺の教育は、アッシュ君にお願いすることにするよ。彼の腕の中で恥じらいでも覚えたまえ。ともあれ今は」
キャスリンは、ドアに向かって告げる。
「もう入っていいよ。ホークス。ダイン君」
「ああ……分かった」
ドアが再び開く。そうしてホークスとダインが入室してきた。
ホークスはいつも通りの表情を。ダインはどこか不機嫌そうだった。
「おう。全員揃ったな」
再びベッドの上で胡坐をかいて、レナは言う。
ある意味、全員が予想していたこの台詞を。
「あのな。オレ、新しい仲間を入れようと思っているんだ」
0
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
外れ婚約者とは言わせない! 〜年下婚約者様はトカゲかと思ったら最強のドラゴンでした〜
秋月真鳥
恋愛
獣の本性を持つものが重用される獣国ハリカリの公爵家の令嬢、アイラには獣の本性がない。
アイラを出来損ないと周囲は言うが、両親と弟はアイラを愛してくれている。
アイラが8歳のときに、もう一つの公爵家で生まれたマウリとミルヴァの双子の本性はトカゲで、二人を産んだ後母親は体調を崩して寝込んでいた。
トカゲの双子を父親は冷遇し、妾腹の子どもに家を継がせるために追放しようとする。
アイラは両親に頼んで、マウリを婚約者として、ミルヴァと共に自分のお屋敷に連れて帰る。
本性が本当は最強のドラゴンだったマウリとミルヴァ。
二人を元の領地に戻すために、酷い父親をザマァして、後継者の地位を取り戻す物語。
※毎日更新です!
※一章はざまぁ、二章からほのぼのになります。
※四章まで書き上げています。
※小説家になろうサイト様でも投稿しています。
表紙は、ひかげそうし様に描いていただきました。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
婚約も結婚も計画的に。
cyaru
恋愛
長年の婚約者だったルカシュとの関係が学園に入学してからおかしくなった。
忙しい、時間がないと学園に入って5年間はゆっくりと時間を取ることも出来なくなっていた。
原因はスピカという一人の女学生。
少し早めに貰った誕生日のプレゼントの髪留めのお礼を言おうと思ったのだが…。
「あ、もういい。無理だわ」
ベルルカ伯爵家のエステル17歳は空から落ちてきた鳩の糞に気持ちが切り替わった。
ついでに運命も切り替わった‥‥はずなのだが…。
ルカシュは婚約破棄になると知るや「アレは言葉のあやだ」「心を入れ替える」「愛しているのはエステルだけだ」と言い出し、「会ってくれるまで通い続ける」と屋敷にやって来る。
「こんなに足繁く来られるのにこの5年はなんだったの?!」エステルはルカシュの行動に更にキレる。
もうルカシュには気持ちもなく、どちらかと居言えば気持ち悪いとすら思うようになったエステルは父親に新しい婚約者を選んでくれと急かすがなかなか話が進まない。
そんな中「うちの息子、どうでしょう?」と声がかかった。
ルカシュと早く離れたいエステルはその話に飛びついた。
しかし…学園を退学してまで婚約した男性は隣国でも問題視されている自己肯定感が地を這う引き籠り侯爵子息だった。
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★8月22日投稿開始、完結は8月25日です。初日2話、2日目以降2時間おき公開(10:10~)
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる