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第14部

第二章 レディース・サミット3①

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 かつて、少年と少女だった二人が再会を果たしている頃。
 王城ラスセーヌの、第三会議室にて。
 一つの大きな戦いが、いま幕を開けようとしていた。

 完全に静まり返った会議室。
 長く大きいテーブル。その上座には、一人の女性が座っていた。

 歳の頃は十六歳ほどか。
 黒い瞳に、長く艶やかな黒い髪。
 女神さえ彷彿させる圧倒的な美貌に、神懸かっているぐらいのプロポーション。身に纏う服は、背中や、半袖の縁に炎の華の紋が刺繍された白いタイトワンピースだ。足には黒いストッキングを纏い、茶色の長いブーツを身につけていた。

 ――サクヤ=コノハナ。

 の恋人であり、婚約者である女性だ。
 それは過去形ではない。彼との再会でそう確信している。
 サクヤは自分の元に置かれた紅茶を一瞥してから、周囲を見渡した。

 ここには今、サクヤを入れて八人の女性がいた。
 上座にサクヤ。右側に四人。左側に三人いる。

 サクヤは右側から、視線を向けた。
 一番近くにいるのは、最も幼い少女だった。
 見た目は十三歳ぐらいか。しかし、情報ではもうじき十五歳になるはず。

 一言でいえば、美少女だった。
 少しウェーブのかかった空色の髪に、神秘的な翡翠色の瞳。
 表情は少し不愛想だが、顔立ちはまるで人形のように整っている。
 肌の色はサクヤよりも白く、実にきめ細やかだ。まるで処女雪のようである。スタイルこそまだ幼いが、身に纏った白いつなぎの上から、女性的な特徴が見られる。いつまでも子供ではない。確実に成長しているということか。

 ――ユーリィ=エマリア。

 彼の愛娘。サクヤにとっては『片割れ』とも呼べる少女。
 彼女は、神妙な顔でサクヤを見つめていた。
 サクヤは、続けて、隣の少女に目をやった。

 歳の頃は十七ほどか。
 琥珀色の瞳で、じっとサクヤを見つめている少女。
 ユーリィにも劣らない美貌に、肩辺りまで伸ばした銀色の髪がとても美しい少女だ。
 机の上には銀色のヘルム。橙色のこの国の騎士学校の制服の上にブレストプレートを着装している。恐らくスタイルにおいては、サクヤにも劣らない。

 ――サーシャ=フラム。

 彼の愛弟子と聞く。
 実は、サクヤは七人の中でも彼女を、一、二を争うぐらいに警戒していた。
 何故なら、彼女は、かなり彼好みの女性だからだ。
 スタイルも。性格面においてもだ。
 サクヤは小さく呼気を吐いてから、次に視線を移す。

 サーシャの隣にいるのは、同じ制服を着た髪の長い少女だった。
 年齢はサーシャと同じだろう。

 切れ長の蒼い瞳と、絹糸のような長い栗色の髪が印象的な少女だ。
 スタイルこそスレンダーでサーシャと正反対だが、美貌においては負けてはいない。
 おっとりして、まだ幼さのあるサーシャに比べると、大人びた美しさだ。
 勝気そうではあるが、実のところ、彼を支えるタイプと見た。
 今はサクヤの方を見極めるような眼差しを向けていた。
 この少女も侮れない。

 アシリア=エイシス。その名を胸に刻む。

 そして右側、最後の一人。
 年齢は十五歳であると事前に調べてある。
 淡い栗色のショートヘア。長い前髪が印象的だが、それは一種のヴェールだ。その奥に隠された、澄んだ湖のような水色の瞳を際立てるための薄布だ。
 サーシャ、アリシアと同じ制服を着ている。プロポーションはサーシャより少し劣るが、年齢から鑑みると実に見事なものだ。美貌もまたサーシャたちに劣らないだろう。

 ――ルカ=アティス。

 驚くべきことに、彼女はこの国の王女さまだった。
 彼女はおどおどとしていたが、揺るぎない意志の光を宿した瞳をしていた。
 ――いや、この場にいる時点で、彼女の覚悟は疑うまでもないか。
 一体、どこまで幅広く手を出しているのか。
 サクヤは、彼を殴りたくなってきた。
 何はともあれ、サクヤは視線を左側に移した。
 ルカの前。奥から順に目をやっていく。

「………」

 サクヤの視線に気付いたのか、無言で彼女が睨みつけてくる。
 藍色の髪に、アリシアよりも深い蒼い瞳。
 この中では最年長。二十五、六歳ぐらいか。
 どこか、冷たさを感じさせる美貌の持ち主だった。
 スタイルも申し分ない。服の上からは、大きな胸が存在をアピールしていた。
 ただ、その服なのだが、彼女は会うたびに同じ服を着ていた。

 メイド服である。
 彼女は、エリーズ国のレイハート公爵家に務めるメイドでもあるそうだ。

 ――シャルロット=スコラ。

 彼の専属にして専任メイドと公言している女性だった。

(トウヤ。あなたは元農民でしょう? どうしてメイドさんが付いているのよ)

 思わず、内心で彼にツッコミを入れるサクヤ。
 何にせよ、残り二人。恐らくこのメンバーの中のツートップ。
 シャルロットの隣に、視線を移す。
 まず目に映ったのは、炎のような真紅の髪。長さは肩にかかるほど。癖の強いウェーブによって、より強く炎の印象を抱かせる髪だ。

 年齢は二十二歳。彼の一つ下であり、サクヤの二個下だ。
 しかし、彼女は年上を敬う様子もなく、髪と同じ真紅色の瞳でサクヤを睨みつけていた。
 スレンダーな肢体もあって、まるでネコにでも警戒されているような気になる。
 そして、ここまで来てしまうと、もう当然と言うべきなのか、他のメンバーとタイプこそ違うが、やはり、彼女も群を抜いた美貌を持っている。

 グレイシア皇国の黒い騎士服を纏う彼女の名は、ミランシャ=ハウル。

 ハウル公爵家のご令嬢だ。この中では、ルカに次いでの良家のお嬢さまである。
 彼女は両腕を組んで、サクヤを見据え続ける。

(やはり警戒はされているみたいね。仕方がないか)

 内心で嘆息するサクヤ。
 そして――。

「………」

 サクヤは、最後の一人に目をやった。
 年齢は二十二歳。十代後半にも見えるが、ミランシャと同い年であるらしい。
 髪型はショートヘア。色は紫がかった黒に近い紺色――紫紺色だ。瞳の色も同色。ただ、彼女は右目のみ刺繍を施した白い眼帯スカーフで隠していた。別に怪我をしている訳ではなく、彼女の右目は生まれながら失明しているらしい。その代わりに、その右目は『銀嶺の瞳』と呼ばれる不思議な力も宿しているらしいが。

 腰には小太刀。全身には黒い革服を纏っている。彼女の本業は傭兵だ。その肩書に相応しく、隙のない眼差しでサクヤを見据えていた。

 だが、サクヤが一番気になるのは、彼女の美貌だった。
 まずはプロポーション。本当に傭兵なのかと思うほどに華奢だ。だというのに、大きな胸を筆頭に、引き締まる部位は引き締まり、全身にはしなやかさを持っている。サクヤやサーシャにも劣らないスタイルを持っているのだ。
 しかも、実に色っぽい。あれは『女』でなければ出せない艶やかさだ。

(……やっぱり)

 まだ彼から直接伝えられた訳ではないが、女の直感が告げていた。

 ――オトハ=タチバナ。

 明らかに、彼女だけは違う・・
 恐らく彼女だけは、すでに自分と同じ場所ステージに立っている。
 ――身も心も、彼に愛された者だ。

(オトハさんが一番手強いわ。まあ、他の人もだけど)

 サクヤは、小さく嘆息した。
 本当に、凄まじいメンバーばかり揃っている。
 自分が目を離した内に、ここまで激化するものなのだろうか……。
 まあ、村にいた頃から、こういった片鱗は充分にあったが。
 だが、

(うん。落ち込んでも仕方がない! 私はもう覚悟を決めたのだから!)

 サクヤは、真っ直ぐ前を見据えた。
 そしてこの部屋に来て、初めて口を開いた。

「皆さん。初めまして」

 にっこりと笑う。

「私の名はサクヤ=コノハナです。アッシュ=クライン――いえ。トウヤ=ヒラサカの婚約者です。よろしくお願いしますね」

 とりあえず、強烈な先制パンチを食らわせた。
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