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第11部
第八章 そして再会⑥
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――同時刻。
場所は変わり、アティス王国の一角。鉱山街グランゾ。
封鎖された坑道の前に、一機のゴーレムがいた。
しかし、メルティアに同行する三機とは、少し造形と色が違う。
その機体は、二本の角が付いた竜の仮面を被っており、玩具のような処刑刀を腰の後ろにかけていた。そして装甲の色は目も覚めるような蒼だ。
「……………」
蒼いゴーレムは、空を見上げていた。
すると、
「ふむ? どうした? サザンXよ」
ゴーレムに声をかける者がいた。
サザンXと呼ばれた機体は、その人物に目をやった。
――美しい少女だった。
年の頃は恐らく十五歳ほど。
瞳は宝石のように輝く紫色。背中まである髪は、緩やかに波打つ淡い菫色。獣人族のネコ耳を彷彿させるような癖毛を持つ少女だ。少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏い、首には同色のチョーカー。両足には紐付きの長いブーツを履いている。
身長は同年代の少女達よりもかなり低いが、プロポーションは同年代など相手にならないほどに抜群だ。あどけない笑顔の中にも、妖艶さがすでにある。
「どうかしたのかの?」
古風な口調で再び尋ねる。彼女はたゆんっと大きな胸を揺らして前のめりに屈むと、サザンXと視線を合わせた。
サザンXは「……ウム」と頷いた。
「……メルサマ、ガ、キテイルヨウナ、キガシタ」
「……む」
少女は、少しムッとする。
「あのギンネコ娘か? それはなかろう」
彼女は言う。
が、すぐに美麗な眉根を寄せて。
「いや待て。この国には、『義兄上』がおられるからのう。わらわのコウタに勝手についてきている可能性はあるのか……」
「……ウム。キットソウ。ヨカッタ」
サザンXは、自分の胸部装甲をゴンと叩いた。
「……ヨウヤク、コウタニ、オタカラヲ、ワタセル」
「い、いや待て。サザンXよ。その、わらわもノリで付き合ったが、あの写真を、本気でコウタに渡す気かの?」
少女が頬を赤く染めた。
サザンXには、とある一枚の写真が保管されているのだ。
少女を被写体にした、彼女が心から愛する者以外には、とても見せられない写真だ。
「……ムロン」
サザンXは、力強く頷く。
「……コウタモ、キット、ヨロコブ」
「よ、喜んでくれるかの? コウタは?」
「……ウム。オヘソハ、コウタノ、ダイコウブツ、ダカラナ。ヒメハ、トテモ、キレイダッタ。オオヨロコビ、マチガイナシ」
「そ、そうか? そうかそうか! ま、まあ、夫の趣味趣向に応えるのも妻の務め。いずれくる本番の際には、撫でるぐらいは許してやるか!」
と、大きな胸を堂々と張って、彼女は言う。
「……エヴァンシード支部長?」
その時、声を掛けられた。
振り抜くと、そこには二十代半ばの赤い眼鏡をかけた女性がいた。
黒一色のスーツを纏う美女だ。
「何じゃ? カテリーナか?」
カテリーナ=ハリス。
犯罪組織・《黒陽社》において第5支部・支部長の秘書を務める才女だ。
「宿の予約は取れたのかの?」
少女がそう尋ねる。と、カテリーナは「はい」と答えた。
「ゲイルが宿で待機しております。それよりも」
周囲を見渡し、
「他の支部長の方々は?」
「奴らかの?」
少女は、視線を廃坑道の奥に向けた。
「ここで墓参りも味気ない。そう言って奥に行きおったわ」
「そうですか。しかし、姫さま――失礼。エヴァンシード支部長は、一緒に行かれなかったのですか?」
名称を言い直す秘書に、少女は苦笑した。
「お主までわらわを姫と呼ぶな。支部長の肩書きもいらぬ。リノでよい。お主とは何だかんだで長い付き合いだしの」
最年少の支部長にして、《九妖星》の紅一点。
《水妖星》の称号を持つ少女――リノ=エヴァンシードは、そう告げた。
「では、失礼致しまして」
カテリーナはコホンと喉を鳴らした。
「どうして、リノお嬢さまは残られたのですか?」
「わらわか? 同じ支部長。同じ《九妖星》同士と言っても、わらわはあの男と仲が良いとは言い難かったからのう……」
リノは、大きな胸を揺らして嘆息した。
「お主も女なら分かるじゃろう。あのセクハラ男め。あやつに好意を抱く奇特な女などリディア=ヒルぐらいじゃ」
「まあ、確かに。しかしヒルと言えば……」
カテリーナは少し不服そうに、呟いた。
「兄であるカルロスが《土妖星》に就任したとか」
「ああ、そう言う話じゃったのう」
リノは、あごに指先を当てた。
「お主の同期らしいの。ランドネフィアの契約者か。一度会ってみたいの」
「つまらない男ですわ。ただ、彼と会うとしたら、必然的にお父上ともお会いすることになるのでは?」
「それはごめんじゃの」リノは渋面を浮かべた。「父上は暑苦しくてかなわん。会う度に新規参入の義母上が増えているのにも、そろそろ飽きた」
「……まあ、英雄は色を好むとも申しますし」
一応、フォローを入れるカテリーナ。
そんな風に、女性二人が何とも言えない表情を見せている。と、
「……ム。ハゲタチガ、モドッテキタ」
サザンXが言う。
リノ達は視線を廃坑道に向けた。その際、「ハゲは取り消しなさい」と、カテリーナがサザンXの頭をポコンと叩いていたが。
廃坑から出てきたのは、黒いスーツを纏う三人の男だった。
一人は三十代後半。右側の額に大きな裂傷を持つ、頬のこけた人物だ。
まるで、古の戦士を思わせる佇まいで歩いている。
そして男はリノの前で立ち止まると、深々と頭を下げた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。姫」
「気にするな。ラゴウよ」
リノは、二カッと笑った。
《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ。
彼もまた《九妖星》の一角であった。
「やれやれ。ようやく外ですか」
続く二人目は四十代後半。温和な顔立ちに、細い瞳を持つ男だった。
一人目とは対照的に、しょぼくれた中間管理職のような雰囲気を持っている。
頭部が薄いと酷評された、《地妖星》ボルド=グレッグである。
「お疲れ様です。ボルドさま」
カテリーナが、愛しい男に労いの言葉をかける。
対するボルドは苦笑した。
「墓参りに、お疲れ様はちょっと……」
「……ふん、確かにそうだな」
と、言葉を継いだのは最後の人物。
彼だけは、他の同行者と年齢が随分と違っていた。
世代的には、リノと同程度。
灰色の髪を持つ十代後半の少年である。
少年は立ち止まると、スーツの中から安物の煙草を取り出す。
両手で隠し、ボッと火を点けた。
紫煙が昇る。
少年は数十秒ほど一服すると、携帯灰皿を取り出し、火を消した。
「レオス=ボーダー支部長」
ボルドが呆れるように声をかける。
「折角若いお姿になったのです。これを機に煙草を止められては?」
「ふん。どんな姿になろうと俺は俺だ。趣味趣向は変わらんよ。大樹とは、容易くは揺らがぬものだ」
少年――《木妖星》レオス=ボーダーは、言う。
「ともあれ、これで目的の一つは遂げたな」
レオスは、カテリーナに目をやった。
「お前が、ここにいるということは、もう宿の準備は整ったのか?」
「はい。ボーダー支部長」
カテリーナは頷いた。
が、真剣な面持ちの中、少しだけ苦笑を浮かべて。
「しかし、今回の来訪はどういった分類なるのでしょうか? 社員旅行ですか?」
彼女の素朴な質問に、全員が沈黙した。
「まあ、今回はボーダー支部長が計画した慰安旅行。全員が有給を取った上ですから、完全にプライベートな旅行でしょう。ただ……」
ボルドが、細い瞳をさらに細めた。
「《水妖星》、《金妖星》、《地妖星》、《木妖星》。ふふ、《九妖星》の半数が参加するのは、異例中の異例でしょうが」
「そう気負う必要もあるまい」
最古の《九妖星》であるレオスが言う。
「俺に言わせてみせれば、貴様らは揃って働き過ぎなのだ。田舎というのも、これで味なものだぞ。今回は素直に休暇を楽しんだらどうだ?」
「うむ! レオスの言う通りじゃ!」
腕を腰に、大きな胸を揺らして、リノが堂々と宣言する。
「兎にも角にも、わらわはコウタに逢いたい! しばらく逢えんかったからの! 存分に甘えたい! いっそ一線を越えるのもドンと来いじゃ! そして何よりも、コウタの正妻として義兄上に、ぜひともご挨拶せねば!」
「……姫」
元気一杯の姫君に、ラゴウは嘆息した。
「出来れば、そう言った発言は自重願います。その件を知れば、我が主君は血の涙を流しかねませんので。ですが……」
そこでラゴウは、ゴキン、と拳を鳴らした。
「あの少年との再会を楽しみにしているのは、吾輩も同じですな。初めて対峙したあの日から、果たしてどれほどの高みに至ったのか。興味が尽きませぬ。そして当然、最強と謳われるあの少年の兄にも」
「はは、戦闘狂の血は抑えてくださいね。ラゴウ」
ボルドが、和やかな笑みで告げる。
「クラインさんは私の宿敵なのですから。今回もまた、菓子折でも持って行くつもりですよ。まあ、あのクラインさんの実弟。私も非常に興味はありますが……」
と、あごに手をやって「ふむふむ」と考え込み始めた。
そんなことを呟く同胞達に、
「本当に協調性がないな。貴様らときたら」
レオスは「ふん」と鼻を鳴らした。
「まぁ、いいさ」
自分の欲望に素直すぎる各支部の長達。
だが、それでこそ《妖星》だ。
己自身も含めて、レオスは自嘲気味に笑った。
そして少年の姿をした怪物は、告げる。
「余暇は人それぞれだしな。束縛はせん。各々存分に楽しむがいいさ」
場所は変わり、アティス王国の一角。鉱山街グランゾ。
封鎖された坑道の前に、一機のゴーレムがいた。
しかし、メルティアに同行する三機とは、少し造形と色が違う。
その機体は、二本の角が付いた竜の仮面を被っており、玩具のような処刑刀を腰の後ろにかけていた。そして装甲の色は目も覚めるような蒼だ。
「……………」
蒼いゴーレムは、空を見上げていた。
すると、
「ふむ? どうした? サザンXよ」
ゴーレムに声をかける者がいた。
サザンXと呼ばれた機体は、その人物に目をやった。
――美しい少女だった。
年の頃は恐らく十五歳ほど。
瞳は宝石のように輝く紫色。背中まである髪は、緩やかに波打つ淡い菫色。獣人族のネコ耳を彷彿させるような癖毛を持つ少女だ。少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏い、首には同色のチョーカー。両足には紐付きの長いブーツを履いている。
身長は同年代の少女達よりもかなり低いが、プロポーションは同年代など相手にならないほどに抜群だ。あどけない笑顔の中にも、妖艶さがすでにある。
「どうかしたのかの?」
古風な口調で再び尋ねる。彼女はたゆんっと大きな胸を揺らして前のめりに屈むと、サザンXと視線を合わせた。
サザンXは「……ウム」と頷いた。
「……メルサマ、ガ、キテイルヨウナ、キガシタ」
「……む」
少女は、少しムッとする。
「あのギンネコ娘か? それはなかろう」
彼女は言う。
が、すぐに美麗な眉根を寄せて。
「いや待て。この国には、『義兄上』がおられるからのう。わらわのコウタに勝手についてきている可能性はあるのか……」
「……ウム。キットソウ。ヨカッタ」
サザンXは、自分の胸部装甲をゴンと叩いた。
「……ヨウヤク、コウタニ、オタカラヲ、ワタセル」
「い、いや待て。サザンXよ。その、わらわもノリで付き合ったが、あの写真を、本気でコウタに渡す気かの?」
少女が頬を赤く染めた。
サザンXには、とある一枚の写真が保管されているのだ。
少女を被写体にした、彼女が心から愛する者以外には、とても見せられない写真だ。
「……ムロン」
サザンXは、力強く頷く。
「……コウタモ、キット、ヨロコブ」
「よ、喜んでくれるかの? コウタは?」
「……ウム。オヘソハ、コウタノ、ダイコウブツ、ダカラナ。ヒメハ、トテモ、キレイダッタ。オオヨロコビ、マチガイナシ」
「そ、そうか? そうかそうか! ま、まあ、夫の趣味趣向に応えるのも妻の務め。いずれくる本番の際には、撫でるぐらいは許してやるか!」
と、大きな胸を堂々と張って、彼女は言う。
「……エヴァンシード支部長?」
その時、声を掛けられた。
振り抜くと、そこには二十代半ばの赤い眼鏡をかけた女性がいた。
黒一色のスーツを纏う美女だ。
「何じゃ? カテリーナか?」
カテリーナ=ハリス。
犯罪組織・《黒陽社》において第5支部・支部長の秘書を務める才女だ。
「宿の予約は取れたのかの?」
少女がそう尋ねる。と、カテリーナは「はい」と答えた。
「ゲイルが宿で待機しております。それよりも」
周囲を見渡し、
「他の支部長の方々は?」
「奴らかの?」
少女は、視線を廃坑道の奥に向けた。
「ここで墓参りも味気ない。そう言って奥に行きおったわ」
「そうですか。しかし、姫さま――失礼。エヴァンシード支部長は、一緒に行かれなかったのですか?」
名称を言い直す秘書に、少女は苦笑した。
「お主までわらわを姫と呼ぶな。支部長の肩書きもいらぬ。リノでよい。お主とは何だかんだで長い付き合いだしの」
最年少の支部長にして、《九妖星》の紅一点。
《水妖星》の称号を持つ少女――リノ=エヴァンシードは、そう告げた。
「では、失礼致しまして」
カテリーナはコホンと喉を鳴らした。
「どうして、リノお嬢さまは残られたのですか?」
「わらわか? 同じ支部長。同じ《九妖星》同士と言っても、わらわはあの男と仲が良いとは言い難かったからのう……」
リノは、大きな胸を揺らして嘆息した。
「お主も女なら分かるじゃろう。あのセクハラ男め。あやつに好意を抱く奇特な女などリディア=ヒルぐらいじゃ」
「まあ、確かに。しかしヒルと言えば……」
カテリーナは少し不服そうに、呟いた。
「兄であるカルロスが《土妖星》に就任したとか」
「ああ、そう言う話じゃったのう」
リノは、あごに指先を当てた。
「お主の同期らしいの。ランドネフィアの契約者か。一度会ってみたいの」
「つまらない男ですわ。ただ、彼と会うとしたら、必然的にお父上ともお会いすることになるのでは?」
「それはごめんじゃの」リノは渋面を浮かべた。「父上は暑苦しくてかなわん。会う度に新規参入の義母上が増えているのにも、そろそろ飽きた」
「……まあ、英雄は色を好むとも申しますし」
一応、フォローを入れるカテリーナ。
そんな風に、女性二人が何とも言えない表情を見せている。と、
「……ム。ハゲタチガ、モドッテキタ」
サザンXが言う。
リノ達は視線を廃坑道に向けた。その際、「ハゲは取り消しなさい」と、カテリーナがサザンXの頭をポコンと叩いていたが。
廃坑から出てきたのは、黒いスーツを纏う三人の男だった。
一人は三十代後半。右側の額に大きな裂傷を持つ、頬のこけた人物だ。
まるで、古の戦士を思わせる佇まいで歩いている。
そして男はリノの前で立ち止まると、深々と頭を下げた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。姫」
「気にするな。ラゴウよ」
リノは、二カッと笑った。
《金妖星》ラゴウ=ホオヅキ。
彼もまた《九妖星》の一角であった。
「やれやれ。ようやく外ですか」
続く二人目は四十代後半。温和な顔立ちに、細い瞳を持つ男だった。
一人目とは対照的に、しょぼくれた中間管理職のような雰囲気を持っている。
頭部が薄いと酷評された、《地妖星》ボルド=グレッグである。
「お疲れ様です。ボルドさま」
カテリーナが、愛しい男に労いの言葉をかける。
対するボルドは苦笑した。
「墓参りに、お疲れ様はちょっと……」
「……ふん、確かにそうだな」
と、言葉を継いだのは最後の人物。
彼だけは、他の同行者と年齢が随分と違っていた。
世代的には、リノと同程度。
灰色の髪を持つ十代後半の少年である。
少年は立ち止まると、スーツの中から安物の煙草を取り出す。
両手で隠し、ボッと火を点けた。
紫煙が昇る。
少年は数十秒ほど一服すると、携帯灰皿を取り出し、火を消した。
「レオス=ボーダー支部長」
ボルドが呆れるように声をかける。
「折角若いお姿になったのです。これを機に煙草を止められては?」
「ふん。どんな姿になろうと俺は俺だ。趣味趣向は変わらんよ。大樹とは、容易くは揺らがぬものだ」
少年――《木妖星》レオス=ボーダーは、言う。
「ともあれ、これで目的の一つは遂げたな」
レオスは、カテリーナに目をやった。
「お前が、ここにいるということは、もう宿の準備は整ったのか?」
「はい。ボーダー支部長」
カテリーナは頷いた。
が、真剣な面持ちの中、少しだけ苦笑を浮かべて。
「しかし、今回の来訪はどういった分類なるのでしょうか? 社員旅行ですか?」
彼女の素朴な質問に、全員が沈黙した。
「まあ、今回はボーダー支部長が計画した慰安旅行。全員が有給を取った上ですから、完全にプライベートな旅行でしょう。ただ……」
ボルドが、細い瞳をさらに細めた。
「《水妖星》、《金妖星》、《地妖星》、《木妖星》。ふふ、《九妖星》の半数が参加するのは、異例中の異例でしょうが」
「そう気負う必要もあるまい」
最古の《九妖星》であるレオスが言う。
「俺に言わせてみせれば、貴様らは揃って働き過ぎなのだ。田舎というのも、これで味なものだぞ。今回は素直に休暇を楽しんだらどうだ?」
「うむ! レオスの言う通りじゃ!」
腕を腰に、大きな胸を揺らして、リノが堂々と宣言する。
「兎にも角にも、わらわはコウタに逢いたい! しばらく逢えんかったからの! 存分に甘えたい! いっそ一線を越えるのもドンと来いじゃ! そして何よりも、コウタの正妻として義兄上に、ぜひともご挨拶せねば!」
「……姫」
元気一杯の姫君に、ラゴウは嘆息した。
「出来れば、そう言った発言は自重願います。その件を知れば、我が主君は血の涙を流しかねませんので。ですが……」
そこでラゴウは、ゴキン、と拳を鳴らした。
「あの少年との再会を楽しみにしているのは、吾輩も同じですな。初めて対峙したあの日から、果たしてどれほどの高みに至ったのか。興味が尽きませぬ。そして当然、最強と謳われるあの少年の兄にも」
「はは、戦闘狂の血は抑えてくださいね。ラゴウ」
ボルドが、和やかな笑みで告げる。
「クラインさんは私の宿敵なのですから。今回もまた、菓子折でも持って行くつもりですよ。まあ、あのクラインさんの実弟。私も非常に興味はありますが……」
と、あごに手をやって「ふむふむ」と考え込み始めた。
そんなことを呟く同胞達に、
「本当に協調性がないな。貴様らときたら」
レオスは「ふん」と鼻を鳴らした。
「まぁ、いいさ」
自分の欲望に素直すぎる各支部の長達。
だが、それでこそ《妖星》だ。
己自身も含めて、レオスは自嘲気味に笑った。
そして少年の姿をした怪物は、告げる。
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