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第11部
第二章 鋼の騎士、アティスに立つ④
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「ミ、ミランシャさんが、どうしてここに……」
アリシアが呆然と呟く。
が、同時に一つ納得する。
どおりで、目の前に停泊している鉄甲船に見覚えがあるはずだ。
これは、アリシア達が、皇国に向かう時に乗せてもらった船なのだから。
「ふふ、色々あってね。けど、その前に……」
ミランシャは一気に駆け出し、コウタの首を抱きしめた。
「もう! 先に行ったら寂しいじゃない! コウタ君ったら!」
「い、いえ、ミランシャさんにも準備があると思って」
「そんなの気遣わなくていいのよ。それより、アタシのことは、ミラお姉ちゃんって呼んでって言ってるじゃない!」
言って、黒髪の少年を強く抱きしめる。
控え目でも柔らかな胸を顔に押しつけられ、少年の顔を真っ赤だった。
エリーズ側のメンバーは、どうも呆れているような様子なのだが、アリシア達、アティス側の人間は呆然とした。ミランシャが、アッシュ以外の異性に、ここまで愛情を込めてスキンシップする姿を初めて見たからだ。
「(え? ど、どういうこと!?)」
アリシアが、愕然とした声で切り出した。
「(う、うむ。ミランシャさんのあんなデレた顔は初めて見るな)」
「(……う、うん。付き合いの長い私でも初めて見る)」
ロック、ユーリィが困惑し、
「(え、えっと、単純に、コウタ君がアルフ君の友達とかじゃないかな?)」
サーシャがフォローを入れるが、
「(ん? いや、もっと単純に)」
エドワードが言葉を締める。
「(師匠から、あいつに乗り替えただけじゃねえの?)」
「「「…………………」」」
全員が無言になった。
特に女性陣は困惑している。
その可能性はない。普段ならそうはっきりと言えるが、あの黒髪の少年への態度は紛れもなく強い愛情が込められていた。
少年自身はかなり動揺しつつ、照れているようだが。
(……むう)
一番ミランシャと付き合いが長いユーリィが呻く。
恋敵――いや、今となってはそう呼ぶのも適切でない気もするが、後に起こる、たった一つの正妻の座を争う正妻戦争が待ち構えている今、敵が減るのは良いことだ。
しかし、不思議なもので、自分の好きな人が乗り替えられたとなると、やはりいい気分ではなかった。それはアリシア、サーシャも同じ気持ちだろう。
唯一、ミランシャと面識がないルカだけは首を傾げていたが。
と、その時だった。
「ミランシャさま。あまりコウタ君に迷惑を掛けるのはいかがなものかと」
またしても桟橋から声が響いた。
どうやら、まだ乗船者がいたようだ。
アリシア達の視線が、自然と桟橋に向けられる。
(……え?)
ユーリィは、キョトンとして目を見開いた。
「(うわあ、また綺麗な人が出てきたわね)」
「(うん。ミランシャさんと同い歳ぐらいかな。綺麗なメイドさんだ)」
アリシアとサーシャの……実に呑気な声が聞こえてくる。
ロックとエドワードは「「おお!」」とメイドさんの美貌に感嘆していた。
そんな中、ユーリィだけは、ゴシゴシと一度目を擦ってから、彼女を見つめ直した。
大きなサックを背中に背負った、二十代半ばぐらいの女性。
肩まで伸ばした藍色の髪と、深い蒼色の瞳。やや冷淡なイメージはあるが、充分に整った鼻梁。プロポーションもサーシャに劣らない美しい女性だ。
(……うん。他人の空似ってあるんだ)
ユーリィは、そう思おうとした――が、
「あっ! シャルロットさん! お久しぶりです!」
ポン、と手を叩くルカの声が、ユーリィの希望を打ち砕いた。
「はい、お久しぶりです。ルカさま。そして――」
メイドさんも、ユーリィに気付いていたようで微笑む。
「ユーリィちゃんも。本当に大きくなりましたね」
「ひ、ひゥ」
ユーリィは、思わずルカのような呻き声を出してしまった。
腰まで引けて、少し後ずさる。
「え? ユーリィちゃん? あの人と知り合いなの?」
サーシャがそう尋ねてくるが、答えられない。
――と、その代わりにメイドさんが、コツコツと桟橋を降りてきた。
「初めまして」
そして、サーシャ達の前で頭を下げる。
「レイハート家のメイドを務める、シャルロット=スコラと申します。皆さま方におかれましては以後、お見知りおきを」
……………………。
………………。
……数瞬の間。
――ズザザザッ!
サーシャとアリシアは、いきなり後方に跳んで間合いを取った。
二人の顔は、愕然としてた。
「え? え?」
そして、一人だけ事態が飲み込めていないルカを置いてけぼりにして、幼馴染コンビはメイドさんを指差して叫んだ!
「「――た、戦うメイドさんだっ!」」
「……? まあ、戦うこともありますが」
メイドさん――シャルロットは、粛々と答える。
事情を全く知らないロック、エドワード、ガハルドなどは完全に困惑していた。
「おい。どういうことだよ。エイシス」
「え、えっと、それは……」
エドワードに問われるも、アリシアには何も答えられなかった。
なにせ、不測の事態が続きすぎる。
今日はただ、ルカの友人達を迎えに来ただけなのに。
いきなりのミランシャの来訪。
さらには、警戒すべきと教えられた人物の襲来だ。
混乱するなと言う方が無理である。
その中でも、ユーリィの混乱は一際だった。
「ほ、本当にシャルロットさん、なの?」
「ええ。シャルロットです」
渦中の人物の一人であるシャルロットは、堂々としたものだった。
「本当に久しぶりです。ユーリィちゃん。積もる話はありますが、まずは――」
一拍の間。
彼女は微笑んで尋ねた。
「クライン君は、お元気でしょうか?」
アリシアが呆然と呟く。
が、同時に一つ納得する。
どおりで、目の前に停泊している鉄甲船に見覚えがあるはずだ。
これは、アリシア達が、皇国に向かう時に乗せてもらった船なのだから。
「ふふ、色々あってね。けど、その前に……」
ミランシャは一気に駆け出し、コウタの首を抱きしめた。
「もう! 先に行ったら寂しいじゃない! コウタ君ったら!」
「い、いえ、ミランシャさんにも準備があると思って」
「そんなの気遣わなくていいのよ。それより、アタシのことは、ミラお姉ちゃんって呼んでって言ってるじゃない!」
言って、黒髪の少年を強く抱きしめる。
控え目でも柔らかな胸を顔に押しつけられ、少年の顔を真っ赤だった。
エリーズ側のメンバーは、どうも呆れているような様子なのだが、アリシア達、アティス側の人間は呆然とした。ミランシャが、アッシュ以外の異性に、ここまで愛情を込めてスキンシップする姿を初めて見たからだ。
「(え? ど、どういうこと!?)」
アリシアが、愕然とした声で切り出した。
「(う、うむ。ミランシャさんのあんなデレた顔は初めて見るな)」
「(……う、うん。付き合いの長い私でも初めて見る)」
ロック、ユーリィが困惑し、
「(え、えっと、単純に、コウタ君がアルフ君の友達とかじゃないかな?)」
サーシャがフォローを入れるが、
「(ん? いや、もっと単純に)」
エドワードが言葉を締める。
「(師匠から、あいつに乗り替えただけじゃねえの?)」
「「「…………………」」」
全員が無言になった。
特に女性陣は困惑している。
その可能性はない。普段ならそうはっきりと言えるが、あの黒髪の少年への態度は紛れもなく強い愛情が込められていた。
少年自身はかなり動揺しつつ、照れているようだが。
(……むう)
一番ミランシャと付き合いが長いユーリィが呻く。
恋敵――いや、今となってはそう呼ぶのも適切でない気もするが、後に起こる、たった一つの正妻の座を争う正妻戦争が待ち構えている今、敵が減るのは良いことだ。
しかし、不思議なもので、自分の好きな人が乗り替えられたとなると、やはりいい気分ではなかった。それはアリシア、サーシャも同じ気持ちだろう。
唯一、ミランシャと面識がないルカだけは首を傾げていたが。
と、その時だった。
「ミランシャさま。あまりコウタ君に迷惑を掛けるのはいかがなものかと」
またしても桟橋から声が響いた。
どうやら、まだ乗船者がいたようだ。
アリシア達の視線が、自然と桟橋に向けられる。
(……え?)
ユーリィは、キョトンとして目を見開いた。
「(うわあ、また綺麗な人が出てきたわね)」
「(うん。ミランシャさんと同い歳ぐらいかな。綺麗なメイドさんだ)」
アリシアとサーシャの……実に呑気な声が聞こえてくる。
ロックとエドワードは「「おお!」」とメイドさんの美貌に感嘆していた。
そんな中、ユーリィだけは、ゴシゴシと一度目を擦ってから、彼女を見つめ直した。
大きなサックを背中に背負った、二十代半ばぐらいの女性。
肩まで伸ばした藍色の髪と、深い蒼色の瞳。やや冷淡なイメージはあるが、充分に整った鼻梁。プロポーションもサーシャに劣らない美しい女性だ。
(……うん。他人の空似ってあるんだ)
ユーリィは、そう思おうとした――が、
「あっ! シャルロットさん! お久しぶりです!」
ポン、と手を叩くルカの声が、ユーリィの希望を打ち砕いた。
「はい、お久しぶりです。ルカさま。そして――」
メイドさんも、ユーリィに気付いていたようで微笑む。
「ユーリィちゃんも。本当に大きくなりましたね」
「ひ、ひゥ」
ユーリィは、思わずルカのような呻き声を出してしまった。
腰まで引けて、少し後ずさる。
「え? ユーリィちゃん? あの人と知り合いなの?」
サーシャがそう尋ねてくるが、答えられない。
――と、その代わりにメイドさんが、コツコツと桟橋を降りてきた。
「初めまして」
そして、サーシャ達の前で頭を下げる。
「レイハート家のメイドを務める、シャルロット=スコラと申します。皆さま方におかれましては以後、お見知りおきを」
……………………。
………………。
……数瞬の間。
――ズザザザッ!
サーシャとアリシアは、いきなり後方に跳んで間合いを取った。
二人の顔は、愕然としてた。
「え? え?」
そして、一人だけ事態が飲み込めていないルカを置いてけぼりにして、幼馴染コンビはメイドさんを指差して叫んだ!
「「――た、戦うメイドさんだっ!」」
「……? まあ、戦うこともありますが」
メイドさん――シャルロットは、粛々と答える。
事情を全く知らないロック、エドワード、ガハルドなどは完全に困惑していた。
「おい。どういうことだよ。エイシス」
「え、えっと、それは……」
エドワードに問われるも、アリシアには何も答えられなかった。
なにせ、不測の事態が続きすぎる。
今日はただ、ルカの友人達を迎えに来ただけなのに。
いきなりのミランシャの来訪。
さらには、警戒すべきと教えられた人物の襲来だ。
混乱するなと言う方が無理である。
その中でも、ユーリィの混乱は一際だった。
「ほ、本当にシャルロットさん、なの?」
「ええ。シャルロットです」
渦中の人物の一人であるシャルロットは、堂々としたものだった。
「本当に久しぶりです。ユーリィちゃん。積もる話はありますが、まずは――」
一拍の間。
彼女は微笑んで尋ねた。
「クライン君は、お元気でしょうか?」
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