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19 涙の初夜

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 ジョシュアにすべての主導権を渡したレイナールは、少しだけ後悔した。

「くっ、んんッ、あ、ジョシュア様……ァ」

 年上で頼りになるジョシュアが紳士的にリードしてくれることを期待していたが、裏切られた。荒々しい手つきは、それほど彼が餓えていたという証拠だ。

 名前を呼べば、一瞬こちらを見やるが、すぐに肌にむしゃぶりついて離さない。

 無言で触れられ、嬲られることに、恐怖がないと言えば嘘だ。ただ、どれほど乱暴に見える仕草であっても、レイナールを傷つけないように、細心の注意が払われていることを知っているから、抵抗はしない。

 上半身を撫でさすられ、くすぐったさに焦れて、膝を立てる。するとジョシュアが、その間に身体を割り込ませ、閉じられなくなってしまった。そして中心で、すっかり勃ち上がって濡れる雄を、じっと見つめてくる。

「あ……」

 神殿で清らかな生活を送っていたとはいえ、レイナールも健康な若い男だ。勃起した己自身を見たことがないとは言わないし、あまりよくないことだと思いつつも、自涜行為に耽ったことはある。

 夜で薄暗い中とはいえ、他人の目に晒されるのは初めてのことで、恥じらってぴくぴくと震えている。ジョシュアの指が伸びてきたときには、思わず払いのけそうになってしまった。

「レイ」

 意識を下半身から引き離すべく、ジョシュアは乳首をついばんだ。指で散々いたぶられた後だった。ねっとりと唾液に塗れ、改めて熱を持っていることを思い知らされ、レイナールは小さく喘ぐ。

 その隙に、ジョシュアは目的を果たす。薄く生えた白金の陰毛を掻き分け、根元の双玉を捕らえると、ふにふにと揉む。自慰の経験はあっても、ただ機械的に根元から先端へと扱き上げ、排出を促すだけだったので、まさかそんなところを愛撫されるとは思っていなかった。

 驚きはやがて、これまで感じたことのない快楽に変わる。大きな手でもみくちゃにされ、絶妙な力加減に、甲高い声がどうしても漏れてしまって、レイナールは口を両手で押さえた。

「ふっ、く……っ」

 根元を指の輪で締めつけられ、先端を指先で押される。未知の悦楽に流され、腰がびくりと跳ね回る。

 我慢。我慢しなければ。こんな間近で見られながら射精するなんて、格好悪い。

 ぐっと奥歯を噛みしめて、達しそうになるのを耐える。本当は、薄々気づいていた。我慢すればするほど、この快楽地獄に終わりはない。火山の地中深くで滾る炎の渦のように、いつまでもぐるぐると、体内でわだかまったまま。

 指の動きに合わせて、濡れた音がする。先走りの蜜を全体にまぶしていく手はいやらしく、レイナールを追い詰める。

「ううっ」

 それでもどうにか達するのを我慢していると、しびれを切らしたのか、ジョシュアは一度、手を止めた。ホッとして彼の方を見る。目が合うと、彼はにやりと笑った。雄の顔で笑ってみせた。

「ッ! あ、なに、何を……ッ!?」

 ゆっくりと見せつけるように、顔を股間に埋めていく。意図を察したときにはすでに遅く、レイナールの性器は、ぱくりと食べられてしまっていた。

「うそ、や、いや……ッ」

 閨についての知識は、市井の人々よりもはるかに乏しい。レイナールが知るのは結果だけで、過程は誰も教えてくれなかった。口唇で性器を嬲られることなんて、想像したことすらない。

 熱い。喉奥まで銜え込まれ、水音が激しくなる。口は、話したり食べ物を摂取したりするだけではなく、レイナールを愛するために存在するのだと知った。言葉だけでなく、身体に直接訴える愛し方は、刺激が強すぎる。

「ん、あ、あ、離して、離して、ぇ……ダメっ、で、出ちゃ……うぅッ!」

 半分泣きそうになりながら、レイナールは反射的に腰を浮かせてしまう。ジョシュアの指が性器と尻の間の、普段意識していない箇所をなぞると、ゾクゾクと訳のわからない快感が走り、悲鳴とともに、レイナールは射精した。

 離してくれという懇願は聞き入れられず、発射した精液はそのままジョシュアの口の中に留まる。肩で息をするレイナールの身体と心が落ち着くのを待つことはなく、彼は次の過程へと突き進んでいく。

「ひっ」

 精液を飲み下したジョシュアの、次なる目的地はさらなる奥地であった。排泄時にしか使わない肉が、異物の接触を感じて、きゅっと締まる。

 狭い孔を無理矢理掘り進め、こじ開けようとする。意外とつるんと入ってきたのは、唾液によるものだろう。

「あっ、あーッ、あああっ、だめ、だめ、です……いやぁッ」

 不浄の場所に深く口づけられることは、自分が汚されるというよりもむしろ、ジョシュアを冒涜している気分になった。両足を掲げられて抵抗を封じられ、一方的にされるがままになっているのはレイナールの方だ。なのに、ジョシュアになんてことをさせているのだろうと、罪悪感すら抱く。

 信じられない場所を犯されているというのに、襲ってくるのは、先ほど男根を銜えられたときと同じ、いや、それ以上の悦びであることが、レイナールを追い詰めていく。

 涙と涎でぐちゃぐちゃになったレイナールは、うわごとのように「やめて、やめて」を繰り返す。本当の妻にしてほしいと願ったのは自分の方で、しかも、これが最初で最後の夜になるかもしれないのに。それでも口から飛び出すのは、拒絶の言葉ばかりだった。

 いつの間にか、舌ではなく、指で突かれていた。硬い爪の刺激を肉襞は嫌がらずに受け入れて、ビクビクと身体が震える。

「ん、あ、あ」

 舌では届かない奥、自分でも知らない小さなしこりのような箇所を一点集中で刺激されると、今まで以上に快楽が襲ってくる。ちょうど性器の裏側だ。先ほど放ったばかりなのに、勃起して濡れている。

 自慰行為のときは、一度射精すれば十分だったのに、ふたりでする行為は、まだ足りない、もっと気持ちよくなりたいと、時間の経過とともに貪欲になっていくものなのか。

 一本、二本、三本目を挿入しようかジョシュアは迷った結果、すべての指を抜いた。

 浅ましいことで、自分の内側を満たしていたものが一気になくなると、あれだけ嫌がっていたのに、寂しくてパクパクと無意識のうちに開け閉めを繰り返してしまう。

 ぐったりしたレイナールの脚を抱え直すと、ジョシュアは「すまない」と、一言謝った。

 何に対しての謝罪なのかよくわからないままに頷きかけたレイナールは、しかし、指の代わりに押し当てられた熱の塊に驚き、声を上げた。

「あっ!」

 ずしりと重みを伴って挿入されたジョシュアの男根は、レイナールと同じ男の証だとは、とても思えなかった。自分のものがひ弱な草の茎だとすれば、ジョシュアのものは大木の幹だ。先端がめり込み、少し括れたかと思うと、また太くなる。

 涙に暮れるレイナールは、ジョシュアに縋りつき、彼の名前を呼ぶ。

「レイナール……愛してる。愛してるんだ」

 意識が飛ぶ直前に見えた彼は、今度こそ本当に、泣いていた。

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