魔法少女に恋をして

星来香文子

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第46話 ニュージェネレーション

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 俺はそのまま、紅家に連れて行かれた。

「さぁ、全て白状しなさい。これが一体どう言うことなのか……。あなたは、知っていたのね? 魔法少女の正体を——」

 紅会長の指示で、理央は俺を申し訳なさそうな表情で椅子に縛り付けるとさっと紅会長の横に立つ。
 紅会長は、俺が青野家の怪人だと知らずに誘拐したあの時と同じ長い爪を俺の顔に向ける。

「いくら青野家が穏健派とはいえ、同じ怪人族であるあなたが魔法少女と手を組むなんて……許されることじゃないわ!! 魔法少女のせいで…………あの女のせいで、どれだけの怪人が消されたと思っているの!?」
「そ……それは————仕方がないだろう!! そもそも、お前らが悪いんじゃないか!! 人間を襲うからだろう!! お前たちが襲わなければ、魔法少女だって現れたりしないだろうが!!」

 そうだよ!!
 お前たち紅家の怪人が、人間を襲うから魔法少女が出動しなきゃならないんじゃないか……!!
 怪人さえ現れなければ、守夜美月は普通の女の子でいられたわけで……普通にデートだってして、夜はたくさん眠れているはずだ。
 毎晩所構わず、人間を奴隷にしようとしてくる怪人族が悪い————


「…………そうなの?」
「へ?」

 否定されるだろうと思っていたら、意外にも紅会長はキョトンとした表情をしていた。

 え?
 待って?
 もしかして、気づいていなかった……とか?
 そんなことある???

「怪人族が人間を襲うから、魔法少女に消されてしまうの?」
「……だ、だから、そうだって言ってるじゃないか」

 頭大丈夫か?

「そんな理由だったの?? おかしいわね、魔法少女は怪人族を壊滅させるために作られた組織が派遣しているって聞いていたのだけど……」
「え?」

 どうやら紅会長の話によると、魔法少女は怪人族を壊滅させようとしていて、それに抗うために人間を奴隷として使うために襲っていると、教えられたらしい。
 紅会長は子供の頃、魔法少女になりたかったが、それはフィクションの世界の話で、現実は魔法少女が悪で、怪人族が正義だと、紅家の大人たちから教わったということだった。

「いや……そりゃぁ……怪人族側からしたら、敵対している方が悪だっていうのはわかるんだけど…………」

 あれ?
 でも、そうなると、魔法少女って正義の味方じゃないのか?
 人間にとっては正義の味方でも、怪人族にとっては————

「っていうか、それが本当なら、なんで魔法少女側は怪人族を壊滅させようとしているんだ? 怪人族に何か罪があるのか?」
「…………そうよね? おかしいわよね? 一体、怪人族は人間に何をしたのかしら?」

 俺と紅会長は考えたが、よくわからなかった。

「女王様!! こやつの話に耳を傾けてはなりませぬ!! こんな、女王様のお尻の魅力もわからないような男の話など!!」

 いつからそこにいたのか、変態金魚が水槽から顔を出した。
 実はこの変態金魚、こいつ自ら聞いてもいないのに話していたのだけど、この家の水槽の中なら自由に行き来できるらしい。
 おそらく今回も、その能力をつかって俺たちの会話を盗み聞きしていたんだ。
 なんたって、紅会長の部屋に忍び込んでは風呂上がりの姿をこっそり覗いていたらしいからな……
 これも俺が全く聞いていないのに、自分から語りだしたことだ。

「よいですか、女王様! そして、青野の息子よ!! 人間というのは……あの魔法少女を派遣している組織を作った、人間というのはな……その昔、我々、怪人族を忌み嫌い、差別して追い出そうとしていたのだ。我々は何一つ、悪いことはしていない。だが、あやつらは我々が水に生息する生物の力を持っている種族であることに恐怖を感じ、人間が普通であり、怪人族は普通ではないと……異形のものだと決めつけたのだ!」

 変態金魚は人間たちが怪人族にしてきたことを、ペラペラと続けて話だす。

「人間とはなんとひどい奴らか……!! 自分とは違うものを持っているというだけで、我々を敵視し、差別し、排除しようとしたのだ。だからこそ、我ら怪人族はその不当な人間どもの行いを阻止するために……我々怪人族こそが、最強の種族であると知らしめるために————」
「それは違うな……」

 変態金魚が熱く語っているのを遮って、理央がまた別の真実を語り始めた。

「怪人族が差別されていたのは、もう何十年も前の話だよ。人間との間で、もう決して争わないようにしようという取り決めになっている。ボクたち怪人族は人間と和解したんだ。それをいつまでも認めないのが、紅家なんだよ……」
「…………そうなのか?」

 今度は変態金魚が、キョトンとした表情で理央に聞き返した。

 おいおい、熱く語ってるわりにはその辺知らないのかよ!!


「そうだよ。そりゃーみんな、怪人族の存在を知ったらびっくりしちゃうけどさ……激しくやりやってるのは、紅家だけなんだよ。人間側も、魔法少女を派遣している組織だけなんだ。そういう古い考え方にいつまでも固執しているのは……」

 なんだ……
 なんだかすごく頼もしいぞ、理央!!

「まったく、いつの時代の話をしてるのさ!! 種族なんて関係ない!! 人間だろうが、怪人族だろうが、愛さえあればそれでいいんだよ!」

 そ、そうだ!!
 愛さえあれば、怪人族の俺と魔法少女が結ばれたって何も悪いことはない!!

「よくわからないけど……紅家は古いのね? 古い考え方なのね?」
「そうだよ、萌子。だからさ、ボクと結婚してくれないか?」
「もちろんよ……!!」

 えっ!?
 ここでプロポーズ!?

「な、なんて新しい考え方だ————黄河家の娘よ……種族も性別も超えて、こんなにあっさりと女王様に求婚するとは!!」
「いや、変態金魚、あれ、男」
「な、なんと!!!」

 抱き合う理央と紅会長を見て、変態金魚は驚いて水面から飛び出した。
 目玉も一緒に飛び出そうだな……

「それより……あのさ、俺を解放してくれないかな? あと、怪人族が暴れてるって聞いたけど、それもやめさせてくれない?」

「結婚式はどこでしようか?」
「そうね……ハワイなんてどう?」
「ハワイか……いいねぇ。子供は最低でも5人は欲しいなぁ……」
「あら、どうして?」
「大勢いた方が、楽しいだろう?」


 俺は必死に訴えたが、二人だけの世界に入ってしまった理央と紅会長の耳には届いていなかった。


「おーい! 聞いてるかー?」





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