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第五章 時をかける歌

第43話 先代

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「なるほど、それで、私を呼んだんだね。東海さん」

 東海さんの部屋で昨夜の騒動の経緯を聞いて、ばあちゃんは笑いながら、隣に座ってた俺の肩をバシバシ叩く。

「大丈夫、ちゃんとした人間だよ、この子は。まぁ、あんな予言の後に、ずぶ濡れで外に立ってたら、勘違いしてしまうのも無理はないけど……」

「そうですよね? よかった……あなたがそうおっしゃるなら、安心だ」


 東海さんはばあちゃんの話にホッとして、昨日までとは違う心からの笑みを浮かべて、お茶を啜る。

「しかし、東海さんの予言は間違いではないでしょうね……。私がこの地へ来たのは、全くの偶然ではい。そろそろ、封印の力が弱まる頃かと思ってね…………」

「封印、とは? 何の事です? 飛鳥さん」

「おや、先代の住職に何も聞いていないのかい? あの湖の底に封印されている、狐のことを」

 東海さんは、まったく何も知らないようで、ばあちゃんの話を聞いて酷く驚いていた。

「ま、まさか……あの話、本当だったのですか!?」

 驚きすぎて、持っていた湯飲みを落とし、畳の上に残っていたお茶がシミを作る。

「先代は冗談がお好きな方だったので……では、私の予言に出てきた悪霊というのは、あの玉藻前のことなのですか?」

「そこまではわからないが、何にせよ、湖の封印の強化は必要になるでしょう。今夜はここに泊まって、夜明け前に対処しようと思っているのだけど……かまわないかい?」

「ええ、それは構いませんが……お孫さんはどうなさるのですか?」

 怪我をしたのに、懲りずに中庭で若い僧侶と追いかけっこをしている幼い俺————颯真をチラリとみて、ばあちゃんは、言った。

「あの子はホテルの両親のところに戻してくるから大丈夫…………その代わり、ソウタ…………ソウタ?」

(あ、俺か……)


「は、はい!」

「ソウタにも、手伝ってもらうよ」

「えっ!?」

「里の者なら、それなりに力を持っているだろう? 私のサポートぐらいしてくれたって、損はない」


 ばあちゃんは、ニヤリと笑う。

「一族最強の、この私の術を目の前で拝めるなんて、そうそうない事だよ」


 それは、俺が見たことのないばあちゃんの表情だった。

 赤みを帯びた、俺と同じ右目の瞳が光ったような気がした。


 そう、ばあちゃんは、俺たち家族にはずっと隠してきたけど、俺と同じく、一族最強の力を持った、俺からしたら先代の呪受者だ。

 もしかしたら、この封印の手伝いをすることで、元の時代へ戻るヒントになるかもしれない。




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