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第四章 破鏡重円

第39話 玄武の湖畔

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 修学旅行1日目の夜。

 消灯時間にそっと、それぞれ旅館の部屋を抜け出して、俺と刹那はユウヤたちが泊まっている寺院へ行った。

「いいなぁ、僕も行きたかったよ、寿限無!! サムライとかニンジャとかいた?」

 羨ましそうにどうだったのか聞いてくるユウヤの腹に一発、膝蹴りを入れて、刹那はテーブルの上に地図を広げる。

「そんな事は後でいいわ。それより、玉女の峡谷はどうだったの?」
「いててて…………ああ、昼間のうちに確認したけど、あそこは結界そのものが老朽化していて、かなり弱っていたみたいだ。もともと、人が簡単に立ち居入れるような場所じゃないからね」

 ユウヤは地図に大きく赤いマジックでばつ印をつけると、玄武の湖畔について話し始めた。

「玄武の湖畔は、この寺院の目の前にあるんだけど、一つ面倒な問題があってね…………昼間は調査できないんだ。殺生石は湖の中にあるんだけど、ここは観光客が多いから、明るい中での作業は困難なんだ」

 玄武の湖畔と、里の者たちは呼んでいるが、これは別名。
 日本の観光事業の発展とともに、封印の地のいくつかは何も知らない一般人が観光名所としてしまっている。
 ここの湖も、その一つで、今は紅葉の時期だから特に観光客が多い。

 そんな大勢が見ている前で、封印の強化なんてしたらそれこそ、俺たちが観光名所にされてしまう。


「こんな時間のこんな季節に、冷たい湖の中に入ることになるんだけど、颯真いけそう?」
「いけそうも何も、入らないとできないんだろ?だったらやるしかないじゃないか……」
「でも、すっごい寒いよ? わかってる? ここが…………日本で一番寒い地域だってこと」

「大丈夫だ。1度落ちたことがあるから…………あの時は、もっと寒い冬だった」

 さっきこの寺院へ来る途中で、遠巻きからだがあの湖を見て、実は思い出した記憶がある。
 それは、あの八百比丘尼…………茜ちゃんと初めて出会った時のことだ。
 俺は1度、あの湖の中に落ちた。

 茜ちゃんを助けようとして——————



「あら、覚えてたんだね。あの日のこと」

「ああ、あの日、茜ちゃんを助けようとして————って、茜ちゃん!?」


 いつの間にか、一緒になって茜ちゃんが両腕を組みながら、俺の横に座って、会議に参加していた。
 いつからそこにいたのか、全然気配を感じていなかった俺たちは、驚いて反射的にその場から離れた。


「誰!? 誰この子!! めちゃくちゃ美人!!!」
「なんで、七瀬さんがここに!?」

 刹那は驚きつつ、戦闘態勢に入ってる。

「茜でいいよ。さんとか、ちゃんとかそういうかたっ苦しいのは無しだ。呪受者…………お前の名前なんだったっけ?」
「そ、颯真だ」
「あーそうそう、颯真、こいつらにアタシのことは話してないの?」
「あ、ああ……さっきは、まだ話してる途中だったし…………」

 茜は腕を組んだまま、刹那とユウヤの顔をじっと見て、ニヤリと笑った。

「まぁ、落ち着きなよ。アタシはあんたらの敵じゃない。むしろ、敵が同じだから、仲間と思ってくれてかまわない」

(——敵? どういうことだ?)

「あの女狐の復活を防ぎに行くんだろう? アタシも協力してあげるよ」


 玉藻と茜……いや、おそらく玉藻と八百比丘尼の過去に、なにがあったのかわらないが、玉藻に対する敵意は相当強いようで、あの鏡妖怪を振り回した時のように、その青い瞳の奥が怒りの炎で燃えていた。

 「アタシは、あの女狐が心底大っ嫌いなんだよ」










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