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第四章 破鏡重円
第31話 再会
しおりを挟む絶世の美女。傾国の美女。
世の中には、美しい女性を表す表現は様々あるが、そんな美女が本当に存在するのか、甚だ疑問に思っていた。
俺の先祖に呪いをかけた玉藻は、伝承によると、日本に渡ってくる前にも中国やインドなんかで美しい女の姿で時の権力者を誘惑して、のちに傾国の美女だったと言われている人物の正体ということになっている。
でも、あくまで伝承であって、それが事実かどうかなんて、その時代を生きていない人間には判断することができない。
絶世の美女なんて、見たことがないし、現代でいうところの芸能人……モデルや女優なんかを見ても、確かに綺麗だと思うことはあるけど、美しいせいで国が滅びるってなんだそれって感じだった。
そんな話を、里に戻って玉藻について自分なりに調べていたとき、ユウヤにしたら、言われてしまった。
「颯真は、恋をしたとはないの?」
「なんでそうなる? そういう話してないだろ?」
「いや、そういう話だよ。もしかして、初恋もなかったの?」
大屋敷に残されていた資料を見ながら、今後の対策の参考になればと思っての話し合いだったのに、いつの間にか話が俺の恋話にすり替わっていく。
「初恋って…………いや、それぐらい俺にだって…………」
ある——と、きっぱり言い切ることができなかた。
考えを巡らせて見たけど、この里に来てからの2年間は、陰陽師の修行でそんな暇はなかったし、その前も、特に色恋沙汰なんてなかった。
自分が呪受者だと知る前の中学でも、クラスには何人か誰と誰が付き合っていただの、告白されただのって話はあったけど、俺には全くもって関係のない話だった。
「ないんだね……それは大変だよ、颯真」
「いや、ないわけでは……————って、そんなの別に大変じゃないだろ? 玉藻を倒すのに、俺の初恋なんてどうでも……」
ユウヤは妖怪と対峙する時以外は、ヘラヘラしてるくせに、ものすごい真面目な顔で俺を見る。
「大事なことだよ、颯真。もしも、君が今後恋をした相手が、玉藻の……あの狐のような相手だったら、どうするんだ? 颯真、君は知らないだろうけど、モテない男ほど、ハニートラップにかかった時、一番周りが見えなくなるんだよ?」
「…………おい、それって、俺がモテないってディスってるだけじゃないのか?」
「あはは!ばれた?」
ユウヤはふざけて笑う。
ユウヤは、中身は脚フェチの変態だが、母親がイタリア人らしく、外見からしてモテる男の顔をしている。
背も高いし、おそらく今まで散々女をたぶらかして来たに違いない。
お前の方が玉藻のように、女を騙して来たんじゃないかと思えた。
ユウヤには言わなかったが、実は、話をしているうちに思い出したことがある。
(俺だって、初恋ぐらいしたことがあるよ……幼稚園ぐらいの時だけどな)
もしかしたら、それは俺が覚えている一番古い記憶かもしれない。
顔ははっきり覚えていないけど、確か、家族旅行で行った場所で出会った同じくらいの歳の女の子。
名前も覚えていない。
だけど、両目の下にほくろがあったことだけ覚えてる。
まぁ、果たしてそれを初恋と呼んでいいのかはさておき、問題が起きたのはこの会話の翌日だった。
10月の中旬、修学旅行目前で、クラス中が浮き足立っていた頃。
急に現れた転校生は、両目の下にほくろがある、絶世の美女だった————————
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