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第三章 新月の夜

第27話 青龍の高原

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「ここが…………青龍の高原か」


 俺は一人で、殺生石がある青龍の高原にたどり着いた。

 相変わらず硫黄の匂いが鼻につくが、それよりもこの体に染み付いてる魔除けの白檀の香りが気になって仕方がない。
 発した声も、喋っているのは俺なのに、耳に響く声は高い。

 地面との距離も近いし、自分だって経験しているはずなのに、目線の高さが違うとこうも感じ方が違うのかと思ってしまう。

 そして何より一番気になるのは、歩くたびに後ろで束ねた髪が背中に当たってムズムズする。
 あと、走ると胸が揺れて、脇のあたりが痛い。


(女って大変だな…………刹那の大きさでこれってことは、もっとでかいと肩がこるっていうのわかるな…………)


 今俺は、刹那と中身が入れ替わっている状態だ。
 この体は刹那のものだが、宿っている魂は俺のもので、逆に今、下流の方で待機している俺の体には刹那の魂が入ってる。
 
(まさか、頭突きで入れ替わるなんて、なんでもありだな…………)

 
 絶対に変なところは触らないし、見ないように!と、刹那には念を押されて、しかも監視役にさっきまで俺たちを邪魔してきていた蕪妖怪が1匹付いてきている状態だ。
 すごい筋肉の腕を持ってはいるが、この妖怪、実は全員女だそうで、声が甲高いのはその為だった。


「こら!! 変なところ触ったらあのお嬢ちゃんに怒られるよ!! しっかりおし!!」

「わ、わかってるよ……触ってないだろう。俺はユウヤとは違うんだ」

 いくら親戚とはいえ、女子高生の体と入れ替わっているというのに、欲に負けそうになる度にこの蕪妖怪に怒られる。

 入れ替わったのがユウヤだったら、絶対に触ってると思いつつ、俺は刹那の体で殺生石の前に立った。


「これだな……」

 大きな岩には、動画で見たあの三台の杜と同じように、しめ縄で封印がされてはいるが、間近で見ると纏っている空気が違う。
 9つに分かれたうちの1つでこの感じなのだから、全部集まってしまったら間違いなく大変なことになるだろう。
 勝てる気がしない。


「よし、封印を強めよう」

 俺は春日様に習った通り、封印を強化するための札を持った。

 これを術で一族最強の力を持ったものにしか作り出すことができない魔封じの矢に変えて、今貼られている封印の札に打ち込めば、封印が強化される。

「ふぅ……」

 一つ深呼吸をしてから、左の掌に札を置く。
 俺の持つ力を込めて、祝詞を唱える。

「 はらたまえ きよたまえ あまかみくにかみ……八百万神等共やおよろづのかみたちともに————」


 ふわりと俺の周りに風が起き、徐々に光を放ちながら手のひらの札は矢の形へと変化した。

「よし、ちゃんとできた! あとは、これをあそこに打ち込めば————」


 うまくできて安心したのもつかの間だった。


「おやめください……————」



 か細い女の声がする。


「おたすけください……おやめください————」


 殺生石から、女の声がした——————





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