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第二章 八咫烏の揺籠

第16話 謎の男

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「いやー……相変わらず、いい脚をしているね、刹那」
「やめてください」
「そんな……敬語なんてやめてくれよ。同い年だし、僕と君との仲じゃないか」
「知りません。誤解されるようなこと言わないでください。あなたなんて知りません」
「それはないだろう……あ、ほら、この香りだって僕があげた白檀のお香の香りだろう?」
「違います。ただの魔除けです。消えてください」

(誰だ、この金髪…………)


 目の前で繰り広げられる光景に、俺はただわけがわからないでいた。

「冷たいなー……そんなこと言って。本当は僕が帰ってきて嬉しいんでしょ?そうでしょ?」
「知りません。嬉しくないです。消えてください」

 あの会議の後、謎の金髪の男が急に刹那に話しかけてきた。
 しかも、なぜか刹那の脚をうっとりと、ねっとりとした表情で見つめている。
 そして、刹那は上手くかわしているが、触ろうともしている。

 確かに、制服のスカートから覗く刹那の脚は綺麗だが、明らかにセクハラだし、しつこい。
 そして、この金髪セクハラ男は、無駄に顔がいい。
 ハーフだろうか?日本人にしては濃い顔だ。

(これは止めるべきなのか、それとも放っておくべきなのか…………?)

 周りの大人たちは何も気にしていないようで、さっさっと出口の方へ行ってしまった。


 俺と、刹那だけが八咫烏の揺籠と呼ばれているこの地下の家屋に残っている。

 まだ聞きたいことがあったのだが、春日様と幸四郎と呼ばれていた男性が、さらに奥にあるという慧様の部屋へ行ってしまった為、俺たちは動けないでいた。

 この男が何者なのかは、さっぱりわからない。

「なんだよーいいじゃないか。久しぶりにあったんだから!減るもんじゃないだろう?ねぇ、刹那……いいだろ?」

 あまりのしつこさに、刹那はキレて思いっきりその男の股間を蹴り上げた。

「うるっさいわね!いい加減にしなさいよこのクソ野郎!!!」

 男は畳の上でのたうち回る。

(うわ……痛そう……)

 絶対痛い。
 見ているこっちも痛くなってきたような気がする。

「はは……やっぱりいいね。刹那の脚は綺麗だ」
「黙れこの変態がっ!!あんたが戻ってるって知ってたら、制服で来なかったわよ!!ジャージできたわ!」
 身悶えながらも、その男の顔は嬉しそうだった。

「まったく、あんたみたいなのが親戚だなんて、一族の恥でしかないわ」
「ははは!僕は刹那が親戚で嬉しいぞ!」

 男は立ち上がりながら、俺の方を見た。
「君が、颯真だね。はじめまして、会えて嬉しいよ!」

 そして今度は俺に抱きついてきた。
「え!?ちょっ……なんなんだよ、こいつは!!刹那、助けてくれ……!!」


 刹那は呆れながら、男の首根っこを掴んで、俺から引き離す。

東雲しののめユウヤ……私たちのハトコよ。そして、頭首様の孫よ」

「頭首様って…………春日様の孫!?」


 東雲ユウヤは、刹那につままれたまま、ひらひらと両手を降る。

「これからよろしくな、颯真」


(このチャラそうなのが、春日様の孫!?)



唖然としていると、慌てた様子でさっき俺たちをこの地下へ誘導した少年が入ってきた。


「大変です!! 狐が現れました!! 文王ぶんおうの丘に!!!」
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