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第五章 青い果実
第47話 青い果実(2)
しおりを挟む「ねぇ、どうしてここなの?」
エリカは眉間にシワを寄せ、ムスッとした表情で、自分の部屋で繰り広げられている光景に文句を言った。
「仕方ないじゃない……図書館追い出されちゃったんだから」
「そうだよ。ゆきのんの家は流石にまずいし、俺の部屋だって、いつじいちゃんや浅見さんに見つかるかわからないんだから……」
「だからって、エリの家に来ることなくない!?」
エリカの部屋の中央にある丸いテーブルの上には、夏休みの課題のノートや教科書、参考書が広げられている。
夏休みの課題なんて最終日でいい、というか、むしろやらなくてもいいと思っていたエリカはもう逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
珍しく雪乃の方から連絡が来て、家に来たいだなんて、エリカは飛び跳ねるほど嬉しかったのに、呼んでない蓮までいて、3人で課題を終わらせようと言われたのだ。
まぁ、頭のいい雪乃がわからないところは解き方を教えてくれるため、ラッキーといえばラッキーなのだ。
しかし、真面目に取り組んでいるように見えるだろうが、蓮と雪乃の距離が妙に近い。
「図書館で何したのって……聞くまでもないわね」
そう呟きながら、仕方がなくやりたくもない数学の問題を解いていると、イライラしていたせいでシャーペンの扱いが荒くなり、消しゴムをテーブルの下に落とした。
「あーもう……最悪ぅう」
拾おうと手を、テーブルの下を覗くと、自分の目を疑う光景が————
「ちょっと!! 何してんの!! なんで手ぇ繋いでんの!!」
実は両利きの雪乃。
左手で問題を解き、右手で蓮と手を繋いでいた。
だがこれは、雪乃がちょっとしたいたずらで蓮の手に触れてみたら、蓮が握り返したのだ。
「こんなことなら、学校祭に雪乃を連れて行くんじゃなかった!! エリの雪乃から離れなさいよ!! 蓮!!」
エリカは雪乃の腕を引っ張って、蓮から離そうと自分の方へ寄せようとする。
「何言ってるんだよ! ゆきのんは俺のだっ!!」
「何それキッモ!! 雪乃はエリのだし!! ずっと前からエリのだし!!」
「いや、雪乃様は僕のなので、二人とも離れてください」
「は?」
「えっ!?」
蓮とエリカで取り合いになっていた雪乃の方から、急に低い声が聞こえて来て、ピタリと二人は動きを止める。
「あ、冗談ですよ? 本気にしました? すみませんね、なんとも微笑ましい光景だったのですが、そうもいきませんでして」
いつの間にか雪乃の膝の上にちょこんと、雪兎が乗っていた。
「う、ウサギが喋った……!? 妖怪!?」
初めて見たウサギの妖怪に驚く蓮を無視して、雪兎はテーブルの上にぴょんと移動すると、雪乃に向かって言った。
「雪乃様、すぐに家にお戻りください。冥雲会が本格的に動き出しました」
* * *
雪乃の今の家がある隣町に向かって、二人乗りの自転車は走り出した。
「冥雲会って、何?」
蓮が自転車を漕ぎながら、前のカゴに入っている雪兎に訪ねた。
エリカは冥雲会について知っているが、雪乃と蓮はなんのことかっていないのだ。
「聞いたことはありませんか? まぁ、最近まで妖怪が見えなかった見習いのあなたなら、知らなくても無理はないでしょうが……」
「ウサギくんはそんな事まで知っているんだね……」
「なんですか、その変な呼び方は……!! 僕は雪兎です!!」
「いいから、時間がないんでしょ? どういう事なのか、早く教えてよ雪兎!」
蓮の後ろに乗っている雪乃に急かされて、ちょっとムスッとしながら、雪兎は話し始めた。
「冥雲会とは、人間に妖怪を、妖怪に人間を売買している組織です」
雪兎の話を聞いて、雪乃と蓮の脳裏に、あの畳の部屋でのことが蘇る。
「あの、猫……銀花と金花の言っていたことね? でも、残っていた能面の女もアサミンって人が捕まえたんじゃ?」
「僕の掴んだ情報によると、その能面の女が逃げ出したそうです。それも、何者かの手によって」
雪兎の予想だと、その女にはまだ他に仲間がいたのではないかということだった。
「冥雲会はもう何十年も前に、祓い屋協会と被害にあった者たちが協力して、霊界に封印されていたのですが、今年になって、何者かが霊界とこの世をつなぐ霊道を作ったようでして……」
「霊道を作った?」
「ええ、その霊道を通って、この世によくない者たちが渡って来たようなのです。その中に一体何体、何匹、何人の冥雲会に関係のあるものがいたのかまでは把握できてはいません。ただ、言えることはお二人があの日遭遇した烏……」
「ババ様?」
「ええ、そのババ様と呼ばれている者は、かつて雪子様を……拉致監禁していた、冥雲会の幹部の一人なのですよ。そして、あの者はおそらく、まだ雪女を狙っているはずです」
そしてもう一つ、雪乃と蓮にとって衝撃の事実が明かされる。
「その霊道、今はもう閉じているようですが、今の雪乃様が住んでいる家の近くなのです」
「それって……まさか————」
蓮と雪乃には心当たりがあった。
今、雪乃が住んでいる家は、新興住宅地がすぐ近くにある。
雪乃が初めて雪女の姿に変化した、坂崎家の近くだった————
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