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第二章 ギャルと悪霊とかくしごと

第14話 ギャルと悪霊とかくしごと(3)

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「こんな危険な所に、レンレンを入れたままにできないわ!」

 エリカの家は、ちょっと外見は派手だけど、中はごく普通の一般的な二階建ての一軒家だ。
 しかし、ここは観光地かと疑いたくなるくらい、悪霊が至る所にいて、雪乃は人酔いならぬ、悪霊酔いしそうになった。

 それもなぜか、アフリカ系の民族っぽいのもいれば、中国の仙人みたいなのもいるし、サンタクロースみたいなヒゲの西洋人ぽい顔つきのもいる。
 国際色豊かな悪霊の面々は、雪女の存在を気にもとめずに、ただただ家の中を浮遊していた。

「何これ……どうなってるの?」

 こんなに悪霊がたくさんいる中で、エリカの家族は生活しているのかと思うと、なんとも不憫に思えてくるが、雪乃はエリカと蓮を探した。
 そして、リビングやキッチン、おそらく両親の寝室だろう部屋の壁をすり抜けたが、1階に二人はいなかった。

(2階かな?)

 階段を上がって2階へいくと、そこにも悪霊がいて、2つ扉が並んでいた。
 そのうちの右側の方から、扉をすり抜けるように、悪霊が出てくる。

(もしかして、ここから出てきてる?)

 雪乃もその扉をすり抜けると、広い部屋に所狭しと並べられていたのは、どこか不穏な雰囲気をまとった人形や置物などの骨董品だった。
 壁には高級な額縁の抽象画なんかもある。

(これって……もしかして————)

「コレなんだけどさぁ……マジやばくない?」
「うわっ……コレはどう見てもヤバいよ!!」

 あまりに悪霊が多すぎて、雪乃は蓮とエリカがこの部屋にいたことに気がつくのが遅れた。
 声がした方を見ると、宝石店にあるようなガラス張りのコレクションケースの上に置かれた1体の日本人形をエリカと蓮が顔を真っ青にしながら見ていた。

 古そうなその日本人形の赤い着物は色あせ、所々破けており、白く陶器でできていたその顔は、かけている。
 髪もボサボサで、ホラー映画や心霊特番に出てきそうな代物だった。

「でしょ? エリもさぁ、こんなの絶対ヤバいと思うワケ! なんか最近さ、エリしか家にいないのに変な物音とかするし、つけてないのにテレビついたりするんだよね……これが原因としか思えないっしょ」


(いや、違う。それじゃない……それ、ただの古い人形)

 二人はそれが原因だと思い込んでいるようだが、完全に見た目に騙されている。
 この悪霊がたくさんいる原因は、この部屋にある他の置物たちの中に、いくつか混ざっている本物のせいだ。
 日本人形イコールホラーという考えを持つのは、やめて欲しいと雪乃は思った。

 このさっぱり悪霊の見えていない二人の姿に、呆れるしかない。

(まったく……祓い屋なのに、こんなので本当に大丈夫なの? 私が守ってあげなくちゃ…………)

「じゃあ、さっそく除霊を……」

 蓮はポケットから数珠と小さな紫色の巾着袋を出して、人形に巾着の中身に入っていた謎の粉をふりかけた。
 そして、お経を唱える。

仏説摩訶般若波羅蜜多心経ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょう……」

(まぁ!! レンレン、お経覚えたのね!!)

 数日前まで、スマホを見ながらじゃないとお経が唱えられなかった蓮の成長。
 雪乃はそれを見て感動している。

 だが、途中で…………

不生不滅ふしょうふめつ 不垢不浄ふくふじょう 不増不減ふぞうふげん ぜこく…………是故空中ぜこくうちゅう————」

 やっぱりダメで、スマホを取り出した。

(頑張って! レンレン!!)

 一生懸命お経を読む蓮を応援する雪乃。

(真剣なその表情も素敵……尊い……はぁ……すき)

 完全に目がハートになっている。
 日本人形にお経を聞かせたところで、何の意味もないというのに……

「あんた祓い屋見習いなんだから、お経ぐらい覚えなよ」

 蓮がお経を唱え終わると、エリカの的確すぎるツッコミが入り、雪乃はハッと我に返る。

(エリカめ……! そうだったわ、こんな悪霊なんてどうでもいいのよ!! 一体、レンレンとあんたはどういう関係なのよ!!!)


 雪乃はキッとエリカを睨みつけた。
 エリカの周りだけ、室温が下がる。

「……あれ? なんか寒くない?」
「え? そう?」


 ————パリンッ

「えっ!!?」
「何!? なんの音!?」

 一通り祓いの儀式が終わったのだが、意味のないその儀式に、悪霊たちが危機感を覚えたのか、それまでただ家の中を浮遊していただけだった悪霊たちが暴れ出し、コレクションケースのガラスが割れる。

 棚もガタガタと揺れて、何も見えない蓮とエリカからしたら、ラップ音も聞こえて、正に心霊現象だ。

「地震!?」

(違う! 霊たちが怒ってるのよ!!)

 下手な除霊なんてするから、こんなことになるのだ。
 蓮一人でこんな数の悪霊と戦えるわけがない。

 そのうち、天井近くの高さまであった棚が、蓮の後ろから倒れてきた。


「レンレン!! 危ない!!!」

 雪乃は叫んだ。
 しかし、雪女になっている彼女の声は、蓮には聞こえない————

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