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第一章 祓い屋見習いと半妖の雪女
第11話 祓い屋見習いと半妖の雪女(完)
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「これは……いつの間にこんなものが…………!!」
坂崎の顔から血の気が失せる。
もう少し暖かくなったら、花の苗を植えようと自分が手入れをしたその場所に、呪符が埋まっていたのだから、無理もない。
「呪詛をかけた本人は死んだが、呪符がこのままでは、ここに霊道ができていたはず。壁を通って、よくないモノが入り込んでいた可能性が高いですな…………蓮、マッチかライターを仏壇から借りて来なさい」
「は、はい……!」
蓮が仏壇から借りて来たマッチで、鏡明はその呪符を燃やした。
そして、もう一度、家の中へ戻ると、母親の霊は成仏したのか、いつの間にか消えていた。
* * *
「その壁っていうのが、じいちゃん曰く、良くないものが通った跡があるらしいんだよね」
あのまま堂々と呪いの話を教室でできるわけがなく、放課後、誰もいない学校の屋上で雪乃は事の詳細を聞いた。
その壁の痕跡が、呪詛のせいであの赤ん坊に取り憑いていた妖怪のものだと気がついたが、言えなかった。
「そうなんだ……」
(あぁ、やっぱり、何も見えていないのね……)
話を聞きながら、雪乃の視線は蓮の頭の上にいるモノに行ってしまう。
(あれは無害なモノのようだから、放っておいてもいいけど、このまま連れて帰るのかな?)
蓮の頭の上に、ツノが生えている割には、大福のように柔らかそうに丸くて、目の大きな妖怪が乗っていて、首に負担がかかっているように見える。
足元にも、小さな妖怪が数匹いる。
浮遊霊もうろうろしてる。
(こんなに見えないなら、祓い屋なんてできないと思うんだけど……)
今屋上にいる霊や妖怪は、見えない人間にとっては皆、無害だからいい。
だが、このまま見えないまま祓い屋を続けていたら、あの日のように危険な霊や妖怪に出会うかもしれない。
雪乃は、蓮の身に危険が及ぶのが心配でたまらなくなった。
「ねぇ、氷川くんはどうして、祓い屋を継ごうと思ったの?」
「え?」
「妖怪、見えないし、本当は、信じてない……んでしょ?」
「確かに、見えてはいないよ。本当にいるかどうかも、半信半疑……それでも、大学に行って資格さえとれば、あとはなんでも自由にしていいって言われてるから。そうしたら、やりたいことがあるんだ————」
蓮はやりたい事が何か具体的には言わなかったが、雪乃にはわかった。
『活動を休止します。』
休止前最後の動画で、レンレンはそう言っていた。
休止ということは、戻ってくるつもりなのだ。
辞めたわけではない。
彼が本当にやりたいことをする為に、これは必要な過程なのだ。
才能がどうこうではない。
(レンレンが、戻って来てくれるのなら、私……)
「そうなんだ……頑張ってね! 私、何もできないけど、応援してる」
(私が支えよう。立派な祓い屋になるように————!!)
雪乃はそう決意した。
雪女であること……半妖であることを隠しながら、雪乃は蓮がちゃんと祓い屋になれるように支えようと。
蓮に危険が及ぶようなことがあれば、自分が助ければ良いのだと。
(雪女の姿であれば、レンレンに気づかれずに行動できる……!!)
自分のクラスに推しであるレンレンがいると知ったあの日から、雪乃はずっと我慢していた。
何もせずに、ただのクラスメイトとしていることは、辛かった。
推しの為に何かしたいとモヤモヤしていた心が晴れると、雪乃は自然と笑顔になった。
「あ、ありがとう……!」
そして蓮も、この学校で一番美人の雪乃が笑顔で応援するなんて言うものだから、照れ臭そうに少し頬を赤らめ、つられて笑う。
(笑ってくれた!! あぁ、可愛い……やばい、尊い……!!)
自分が祓われるかもしれないという考えは、雪乃の頭にはない。
もう一度、蓮がレンレンとして、好きなように、やりたい事ができるようになって欲しい————
ただ、それだけだった。
そんな祓い屋見習いと半妖の雪女の姿を、遠くから見つめる烏が一羽。
「見つけた。こんなところにいたのか……雪女め」
烏はそう呟くと、普通の烏に紛れて夕陽と共に姿を消す。
不気味な鳴き声が、黄昏の空に響いた。
坂崎の顔から血の気が失せる。
もう少し暖かくなったら、花の苗を植えようと自分が手入れをしたその場所に、呪符が埋まっていたのだから、無理もない。
「呪詛をかけた本人は死んだが、呪符がこのままでは、ここに霊道ができていたはず。壁を通って、よくないモノが入り込んでいた可能性が高いですな…………蓮、マッチかライターを仏壇から借りて来なさい」
「は、はい……!」
蓮が仏壇から借りて来たマッチで、鏡明はその呪符を燃やした。
そして、もう一度、家の中へ戻ると、母親の霊は成仏したのか、いつの間にか消えていた。
* * *
「その壁っていうのが、じいちゃん曰く、良くないものが通った跡があるらしいんだよね」
あのまま堂々と呪いの話を教室でできるわけがなく、放課後、誰もいない学校の屋上で雪乃は事の詳細を聞いた。
その壁の痕跡が、呪詛のせいであの赤ん坊に取り憑いていた妖怪のものだと気がついたが、言えなかった。
「そうなんだ……」
(あぁ、やっぱり、何も見えていないのね……)
話を聞きながら、雪乃の視線は蓮の頭の上にいるモノに行ってしまう。
(あれは無害なモノのようだから、放っておいてもいいけど、このまま連れて帰るのかな?)
蓮の頭の上に、ツノが生えている割には、大福のように柔らかそうに丸くて、目の大きな妖怪が乗っていて、首に負担がかかっているように見える。
足元にも、小さな妖怪が数匹いる。
浮遊霊もうろうろしてる。
(こんなに見えないなら、祓い屋なんてできないと思うんだけど……)
今屋上にいる霊や妖怪は、見えない人間にとっては皆、無害だからいい。
だが、このまま見えないまま祓い屋を続けていたら、あの日のように危険な霊や妖怪に出会うかもしれない。
雪乃は、蓮の身に危険が及ぶのが心配でたまらなくなった。
「ねぇ、氷川くんはどうして、祓い屋を継ごうと思ったの?」
「え?」
「妖怪、見えないし、本当は、信じてない……んでしょ?」
「確かに、見えてはいないよ。本当にいるかどうかも、半信半疑……それでも、大学に行って資格さえとれば、あとはなんでも自由にしていいって言われてるから。そうしたら、やりたいことがあるんだ————」
蓮はやりたい事が何か具体的には言わなかったが、雪乃にはわかった。
『活動を休止します。』
休止前最後の動画で、レンレンはそう言っていた。
休止ということは、戻ってくるつもりなのだ。
辞めたわけではない。
彼が本当にやりたいことをする為に、これは必要な過程なのだ。
才能がどうこうではない。
(レンレンが、戻って来てくれるのなら、私……)
「そうなんだ……頑張ってね! 私、何もできないけど、応援してる」
(私が支えよう。立派な祓い屋になるように————!!)
雪乃はそう決意した。
雪女であること……半妖であることを隠しながら、雪乃は蓮がちゃんと祓い屋になれるように支えようと。
蓮に危険が及ぶようなことがあれば、自分が助ければ良いのだと。
(雪女の姿であれば、レンレンに気づかれずに行動できる……!!)
自分のクラスに推しであるレンレンがいると知ったあの日から、雪乃はずっと我慢していた。
何もせずに、ただのクラスメイトとしていることは、辛かった。
推しの為に何かしたいとモヤモヤしていた心が晴れると、雪乃は自然と笑顔になった。
「あ、ありがとう……!」
そして蓮も、この学校で一番美人の雪乃が笑顔で応援するなんて言うものだから、照れ臭そうに少し頬を赤らめ、つられて笑う。
(笑ってくれた!! あぁ、可愛い……やばい、尊い……!!)
自分が祓われるかもしれないという考えは、雪乃の頭にはない。
もう一度、蓮がレンレンとして、好きなように、やりたい事ができるようになって欲しい————
ただ、それだけだった。
そんな祓い屋見習いと半妖の雪女の姿を、遠くから見つめる烏が一羽。
「見つけた。こんなところにいたのか……雪女め」
烏はそう呟くと、普通の烏に紛れて夕陽と共に姿を消す。
不気味な鳴き声が、黄昏の空に響いた。
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