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第一章 祓い屋見習いと半妖の雪女
第9話 祓い屋見習いと半妖の雪女(9)
しおりを挟む「おはよう会長!」
「おはよー……って、もう、会長じゃないってば!」
「ごめんごめん、つい癖で……ゴールデンウィークどっか行ってきた?」
「うーん……いや、その、色々あって家にいたの」
連休明け、未だに雪乃のことを会長と呼んでしまうクラスメイトと何事もなかったように、雪乃は話ができた。
本来なら、家族旅行に行くはずだったゴールデンウィークが、雪女になってしまった雪乃は必死に人間の姿に戻る特訓をする期間に変わってしまった。
もともと素質があったのか、雪子の教え方がよかったのか、2日ほどで雪乃は完璧に人間と雪女の姿への切り替えができるようになる。
ただ、その際どうも面倒な事に、身につけていた持ち物も雪女になると人間に戻るまでの間消えてしまうのだ。
初めて雪女に変化した時も、蓮が先に読むようにと渡してくれた新刊が入った袋を持ったままだったのだが、雪女に変化したことで消えてしまった。
返すには、蓮の家に直接行けばいいのだが、蓮以外の祓い屋が実力のある者だった場合、雪乃には危険だった。
連絡先も交換していない為、返すタイミングを失い、結局、連休明けの学校で渡すしかない。
(どうしよう……いつ、話しかけよう)
雪乃は窓際の蓮の席を見たが、蓮はまだ登校していなかった。
近くの席のクラスメイトと話しながら、蓮が登校するのを待っていると、蓮が席についたのは、朝のホームルームが始まる直前だった。
(今は無理か……)
そう思いながら、いつものように蓮の斜め後姿を密かに見つめる。
(あ、寝癖かな? 後ろ立ってる)
雪乃の席は、ほどよく距離があり密かに蓮を見つめるのには最適な位置だった。
今まで一度も、見つめていることがバレたことはない。
だけど、この日は違った。
(あ……)
蓮が少し後ろを向き、視線がぶつかる。
雪乃は恥ずかしくなって、視線を逸らした。
(見てるの……バレたかも…………)
雪乃の心臓の音が早く大きくなる。
(待て、落ち着いけ私!! このまま変に興奮したら、また雪女になっちゃう!!)
雪乃の体は、感情のコントロールが上手くできないと、無意識に雪女になってしまうらしい。
「今日は席替えをします」
雪乃が心を落ち着かせていると、担任がそう言って、唐突に席替えが始まった。
(席替え!? ちょっと待ってよ、ここが一番いいのに!!)
雪乃は心の中で反対したが、そんなこと言えるはずがない。
他のクラスメイトは喜んでいた。
「会長、席替えだって! また近いといいね!!」
「そ……そうだね」
女子達は仲の良い友達同士で固まりたいと願う一方、男子達は……
「俺、小泉さんの隣がいい!」
「なんだよ、お前もか!」
「いや、俺だ!!」
下心丸出しで、このクラスで一番美人である雪乃に近づきたいと必死だった。
* * *
(ち……近い!)
雪乃の席は、窓際の一番後ろ。
右隣が蓮だった。
いつも密かに見つめていた蓮との席が近すぎて、雪乃はまともに右側を見れない。
(近いよ……!! 近いよ!!! 近すぎる!!! これあれじゃん、教科書忘れたら、机くっつけるパターンじゃんっ!!)
くじ運が良すぎた。
密かに見つめるには適していないが……恋する乙女にとっては、絶好の位置だ。
雪乃の前の席は、女子柔道部の体格の良い女子で、同じ中学出身だった。
その隣も大人しいタイプの女子で、前の席の時にはジロジロ見られていて不快だった男子達からも離れられた。
「小泉さん……」
「な、なに?」
興奮しているのがバレないように、なんでもないようなフリをしていたところ、不意に蓮の方から声をかけられ、返事をした声が裏返る。
まだ全員が移動しきれておらず、騒ついている中で、雪乃の過度な驚きようには、誰も気がついていなかった。
「この前のことなんだけど……」
「あ、ああごめんね! 急に帰っちゃって……それにこれ、返すね」
雪乃が新刊の入った袋を手渡すと、蓮は少し驚いて、それがなんなのかわかると、ふっと笑った。
「あぁ、すっかり忘れてた。面白かった?」
「うん、面白かったよ!」
(あ、笑った。尊い……やばい)
「それならよかった……ところで、あの後の話なんだけど」
「あの後の話?」
よく考えたら、雪乃は蓮の連絡先を聞く前に、雪女になってしまった為、坂崎家に一体何があったのかも、あの後、救急車で運ばれていった今井のことも何も聞いていなかった。
「あぁ……坂崎さんの話ね。どうなったの? 今井さん……だったけ? 玄関先で倒れたおばさん」
「うん、実はね——————」
癖である首の後ろを掻きながら、蓮は落ち着いた声で言った。
「————亡くなったんだ。搬送された病院で」
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