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しおりを挟む「で、出来たわ……っ」
もくもくと揺らめく煙の中で、フェリシアは切なげに調合器具を見つめる。
ビーカーの中身を薬瓶に移して、遥か昔の記憶を思い出す。
***
彼と出会ったのは、避暑地である我が公爵家の領地でも、一際暑い夏だった十年前、七歳の時だった。
姉たちは『避暑地でもこんなに暑いなら王都に帰りたい』とぐずっていたのを覚えている。
フェリシアには、二人の華やかな姉がいた。
十歳の長女は薔薇のように艶やか。九歳の次女は白百合のように可憐だった。
二人の姉に比べて、どこか地味で控えめなフェリシアは、添え花の姫君と呼ばれていた。
確かに大輪の如く美しい姉たちは、同世代の貴族が集まるお茶会でも特に目立っている。
フェリシアは、姉たちを引き立てる“添え花”。
それでも別に構わないと思っていた。この日までは。
.
.
.
カントリーハウスの裏にある、小川の中へ足を入れて涼しくなった姉たちは、すっかり機嫌を良くしてきゃあきゃあと会話を始めた。
「今日から隣国の王子様が静養のために来るんですって!」
「王子様って言っても、お父様のお姉様の子供でしょう?」
「ええ、そうよ。親戚でも、王子様なのだからかっこいいに決まっているわ」
「だけど、ある事情をお持ちの方ってお母様は言っていたわよ。人と違う所があっても騒がないようにって」
「きっと物凄く素敵な殿方だから、騒がないようにって忠告に決まっているわ」
くすくすと笑い合う二人を横目に、フェリシアは、黙りこくって本を読んでいた。
仲が悪い訳じゃないけど、異性に物凄く興味がある姉たちとは感性が合わない。だからあの二人と会話しても、ちっとも面白くない。それだったら本を読んで、未知の知識を得ることの方が楽しかった。
しばらくすると、使用人にお客様がお見えだから、屋敷に戻るようにと促されて、身なりを整える。
夕食の席で“王子様”とご一緒する事になって、浮かれている姉たち。しかし、いざ食堂で王子様にご対面すると、二人は怯えて震えながら、こう言った。
「ひいい! 化け物!」
「怖いわ、近寄らないで」
「…………」
確かにベルンハルト王子は、まるで怪物のような姿だった。
背丈は姉たちとあまり変わらないが、手足が異様に大きい。
耳は尖っていて、肌は緑色。下の犬歯は大きく尖って、口の外に出ていた。
――まるで小説に出てくるオークのようだ。
フェリシアはそう思いながらも、彼に興味が湧いた。
だってこんな変わった姿の人なんて滅多にいないし、怪物のような姿だけど、目の奥は優しそう。
(明日、一緒に遊びたいな)
偽善だったのか、単に好奇心がくすぐられただけだったのか分からない。
それでも純粋にベルンハルトと話してみたいと思ったのは事実だった。
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