上 下
18 / 19
番外編

朝にいちゃいちゃするだけのお話 ( 書籍化記念SS )

しおりを挟む
 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

 エミリア:元ご奉仕メイド。現在は王城で騎士団メイドとして働く。大好きなランドルフ(通称ラルフさま)と結婚して王都の屋敷で暮らし、幸せいっぱい。

 ランドルフ:騎士団長、次期侯爵。巨根過ぎてご奉仕メイドに逃げられまくっていたが見事エミリアを射止める。大好きなエミリアと結婚して王都の屋敷で暮らし、幸せいっぱい。ドSだったが結婚して丸くなってきた。

 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆







 私エミリアの朝は、大抵腕まくらで起きる。

 結婚してから、朝起きるとラルフさまが後ろから抱きしめてくださる頻度が増えた。
 この逞しい腕が安心するのだけど、お腹に乗っかっていると重い……!

 お仕事の日でも、朝食前にランニングをして体力作りをしたいのに。いくら鍛えている私でもラルフさま相手じゃ抜け出せないのが悔しい。

 しかし気持ちよさそうな寝息が聞こえるから、起こすのも忍びない。
 だから私は寝返りを打って、ラルフさまの寝顔を堪能するのが日課になっている。

 ――この寝顔に一目惚れしたんだよなぁ……。

 配属先が決まって騎士団メイド長に挨拶をした帰り道の中庭にある木陰で眠っているところを見つけたんだっけ。
 本当に睫毛が長くて、顔立ちも整っている。この神秘的な黒髪も、艶やかで美しい。

 そういえばあの頃よりも、随分ラルフさまのこと詳しくなった。
 自然に笑った時に少し目尻が下がるところとか、髪を触るとちょっと硬い毛なのが、私くらいしか知らないと思うと、ちょっと、……いやかなりキュンとしてしまう。

 こんなにも素敵な夫ができるとは、以前の私に話してもきっと信じないだろうなぁ。

 もちろん顔立ちじゃなくて、意地悪だけど本当は心底優しい、その中身が一番好き。

 溢れる想いが止められなくて、ラルフさまの胸板に頬ずりをすると、先ほどまでよりも強く抱きしめられた。

「起きてたのか……」
「おはようございます、ラルフさま。起こしてしまってすみません」

 起こすつもりはなかったので、眉を下げて謝る。するとラルフさまは、ふっと柔らかい笑みを浮かべた。

 ――あ、また目尻が下がってて可愛い……っ!

「おはよう、エミリア」

 額にキスが落とされ、いつも通り私のことを大好きって眼差しでラルフさまが見つめてくる。

 その熱視線が、あまりに幸せで。でもどこか気恥ずかしくて。
 照れ隠しで、つい口を尖らせて可愛くないことを聞いてしまう。

「毎朝抱きしめてくださるのは嬉しいですけど、寝る前は少しだけ離れていますよね!? どうして寝てる最中に抱きしめるんですか? 私は抱き枕じゃありませんっ!」
「っふ。抱き枕にしているつもりはないんだが。……寝ている最中にエミリアがコロコロ転がっていくものだから、ベッドから落ちないよう捕まえておいている」
「え、ええっ!?」

 ――まさかの私が原因!? 確かに寝返りは打つほうだけど、そんな心配をしてくださっていたの!?

 恥ずかしすぎて、思わず顔がぼっと熱くなる。
 そんな私を見て、ラルフさまはくすくすと笑いながら呟く。

「後は、お前の体温が子どもみたいに高くてあったかいからだ」
「え!?」
「それに石鹸のいい香りもする」

 そう言うと、私の首筋に顔を埋めて、息を大きく吸った。

「……ひゃ、嗅がないでください……んぅっ」

 息が吐かれたと思えば、鎖骨に強く口付けられて、跡を残される。
 そして私の上に覆いかぶさるような体勢になったラルフさまを、うらめしげに見上げる。

「ちょっとラルフさま! そんなところに跡をつけたら、髪の毛を結べなくなるじゃないですか~っ!」

 頬を膨らませていると、なぜか私の胸元で肩を震わせているラルフさま。
 次第に揺れ幅を大きくなり、いよいよ声を出して笑い始めた。

「ら、ラルフさま……?」

 珍しく大笑いしている夫に戸惑い、心配になって肩をさする。
 すると段々と私まで可笑しくなってきて、一緒に笑ってしまった。

「ふふっ。もう、なんでそんなに笑って……?」
「っいや、改めてエミリアは、怒っても可愛いなと思って……」
「わっ」

 急に背中に腕が回ってきたかと思えば、抱き上げられて私がラルフさまの身体の上に覆いかぶさる体勢になった。

 近い位置にあるラルフさまの頬に口付けすれば、すぐに後頭部をおさえられて、唇を奪われる。

 触れるだけの優しいキス。彼をぎゅっと抱きしめて胸板に耳を当てると、心臓の音がする。

「このままもう少しだけ、二度寝するか」
「そうですね」

 ラルフさまのウッディな香りと体温に包まれて、安心からか眠気が襲ってくる。

 この平和な時間がずっとずっっと続きますように。瞼を閉じながら、心の中で女神さまに祈った。




しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。