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第一章
この世界の文字って読めるのかなぁ?
しおりを挟む私の部屋がみんなから離された場所なのは「何もすることがないんだから本でも読んでいて」という配慮からだ。
地図を確認したところ、王城の端ではなく点在する離宮の端にあり、この囲まれた城壁のちょうど中心にあるのがこの円柱の図書館だった。
周辺には花壇だけでなく木々も植わっていて、お互いの離宮から目隠しのように配置されている。
「おい」
廊下から外の木を見ていると左側の廊下からロミンたち三人が近寄っていた。
今の声は先頭を歩くロミンだろう。
「おい、アイリス」
「ん? ああ、ロミン。レモンと偏屈王子も。─── なに?」
私が振り向くと、声をかけてきたはずのロミンが立ち止まり顔を背けた。
そんなロミンの肩を軽く叩いて、少し背の高い少年が前にでてきた。
「あ、俺は王子で。コイツらにもそう呼ばれているんで」
「そう。あ、レモン、さっきは私のタブレットに気付いてくれてサンキュ」
「え? あ、いいえ。本当は僕たちが気付いてロミンに言わないといけなかったのに」
ありがとうございます、と頭を下げる少年。
印象は真面目で気が弱い子って感じだ。
「おい、お前。薬とか大丈夫なんかよ」
「え?」
「病気で不参加なんだろ」
ロミンの言葉に私は驚いて言葉を返せなかった。
ぶっきらぼうな言い方だけど、私の体調を気遣ってくれているのだ。
「おい、何惚けてるんだ」
「───────── 誰もそんなこと気にしなかったのに」
「だからアイツらはダメなんだ。それで薬は持ってるのか?」
「あ、うん。ステータスの中に水と一緒に入れてあるから」
「は、あぁぁぁ?」
「ステータス?」
「あれ? 使い方、聞いてない?」
「知らねえ」
「えっと……じゃあ、ちょっとそこが私の部屋らしいからそこまでついてきてもらっていい? 絨毯が敷いてあるけど、ここで座るよりはいいと思う」
私がそばの扉を指差す。
その先が私がもらった図書館だ。
「ああ、ここにいてほかの連中に絡まれるのも面倒だ」
三人で顔を見合わせて頷き合うとそうロミンは言った。
ただ、彼の目が一瞬だけ私の裸足を見たけど、そのことは指摘しなかった。
ファンファンファンファン……
どことなく柔らかい音が一定の速度で響いた。
これは廊下から聞こえている。
「なに?」
「なんの音?」
「何か起きたか」
ロミンがソファーから立ち上がる。
それにあわせてレモンと王子も立ち上がる。
「ここって建物は全部防音じゃなかったっけ?」
図書館である以上、静かな空間だと思っていたのに。
世界が違うから、そんな常識も違うのだろうか。
「おい、お前はここからでるなよ」
「でも、さっきの場所にいた方が良くない?」
「いえ、何があるか分からないから今回は出ないでください」
「はじめての戦闘後は高揚感で気がたってるからな」
「あのバカ女たちに絡まれたくないだろ」
「─── わかった。大丈夫だと思うけど気をつけて」
私の言葉に三人は厳しい表情のまま頷いた。
「また、来てもいいか?」
「いいよ」
「ありがとう」
そう言って三人は出て行った。
直接三人と接してみてわかった。
彼らはただの反抗期の少年だ。
レモンは中二、王子は高二、ロミンは高一。
最初は異世界にきて面白がっている節があった。
それでも三人は図書館で調べ物をしていたようだ。
《驚きました。彼らはこの城の周辺にある町や村の位置を調べていましたよ》
〈異世界に召喚される小説や漫画って多かったからね。だから知識として持っているんだと思う。ただ、現実に自分の身に起きて甘くないと思ったんだと思う〉
《でも……いい子たちですね》
〈うん、ただの優しい少年たちだよ。私の心配して薬を持ってるか聞いてきた。そんなこと、ほかのギルメンたちに聞かれもしなかった〉
私は彼らより弱い。
だから守ろうとしてくれるのだろう。
それは年相応の少年たちがもつ優しさだ。
その優しさを行動に結びつけられるかどうかは本人たちのもつ勇気による。
他人に優しくするにはまず一歩を踏み出せるかどうか。
その一歩を踏み出す勇気があるかどうかが問題なのだ。
私は図書館にあった靴を履いてストールを肩にかけている。
図書館の利用者用のようだ。
靴はルームシューズで、ストールやひざ掛けも用意されているということは、ここで読書を楽しまれる人がいたのだろう。
これらを見つけて持ってきてくれたのはロミンだった。
私たちは無限に続いているような螺旋状の図書館を見上げていた。
そして私は「この世界の文字って読めるのかなぁ?」と呟いていた。
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