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4章 聖地内戦終結

洪水。

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「まっ、待ってお姉さんっ!?」

「関係あるかっ! どけぇっ!」


ガッ!


「レキっ!? なぜ邪魔をするっ!?」

「すまない。私のミスだローラっ! だが彼女はネィンの……ここまで運んでくれた子の母親だっ!」

ネィンの母親を後ろにし、レキが片手でローラを止めるっ!


「この女は娼婦だぞっ! ペラっとイチモツくわえるしか能無しの口が動けば、このガキは死ぬんだっ!」

「……。それは……っ」

内部反抗者である事をバラされれば、間違いなくネィンは処刑されるだろう。

「言いませんっ!? 絶対……絶対ですっ!? ホントですっ!」

そう言うとネィンの母親は……。


「この子は……。この子は大切な私の子ですからっ! 絶対言いませんっ! 子供を売るなんてそんな事っ!?」

「……くっ」

歯痒そうにレキが唇を噛む。

ネィンを抱く、明らかにみすぼらしい人間。

レキも知っている。そんな理想はきっと……。


「僕は……。らしくないミスをした……」

そう言ってレキが痛む肩を押さえ、ゆっくりとローラを離し……。

「……いっいやっ!? いやぁーーーっ!? 誰かーっ!? 誰か助けてーーっ!」

「待ってお姉さんっ!? 僕は構いませんっ! だからっ!」

ネィンが止めようとするがすぐさま、逃げるネィンの母親にレキがナイフを……。


トトトトト……。


「おい……。なんだこの音……」

「あぁ。何か……音がするね。地鳴り……んっ!?」

その瞬間だったっ!


ドッバッ!


「クッ!?」

「うあぁっ!?」

突如水の濁流が彼女らを襲ったっ!

ドンドンと増える水のかさっ!

入口からだっ!


「クソがっ!? これは……なんだっ!? ともかくまずいぞっ!?」

ローラとレキが必死に階段の壁にへばりつくが、その濁流は思った以上に早くてキツイっ!

「しまった……ぷはっっ! 出口は無理かっ!」

階段の上。

ほんの眼の前だが今や遠くなってしまった出口をすぐ諦め、レキが悔やんで洞窟の内部を見る。

流されれば全く情報のない闇の中に放り込まれることになる。

外から聞こえている戦闘に参加するかどうか以前に、自分の命の危機が待っていた。


「無駄な時間さえ取らなければ……。くっ。すまないローラっ!」

「飛ぶしかないのか……っ! だがそうなれば私では……。そうだおいガキっ!? お前水の魔法が得意……」

……。

「いない……か。母親を追ったね……」

なす術もなく、ヘドロに中に流されそうな女性2人っ!

そしてローラが切り札を使って、水の中から……。


「ぷあっ! 君には助けられてばかりだな」

「はぁはぁっ。ふふっ生かしておいて正解だったな……。ガキでも」

下を見るローラ。

魚のような何かが濁流の中、怯えることなく呪文を詠唱し、2人を抱き留めていた。


「ネィンすまないっ。こんな時に……」

謝るレキ。

下にいるネィンはまるで魚のように、その濁流の中を泳いでいくっ!

初級魔法とはいえ、この強い水流の中を自由に這いまわるのは、なかなかの練度だった。

「いえ……っ。初めて会った時にお姉さんに助けられたのは僕です。お忘れでしょうが……」

ネィンがレキに笑う。


「……そうか、君はあの時のっ!」

その言葉でレキの脳裏に、思い起こされる物があった。

あの下水洞窟でマッデンから奇襲を受けた時……。その時肌身離さず守った子供はどうやら彼だったらしい。


「それにジキムートさんにも助けてもらいました。ゴディン様……。いや、ゴディンから命令を受けた時もきっとあの人は、僕を守る為に地べたに這いつくばって見せた」

あの時、ジキムートをネィンが刺殺しようと挑んでいれば……殺されていただろう。

彼は傭兵であり、時間稼ぎになるなら子供でも殺す。

その位はゴディンには分からずとも子供でも分かった。

それかジキムートが逃げてしまうと、ゴディンに能呼ばわりを受け殺されるだろう。

それを覆す為に、傭兵は負けを認めたのだ。

2人共が生き残る為に。


「そうか、あいつめ。逃げなかったのはそういう事もあったんだね。ふふっ」

なんとか岸に辿り着いた女性2人。

外は……真っ暗だ。

雨と突風が吹きすさび、なんとも不吉な雰囲気がしている。


「それに僕は水の民にはなれない人間ですから。人間の味方ですっ! だから頑張ってくださいっ! 僕にはこれぐらいしかできないけれどっ」

闇の中ネィンはワッペンを差し出し、笑う。

そこには……刺繍だろうか?

少し汚れたワッペンのような物。

それはこの町によく飾ってある、水の民の紋章だ。


「……君も来るかい?」

「エッ!?」

「君もここから抜け出し、僕らと来るかい? まぁ……ヴィンはきっとすこぶる嫌がるだろうけども、ね。こき使われる事になれているならまぁ、なんとか。ただ今から行くならあのマッデンと戦う事になるけど、さ」

眼鏡を上げ苦笑いをして、ワッペンを握るレキ。

防具はとりあえず置いてきたが、眼鏡だけはしっかりと回収していた。

濡れてビショビショの布をギュッと絞りながら笑うレキに、ネィンが頬を赤らめ戸惑い……そして。


「……いえ僕はまだ良いです。お母さんを助けに行かなきゃ」

少年には確信があった。

あの水の民達が自分の母親、娼婦を守ってくれる訳がないという確信が。

「そうか……だが酷な事を言うようだが、見捨てたほうが良いぞ、ネィン。お母さんは諦めたほうが良い。これは君を思っての言葉だ」

「……それはっ」

それも知っていた。

これを助ければきっと母親が母親らしくなり、幸せに暮らせるなどと言うおとぎ話。そんな物は決して、起きないと。

自分を見つめるレキの視線に、嘘はない。



「ごめんなさい……。僕行きます……」

だがあと一歩……。

その一歩が彼には、踏み出せなかった。

全てを覆う闇の中。

最も危険な場所へと赴こうとする、太陽のような救いがあろうとも、だ。


「よしてやれ、レキ。自分で一度行って見れば良いさ。後悔からしか世界は始まらない。後悔もできずにそこで終わるなら、世界には不必要なのさ」

「そうか……。それでも行くかい、ネィン。だがまた会えるといいなっ! 依頼の約束を守った後は……君の笑顔の童貞を奪おうじゃぁないか。盛大に私の顔に噴きたまえっ!」

「親父……」

ニカっと笑うレキの隣でローラが頭を抱えた。

「……はいっ!」

ネィンは笑い返すと、女達2人を陸に残し……洞窟に戻っていった。



「さて……じゃあ、僕たちも行きますかっ」

「あぁ、マッデンを殺す。そして何より嬢様が欲した〝エイクリアス・ソリダリティー(水の誓約旗)〟を奪取だっ!」

彼女らはその光。

天を貫く神々しい光を見やる。



「あれが神の一族の本気。ゾクゾクするよ、勇者としては」

「勇者……な。青臭い事を言ってないで行くぞっ!」

ローラとレキが、自分の獲物を握る指に力を込めたっ。

目指すは最強の使徒の首っ!
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