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4章 聖地内戦終結
一瞬。
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「あれか……」
ジキムートが見やるその先にはマッデンが一人、たたずんでいる。
闇の中ただひたすらに、まっすぐと神殿を睨むマッデン。
その姿には確かに風格があり、そして……。
(覚悟の顔……か。やべえな。)
ジキムートが周りに細心の注意を払いつつ、状況を確認する。
「人数は……大体あっちが80に、こっちが100くらいか。頭数では確かに有利だが……全く喜べねえな。確かギリンガムは水の奴らは隠れてる可能性もある、とか言ってやがったしよ」
ジキムートは嫌と言う程知っている、マッデンの実力を。
もしマッデン一人だったとしても、この人数差でも悠々と覆してくるという現実を。
(騎士団寄こすとか言ってたが、200くらいは期待するべきだな。)
現実的に見積もって、それでも取引として誠実ではない。
「ちぃ、傭兵どもめ。余計な手間数増やしやがって」
ジキムートが睨む先……。
「てめえらよく来たな……」
しっかりとマッデンを固めるように裏切った傭兵達が、かなりの数で前衛に立ち塞がってくる。
「お前らもこっちに来いよ~。こっちこそが偉大なる神様への本当の帰依になるんだぜ?」
「そうそう。大体そっちに居て何するってんだ? えっ? なんで意地張ってんのか知らんが……神への侮辱は重罪なんだよっ! って、知らねえわけないよなーっ!?」
ジキムートの視界には、騒ぐ裏切者たちの後ろに少量の水の民と思しき人物たち。
この戦場は残念な事に、敵味方問わず頭数だけでは傭兵が大多数を占めていた。
「そうだ、下民共。我らダヌディナ神に創られし原初にして、ヒューマン・オリジンであるトゥールース族。それは高貴なる種族なのだ。お前たちのような後から派生した人間とは〝格″が違うと知れよっ!」
「神は我々を愛している。これは変わらぬ事実だっ!」
住民達も騒ぎ始め、そしてそれを合図にマッデンが前に踏み出す。
「貴様らが神に帰依し、正しい祈りの道へと還る為には必ず、我らの助けが必要であろう?神のお声を拝聴できるのは、わし一人のみっ! さぁ下れっ! 我らみずからが導いてやろうと言うておるっ。懺悔して下れぃっ!」
その言葉にジキムートが笑って腕を広げてやる。
「へぇ、お前らが初めに造られて、俺らが次に作られたって事は……お前らはできそこないだった訳か? じゃなきゃ作り直す必要はねえよなぁっ!? マッデンっ!」
わざわざ大きな仕草で挑発しながら、ジキムートが歩みを早めそして……駆けるっ!
「神様もきっとお前のきったないナニじゃあ満足しなかったんだよっ。なんせ〝格″とやらが違うんだからな。上だとは限らんぞ、どうなんだ、えっ!? 〝格″の違いとやらが分かる『未完成品』さんよっ!」
「このク……」
「ふっ!」
疾風迅雷のムードブレイカー。
相手に自由な時間を極力与えない事、それを本望とした電撃戦っ!
敵陣営のど真ん中へ、一気に突進するジキムートっ!
そして到達したのは取り囲まれてしまう、その位置。
(よし来いっ!)
マッデンの体が光るっ!
「えっ!?」
40にも到達しそうな氷の刃がジキムート目掛け、雨あられと降り注いだっ!
〝スペルレス(神の寵愛深き物)″の凶悪な呪文速度。そう……タイミングは完璧っ!
「ぎゃああっ!?」
「あがあっ!?」
裏切った傭兵達に、マッデンの魔法攻撃が突き刺さるっ!
「ぐっマッデン、俺らは仲間だっ!」
「ええい黙れっ! このわしを未完成品だとっ!? それは神のご意思でしか分からぬ物っ! 神威(カムイ)を利用した、〝ヒューマン・ディスグレイス(人類汚辱)〟にあたるのだぞっ!? それを〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″の前でそれを語るなど……舐め腐りおってーーっ!」
止める言葉も聞かず、更に1射っ!
「ぎゃああっ!?」
「言っておくがその豚には、お前らと俺らを見分ける力はねえぞっ! おいっ、てめえら団子になれっ。相手は俺らを見分けられねえから時間を稼ぐんだっ!」
「おっ、おうっ!」
傭兵が傭兵と戦うのだ、見分ける手段がないといけない。
だが、それがない事に気が付いたジキムート。
普通の戦場だとそう言ったものが配給されるが、マッデンにはそういう経験がないのだろう。そして……。
(アイツの性格から言って、気に入らない奴は即攻撃だ。だったら標的になって、そのまま敵のど真ん中に入ってやれば良いっ! あの洞窟の中でも全くと言って良い程、団体戦が機能してなかったしな。魔法以外は標準以下のデブなんだ、狙いは甘いっ!)
マッデンの性格を考慮し、逆手にとってやる戦法を思いついていた。
狙いを付ける時はさすがに、〝スペルレス(神の寵愛深き物)″と言えど相手に集中する。
それを意表を突いて動かせれば、簡単に同士討ちを誘えるはずだった。
「貴族やあまつさえ王族でも、わしの前では口の慎むのじゃぞっ!おいっ、あの羽虫だっ! 早くそこのゴミをひざまずかせろっ。我の前に引きずり出してこいっ! わし直々に裁いて、ひき肉にしてやるわっ!」
マッデンは顔が真っ赤だっ!
攻撃を止めず、味方の傭兵ごと薙ぎ払いながら手下たちに叫ぶっ!
「うひぃっ!? まっ、待て少し……がひっ!?」
マッデンのその戦い方、やはり素人。
ブンブンと力いっぱい拳……この男の場合はマナ。それを振うだけが脳のようだ。
ジキムートがつけ込むには最適な弱点である。
マッデンという仲間からの攻撃に、逃げ惑う裏切り者の傭兵達っ!
「うらぁっ!」
ジキムートはそれをなぎ倒したりスカシたりながら、一気呵成にマッデンに直進するっ!
「どけぇっ!」
「ひっひぃっ!?」
あまりのジキムートの速さと、仲間をかえりみないマッデンの攻撃におびえ……住民も傭兵も機能していない。
全員がたじろぎながら、後ろに下がってしまった。そして……っ!
「うらあっ! マッデーーン」
「くっ、なぜ止めん貴様らっ!? だが無駄よ無駄無駄ーっ」
マッデンがドンドンと近づくジキムートに分厚い防御壁を張り……。
ニヤッ!
ジキムートからナイフが飛ぶっ!
パリンっ!
「うぉおぉっ!」
「っ!?」
ジキムートの体が障壁に当たると……まるで壁が柔らかい雪のように砕け、障壁をすり抜けたっ!
ヒュンっ!
「ぐっ!?……ぐあぁっ!?」
ボトッ。トトトッ……。
マッデンの叫び声っ!
そして全員が唖然とするその光景っ!
「はぁはぁ……くっ!? なんじゃあーっ、これは!?」
ジキムートはマッデンの障壁をすり抜け、文字通り無かったことにしてマッデンの左腕を斬り飛ばしていたっ!
そして……っ。
「うらあぁっ!」
ジキムートは全ての力をこの好機にかけ、勝利を引き寄せるべく矢継ぎ早に斬撃を撃ちこみまくるっ!
「ウラウラウラァッ!ウヒッヒーッ!」
ジキムートの目が……キマッていた。
すでに〝クスリ″を服用していたのだっ!
「クヒィッッ!? 悪魔めっ」
ジキムートの初撃から遅ればせながら氷と化したマッデンの腕からは、血の結晶がボトリボトリと宝石のように落ちている。
それを必死に抑えながら、ヨダレを垂らし逃げ惑うマッデンっ!
ヒュンヒュンっ……ビュンっ!
「ほあっ!? あぁっ、アッ!?」
斬撃の嵐っ!
それにマッデンが防戦一方で、魔法の障壁を張ろうともがき続けているっ!
「おへらぁっ!」
「くあぁっ! ?やっ、やめよっ。えぇいっ、下がらんかっ!」
恐怖の目。
これほど近くで剣が振られたこと無い人間には、ジキムートの常軌を逸した目と殺気。
信じられない程の左腕の痛み。
そして流れる様な斬撃っ!
この3重奏は狂気の沙汰だ。
「なぜっ!? くそっ!? なぜ突き放せぬぅっ!?」
恐れに呑まれ、マッデンの魔法が上手く発動しない。
そう……そして危機を目の前にすれば、人間としては仕方がない事がたくさんある。
「この臭い……なんらぁお前、チビッてんのかよぉ」
ヨダレを振りまき〝エイラリー・スクァモッサ(異形鱗翼)″と名付けられたウロコの左肩をマッデンにぶちかますっ!
「ぐぬぅ!? げっ下賤めっ!」
脂汗が止まらない。
マッデンが必死に逃げ惑うっ!
足元に氷のツタを出しても。
氷の膜で光を遮り、マッデンの体を視覚的に消して見せても。
100の氷槍でも、水の波が襲っても全て……そう全てっ!
「ヒャッヒャーヒーっ。おっせぇんだよ、ゴミが! 神がこの程度なら俺はっ、俺は姉さんにだって勝てるっ!」
全てこの男、ジキムートの動きが上回っている。
ヨダレを垂らして食らいつく猛獣は常に、マッデン捕食可能域から吸い付いて離れないっ!
「はぁはぁ……くっ、このゴミが……ゴミがーーーーっ!」
その瞬間……何か雪玉のような物がマッデンの手のひらから、目の前に登場してくる。
そしてマッデンの懐で何かが光ったのが分かった。
ゾクっ!?
走る悪寒っ!
だが脳内麻薬がそれを、その殺意をあざ笑い、そして足がっ!
……両足は踏み出そうとしなかった。
ジキムートの直感。全ての感覚が止まる。世界が動かない。
(なんだ……コレ? そうだコレ、恐怖心……だ。)
何度が稀に感じた必殺、いや絶死の直感。これ以上は……。
「死ぬのですか?」
「……誰だ、お前」
「そのまま死んでいただければ、ありがたい」
「な……何言ってる?」
「あなたはそんな……それ程に神を侮辱したいのか、嘆かわしい。迷惑なのですよ」
「神は俺らを見捨てたっ! 俺らの神は決して俺らを愛してないじゃないかっ!」
「そうでしょう、愛されてはいない。ですがそんな美しい力を持っているというのに、使おうともしない。それが解き放ちさえすれば……きっと」
「や……やめろ、触るなよっ! そこはダメだっ! お前が触ると……」
「触りませんよ、そんな卑しい物。すぐに神の裁きを受けるべき汚物」
「神の裁き……だと。それは……それは光?」
「汚物汚物汚物。あなたは汚物に食われている」
「くっ、てめえになんぞ言われたくねぇっ! この……人殺しがーーーっ! 大……神の、光……護……ろ」
「クソがぁっ!?」
全力で飛びのいたっ!
それは水の民も同じ……青筋を立てて逃げ惑うっ!
キュイイイッイイッユっ!
放つきらめき、その全てが……レーザーとなるっ!
物も人も全て。全部全部……全部を切り刻んだっ!
「あぁあああっ!?」
「うああああぎゃあ!?」
どんな悲鳴も懺悔の言葉も、この光の前では無意味。
音が気が狂う程に鳴り響き、絶望と悲鳴がかき消され続けるっ!
永遠の2秒。その間に人が忽然と……消えた。
ジキムートが見やるその先にはマッデンが一人、たたずんでいる。
闇の中ただひたすらに、まっすぐと神殿を睨むマッデン。
その姿には確かに風格があり、そして……。
(覚悟の顔……か。やべえな。)
ジキムートが周りに細心の注意を払いつつ、状況を確認する。
「人数は……大体あっちが80に、こっちが100くらいか。頭数では確かに有利だが……全く喜べねえな。確かギリンガムは水の奴らは隠れてる可能性もある、とか言ってやがったしよ」
ジキムートは嫌と言う程知っている、マッデンの実力を。
もしマッデン一人だったとしても、この人数差でも悠々と覆してくるという現実を。
(騎士団寄こすとか言ってたが、200くらいは期待するべきだな。)
現実的に見積もって、それでも取引として誠実ではない。
「ちぃ、傭兵どもめ。余計な手間数増やしやがって」
ジキムートが睨む先……。
「てめえらよく来たな……」
しっかりとマッデンを固めるように裏切った傭兵達が、かなりの数で前衛に立ち塞がってくる。
「お前らもこっちに来いよ~。こっちこそが偉大なる神様への本当の帰依になるんだぜ?」
「そうそう。大体そっちに居て何するってんだ? えっ? なんで意地張ってんのか知らんが……神への侮辱は重罪なんだよっ! って、知らねえわけないよなーっ!?」
ジキムートの視界には、騒ぐ裏切者たちの後ろに少量の水の民と思しき人物たち。
この戦場は残念な事に、敵味方問わず頭数だけでは傭兵が大多数を占めていた。
「そうだ、下民共。我らダヌディナ神に創られし原初にして、ヒューマン・オリジンであるトゥールース族。それは高貴なる種族なのだ。お前たちのような後から派生した人間とは〝格″が違うと知れよっ!」
「神は我々を愛している。これは変わらぬ事実だっ!」
住民達も騒ぎ始め、そしてそれを合図にマッデンが前に踏み出す。
「貴様らが神に帰依し、正しい祈りの道へと還る為には必ず、我らの助けが必要であろう?神のお声を拝聴できるのは、わし一人のみっ! さぁ下れっ! 我らみずからが導いてやろうと言うておるっ。懺悔して下れぃっ!」
その言葉にジキムートが笑って腕を広げてやる。
「へぇ、お前らが初めに造られて、俺らが次に作られたって事は……お前らはできそこないだった訳か? じゃなきゃ作り直す必要はねえよなぁっ!? マッデンっ!」
わざわざ大きな仕草で挑発しながら、ジキムートが歩みを早めそして……駆けるっ!
「神様もきっとお前のきったないナニじゃあ満足しなかったんだよっ。なんせ〝格″とやらが違うんだからな。上だとは限らんぞ、どうなんだ、えっ!? 〝格″の違いとやらが分かる『未完成品』さんよっ!」
「このク……」
「ふっ!」
疾風迅雷のムードブレイカー。
相手に自由な時間を極力与えない事、それを本望とした電撃戦っ!
敵陣営のど真ん中へ、一気に突進するジキムートっ!
そして到達したのは取り囲まれてしまう、その位置。
(よし来いっ!)
マッデンの体が光るっ!
「えっ!?」
40にも到達しそうな氷の刃がジキムート目掛け、雨あられと降り注いだっ!
〝スペルレス(神の寵愛深き物)″の凶悪な呪文速度。そう……タイミングは完璧っ!
「ぎゃああっ!?」
「あがあっ!?」
裏切った傭兵達に、マッデンの魔法攻撃が突き刺さるっ!
「ぐっマッデン、俺らは仲間だっ!」
「ええい黙れっ! このわしを未完成品だとっ!? それは神のご意思でしか分からぬ物っ! 神威(カムイ)を利用した、〝ヒューマン・ディスグレイス(人類汚辱)〟にあたるのだぞっ!? それを〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″の前でそれを語るなど……舐め腐りおってーーっ!」
止める言葉も聞かず、更に1射っ!
「ぎゃああっ!?」
「言っておくがその豚には、お前らと俺らを見分ける力はねえぞっ! おいっ、てめえら団子になれっ。相手は俺らを見分けられねえから時間を稼ぐんだっ!」
「おっ、おうっ!」
傭兵が傭兵と戦うのだ、見分ける手段がないといけない。
だが、それがない事に気が付いたジキムート。
普通の戦場だとそう言ったものが配給されるが、マッデンにはそういう経験がないのだろう。そして……。
(アイツの性格から言って、気に入らない奴は即攻撃だ。だったら標的になって、そのまま敵のど真ん中に入ってやれば良いっ! あの洞窟の中でも全くと言って良い程、団体戦が機能してなかったしな。魔法以外は標準以下のデブなんだ、狙いは甘いっ!)
マッデンの性格を考慮し、逆手にとってやる戦法を思いついていた。
狙いを付ける時はさすがに、〝スペルレス(神の寵愛深き物)″と言えど相手に集中する。
それを意表を突いて動かせれば、簡単に同士討ちを誘えるはずだった。
「貴族やあまつさえ王族でも、わしの前では口の慎むのじゃぞっ!おいっ、あの羽虫だっ! 早くそこのゴミをひざまずかせろっ。我の前に引きずり出してこいっ! わし直々に裁いて、ひき肉にしてやるわっ!」
マッデンは顔が真っ赤だっ!
攻撃を止めず、味方の傭兵ごと薙ぎ払いながら手下たちに叫ぶっ!
「うひぃっ!? まっ、待て少し……がひっ!?」
マッデンのその戦い方、やはり素人。
ブンブンと力いっぱい拳……この男の場合はマナ。それを振うだけが脳のようだ。
ジキムートがつけ込むには最適な弱点である。
マッデンという仲間からの攻撃に、逃げ惑う裏切り者の傭兵達っ!
「うらぁっ!」
ジキムートはそれをなぎ倒したりスカシたりながら、一気呵成にマッデンに直進するっ!
「どけぇっ!」
「ひっひぃっ!?」
あまりのジキムートの速さと、仲間をかえりみないマッデンの攻撃におびえ……住民も傭兵も機能していない。
全員がたじろぎながら、後ろに下がってしまった。そして……っ!
「うらあっ! マッデーーン」
「くっ、なぜ止めん貴様らっ!? だが無駄よ無駄無駄ーっ」
マッデンがドンドンと近づくジキムートに分厚い防御壁を張り……。
ニヤッ!
ジキムートからナイフが飛ぶっ!
パリンっ!
「うぉおぉっ!」
「っ!?」
ジキムートの体が障壁に当たると……まるで壁が柔らかい雪のように砕け、障壁をすり抜けたっ!
ヒュンっ!
「ぐっ!?……ぐあぁっ!?」
ボトッ。トトトッ……。
マッデンの叫び声っ!
そして全員が唖然とするその光景っ!
「はぁはぁ……くっ!? なんじゃあーっ、これは!?」
ジキムートはマッデンの障壁をすり抜け、文字通り無かったことにしてマッデンの左腕を斬り飛ばしていたっ!
そして……っ。
「うらあぁっ!」
ジキムートは全ての力をこの好機にかけ、勝利を引き寄せるべく矢継ぎ早に斬撃を撃ちこみまくるっ!
「ウラウラウラァッ!ウヒッヒーッ!」
ジキムートの目が……キマッていた。
すでに〝クスリ″を服用していたのだっ!
「クヒィッッ!? 悪魔めっ」
ジキムートの初撃から遅ればせながら氷と化したマッデンの腕からは、血の結晶がボトリボトリと宝石のように落ちている。
それを必死に抑えながら、ヨダレを垂らし逃げ惑うマッデンっ!
ヒュンヒュンっ……ビュンっ!
「ほあっ!? あぁっ、アッ!?」
斬撃の嵐っ!
それにマッデンが防戦一方で、魔法の障壁を張ろうともがき続けているっ!
「おへらぁっ!」
「くあぁっ! ?やっ、やめよっ。えぇいっ、下がらんかっ!」
恐怖の目。
これほど近くで剣が振られたこと無い人間には、ジキムートの常軌を逸した目と殺気。
信じられない程の左腕の痛み。
そして流れる様な斬撃っ!
この3重奏は狂気の沙汰だ。
「なぜっ!? くそっ!? なぜ突き放せぬぅっ!?」
恐れに呑まれ、マッデンの魔法が上手く発動しない。
そう……そして危機を目の前にすれば、人間としては仕方がない事がたくさんある。
「この臭い……なんらぁお前、チビッてんのかよぉ」
ヨダレを振りまき〝エイラリー・スクァモッサ(異形鱗翼)″と名付けられたウロコの左肩をマッデンにぶちかますっ!
「ぐぬぅ!? げっ下賤めっ!」
脂汗が止まらない。
マッデンが必死に逃げ惑うっ!
足元に氷のツタを出しても。
氷の膜で光を遮り、マッデンの体を視覚的に消して見せても。
100の氷槍でも、水の波が襲っても全て……そう全てっ!
「ヒャッヒャーヒーっ。おっせぇんだよ、ゴミが! 神がこの程度なら俺はっ、俺は姉さんにだって勝てるっ!」
全てこの男、ジキムートの動きが上回っている。
ヨダレを垂らして食らいつく猛獣は常に、マッデン捕食可能域から吸い付いて離れないっ!
「はぁはぁ……くっ、このゴミが……ゴミがーーーーっ!」
その瞬間……何か雪玉のような物がマッデンの手のひらから、目の前に登場してくる。
そしてマッデンの懐で何かが光ったのが分かった。
ゾクっ!?
走る悪寒っ!
だが脳内麻薬がそれを、その殺意をあざ笑い、そして足がっ!
……両足は踏み出そうとしなかった。
ジキムートの直感。全ての感覚が止まる。世界が動かない。
(なんだ……コレ? そうだコレ、恐怖心……だ。)
何度が稀に感じた必殺、いや絶死の直感。これ以上は……。
「死ぬのですか?」
「……誰だ、お前」
「そのまま死んでいただければ、ありがたい」
「な……何言ってる?」
「あなたはそんな……それ程に神を侮辱したいのか、嘆かわしい。迷惑なのですよ」
「神は俺らを見捨てたっ! 俺らの神は決して俺らを愛してないじゃないかっ!」
「そうでしょう、愛されてはいない。ですがそんな美しい力を持っているというのに、使おうともしない。それが解き放ちさえすれば……きっと」
「や……やめろ、触るなよっ! そこはダメだっ! お前が触ると……」
「触りませんよ、そんな卑しい物。すぐに神の裁きを受けるべき汚物」
「神の裁き……だと。それは……それは光?」
「汚物汚物汚物。あなたは汚物に食われている」
「くっ、てめえになんぞ言われたくねぇっ! この……人殺しがーーーっ! 大……神の、光……護……ろ」
「クソがぁっ!?」
全力で飛びのいたっ!
それは水の民も同じ……青筋を立てて逃げ惑うっ!
キュイイイッイイッユっ!
放つきらめき、その全てが……レーザーとなるっ!
物も人も全て。全部全部……全部を切り刻んだっ!
「あぁあああっ!?」
「うああああぎゃあ!?」
どんな悲鳴も懺悔の言葉も、この光の前では無意味。
音が気が狂う程に鳴り響き、絶望と悲鳴がかき消され続けるっ!
永遠の2秒。その間に人が忽然と……消えた。
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