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3章 潜入壊滅作戦

傭兵隊長ヴィン・マイコン

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バキっ! ガスっ! ガススっ!

苛烈な攻撃が続く。

大量の魔法を包囲した傭兵達へと、惜しげもなく放つ水の民達。

「おっとと、結構すんげぇね。いつもはビビッて遠くからしか来ねえくせに、よ」

ここは傭兵の宿舎内。

いつもは適当に――。

夜になると遠くから傭兵、騎士団問わず、無差別に攻撃していた住民達が、宿舎近くにまで押しかけてきていた。


「どうしますかっ、ヴィン・マイコンさんっ」

「いきなり俺らを包囲か~。よもや、愛すべき水の神の神殿じゃなく、こっちに来るとはな~。さすがに俺も誤算だったぜ。このまま外に行ったら袋叩きになるぞっ、下手に出るなよお前らっ!」

「はっ、はぃっ!」

「まっ、出る訳ねえわな、死ぬまでは大丈夫だ」

必死に体を小さくし、四方八方から飛んでくる攻撃に縮こまる。

そんな傭兵達を見やるヴィン・マイコン。

「がしっかしよぉ、なんで今なんだよっ。俺には外で調べたい事が……っ」


ヒュンっ! バキンッ! 


ゴロロ……。


ヴィン・マイコンが顔を出した瞬間、狙い撃たれた。

ヤレヤレとかぶりを振ったヴィン・マイコン。

外はまるで、大ホールのアイドルコンサート会場だ。

何度も何度もマナをまたたきながら、氷を発射する魔法士達がいるのが分かる。

「相手の数は300位かぁ? こっちは確か……えと、あぁ? レキが居ねえから分っかんねえやっ! おいお~い、しっかりしてくれよレキぃ。俺がそんなの把握してるハズねえよっ、たくよぉ」


「あっ。ヴィンの奴にしっかり、傭兵の現状報告を伝えるの忘れてた。しまったぁ……。この保護者たる僕が、なんていう過ちを――」

レキお母さん、てへぺろっ!

団体戦とか、そんな小さい事考えないヴィン・マイコン兄貴、チィーッス。


「大体フィーリング。傭兵250にしとこっか。うん。っておいっ!? まずいじゃねえかっ」

ヴィン・マイコンが慌てるっ!

先ほどから建物が軋む音がひっきりなしで、止まらないのだ。

「隊長ーーっ! きっ、騎士団の野郎どもの援軍は、どんぐらいで来るんで? 早めに来てくんねえとやべえですよっ! もうほとんどこの宿舎、壊れそうじゃないっすかーっ!?」

「そっそうだ。アイツらなら……。あんだけ仕事熱心な奴らだっ! こんだけこっちに敵がに集まってるなら、すぐでもっ。颯爽と叩きに来るだろうよっ」

たった30分足らずで半壊状態である。

しかも数でも押されていたとなれば、倒壊はもうすぐと言えた。

崖っぷち状態。

「いやいやぁ、増援なんてまぁ……ないだろうな。あいつらにとって戦略上、ここはゴミとそう変わらんさっ」

平然と、部下の士気を低下させにかかる指揮官殿。

「まっマジかよっ」

「ひでぇっ!?」


「騎士団の増援は来ないっ! 奴らめ、神殿の防備に目がクギ付けだからなっ! 今だぞっ! 今のうちにヴィン・マイコンをしとめるんだよっ!」

ゴディンが薄ら笑う。

「はいっ!」

「あの女の情報は、本当みたいだな。くくくっ」


「最悪ギリンガムにとってみりゃ、俺さえ生き残ってれば問題ないんだぞ? 騎士団に敬われる俺、やっぱすげえじゃん?」

ヴィン・マイコンがあっけらかんと言い放った。

「えぇ……」

「おぃおぃ……」

論理的で戦略的な発想になると、替えが効かないのはヴィン・マイコンだけ。という事になる。

それ以外は〝補充″対象だ。

最重要拠点の戦力を削いだり、ましてや、任務を放り出してまで増援に駆け付ける理由にはならない。

だが――。

「いや……。いやいやっ! そうか、待てよ待て待てっ。それはなんだったら、敵さんも同じのはず。最重要奪還ポイントほっぽリ出してるのにも関わらず、こっちに来たって事は、だ。この戦闘の意義は〝俺″? あぁ、なるほど。なら……。おいっお前ら、耳かせ」

ヴィン・マイコンが何かに気づき、傭兵達を集めたっ!


「総攻撃だーーっ! 傭兵どもを一網打尽にするんだよっ。水でも氷でも良いっ! 全て打ち込めーーーっっ!」

大声を上げ、ゴディン自らジャンジャン魔法を打ち込みつつ、鼓舞するっ!

これでもかっ、と彼らは全力で、今までの恨みを晴らそうとしていた。

МPの残量を考えもせず、撃ちこむ彼ら。

傭兵宿舎を灰――。

いや、北極の藻屑にするつもりだっ!


「ゴっ、ゴディン様~っ!」

そこに一人の伝達係が、蒼白の顔で走り込んできた。

「なんだよっ。こっちは忙しいんだっ!」

「前の玄関から……そのっ。ふぅふぅ。ヴィン・マイコンの奴が馬で出ていきましたっ!」

「なっ、何っ!? 奴め、逃げる気かっ」

「ええっ、そうなんですっ! さっそうと一人で傭兵達を置いて、逃げ始めましたっ!」

騒然とする住民達。

それはドラゴンを取り逃したのと同義である事は、全員が分かっていた。


ばしんっ!


「クソ馬鹿がっ!? アイツをっ。選りによってあのゴミを、なんで逃がしたんだよっ。追えよっ! 奴を全力で追うんだよっ、早くしないかっ!? お前らが逃がしたって、父さんに報告してやるぞっ!」

怒りに任せて報告者を殴るゴディン。

自分より10以上年上の男。

その頬を何度もはたき、怒号を上げてゴディンが激怒する。

「そっ、それだけは、勘弁してくださいっ!」

頬を真っ赤にしながらその、30中盤の男が若い青年に泣きついた。


「泣き言は良いんだっ! だったら今からでも、走ってでも追えっ! 決して逃がすなよっ。アイツが第一目標なんだからっ。あれを討ち取れればそれで良いっ! あとは無視しろっ。ヴィン・マイコンを逃せばお前の責任だっ! 一族の命運が掛かってるって分かれよっ、この馬鹿がっっ!」

「はっ、はいっ!」

「全員で行けっ。早く早くっ! 奴を逃すなーーーっ!」

ゴディンの怒号に押され、住民達は次々とヴィン・マイコンを追いかけていく。


「……やっぱりか」

つぶやくヴィン・マイコン。

後ろを見ると、大群が追いかけてきていた。

その数は恐らく200を超えている。

「ヴィン・マイコンめーーーっ。はぁ……はぁ。貴様、仲間を置いて逃げるつもりかっ!」

「そうだよーっ。俺は今から、騎士団に保護してもらう所だ~。一緒に来るかぁ?」

「そっ、そんな破廉恥な事があるかーっ! くっ……。ふぅふぅ。それでもっ。はぁはぁ、それでも傭兵のリーダーかっ、恥を知れ!」

「なんだよ。お前たちのリーダーに比べりゃ、全然ましだろうが」

「……」

ヴィン・マイコンの素のトーンに、住民達がいたたまれなくなって、下を向いた。


「あの恥しらずのゴディン君はどうしたぁ、あぁんっ?」

笑いながら後ろを向き、叫ぶ傭兵長。

夜の月明かりに照らされながら、馬を走らせるヴィン・マイコン。

顔だけはワイルドで格好のつく、しゃれた絵面だ。

後ろの人間が汗だくの、ガリとデブばかりでなければ、だが。


「くっ。あの方が来るまでもないっ、我々でなんとかしてみせるっ!」

運動が苦手なセレブ・デブが言い放つ。

基本的に彼らには、肉体行動は向いていないのが、体形を見ればすぐ分かる。

「へぇ~。水の魔法しか使えない奴が俺に近づけるなら、だけどな」

笑うヴィン・マイコン。

彼はきっちりとこの会話の間も、魔法が飛んでくるのを避けている。

なかなか馬の捌きも彼はうまかった。

すると……。


ヒュンっ!


「ぐぇっ!」

喉に、槍が突き刺さる。

「なっなんだっ!?」

「後ろから……? 宿舎から攻撃されてますっ!」

宿舎から次々と、弓矢や槍、投てき武器が降ってくる。

それはセレブ・デブandガリを標的にした物。


「傭兵だっ!? 傭兵が攻撃してくるぞーっ」

傭兵達は屋上の屋根を上っていた。

わざわざ見晴らしの良い場所に出て来た住民を、狙い撃ちにしているのだ。

「地上からも傭兵が来ますっ!」

「くっ、ならばそちらに人員を回せっ! 傭兵どもへの攻撃を継続しつつ、ヴィン・マイコンの……っ」

「隊長、前っ!」

「なんだっ……エッ!?」


スパンっ!


ゴロロ……。


一気にヴィン・マイコンが目前にまで迫っていた。

彼はあっさりと隊長格の首を取り、そして、次々と住民の首をハネていく。

「俺に気を取られすぎなんだよ。オラオラーッ!」

「グっ、くそっ。ヴィン・マイコンが来たぞっ、応戦しろっ!」

「いやっ、それどころじゃないっ! こっちは宿舎から、大量の傭兵が湧いてくるっ!」

「お……。おいおい。挟み撃ちになってるじゃないかっ!」

ヴィン・マイコンが逃げ出したのを追った際。

当然、住民群の隊列は間延びしている。

彼ら住民は行軍など行ったことも無ければ、陣形をどう取れば良いかも知りはしない。

魔法の能力は一級でも、戦術は素人の平民そのものであったのだ。


「安心しろっ! ココは我らの土地だっ! 家でもどこでも良い、逃げこめっ。身を隠すんだっ!」

魔法防御に徹している住民達が、辺りに目を這わす。

だが……。

「逃げこむ場所がないぞっ! くそっ、街から逆の方へ来ちまってるじゃないかっ」

「馬っ鹿じゃないの? 1人くらい逃したって、しっかり持ち場を守ればこんな事にならないってぇのに。なぁ? 全部……お前のせいだよっ!」

上から落ちてきた、神の使徒へと向き直った傭兵隊長っ!


「ヴィン・マイコン、死ねーーっ!」


バガアアッ!


着地と共に、すさまじい程のマナの滞留。

殺意はヴィン・マイコンを飲み込んだっ!
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