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2章 神を祀る神殿。

神を祀る神殿。世界の憧れの場所。

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「上やら下に、監視がいるな」

「しかも騎士団です。練度と間隔が桁違い。ふむ」

見入るノーティス。

「まぁ、最重要だからな。でもなんかココ、それにもまして違和感ねえか?」

ジキムートが首をかしげる。

何か宗教的な寺院の割に、よくある物がないような……。


「多分ですがあなたの違和感。それは、樹ですね。樹木が生えていないんですよ。水の神であるダヌディナは、樹は苦手ですから」

「あぁ、なるほど、ね。だけどよ。神様ってのはお強いんだろ? 樹の一本や2本、毛嫌いする必要あんのかね? そんなんじゃ下の奴らに、示しがつかねえと思うんだがな?」

「……」

「どうした?」

「いえっ。まぁ、そうかもしれませんね。ですがダヌディナ様は、綺麗好きですから。不要な物は……。そう、不快な物は見たくないのでしょう。だから一本たりとも生やさせない。雑草の1本すらもきっちりと、むしり取られている……」

ジキムートの言葉に複雑そうな表情をし、ノーティスが下を見る。

「……」

ノーティスの目線の先には、結構な雑草が並んでいた。

「……。生えてんぞ」

ジキムートが美しい城壁にそって生える、緑の束を指す。

ボーボーと自由に生える、草花たち。

「へぇ……。良い感じに育ちましたね。ふふっ」

その草を見て、非常に嬉しそうに笑うノーティス。

「……?」


「まぁまぁ気にしてはなりませんね。ではアソコ。うじゃうじゃと騎士団が居るところを目指しましょうか。あれが入口のはず」

「もうココはあの、13連隊の奴らの縄張りって事か。下手な事はできねえな」

「さてさてぇ。さぁ……。それは、どうでしょうね?」

含んだ笑いを浮かべるノーティス。

楽しそうに銀色の髪が揺れた。すると……。


「貴様らっ! 何をしているっ」

ジキムート達めがけて、ガシャガシャと音を響かせ、2人の兵がやってきているっ!

その体勢は攻撃色。

槍をあからさまに、侵入者に向けていたっ!

「おっと。俺らはヴィン・マイコンの指令で、ここに来たんだ。へへっ。ごっくろうさん」

笑ってジキムートが待ったをかける。

血相変えて、重い鎧をつけて走って来た騎士団。

その徒労に、哀れみの笑いを持って、傭兵は答えてやったのだ。

だが……。

「ああん? 嘘をつくなっ、そんな情報は来てないぞっ!」

「……」

「……」

眉根を寄せる2人。

お互いに顔を見合う。


「そんなはずは……ねぇ? 本当にそう。ねぇ?」

美しいノーティスの顔が、なんとも少女らしい、不安そうな顔で聞いて来る。

少しそれに、騎士団員が同情した顔になっていた。

「俺らはヴィエッタの命令で、ココに来たんだ。そう言ってたぜ、傭兵長殿は」

「だがしかしっ! 我々はそんな話、聞いてなどいないっ。貴様ら、少し同行してもらおうじゃないか」

ガシッ!

捕まれる肩。

この状況を、どう解釈すれば良いのかと。

そう2人が困っていると……。

「どうしたっ、お前たち……」

「たっ、隊長っ!」

声が響くと瞬間。

がっしりと、ジキムート達の肩を持ったまま離さずに、騎士団員たちが敬礼する。


「隊長ってのは確か……」

「ギリンガムですね。この聖地に入った時に、一番初めにも会った軍人」

ノーティスが答えていると、大量の部下を引き連れ、隊長がやってきた。

怪しい人間は久しぶりなのだろうか?

意気揚々と、仕事を処理しに来る騎士団員達っ!

「こいつらがヴィン・マイコンの名前を語り、侵入しようとしているので……っ!」

「ヴィン・マイコン~? 貴様ら、名前は」

「俺はジキムート」

「ノーティスです」

「ノーティス……か。ふむ」


ノーティスの名前を聞くと、ギリンガムが一考し、部下に話しかけた。

するとすぐに、話しかけられた騎士団員が走り出すっ!

「確認に行かせた。しばし待て」

そして15分後。

「いや、知らないと言ってます」

「……」

「……」

非常に悩む2人……。いや、3人。


ギリンガムが、眉と眉の間を触る。

すると――。

「おい。ヴィン・マイコンの素振りを完全に、真似してみろ」

ギリンガムがその伝令に言う。

「えっ!? か……完全にですか? そっ、それは。良いのでしょうか? いや、はい……。そのご命令とあれば……」

何か、汗を浮かべ始める騎士団員。

「構わん。やってみせよ」

……。

「……あぁ、なんつぅの? 俺は知んないって言っといて。あぁ? 良いんじゃね。アイツ、俺のパン落としたし。ここで一発やり返しておかなきゃ、気がすまねっつうか。きちんと任務が終わるまで帰れねえし、帰さねえ。困るのアイツらじゃん? ギリンガムのおっさんも悩めばいいんだよ。シワが増えたほうが、レキも良いだろ? 面白いっつう意味でさぁ」

「……」

「……」


「通って……はぁ……。よいぞ」

「なんつうか、シワが増えるとダンディになれるじゃん? あぁでもあのおっさんじゃ……」

「もうよいわっ!」

ビクッ!

「はっ、ハイッ! 申し訳ありませんっ!」

3人が頭を痛めながら、その場を解散していく。

「当然、見張りはつけるからな」

ギリンガムが歩く2人に、言い放った。

「はいはい」

脱力しながら、2人が応えてやる。

そして神殿の中――。


「……へぇ、やっぱりすげえな、神の神殿ってのは」

見回すジキムート。

そこはダイナミックに天井が、大空に向けて解き放たれているっ!

神殿を隙間なく囲むのは、支柱の群れ。

柱の数点には細かく、美しい装飾がなされていた。

おそらくは神話だろうか?

ステンドグラスがその、柱を削った額縁一つ一つに、丁寧にはめ込まれているのだ。

「ええ。荘厳としか。ではでは~、ここまでくれば良いでしょう。ふぅ」

しゅぽっ!

ノーティスが苦しそうに鎧を脱いで、神殿の角に置いてくる。

「……なんだ、鎧脱ぐのかよ」

「ココからは湿気で、すんごいらしいですからね」

そう言って汗ばんだ体を、手で仰ぐノーティス。

何気に、艶めかしく肌が光って、奇麗な白肌がより一層艶っぽく見える。


「良い女だなぁ……。お前、傭兵やってないで是非、ウチ来いよ。俺が隊長にでも、口きいてやるぜ」

その姿に反応したのは、見張り役の騎士団員。

ノーティスの白い絹のような肌。

それに思わず声が出てしまうのは、しょうがないとさえ言えた。

「わたしは男です。結構なんですっ」

「へへっ、そんな顔でそりゃあねえぜ。なぁ」

ジキムートに笑いかける騎士団員。

ジキムートもほぼほぼ、同意だ。

「しかし、湿気ね。あぁ確かに、この町は外と比べて、異様に熱いと思ってたが。湿度が高いのかよ~。ヤレヤレだ」

そう言うとすぐに、ジキムートもヘルムを脱いだ。

上からの直射日光が当たり、その上湿気。

鎧を着る人間にとっては、最悪の状態だ。


(帰ったらとりあえず、隅から隅まで鎧を洗わないと、な。〝腐り落ち″はしたくねえ。)

この鎧という奴は、非常に面倒な代物である。

夏は直射日光に弱く、蒸し風呂状態に。

冬は凍ってつかめない。

そして湿気て、カビができたのを放置すれば人間の体を本気で、嘘偽りなく腐らせる。

足の指がそのせいで、腐り落ちる事があったのだ。


「この現象は全て、水の神のせいですね。是非、マナサーチして見なさい?」

ノーティスに言われ、ジキムートは自分の魔力バイパス線を、青に変更する。

「……へぇ」

今のは適当の言葉である。

異世界人の彼自身は、マナサーチの感覚が他人とは違う。

実感できる異常は無い。

「ええ。ここは風や大地、灯した炎からですら、水のマナしか検出できません。それがこの、水の聖地の聖地たるゆえん。〝エターナル・ブルー″です」

そう言ってクルリっと、身軽に回転するノーティス。

その瞳には、青いマナ『だけ』が映っていた。

ココには青以外のマナは、存在できない。

それが聖域を超えた、〝神域″の力。

神聖不可侵なる、大いなる神の座元。


「なるほどなぁ」

ノーティスの言葉にジキムートが、今度は魔力線を赤に入れ替える。

だが、反応しない。

(どうやら本当にここは、水の楽園らしいな。良いね良いね。目的に近づいてきてる。ならば、するべき事は一つさっ!)

目を凝らし、しげしげと、必死に探すジキムートっ!

そして……。

しゅたっ!

「あったっ! あったぜーーっ!」

嬉しそうに叫ぶ傭兵っ!

それを見つけた彼は、大はしゃぎだっ!


「……なんだアレ?」

「さぁ……? 多分、記念に持って帰りたいんでしようね、マナの結晶を」

監視の騎士とノーティスが、ジキムートを遠巻きに見やる。

その目は、可哀そうな子を見る目だった。

「あんなゴミ、どうするってんだ。かさばるだけだろうに」

「やめてあげて下さい。なんか、ほら。ね?」

ジキムートは今必死に、この世界ではゴミ同然の物を拾っているのだ。

実際、ここの清掃時には、ゴミとして捨てられているマナ結晶。

自販機の下を、必死にまさぐる子を見ているような。

なんか切ない気持ちが、ノーティス達を襲っていた。

(んんーーっ。最高だぜぇ~。こんなに高価なモンがいっぱいあるぅ……)

そんな周囲の眼も気にせず、異世界人のジキムートは今、超ハッピーだった。

とりあえず、持ち帰り無料なマナ結晶を、持ちきれない程持って帰る目標。

これだけは絶対、忘れてはならなかったのだから。


「ほら、行きますよ~。ジキムートさん。むしろこれからが本番です。この場所で最も素晴らしいのはこれだけ……。あれ?」

ノーティスがその目標物。

ひときわ大きな噴水に近づいて、奇異な目をする。

「〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″はもう、流れてないぞ。しっかりと俺ら軍が、管理しているさ」

「軍と……。主に、ヴィエッタ様。ですね?」

意地悪そうに、ノーティスが笑う。

「……ふんっ」

ノーティスのその言葉に、騎士団員が不機嫌そうにそっぽを向いた。

「へぇ、なるほどな。軍の独占的管轄ってわけでもないのか」

欲望の桃源郷から帰還し、ジキムートが笑う。

軍人がたむろしているが、決して彼らの専有部ではないらしい。

むしろノーティス感覚からは、ヴィエッタの方がかなり、優勢であるように聞こえた。


「まあ、そういう事ですよ。ですが、無いなら仕方がない。あなたが気に入りそうな物は、あと一つです。楽しんで下さい? アレが神聖なる祭壇です」

終点を指さすノーティス。

この神殿の終着点には、椅子が見えていた。

王が座るのだろうか?

そして神の座を彩るのは、荘厳明媚な祭壇……っ!

「おぉっ……。んっ!?」


「……くくっ」

「ふふっ……。そういうリアクションになると思いましたよ」

「なんだこのっ――。しょぼいの」

首をかしげるジキムート。

それもそのはず。

神殿の最奥。

そこにはなんにも装飾されず、ただただ小児用のプールの様な小さい器から、水が脈々と流れているだけだった。
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