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1章 飛ばされた未知の世界で。

目覚め。そして牢獄。

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 「うぅ……」



男は目覚めた。



そしてすぐに、状況を理解する。



死の危険があることを。









「気を失って寝てたって事は……。手足がねえ可能性があるな」



手、足。――胴に首。



眠気に抗いながら、感覚を通す。



急いで全身のチェックを済ませるっ!





「縛られてるが、全部ある」



そして次へ。



自分が断頭台にいないことを確認する為、体勢を入れ替え、天を仰ぐ。



「ふぅ。ただの牢屋じゃねえか――。助かった」







深いため息。



ゴツリと地面に頭をつけ、安堵する。



友人の家であろうが、昼の市場であろうが。



気を失ったということは、死が近い。ということである。



それだけは、死ななくても分かっていた。



そういう〝時代″なのだ。







ぽちゃっ……ぽっ。







ボーっと天井の岩と、それから、落ちる水滴を見やる男。



「おいっ、イー……。誰かっ、起きてるか?」



相棒の名前を呼びそうになって、すんでのところ。



なんとか男はかわす。



下手をすれば、捕まっていない仲間がバレるからである。







「誰もいねえか。無事なら良いんだが。しかし縛られてるってことは、人間か? それとも〝下等原人″か……」



大体の相手を推察していると、目の端――。



そこに、人影らしき黒が見えた。



薄暗い、格子の向こう。



視界の端。



「音が、近づいてくる」



彼は、全身の神経をその、近づいてくる生き物に集中させる。





ガシャリ……。ガシャリ……。





「数は1。鎧を装備。武器はこんな場所だ、ちっこいなやっぱり。フルプレート級の、鎧の重量だが――。軽い? なんだ、コイツ。中身が女か? それとも……」





少し戸惑う男。



なるべく想像を働かせ、何が来ても、驚かないよう心掛ける。



「そろそろ目の前」



つぶやき、目の前に来るはずの鎧を、目を凝らして待つ。



そして……っ!







「デュラハン」



眼の前にいたのは、鎧だ。



鎧が……歩いているっ!





「あっ、起きた? 大丈夫?」



明るく聞いてくる、デュラハン――。



ではない、ただの衛兵。



明らかに、体と鎧のバランスがおかしい。





頭が胸部の鎧から、半分だけしか出てなかった。





「……」



「まだぼーっとしてるみたいだね。ほらお水」



デュラハンもどきが、男へ――。







男の体は筋肉で太め。



といっても、傭兵だと言うことを知っていれば、細いと断言される程度。



背丈もそれほどはない。



せいぜい、170センチと言った所だ。



黒髪に短髪、目は非常に険のある、ガラの悪い瞳をした男。



総じてあまり、強そうに見えない。



下っ端の、チンピラに見えるその囚人に、デュラハン衛兵が水を渡そうとする。







「サンキュウな」



そう言って、コップから勢いよく放たれ、ぶっかけられるだろう水。



目覚めの水の襲撃に備え、口をつぐんだ囚人。



「はい……。もっとこっち来て」



しかし、まるで猫でも呼ぶように、おいでおいで……と、囚人に促すデュラハン衛兵。



木でできたコップを、男に向けて傾ける。



「……」



眉根を寄せて、ゆっくりと。





パンツ以外を着用しない男。



彼が、芋虫のようにすり寄っていく。



そして、傾いた小タルの中の、その水。



それの臭いをかいだ。





(小便は混じってないのか。それに……)



衛兵の位置取りを見て、少し考えると男は――。



そのまま口をつけ、与えられた水を口に含む。



その時っ!





「……。んっ!? んんっ!?」



驚き、くぐもった声を上げた男っ!



「どっ、どうしたの?」



デュラハン衛兵が、不思議そうに聞いて来る。



「いっ……。いや。なんでも」





ぶっきらぼうに、男が応えた。



だが――。





(くぅ、なんだコレ……。良い水じゃねぇか。飲める――。っつうか、美味いだとっ!?  マジで美味いっ。コイツ、俺に今から一体、何するつもりだっ!?)



囚人である自分。



それに差し出された、妙にうまい水。



この2つの、普通ではあり得ない関係性に男が、猜疑心にかられている。





普通に水が、うまい。





この問題で考えるべきは、ここが牢獄である事。



囚人に水が与えられるならば、そこらの炊事用の水か、最悪――。



下水川の物である場合が、多いのだ。







(これが俺への、最後の食事とかじゃ……。そんなんじゃ、ねえよな? なっ!?)



恐怖心が強い。



男は表情を変えず、うめいていた。



それは怯えと捉えても、良いのかもしれない。



色々と男の脳裏をかすめる、疑惑や可能性。





だが――。





(ここは牢屋だ、この状態で考えてもしょうがねぇ。ふんっ、自分が嫌になんぜ)



少し考え過ぎの自分に舌打ちし、男は水を一気に飲んでしまったっ!



牢獄の中ではどうあがいたって、拒めやしない。



例え本当に、小便が混じっていようが、だ。







「ふぅ……。ところでお前、聞きたいんだが」



「あっ、そうそう。僕も聞きたいんだ。よかった。聞いておけって言われてたんだよ」



水を飲ませて貰っておいて。



それでも横柄に聞いてくる、ふてぶてしい、パンツ一丁素っ裸男。



そんな男にも動じず、デュラハン衛兵が可愛く笑った。







「尋問か……。良いぜ」



なんとなく、むずがゆくなる衛兵。



違和感があったが、本題に入って安心した男。





「えーと名前は? 僕はケヴィンっていうんだ。よろしくね」



にこりっと、満面の笑みで笑うケヴィン。



愛らしいその顔は、非常に幼く見える。



「ケヴィン……ね。俺は――」



刹那の時間。



「ジキムート」



(本名で良いはず。城持ちで、ギルドがねえ町なんて、ないよな)







「へぇ、ジキムートさんか。どこの人?」



「あぁ俺、傭兵だから……」



「傭兵だから?」



……。



「……えっ? あぁ。出はない。村とかそんなのは、ねぇって意味だ。強いて言うならさっきまで、ゴトラサン共和国に居たってこった」



なんとなく調子が狂うジキムート。



傭兵に出自を聞くことなんて、滅多とない。



聞かれるのは大体は、どれくらい言葉が話せるかと言うこと。



そして、敵国に組しなかったかどうかの、2つだけ。







「そっか……ごめん」



キレイで大きな瞳。



性格が柔らかそうな、曲線を描く目元。



瞳をうつむかせ、ブロンドの、さらりとした髪が肩につく。



華奢な体は一層縮こまり、発色の良い唇がぽつり……と、申し訳なさそうに、謝罪の言葉を発した。



しゅんとなるケヴィン。







(新手だな、これは。なぜ男で、こんなのが尋問官なんだ。ここの主は男色趣味か? この性格で女なら、万人受けしそうな――。いや、ケヴィン。ケヴィン、か。可能性はまだっ!)



「なぁ、ところでお前。この頃『老けた』って、言われないか? 良いクリーム売ってやるぞ」



「えっ……? ほんとっ!? やったっ。少しは大人っぽくなれたかな? これで少しは、馬鹿にされなくて済むっ!」



「……チッ」



心の底から舌打ちをする、ジキムートっ!



ヤル気が一瞬にして、地に落ちた。



残念ながら、男である。







「傭兵さんなら――。えと。クライン王国に属したことは?」



「クラ……? なんだってぇ?」



「クライン王国。有名な都、聖都『焼け土のデーヴェ』があるところだよ。それにあなたの入れ墨。それはどこの物? クラインと関係があるの?」



(クラインに、聖都? 知らない国と首都、か。いきなり難儀な事になったな。)



彼はとりあえず、答えれそうな事から答える事にした。



このケヴィンとやらが、事情聴取している間が『華』だ。







ケヴィンで情報が取れないと分かれば、どんな相手が代わってやって来るか、見当がつかない。



「この入れ墨は、空のラグナ・クロスだよ。珍しかねえだろ」



「空の……。ラグナ・クロス団、と。えと、何をする組織ですか?」





……。





「……?」



応えの保留。



ジキムートは少し、黙りこくっている。





「えと。空のラグナ・クロス団、というのは一体、何をする為の組織なのですか? もしかして、風の民の部族名、とかですかね?」





「……」



(コイツ、この俺に心理戦でも挑んでやがるのか? そんな巧妙な奴には見えないが。)



自分の腕に開いた、〝神からの送電線″。



それに視線をやり、ケヴィンの意図を探る囚人、ジキムート。





「あの。クラインに関係が無くとも、その……。違法な行為に手を染めた人間の場合は、処罰の対象となりますので」



「クラインってさっきから言ってるが、俺はそんな国、知らないぞ。どこにあるんだ、そんな国」



「えっ、そんなはずないですよっ。元々〝福音〟国家だものっ! 高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。神の4柱。その内の、ダヌディナ様がいた国ですっ!? 絶対に……」





ぞくっ。





「なっ……。なななっ。なんだって?」



ジキムートが、ケヴィンの言葉を遮るほど、動揺してしまうっ!









高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。









「えっ。だから。高貴な我らの真の支配者。崇高なるマナの仕手。神様ダヌディナ様がいたって……」



「ごくっ」



自分に聞こえる程に、喉がなるっ!



動揺は罪だ。



敵に弱みを握られる。







だがこれは、格別に緊急事態っ!



なぜなら……。



「神……だと?」
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