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0章~プロローグ~

神話。そして始まり。

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世界は、孤独に包まれていた。



灰の世界。



心を縛る、目のない雷イカヅチ。



蒼ざめた、届かない光。



その時はまだ、いっかいのニンフであった彼ら。



彼らは、第3世界をさまよい、歩いていた。





ただただ、終わらぬ地平線を惑っていたのだ。



だがある時。



その地の果てに一つ、光を見つける。



そこはまだ汚れ無き、無垢なる孤独と、滅びゆく黄昏れの地。



愛の無い世界であった。





そこには理がなく、名がない。



名がないかの地の滅びを止める術はなく、朽ちゆく世界は謳い、狂っていた。



誰にも届かぬ声で。



誰もが耳をふさぐその、旋律で。







だが、彼らはその歌に涙する。





彼らニンフが、かの地の叫びに呼応し、彼らはかの地へ名を与えた。



するとその瞬きの中、マナの洪水が世界を覆うっ!



刹那の時に、彼らの憂いが世界を変え、孤独から解き放ったのだ。



喜び、次々と形を変えていくかの地。









塵と毒は空気に。



汚泥と腐敗は大地となった。



絶え間なく流れた涙はいつしか喜びになり、そして――。



最後に、黒と虹を混ぜて、今まで荒ぶりすさんだ焔の心を癒した。





かの地は自分たちの名に喜び、彼らにこう言った。



この地の守護者になってほしいと。



その問いに、彼らは答えられなかった。



彼らは第5の世界、理に縛られる身。





ニンフは導きの光を失くしている。



ニンフは謳う事を忘れてしまっている。



ニンフは――世界を愛することを、禁じられている。









彼らは苦心の末、第5世界と決別する事を決めた。



彼らは姿を捨て、名を、この世界に全て還してしまったのだ。



そう、彼らは孤独からこの地を守るため、自分を捧げたのである。



楔の柱となるために。





そして、孤独と理の使者と決別。



彼らはその代償として、この地で永劫を過ごすことになる。



世界を創り上げ、自らが柱となって彼らは、世界を愛し続ける事となったのだ。



その4柱の神となった者達はその後、人を作った。



孤独の世界からやってきた、彼ら唯一の、自分の影を。





神は人以外は、何も生まなかった。







そして彼ら神は、世界に自由と誇りをもたらしたのである。















「こんなん拾って終わりで、本当に良いのかよ」



男が、相棒の少女が持った箱を見やる。



「どうだろね……、コレ。ただの箱にしか、見えないんだけど」



彼らは依頼を遂行し、その帰り道。



砂地を歩いていく。



ここは大きな森林が、砂の上に成立しているという、不可思議な場所である。



どうやってかは分からないが、数百年前から木がスクスクと、砂の上に生え始めていた。









「あんな小さな遺跡にあるモンを、こんな大金出してまで欲しがるなんて。あの〝下等原人″の爺さん、変わってんなぁ」



「こらっ、あんまり依頼人を侮辱しちゃだめだよっ! まぁ~でも。うん、確かに。結構な依頼料の割には、簡単だったね。儲かった儲かった~っ」



無邪気に笑う少女。



笑顔の相棒に、男が笑い返し……。







「ふふっ。しっかしこの遺跡、な~んもねえな。モンスターも原種生物もいなかったし、トラップもない」



「しかもまだ、この小さい方の遺跡。領主に見つかってなかったみたいだしね~。お宝の山じゃんっ! えへへぇ……」



袋に詰めるだけ詰めた、マナの結晶を見る女性魔法士。



顔がほころんでいる。







「……。安心安全な旅ってのは、良いもんさっ。人生楽するのが一番よっ。じゃ、さっさと帰ろうぜ?」



笑顔で、少し足早になる男。



「……。何か考えてる?」



相棒の剣士の姿に、少女が何かを感じ取る。





「いんや、な~んにも。それより、天才魔法士様のお前には、ソレ。なんか感じるモンがねえのかよ」



男が肩をすくめながら、少女が持っている依頼品をさす。



「う~ん。あんまり特には、ないなぁ」



「そうか……よ。お前が言うなら――な」



2人は砂を鳴らし、足早に歩く。



「でも、なんだろ。少し奇妙、かな?」



「奇妙? どうした?」



男が少し、相棒に近づいた。







「多分これ、パズルっていうのかな? きちんとした手順を知らなきゃ開けられないように、細工されているっぽいんよ。それ以外は分かんない。それが奇妙、かな。どったらいっしょ~」





「あぁ……。どったらいっしょ来たか。お前が言うなら、そうなんだろうな」



彼女のまるで、方言に似た、ズゥズゥ弁のような口癖に、男が耳をほじる。



どったらいっしょ――。





どうしたら良いんでしょうね? の略であり。



よく似た部類。



例えば、どうしたら良いか、分からないのでしょ? と示す時にも、彼女は使う言葉。



この差を感知するにはもう、直感で判断するしかなかった。







カチカチ……。カカッカッ







「ん~あぁ。どったらいっしょねぇ? ど……、どうしたら――んっ! ん~?」



彼女はその依頼品。



色のない、ルービッ〇キューブもどきを必死にいじくりながら、『どったらいっしょ』を連発してい

る。



(あっちゃあ。アイツの研究熱に、火がついちまった。このまま行くと、あの依頼品を届ける前に、分解しようっ! って、言いだしかねないぜ……。)





男の眼の前で、少女が悪そうな顔で笑っている。





「ちょーっとだけなら、良いよね? ただの魔法だもんっ。解体はまだしないもん。いひひっ」





(おいおい……。早速魔法をブッコむつもりか? 壊した後が少し気になるが、壊すのも嫌な予感――。しゃあねえ、引き剥がしておくかっ)



その瞬間っ!







パシッ!







「まぁ、とりあえず。あのジジイの所に持って行きゃあ、なんか分か……」









カチンっ!









「エッ!?」



足元に突然、魔法陣が光ったっ!



それと同時。



湧き出した魔力が、この遺跡一帯へと一気に、広がって行くっ!





ビキビキビキっ!





溢れる力は瞬間的に、その場を切り取り、世界から隔絶させていくっ!





「ちょっ!? これってっ。この色ってまさかっ!? ――〝ドゥーム・カタストロフ(破滅の使者)″っ!」



少女が叫び、周りを見渡すっ!



色の無いマナに、包まれた世界。



世界は浸食され、亀裂の走る音を響かせ続けているっ!





「なっ……なにっ!?〝ドゥーム・カタストロフ(破滅の使者)〟だとっ。あの下等原人のジジイめっ」



放たれる風にひるみながらも、2人はなんとか戦闘態勢を取るっ!



だが……。





ヒュンヒュン。ヒュウっ!





すると今度は、広げられた闇が、収束していくっ!



一転して、狭まり始める魔法陣。



中心にはその――依頼品がっ!





「クソがっ。やっぱ面倒な事になっちまったっ」



男の言葉すらも、吸い込まれていくっ!



収縮する、暴風に似た力の奔流っ!



それはすぐに、辺りを吸い込み始めたっ!









「きゃ……っ!?」



「クソっ、なんだこの手はっ!?」



透明な、何か。



触手のような物が大量に、数千の単位で、依頼品から湧きだしてくるっ!



透明な指は、あちらこちらを物色しだしたっ!





「ヤッ、ちょっとっ!? 何スンのっ!? だっ、駄目っ、そこはっ。反応しちゃうからっ!」



「うぁっ!? こいつらなんだよっ」



体に蛇が巻き付くように、一斉に無数の腕が、2人の体を触診していくっ!



「くぅ……。うぅ。どこ……触ってんのよ、ふっざけんなぁっ! いい加減にしろってばーっ。象の化身よっ、阻んでっ!」



叫ぶ彼女っ!



何かお札のような物を、自分の腕に乗せたっ!





じゅうっ。





その瞬間彼女の腕から、肉が焼けるような音がする。



すると魔法が発動っ!



自分を取り巻く数十の腕を、一気に切り裂いてみせたっ!







「早くっ! 手を掴んでっ。そうしないと……。このマナの中だと私っ!」



一目散に、男に向かって走る少女っ!



相棒の――。



『箱』に捉えられた男の元へと、疾走するっ!



だが……しかしっ!









「だっ、ダメだっ! なんでだ、指が取れねえぞっ! クソっ。これじゃ魔法が使えねぇっ」

まるで箱が、自分と同化したようだ。



彼の指はぴったりと、取れなくなっていたっ!



だが、それだけではない。



自分を引き剥がそうとするような風と、引きずり込もうとする力。



相反する力はすさまじいっ!





バキッ! バキバキーーっ!





「うぐぐっ!? クソがっ」





太い樹木を、簡単に飛ばしてしまう程の力に、男がうめくっ!



世界を包み込む、〝箱″を中心とした力場っ!



力に翻弄され、苦しむ傭兵っ!





「ジーーークっ! 駄目。この流れの中じゃ、飛ばされちゃうっ! やめなさいアンタっ。このままじゃ……このままじゃア……探し……取る……できなく……うょっ!」



ぷあぁっ……。



離れていく、彼女の姿。



相棒の輪郭が、消えていく。







ドンドンと遠のきやがて……っ!



「イーーーズっ! ――くそっ」



彼らは闇の中、互いに名を呼び、必死に手を伸ばすっ!



が、やがてマナの世界が、全てを覆い尽くした。



そう、この世界ではあるはずのないマナが、彼を覆ったのだ。
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