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私の隣は、心が見えない男の子

第107話 プールも水着もピンからキリまで

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 すぐ近くにある、大きめの二十五メートルプールが一つあるだけの市民プール。

 お盆の約束を私が提案した時、頭の中にあったのはそれだった。

 そこでも十分、真咲ちゃんは素晴らしい泳ぎを見せてくれるだろうし、浮き輪で浮く結季ちゃんに捕まっているだけで涼も取れて癒やされるだろうし、ビーチボールで遊べば楽しめるだろう。そう思っていた。

「どうせならデカいとこ行こうぜ」

 そう言って真咲ちゃんが連れてきてくれたのは、隣の市にある大きな市民プール。

「ウォータースライダーがある……!」

 キラキラを目を輝かせる私と結季ちゃんの後ろで、両手を組んでふんぞり返る真咲ちゃんはとても得意気だ。

「連れてきてくれてありがとう、真咲ちゃん」

「どれから行く? どれ?」

「分かったから、落ち着け一透。というか」

 私に向いた真咲ちゃんの視線が、上から下へ、そしてまた下から上へ、一回り。

「他に水着なかったのか……?」

「必要に迫られなかったもので」

「一透ちゃん……」

 酷く残念な視線を向けてくる結季ちゃんの水着は、黄色地にオレンジのチェック柄が入った、向日葵みたいなイメージのワンピースタイプ。

 真咲ちゃんは流石だ。ビキニである。素晴らしいプロポーションを惜しげもなく披露しているけれど、下がショートパンツの形をしているからか、いやらしくはなくカジュアルな印象で、真咲ちゃんのイメージにピッタリ合う。

 そして、対する私は。

「それ、中学のスク水じゃねえの?」

 そう。スクール水着である。一応スカートタイプでヒラヒラがついているから、紺一色であることにさえ目をつぶれば、結季ちゃんのワンピースタイプとそう変わらないと思うのだけど。

 そんなに冷たい視線を向けられても、うちは選択しなければ体育でもプールに入ることはない高校だから、新しく買う機会も無かったのだ。水着はこれしか持っていない。

「変かな?」

「お前がいいならいいけどさ……ていうか、よくまだ着れるな」

「三年生のとき買い直したから」

 それでもちょっと小さくなってきているので、ちゃんと成長はしている。まだ着れるから節約しているだけだ。だから。

「なんか、真咲ちゃんと一透ちゃんが並んでいると、モデルさんと近所の中学生の子みたい……」

 そんなことを言うなら、私一人で先に行ってしまうからね。

「ごめん一透ちゃん! まって!」

「おい、準備運動してけ!」

 二人の静止を聞かず手近な二十五メートルプールに飛び込む。

 全身を包む、少しだけぬるい温度。水色の視界を埋めるようにごった返す人の足。揺らめく水面が生み出す白い光の模様。遠ざかる音と熱。

 あれから、九十九くんには会っていない。土曜日も結局、会いに行けなかった。

 表に出してはいけない私の欲も、こんな風に遠ざけられたらいいのに。こんな風に、逃れられたらいいのに。


---


 係員さんに飛び込みを叱られるところから始まった私達のプール遠征。準備運動をし直して、選べる行き先は三つ。

 一つ。私が飛び込んで叱られた、大きめの二十五メートルプール。

 二つ。ドーナツ状の流水プール。

 三つ。ウォータースライダー。

 あともう一つ、水深が浅い子ども用のプールもあるけれど、私達はそちらに用はないだろう。

「どこから行こうか」

「取り敢えずこのままここにいていいだろ。疲れたり飽きたら移動しようぜ」

 真咲ちゃんはそう言って、私が上がったばかりの二十五メートルプールに入る。

 確かに、目玉のウォータースライダーに初手から行くのも勿体ない気がするし、流水プールは特に入って何かをするというものでもない。

 深く考えての行動でもなかったけれど、最初にここを選んだ私の慧眼は流石といったところだろうか。

 口に出したら飛び込みのことを持ち出して突っ込まれてしまうと分かっているので、思うだけに留めておく。

「わたし、ビーチボール膨らませておくから、先に遊んでて」

 結季ちゃんがそう言うので、取り敢えず真咲ちゃんの顔に思い切り水をかける。

「うわっぷ、てめ一透、やったな」

「きゃー」

 わざとらしい悲鳴をあげて逃げ回る。人が複雑に入り交じるプールで全力のクロールを行うわけにもいかず、必死に跳ねながら歩いて逃げたけれど、歩幅の差か、あっさり捕まってしまった。

「おら、ここか? ここがいいのか」

「まって、くすぐるのずる、んふふふふ」

「こら! わたしも混ぜなさい!」

 自分で役割を申し出たのに、羨ましくなってしまった結季ちゃんが混ざりにきた。投げたボールが、真咲ちゃんのくすぐりに抵抗する私の顔に当たる。

 痛、くはない。今ので真咲ちゃんの拘束が緩んだ。しめた。

「あっ、ごめん」

「おかえし」

 直ぐ側に着水したボールを投げ返すと、結季ちゃんはきゃあ、と楽しそうな声を上げ、ボールを高く弾く。

 打ち上がったボールを迎えるように、浮力を活かして高く飛び上がった真咲ちゃんが、

「スパイク!」

「ずるい!」

 綺麗に順番を一巡して戻ってきたボールは殺人スパイクに成長し、私の頭部を撃ち抜いた。現役バレー部のスパイクはずるいよ。

「や、わりい。つい癖で」

「真咲ちゃんはスパイク禁止。私達が打つから拾って」

「わたしも打つの?」

 それからしばらく、私と結季ちゃんで交互にボールを打ちつけては、真咲ちゃんはその全てを華麗に拾い上げてみせた。

 無茶な方向には打っていないとはいえ慣れないボールでこんなに綺麗に上げられるのだから、さぞかし練習を重ねたのだろうと、その練度の高さが伺えた。

 ぶつけ返せなかったことをちょっとだけ不満に思っているのは内緒である。
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