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幸せな思い出、そして

冬紗先輩からの手紙

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人見 一透ちゃん
 
前略
 まず最初に。ごめんなさい。
 あなた達には、酷い思いをさせてしまった。
 本当は、こんな手紙を書くのですら、どの面下げてって感じだけど。
 メッセージ、読みました。愁君からも聞いています。一透ちゃんが私に会いたがっているって。
 言い訳をさせてもらうとね。流石に怪我をさせてしまったから、ハジメ君には会って謝らなければって、申し出たんだけど。彼には断られちゃった。
 揺れなくなったら、来て欲しいって。
 それで、確かに今会っても仕方がないなって、思っちゃったんだよね。
 だけど、やっぱり無視もしきれなくて。恥を偲んで、この手紙を書いています。
 
 この手紙は、卒業式の日にあなたへ渡すよう、愁君に頼むつもりです。だから、上手くいっていれば、今は卒業式の日かな?
 私は、卒業式には行きません。卒業しない、ってわけじゃないよ。式に出ないだけ。先生からも了承を得ています。
 思い上がりかも知れないけど、心配してくれていると思うので、近況を書きます。
 やっぱり私は、卒業して、あの日受かった第一志望の四年制大学に通います。
 両親のことは、随分泣かせてしまいました。
 
 お兄ちゃんのことを諦められるなら、私のことだって諦められるはず。
 
 私はあの日、そう思いました。私の希望を聞かず、「自分の道を進んで」なんて言えてしまうほど私の気持ちが見えていないのなら、大丈夫なはずだって。
 お母さん達だって、諦めたくて諦めたはずがないのにね。
 だからまず、私は両親を安心させてあげたいと思います。
 私は、お兄ちゃんのこともだけれど、両親の幸せも、諦められないから。
 
 だけど、夢を諦めるつもりもないよ。
 愁君がね、言ってくれたんだ。私に付いて来てくれるって。 
私が選んだ未来を、望んだ未来に変えてみせるって。
 一透ちゃんはもう知ってるって聞いたから、言っちゃうけどね。凄かったんだよ?
 私がこれから、大学で何を頑張ればいいか。
 愁君がどんな道を選んで、私に何をしてくれるか。
 どんな実績を積んで、親を説得していくか。
 将来設計プランまで練ってくれたんだよ。
 バカだよね。バカすぎて笑っちゃった。
 バカだけど、あまりにひたむきで、思わずときめいちゃったくらい。
 私、あぁ、この子はほっとけないなって、思ったんだ。
 この子も私をほっといてはくれないんだなって、そう思って、安心した。
 だからもう少し、頑張ってみようと思います。お騒がせして、ごめんなさい。
 一透ちゃんも、私がお願いしたら、付いて来てくれるかな。
 そうだったら嬉しいけれど。私にはもう愁君がいてくれるそうなので、あなたを必要としている誰かさんに譲ろうと思います。
 あ、だけど、あの勝負はまだ残ってるからね?
 愁君なんて負かしちゃっていいから、頑張ってね。なんて、私が言える事じゃないかな。
 
 そうそう、その誰かさんの話だけど。
 彼はね、きっと大体の気持ちは、察してくれてたんだと思う。
 だから、きっと。あの夜にはもう、愁君が私に言ってくれたのと同じような言葉は彼の中にあったんじゃないかな。
 でも、言ってくれなかった。
 彼に覚悟が無かった、っていう話じゃないよ。
 きっと、信じられなかったんだと思う。
 自分が誰かに、必要とされることを。
 まあ、確かに、愁君が言ってくれたから意味があるんだけどね。
 だけど、彼は私にとっての愁君に、なろうという意志すら抱けないの。
 誰かにとっての自分の価値を、信じることが出来ない。
 だから彼は、私に一度も、「俺が」って言ってくれなかった。
 一透ちゃんが走り去った後ね、私に言ってくれたの。
 あまりあいつらを見くびらない方がいい、って。
 その通りだったけど、彼はそこに、自分を含めなかった。
 あなたは彼を特別に見過ぎているようだから。
 これは、自分のことを棚に上げた、余計なお節介。
 彼はそんなに、特別な人じゃないよ。そういう弱い人。
 だから、あなたが彼に「私が」って言ってあげられないのなら、深入りするのはやめておきなさい。
 もし、そう言ってあげたいと思うなら。弱いところも、ちゃんと見てあげなさい。
 きっとそれが、彼に必要なことだと思う。
 ……なんて。本当に、余計なお節介がすぎるね。
 
 身勝手ばかりでごめんなさい。
 私が揺れることなく、あなたと顔を合わせることが出来るようになったら。
 その時はまた、一緒に遊んでください。
 またね。一透ちゃん。
 また会う日を楽しみにしています。
 
                   草々  
 
                 都夢 冬紗
 

追伸 私が撮った写真をいくつかプリントしたので、同封しておきます。大切にしてね。
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