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幸せな思い出、そして
エピローグ:独白
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初めて入る、九十九くんの部屋。物が少なくて、だけど一つひとつが大切にされているのが何とはなしに伝わってくる。君らしい部屋。
「九十九くん、起きてる?」
返事はない。失礼かな、とは思いつつも、部屋の奥に踏み入って、ベッドを覗き込む。君はそこで、寝息を立てている。険しい寝顔。
「ごめんね。苦しいよね」
建物に引き込むなり、タオルを持ってくるなり、するべきことはあったはずなのに。私は、雨の中立ち尽くす君の手を握り続けることしか出来なかった。
そのくせ自分だけはピンピンしていて、君が熱を出して寝込んでしまうだなんて、笑えないな。
「お見舞い。持ってきたけど、食べられそうにないね」
額に手を当てる。汗でじっとりと湿っていて熱い。熱はどのくらいだろうか。心配する私と対象的に、君の顔が少しだけ安らいで、思わず少し、笑ってしまう。
「九十九くんのお母さん、初めて会ったよ。お母さん似なのかな。気遣い屋さんで、自分に自信がないところなんか、君にそっくり」
迷惑かな、とも思ったけれど。君の顔が見たくて、でもどう伝えたらいいか分からなくて、玄関先でもじもじしていたら快くお家に上げてくれた。
仁のために部屋にまで上がってくれる子がいるなんて、って、嬉しそうだった。同時に、不安そうだった。君が学校で無理しすぎてないか。私がそれに、巻き込まれていないか。
「私、君のお母さんに言ったよ。友達ですって。仁くんには、私がいますって」
それを知ったら、君は怒るかな。だけど、それを嘘にするつもりなんてないよ。
助けてもらって、沢山救われて、私がそれに報いることが出来なくて。お返し出来ずにいる相手も、いるけれど。
君に対してまで、その人たちにするみたいに、いつかきっと、なんて思ったりしたくない。
片手を額に乗せたまま、もう片方の手で、君の手を握る。
「……意識がないと、握り返してくれるんだね」
でも、その力はとても弱々しかった。
私は、ここにいるよ、九十九くん。君の隣にいるよ。だから、私にもちゃんと、君の背負っているものを分けてね。ちゃんと今を、君と一緒に過ごすから。
……なんだか最近は、こんなことばかりな気がする。私が勝手に、心の中で誓ってばかり。君にちゃんと伝えたいのに、なんだか一人で想ってばかりで、少しだけ虚しい。
起きてよ、九十九くん。お見舞いに来たよ。学校のプリントも、持ってきたよ。汗がすごいね。スポーツドリンク買ってきたから、飲んで。ゼリーもあるよ。果物が入ってるやつ。
ねえ、九十九くん。君の声が聞きたいよ。君の気持ちが、知りたい。
「そろそろ、帰らなくちゃ」
そっと、弱々しく私の手を握る九十九くんの手を外す。書き置きを残しておかないと、ゼリーやドリンクがいきなり部屋に現れたみたいになっちゃうかな。
「そうだ。これも渡さなきゃ」
丁寧にラッピングされた小箱を取り出して、書き置きと一緒に机に置く。直接渡したかったけれど、最後まで君は起きてくれなかったので、置いていくことにする。
結局、当日に渡すことが出来なかった。これ以上遅くなるわけにもいかない。
「じゃあ、また学校でね。お大事に、九十九くん」
眠る君にそう声をかけて、君の部屋を出ながら、そっと、静かに扉を閉めた。
「九十九くん、起きてる?」
返事はない。失礼かな、とは思いつつも、部屋の奥に踏み入って、ベッドを覗き込む。君はそこで、寝息を立てている。険しい寝顔。
「ごめんね。苦しいよね」
建物に引き込むなり、タオルを持ってくるなり、するべきことはあったはずなのに。私は、雨の中立ち尽くす君の手を握り続けることしか出来なかった。
そのくせ自分だけはピンピンしていて、君が熱を出して寝込んでしまうだなんて、笑えないな。
「お見舞い。持ってきたけど、食べられそうにないね」
額に手を当てる。汗でじっとりと湿っていて熱い。熱はどのくらいだろうか。心配する私と対象的に、君の顔が少しだけ安らいで、思わず少し、笑ってしまう。
「九十九くんのお母さん、初めて会ったよ。お母さん似なのかな。気遣い屋さんで、自分に自信がないところなんか、君にそっくり」
迷惑かな、とも思ったけれど。君の顔が見たくて、でもどう伝えたらいいか分からなくて、玄関先でもじもじしていたら快くお家に上げてくれた。
仁のために部屋にまで上がってくれる子がいるなんて、って、嬉しそうだった。同時に、不安そうだった。君が学校で無理しすぎてないか。私がそれに、巻き込まれていないか。
「私、君のお母さんに言ったよ。友達ですって。仁くんには、私がいますって」
それを知ったら、君は怒るかな。だけど、それを嘘にするつもりなんてないよ。
助けてもらって、沢山救われて、私がそれに報いることが出来なくて。お返し出来ずにいる相手も、いるけれど。
君に対してまで、その人たちにするみたいに、いつかきっと、なんて思ったりしたくない。
片手を額に乗せたまま、もう片方の手で、君の手を握る。
「……意識がないと、握り返してくれるんだね」
でも、その力はとても弱々しかった。
私は、ここにいるよ、九十九くん。君の隣にいるよ。だから、私にもちゃんと、君の背負っているものを分けてね。ちゃんと今を、君と一緒に過ごすから。
……なんだか最近は、こんなことばかりな気がする。私が勝手に、心の中で誓ってばかり。君にちゃんと伝えたいのに、なんだか一人で想ってばかりで、少しだけ虚しい。
起きてよ、九十九くん。お見舞いに来たよ。学校のプリントも、持ってきたよ。汗がすごいね。スポーツドリンク買ってきたから、飲んで。ゼリーもあるよ。果物が入ってるやつ。
ねえ、九十九くん。君の声が聞きたいよ。君の気持ちが、知りたい。
「そろそろ、帰らなくちゃ」
そっと、弱々しく私の手を握る九十九くんの手を外す。書き置きを残しておかないと、ゼリーやドリンクがいきなり部屋に現れたみたいになっちゃうかな。
「そうだ。これも渡さなきゃ」
丁寧にラッピングされた小箱を取り出して、書き置きと一緒に机に置く。直接渡したかったけれど、最後まで君は起きてくれなかったので、置いていくことにする。
結局、当日に渡すことが出来なかった。これ以上遅くなるわけにもいかない。
「じゃあ、また学校でね。お大事に、九十九くん」
眠る君にそう声をかけて、君の部屋を出ながら、そっと、静かに扉を閉めた。
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