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幸せな思い出、そして
第81話 季節限定ド苺マウンテンパフェ
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全員がプレゼントを仕舞って程なくして、食後のデザートが運ばれてきた。
「写真で見たより、随分でかいね」
「そうこなくっちゃ。ね、一透ちゃん」
「はい。腕がなります」
スプーンを構える私と先輩の間、テーブルの中央には、季節限定ド苺マウンテンパフェ。てっぺんから底の方まで、苺の全てを味わい尽くすことが出来る至極の一品だ。
「食べ切れるんだろうな……」
「九十九くんも手伝うんだよ?」
聞いてないが、という顔をされても、こんなもの三人だけで食べ切れる訳がないのだ。皆で食べるに決まっている。こんなに美味しそうなものを誰かを仲間外れにして食べたり出来ない、という理由もあるし。
大丈夫。私は君が甘いものが好きだということを知っている。彼自身、私達に甘いということも。
「そんな顔しないで。ほら、ハジメ君。あーん」
「九十九くん。私のも。あーん」
「食べますから、悪ノリするなら進藤にどうぞ」
九十九くんに言われ、横を向いた先輩の目が進藤くんと合う。
「じゃあ、食べる? 愁君」
「え、あ、じゃあ、えっと、いただきます」
こうなるとは思っていなかったのだろう。顔を赤くしながら先輩の差し出したスプーンを受ける進藤くんが微笑ましい。先輩の視線も、なんだか温かくて……。
あれ?
先輩は、進藤くんの気持ちに気づいていて、それを困ったように受けて、避けるように動いていたように見えていた。だから、つまり、そういうことだと思っていたけれど。
だけど、思えば先輩は九十九くんと話していた時、進藤くんのことも眩しいと言っていた。
何より、九十九くんをからかうようにする時と今とでは、表情も感情も、まるで違う。
それは、まるで――。
「溶けるぞ」
九十九くんに声をかけられるまで魅入ってしまっていた。私が差し出したスプーンの上のアイスクリームは、溶けた部分が表面張力を発揮してやや盛り上がりながらスプーン上に留まっている。
スプーンが向いた先にいる九十九くんは、いつの間にか自分のスプーンを取り出して、パフェの一角を取り皿の上に移していた。
「九十九くん。私のは?」
「自分で食え」
私が差し出したスプーンは、哀愁を纏って私の口の中へと運ばれた。甘い。
結局、パフェは私と先輩が一通り味わったあと、男子たちが残りを綺麗に片付けてくれた。ごめんね。
---
お店を後にした私達は、坂を登り歩く。このダブルデートの締めに予定されていたのは、写真部師弟推薦の写真映えスポット、丘の上の見晴らし台だ。
「迂闊なことを言うもんじゃないね。こんなにお腹を膨らませて運動することになるなんて、思っていなかったよ」
「俺、完全に被害者だよな」
男子二人がぶつくさ言っている。パフェの半分以上を押し付けた身としては少々申し訳ない。
「はいはい。景色は綺麗だから、文句は見てから言いなさい」
先を歩く先輩の足取りは軽い。実は一番美味しいところだけ食べて量は抑えていたのは先輩なのだけれど、あのふてぶてしさは見習うべきだろうか。
「九十九くん、荷物持とうか?」
「いい」
それでもやはりちょっと罪悪感があって申し出てみたが、断られてしまった。チラと進藤くんの方を見ると、平気平気、と彼も手をひらひらと振る。
「一透ちゃん、甘やかさないの。ほら、こっちおいで」
先輩に呼ばれたので、後ろを気にしつつも先輩に追いつくと、手を握られる。先輩に繋がれてしまった。もう助けには行けまい。
「発案者達だもん。放っといて大丈夫だよ」
「でも、九十九くんは……」
「ハジメ君こそ言い出しっぺでしょ。聞いてない?」
まるで覚えがない。最後のプランは先輩と進藤くんで探してきたものだと思っていた。
先輩は、そんな私の顔を見て、呆れたように笑う。
「クリスマスだからイルミネーションとかにしようと思うんだけど、って、愁君がハジメ君に相談したんだって。そしたらハジメ君、なんて言ったと思う?」
「もしかして」
「ふふ。人が少なくて、遠くからクリスマスらしいところを見れる場所はないかって、聞かれたらしいよ」
思わず後ろを振り返る。九十九くんは、いつもの仏頂面で進藤くんと何かを話している。
「愁君は呆れてたけど。わかりやすいよね、ハジメ君」
「……先輩は、ずっと誰かのことだけを想って行動して、その結果、返ってきて欲しかったものって何ですか」
冬紗先輩には、まだ私は、何も返せていないのに。その先輩にこんなことを聞くのは、卑怯だろうか。
「私は、九十九くんが欲しいものを、ちゃんと返せているでしょうか」
自信はあった。彼の心の靄の奥に、その根拠もあった。だけど、彼がくれるものはあまりにも大きくて。私があげられたものは、彼の迷いを全て晴らしてはくれなくて。
些細なことで揺らいでは、些細なことでまた湧いてくる。それを何度も繰り返してしまう。
一体いつになれば、彼の中の私の欠片を。私の中の彼の欠片を。疑わずにいられるようになるだろうか。
「あの子にとって一透ちゃんの存在は、一透ちゃんが思っているよりずっと、大きいと思うよ」
私にそう言い聞かせる先輩の優しい目は、やはり、九十九くんのそれによく似ている。
「それを素直に伝えきれないのはあの子の問題だから、向こうに頑張ってもらわないといけないけどね」
「……冬紗先輩もですか」
先輩の目を見つめる。先輩は、視線を前へと向ける。
「もうすぐ着くね」
答えてはくれなかった。それでも構わない。繋いだ手を強く握る。
私が先輩に何を返すのかは、もう決めた。
「写真で見たより、随分でかいね」
「そうこなくっちゃ。ね、一透ちゃん」
「はい。腕がなります」
スプーンを構える私と先輩の間、テーブルの中央には、季節限定ド苺マウンテンパフェ。てっぺんから底の方まで、苺の全てを味わい尽くすことが出来る至極の一品だ。
「食べ切れるんだろうな……」
「九十九くんも手伝うんだよ?」
聞いてないが、という顔をされても、こんなもの三人だけで食べ切れる訳がないのだ。皆で食べるに決まっている。こんなに美味しそうなものを誰かを仲間外れにして食べたり出来ない、という理由もあるし。
大丈夫。私は君が甘いものが好きだということを知っている。彼自身、私達に甘いということも。
「そんな顔しないで。ほら、ハジメ君。あーん」
「九十九くん。私のも。あーん」
「食べますから、悪ノリするなら進藤にどうぞ」
九十九くんに言われ、横を向いた先輩の目が進藤くんと合う。
「じゃあ、食べる? 愁君」
「え、あ、じゃあ、えっと、いただきます」
こうなるとは思っていなかったのだろう。顔を赤くしながら先輩の差し出したスプーンを受ける進藤くんが微笑ましい。先輩の視線も、なんだか温かくて……。
あれ?
先輩は、進藤くんの気持ちに気づいていて、それを困ったように受けて、避けるように動いていたように見えていた。だから、つまり、そういうことだと思っていたけれど。
だけど、思えば先輩は九十九くんと話していた時、進藤くんのことも眩しいと言っていた。
何より、九十九くんをからかうようにする時と今とでは、表情も感情も、まるで違う。
それは、まるで――。
「溶けるぞ」
九十九くんに声をかけられるまで魅入ってしまっていた。私が差し出したスプーンの上のアイスクリームは、溶けた部分が表面張力を発揮してやや盛り上がりながらスプーン上に留まっている。
スプーンが向いた先にいる九十九くんは、いつの間にか自分のスプーンを取り出して、パフェの一角を取り皿の上に移していた。
「九十九くん。私のは?」
「自分で食え」
私が差し出したスプーンは、哀愁を纏って私の口の中へと運ばれた。甘い。
結局、パフェは私と先輩が一通り味わったあと、男子たちが残りを綺麗に片付けてくれた。ごめんね。
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お店を後にした私達は、坂を登り歩く。このダブルデートの締めに予定されていたのは、写真部師弟推薦の写真映えスポット、丘の上の見晴らし台だ。
「迂闊なことを言うもんじゃないね。こんなにお腹を膨らませて運動することになるなんて、思っていなかったよ」
「俺、完全に被害者だよな」
男子二人がぶつくさ言っている。パフェの半分以上を押し付けた身としては少々申し訳ない。
「はいはい。景色は綺麗だから、文句は見てから言いなさい」
先を歩く先輩の足取りは軽い。実は一番美味しいところだけ食べて量は抑えていたのは先輩なのだけれど、あのふてぶてしさは見習うべきだろうか。
「九十九くん、荷物持とうか?」
「いい」
それでもやはりちょっと罪悪感があって申し出てみたが、断られてしまった。チラと進藤くんの方を見ると、平気平気、と彼も手をひらひらと振る。
「一透ちゃん、甘やかさないの。ほら、こっちおいで」
先輩に呼ばれたので、後ろを気にしつつも先輩に追いつくと、手を握られる。先輩に繋がれてしまった。もう助けには行けまい。
「発案者達だもん。放っといて大丈夫だよ」
「でも、九十九くんは……」
「ハジメ君こそ言い出しっぺでしょ。聞いてない?」
まるで覚えがない。最後のプランは先輩と進藤くんで探してきたものだと思っていた。
先輩は、そんな私の顔を見て、呆れたように笑う。
「クリスマスだからイルミネーションとかにしようと思うんだけど、って、愁君がハジメ君に相談したんだって。そしたらハジメ君、なんて言ったと思う?」
「もしかして」
「ふふ。人が少なくて、遠くからクリスマスらしいところを見れる場所はないかって、聞かれたらしいよ」
思わず後ろを振り返る。九十九くんは、いつもの仏頂面で進藤くんと何かを話している。
「愁君は呆れてたけど。わかりやすいよね、ハジメ君」
「……先輩は、ずっと誰かのことだけを想って行動して、その結果、返ってきて欲しかったものって何ですか」
冬紗先輩には、まだ私は、何も返せていないのに。その先輩にこんなことを聞くのは、卑怯だろうか。
「私は、九十九くんが欲しいものを、ちゃんと返せているでしょうか」
自信はあった。彼の心の靄の奥に、その根拠もあった。だけど、彼がくれるものはあまりにも大きくて。私があげられたものは、彼の迷いを全て晴らしてはくれなくて。
些細なことで揺らいでは、些細なことでまた湧いてくる。それを何度も繰り返してしまう。
一体いつになれば、彼の中の私の欠片を。私の中の彼の欠片を。疑わずにいられるようになるだろうか。
「あの子にとって一透ちゃんの存在は、一透ちゃんが思っているよりずっと、大きいと思うよ」
私にそう言い聞かせる先輩の優しい目は、やはり、九十九くんのそれによく似ている。
「それを素直に伝えきれないのはあの子の問題だから、向こうに頑張ってもらわないといけないけどね」
「……冬紗先輩もですか」
先輩の目を見つめる。先輩は、視線を前へと向ける。
「もうすぐ着くね」
答えてはくれなかった。それでも構わない。繋いだ手を強く握る。
私が先輩に何を返すのかは、もう決めた。
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